落第騎士に転生した話 【完結】   作:VISP

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落第騎士になった話リトライ その5

 「七星剣武祭決勝戦、始めェ!!」

 

 生憎の曇り空の下、決勝戦開始の合図が告げられると同時、

 

 「壱の太刀。」

 

 そんな静かな声と共に、炎龍の皇女は一切の反応を許されずにその柳腰を両断された。

 

 

 ……………

 

 

 分かっていた結果を見て、珠雫はしかし一欠けらも安堵していなかった。

 壱の太刀「天翔/あまがけ」は対人特化の太刀だからだ。

 圏境に縮地、無拍子に零の領域を重ね掛けつつ、超神速の抜刀術によって一切の反応を許さず標的を斬殺する。

 先の先を求めた、最速にして無駄の無い一太刀であり、飛天御剣流抜刀術の奥義を一輝(偽)が自分なりに解釈して改良を重ねた結果がその正体だ。

 これに反応出来たのは今までただ一人だけであり、その一人もこの壱の太刀によって弾かれた空気の乱流と発生した真空の領域に捕らわれ、続く弐の太刀によって死亡している。

 しかし、この技には重大な欠陥がある。

 

 (早いけどそれだけ。他の太刀との併用が出来ない。)

 

 生半可な伐刀者では霊装ごと斬り捨てられるが、高位の伐刀者が全力で防御を固めていたり、再生系の伐刀絶技を発動させていた場合には殺し損ねる場合があるのだ。

 無論、この業が入った時点で全伐刀者の9割以上が即死するのだが、中にはそんな変わり種もいる。

 そして何より、これら番号を振り分けられた太刀は突き詰められたが故に併用が利かない。

 壱の太刀と参の太刀で言うと、最高位の隠形と踏み込みをしながら超神速の抜刀術で概念切断を放つ事は出来ないのだ。

 そして、相手は人ではなく、産声を上げたばかりとは言え西洋の竜、ドラゴンである。

 山程の巨体に強靭な生命力、城をも砕く膂力と莫大な魔力。

 翼による飛翔、炎の吐息、時には猛毒すら持つ。

 財宝や美姫等の価値あるものを集める強欲と執着、多くの英雄達をして強敵であると認められてきた人々の天敵にして神話や伝承における最悪の敵。

 そんな存在が、対人特化の業で殺し切れるとは思えない。

 

 (でも、お兄様はそれを知って敢えて止めを刺し切っていない。)

 

 初撃で決着をつけるつもりなら、間違いなく参の太刀によってその魂を、その命を斬り捨てていた。

 それをしなかったのは何故か?

 珠雫には大凡の予想は付くが、妹にして嫁一号としては心配でならなかった。

 

 (お兄様、早く勝ってくださいませ…。)

 

 珠雫は一人、握り拳を作りながら試合を見守るのだった。

 

 

 ……………

 

 

 「何時まで続ける?」

 

 未だ隕鉄とその鞘を消さずに持っていた一輝(偽)は、両断され、明らかに失血死寸前のステラへと声をかける。

 途端、彼女を中心とした半径10m程が炎に包まれた。

 

 「ったく、油断位しなさいよね。」

 

 その手に霊装である大剣「妃竜の罪剣/レーヴァテイン」を握り、制服の裾を強制的に詰められて下腹を晒しながら、ステラが立ち上がる。

 先程まで両断されていた筈の身体は繋がり、その動きには一切の翳りは見られない。

 

 「竜退治するのに、油断慢心なんてしてられないだろ?」

 

 一輝(偽)は、既に炎の範囲外にいた。

 その挙動は誰にも見えない程に高速であり、ステラ自身は当然として試合会場にいた全員がただ一人を除いて見えてはいなかった。

 

 「今度はこっちから行くわよ!」」

 

 轟、と炎が蠢き、7頭の竜の頭の形を取る。

 

 「『煉獄竜の大顎/サタンファング』!」

 

 7頭それぞれが独自の軌跡で一輝(偽)へと迫る。

 この一撃だけで並の伐刀者数人分の魔力が込められており、更に言えば追尾機能がある。

 迎撃か防御か、少なくとも何がしかの一手を消費できる…

 

 「邪魔。」

 

