この小説は裸の王様の二次創作小説です
「なんと美しい・・・いかがですか王様?」
「よくお似合いですよ!」
二人の布織職人は王様に言った
「あー・・・う、うむ!素晴らしい服だ!」
王様は言った
今二人の男から『馬鹿者には見えない服』なるものを渡された王様は言われるがままにそれを着た。周囲の家来も口をそろえて称賛した。
(見えん・・・服など見えん・・・しかしここで見えないなんて言えばワシは馬鹿者ということになってしまう!)
下着一枚になった王様はあたりを見回したがみな一様に自分のことを見ては褒めたたえている。
(周りの者には服が見えておるのか・・・ということは服が見えないのはワシだけなのか・・・?)
王様はひどく動揺した。
「ではパレードに・・・」
「ま、待て!ワシは・・・そう!心の準備がまだなのだ!」
そういうと何か言おうとする進行役を無視して王様は急いで自分の部屋へと向かった。
大慌てで自室に入り鍵をかける。再び自分の体を見るがやはりそこには服など無かった。
(何故だ!?なぜ服が見えない!?ワシは・・・ワシは馬鹿者なのか!?)
王様は泣きたくなった。パレードの時間も差し迫っている。今頃進行役が自分を探していることだろう。
(もしこの服が見えないことがバレたらワシはどうなるのだ・・・もしかしたらワシが王様にふさわしくないと考えるものが出てきて王様ではいられなくなるのだろうか?そうなったらいままでのように贅沢をすることも好きな服を買うこともできなくなるのか・・・)
王様はこんな時でも自分の事しか考えていなかった。他人のことを気遣う、という考えに理解は示せるが自分がそれをするという発想が王様にはなかった。
顔を上げた王様は自室にある鏡を見た。そこにはだらしない腹をしたパンツ一丁の男が間抜け面で映っていた。
(また腹が出たみたいだ・・・)
王様は自分の腹に手を伸ばして肉をつまんだ。
(そういえば腹筋が割れたことなど人生で一度もなかったのう・・・シックスパックにあこがれたことがないわけではないが、きつい思いをして腹筋を手に入れるくらいなら自分の好きなものを食ってデブでいるほうが幸せに違いない)
そう考えながら王様は自分の汚い腹を見た。
だが自分の腹をつまんで見ているうちに王様は考えた。
(しかし『馬鹿者には見えない服』とはいうものの自分の腹が直接つまめるのは変ではないか?見えないといってもそこに存在するのだから服に触ることくらいはできるはず)
王様は自分の体中を触ったが服らしき感触はどこにも無かった。
(もし仮に『馬鹿者には見えない服』なるものがこの世に存在し自分が馬鹿者だったとしても感触すらないというのはおかしい!いやそもそも『馬鹿者には見えない服』などという非現実的なものがあるはずがない!)
疑問は他にもあった。布織職人も家来もみな自分を見てその姿を褒めたたえたことだ。だがこの疑問はすぐに解決した。
(そうか・・・ワシがそうだったように家来どもも自分が馬鹿者だと思われたくない一心で嘘をついたのだな!誰一人進言せんとはなんて家臣どもだ!)
そう思うと段々と怒りが込み上げてきた。
(あの二人はきっと詐欺師に違いない!『馬鹿者には見えない服』などぬかしおって!)
布織職人を名乗る二人に大金を渡したことを思い出し王様は思わず叫びたくなる衝動にかられた。
王様はもう一度鏡を見た。
そこには憤怒の表情を浮かべた男の顔が映っていた。
「あ、王様!お戻りに・・・」
そこまで言って進行役は口をつぐんだ。王様が服を着ているからだ。驚く周囲を尻目に王様は布織職人達がいるところまで闊歩していった。
「どうした?何を驚いておるのだ?まるでワシが服を着ているのが信じられないといった顔ではないか?」
「お、王様・・・さきほどまでの服は?」
「気が変わったのだ。今日はこの服で行こうと思ってのう。」
二人は青ざめた。
「そ、そ、それは残念でございます・・・よくお似合いでしたので・・・」
「まぁそんなことはどうでもよいのだ」
王様はそう言い放つと突然自分の腰に身に付けた剣を抜き放った。
「ヒィッ!!」
「王様!な、なにを!」
「この剣が見えるのか?これは『正直者には見えない剣』だ!これが見えるということは・・・貴様らは嘘つきだなッ!!」
王様は剣を振りかぶった。当たり前だがこの剣が正直者にしか見えないというのは王様のでまかせである。
「馬鹿者には見えないなどと偽って大金を奪い取ろうというのかッッ!!この大馬鹿者共めがッ!本当にそんな服があるとするならば貴様らには見えないことだろうッ!」