 筈だった。

 気付けば、7頭の炎の龍は全て霧散して、ステラの目の前には死神がいた。

 

 「逆鱗断。」

 

 気づけば、股下から頭頂へと、ただ一刀の下に斬られていた。

 

 「か」

 

 半分にされた脳髄と身体では、まともに思考出来ない。

 そもそも絶命していなければ生物としておかしい。

 また、先程の様にドラゴンとしての本性を解放する「竜神憑依」の効果の一つである再生能力が発揮されない。

 それも当然だ。

 今の一撃は龍神の逆鱗を絶つ一太刀。

 対龍特効の業であり、龍神の力の源でもあった逆鱗に対する斬撃の瞬間、体内の魔力循環経路(=経絡)へと自身の魔力を流す事で乱し、その力を阻害・封印する。

 もし人体に対して行えば、間違いなくショック死か運よく生きていても何らかの後遺症か伐刀者としての人生を絶たれる事だろう。

 当然、殻を破ったばかりの竜の幼生体では、千を優に超える齢の龍神すら斬断するこの一太刀を防げる訳もない。

 

 「つ、月影選手の勝利です!」

 

 余りにも余りな惨劇に、勝利宣言されたと言うのに会場は静まり返っていた。

 Aランクの、それも同じAランクを圧倒する程の実力を持ったステラ・ヴァーミリオンが、成す術もなく惨敗した。

 その結果に、十分予想されていたと言うのに、今までの常識との余りの乖離に、観客達は理解が追いつかなかった。

 だが、一輝(偽)の実力を知っている者達からすれば「うん、知ってた(白目)」な事態だった。

 そんな静寂を破ったのは、誰であろう一輝(偽)だった。

 

 「何時まで続ける?」

 

 それはさっきと全く同じ状態で同じ言葉だった。

 

 「このまま倒れているのなら、お前の国を斬りに行くぞ。」

 

 分かり易い挑発で、ブラフで、フェイクだった。

 この状況では既に意味もないし、そもそも無駄だ。

 それは余りにも荒唐無稽だった。

 それは余りにも非常識だった。

 それは余りにも無道だった。

 だと言うのに、観客の誰もが思ってしまった。

 するしないではなく、この男ならそれが出来る、と。

 

 「いい加減、本性を晒せ。」

 

 故に、その結果は必然だった。

 轟々と、ステラを飲み込む形で炎が広がる。

 ステラの体内、そこで毒の様に経絡を乱している一輝(偽)の魔力が圧倒的な魔力の奔流によって強引に押し流され、急激にその体を修復していく。

 そして会場内の何もかにもが燃えていく中、ソレは現れた。

 炎の海、それが一か所に寄り集まり、一つの形を成していく。

 鋭い鉤爪を備えた力強い四肢が会場の床を融解させながら踏み締める。

 横幅10mを優に超える翼が敵対者を逃がさんとばかりに広がる。

 轟々と、炎が意思を以て一つの形へと結実する。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■--ッ!!」

 

 鋭い牙を備えたドラゴンの顎から、鼓膜を破らんばかりの咆哮が響き渡る。

 生きた炎で構成された、全長50mにも達するレッドドラゴン。

 ステラ・ヴァーミリオンと言う人間の殻を破り、その中身が姿を晒した。

 

 「なんだ、ちゃんと出来るじゃないか。」

 

 炎の海が広がる中、斬り拓かれた唯一の安全地帯で(審判の首根っこを持って避難させながら)一輝(偽)は愉快そうに笑っていた。

 

 「Grrrrruu………。」

 

 ドラゴンは考えた。

 人の理性ではなく、獣の本能で最適解を導き出した。

 それは即ち、自身の性能を最大限活かし、相手の特性を殺す策。

 炎のドラゴンはその両翼を羽ばたかせて飛翔する。

 生まれて初の己の翼での飛翔に得も言われぬ爽快感を感じながら、ものの10秒程で試合会場の上空500mへと到達する。

 

 「Ghruuuu……!」

 