「お、お許しください!つい・・・つい出来心で!どうか!どうかお慈悲を!」
布織職人たちは涙を流して懇願し始めた。流石に家来たちも驚き王様を止めようとした。
「貴様らもだッ!」
そう叫ぶと王様は止めに入った家来を切り捨てた。周囲から叫び声があがる。
「ワシが裸のままパレードに出ようとして大恥をかくかもしれんというのにッ!誰一人としてそれを止めようとせんとはッ!この裏切り者どもッ!」
王様は家来たちに大声で怒鳴った後、詐欺師二人に向き直った。
「さぁて貴様らをどうしてくれようか・・・このまま首をはねるのもよいがそれではワシの気が済まん」
そういうと王様は詐欺師の顔を交互に見た。二人とも恐怖で顔が引きつっていた。
「そうだ・・・いいことを思いついたぁ・・・」
そういうと王様は家来を呼び、何やら命令すると家来は不本意そうな顔をしたがすぐにどこかへと向かった。
程なくして家来が戻ってきた。その手には短剣が二つ握られていた。
「この短剣を使って今すぐこの場で決闘をするのだ!生き残ったほうは救ってやろう!」
詐欺師二人は地獄を見るような顔で差し出された短剣を見た。
「断るというのなら二人とも縛り首だ」
二人はハッと王様を見た。
「どうする?相手を殺せば自分は救われるのだ。悪い話ではなかろう?」
二人は考えた。犯罪者とはいえ今まで長い間一緒に生きてきた相手を殺すことは戸惑われた。
しかしやらなければやられる。
暫くたった後、突然一人が短剣を手に取った
「お前!」
「許してくれ・・・許してくれ・・・俺は・・・俺は死にたくない!こんなところで死にたくないんだ!」
「お、俺だって死にたくない!死にたくないなんて考えるのが自分だけだと思うのか!?」
もう一人も短剣をとった。
「ルールは無い。死んだほうが負けという以外はな!」
王様は短剣を構える二人に向かって言った。
(そうだ・・・この二人が隙をついてワシに襲い掛かるなんてことも考えられる。)
そう思った王様は念のため衛兵をそばに呼んだ。だが、詐欺師二人の頭には相手を殺して自分が生き残ることしか頭になかった。
戦いが始まって数分後。
「うぐぅ!!」
片方の男の短剣がもう片方の男の胸を刺し貫いた。刺された方の男はうめき声をあげ息絶えた。
「う・・・ううぅ・・・ゆ、許してくれぇ!許してくれぇ!」
男は亡骸を前に大粒の涙を流した。
「いい闘いであった!見事よ!」
王様は生き残ったほうの男に声をかけた。
「こ、こ、これで・・・これで俺は見逃してもらえるのか?」
「勿論だ!だがその前に聞きたいことがいくつかある」
「聞きたいこと・・・?」
「お前たちの言った『馬鹿者には見えない服』・・・それは実在するのか?」
「え・・・」
「お前の口からはっきりと聞いていなかったのでな。実在するのか?」
「・・・い、いや。そんなものない。金をだまし取るために考えたほら話・・・です」
男は言いにくそうに答えた。
「そうかそうか・・・お前が本当のことを言ったのならばワシも本当のことを言わねばなるまい。実はこれは『正直者には見えない剣』などではない。ただの剣だ。」
「・・・・」
「ではもう一つ聞こう。相棒をその手にかけたことを後悔しておるか?」
「あ、当たり前だ!」
「罪悪感は?」
「あ、あるに・・・あるに決まっているだろ・・・」
男は涙を流しながら答えた。
「その苦痛から逃れたいか?」
「・・・逃れたいよ・・・そりゃあ・・・」
「ふむ・・・ワシはワシ自身が思うより慈悲深いかもしれんな。今までワシは他人を気遣うということをしてこなかった。しかし、ワシは今お前を救いたいと思っておる!」
そういうと王様は男に近づいた。
「何を・・・」
「今言った通りだ。お前を救いたいのだ!」
そう言うと王様は男を斬り殺した。
「思い悩まぬようにする方法、それは死ぬことだからのう・・・」
その後王様はパレードに出席した。その顔はとても晴れやかであった。王様が裸であることを指摘しなかった家来たちは許された。ただ詐欺師に剣を振りかぶったのを止めようとした者はその時の傷が元で死んだ。
(一気に処刑してしまっては反感を買うかもしれんからのう。それに世話係が減れば結局のところワシが困るからのう。)
そんなことを考えながら王様は国民に手を振った。
(もしあのまま騙されていたならば今ここでワシは裸でいたということか・・・考えるだけで恐ろしいわい。仮にそうなっていればさしずめ『裸の王様』といったところかのう!)
パレードが終了して王様は空を仰いだ。そこには雲一つない青空が広がっていた。