 そして、己の持つ全てを注ぎ込んだ一撃を放たんとその口内に全ての保有魔力を収束させていく。

 原理だけならば伐刀絶技「暴竜の咆吼/バハムート・ハウル」と同じだが、今のこれは其れ処の威力ではない。

 放てば、ただ全てを燃やし尽くしてクレーターしか残らないだろう。

 小さな街を焼き尽くす処ではなく、全てが焼却されてしまうだろう。

 そんな一撃を、大都市の中の更に人口密集地で放とうとしている。

 推測されるその威力に、会場の警護に当たっていたプロの伐刀者達すら顔を青くする。

 展開されている防護障壁では濡れた障子紙程度の期待しか持てないだろう威力に、心が折れてしまったのだ。

 

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!」

 

 

 自身の生命維持すら危うい程に魔力を注ぎ込んで、その一撃は放たれた。

 首都にでも放たれれば、小さな国ならそのまま滅亡するだろう対国家規模の圧倒的熱量を孕んだ熱線。

 大凡人類の技術では未だ防ぐ事の叶わない災害が、天より降り注がれた。

 

 「うん、やっぱりこれ位じゃないとね。」

 

 それを向けられてなお、一輝(偽)は普段通りに笑っていた。

 彼としては、そもそも弱い者いじめをした所で何の鍛錬にもならないからと七星剣武祭の参加には消極的だった。

 しかし、快適なオタク生活のためには必要だと義父に説得されて渋々だが此処に来た。

 そして、予想通りに大会はつまらないものだった。

 だからこそ、彼としては決勝戦位は盛り上がってほしいと態々らしくもない挑発をしたのだ。

 それと言うのも、劇的な決勝戦を演出し、ドラゴンと言う古今東西の英雄が求める首級を上げるためだった。

 

 「じゃ、終わらせようか。」

 

 今まで無構えだった一輝(偽)が、黒塗りの太刀である隕鉄を頭上に真っすぐ、大上段に構える。

 

 「弐の太刀『空断/からだち』。」

 

 動作だけで言えば、ただ空へ向かって刀を振り下ろしただけ。

 だが、その一撃は人類最高峰の剣の才覚と経験を併せ持った唯一無二の魔人が成したもの。

 その刃の振るわれた先にあるものは、天空の支配者たる赤き竜と放たれたブレス。

 

 それらが、更にその先にある分厚い曇り空と共に、ズレた。

 

 大都市すら焼却する熱線と赤き竜は霧散し、数日続くとされた曇天はただの一撃で斬り拓かれ、その先に雲一つ無い青空を覗かせた。

 対し、辛うじて本体であるステラは左肩から右脇までを両断された状態で上空から落下しながらも、西京寧音の重力操作によって回収され、新宮司黒乃の時間操作により応急処置を加えられ、医療班の頑張りによって一命を取り止める事となる。

 

 「次はもう少し手加減しようかなぁ。」

 

 雲まで斬ってしまったからか、圧縮されてしまった雲が大粒の雨となって大阪の地を濡らしていた。

 弐の太刀「空断/からだち」。

 それは空間切断による切断力及び広範囲・長射程の破壊を目的とした一太刀だ。

 斬撃の延長線上にある空間を含む全てを斬り捨てる剛の太刀。

 概念干渉系の能力でも余程特殊なものを除き、空間切断による切断力及びその圧倒的な範囲の広さと長射程を持った斬撃は、あらゆる物理的・魔術的防御を確実に切断する。

 対人ならば壱の太刀の後に放ち、対多数ならば遠距離から一方的に放つ。

 一切の魔力の消費も反応もなく放たれる広範囲・長射程・貫通斬撃を防げた者は今まで一人もいない。

 

 

 一輝(偽)に最後の最後まで一切の魔力を使用させる事も出来ず、史上最大にまで荒れ狂った七星剣武祭はこうして幕を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さぁ首相、お約束の時間ですよ。」

 「分かっているとも。しかし、良いのかい?」

 「えぇ、良いのです。私は所詮剣だけが取り柄の女。ならば、剣で語るのみです。」

 




・逆鱗断
命名元はスパロボから。季書分先生の无二打+急所狙いの技。无二打だけなら前に黒乃理事長に超手加減ばーじょんで使ってた。

・伐刀絶技「竜神顕現」
その名の通り、炎の竜そのものとなる。
が、燃費はお察しで「竜神憑依」よりも更に悪い。



 次回、ラストヒロイン登場
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