Illegal academic story1 作:ライトネーム
この物語は、私達の生きている世界とあまり変わりが無い。
ただ、この世界で生きている種族が人間だけではないと言うだけのことである。
人間と獣人そして魔族・・この三つの種族が共に共存している。だが、
種族間の友好的な関係が築かれているとは言えず、世界はジリジリとした緊張感に包まれていた。
そんな中、種族の友好関係を築く事と世界中のあちこちに出現するモンスターへの戦闘技術を身につける事を目的とした学校が創設される。
そして、今ここに1人の青年が現れた。
第1章 規格外な転校生
暖かな日差しが、降りそそぎ桜の舞い散る季節―春。
そして、桜並木の中にそこはあった。
種族統合学園 アクアエリアス・・学園としては新しいが優秀な人材を輩出する学園である。
「ここが、アクアエリアスかぁ・・・。すごい所だな。」
そう感嘆の言葉をもらす青年は、真新しい制服に身を包んで、背中に大きな布包みを背負っていた。ここから、新しい生活が始まるのだと考えると胸が高鳴る。
その時だった。
「えっと、君が転校生君かな?」
彼は、話しかけた声の持ち主へと視線を移した。
そこには、シックな黒のスーツを見に付けた野獣人の男が立っていた。その体はかなり鍛えられているようで、がっしりしていた。
「あっ、今日からアクアエリアス学園に転校してきました、
リノアス・ディータスです。よろしくお願いします!」
青年―リノアスは、元気良く挨拶した。
「ハハハ、元気があっていいな君は! 私は、君のクラスである戦闘科担任のビウールズ・プラウドロアだ。よろしく!」
「え、そうなんですか!?」
体つきから教官だと思っていたために
驚いてしまったリノアス。
すると、
「なんだ?リノアスは、私が担任なのは嫌なのか?」
急に悲しそうな表情を作るビウールズ。
「い、いいえ!滅相もありません!」
慌てて言うリノアスだったが、はっきり言って動揺しているようにしか見えない。
「ハハハ、冗談だよ。さて、そろそろ教室に行こうか?」
「はい!」
2人は、巨大な門をくぐり校舎の方へ歩き出した。
校舎は、5階建の建物が6棟あり創設されてから、そんなに年月が経っていないためかどこも新しかった。
「広い学園なんですね・・・。」
リノアスは、事前に貰っていた敷地地図と施設地図を見ながら前を歩くビウールズに言った。
「そうだな。私もここに赴任してきたばかりの頃は、地図無しで歩けなかったからな。」
昔の思い出を語るようにしみじみと言うビウールズ。
そんなに広いのか、この学校は・・・。
そして、2人は、5階まで上がり1つの教室の前で止まった。
「ここが君の教室だ。合図をしてから入ってきてくれ。」
そう言ってビウールズが、教室に入っていった。
やっぱり、緊張するなぁ。リノアスは、ゆっくりと深呼吸した。
そして、中から「入れ!」と言う合図の声が聞こえた。
リノアスは、教室の扉を開くと、教壇に上がった。
教室自体は、大学の講義室と同じ構造で生徒は、バラバラに座っていた。
「今日からお世話になります。リノアス・ディータスです!
宜しくお願いします!」
そう元気良く自己紹介したが、リノアスは、違和感を感じていた。
なぜか、種族ごとにきれいに分かれて座っていて人間以外の生徒は、リノアスの事を見ようともしない。
そして、クラス中に立ち込める険悪な雰囲気・・・変な感じだ。
違和感を感じるリノアスをよそに話は進んでいく。
まるで、悟らせたくないかのように・・・。
「では、リノアスの席は・・・・お、ギース!」
ビウールズが、一番端の席に座っている狼人の男子生徒を呼んだ。
「は、はい!」
なぜか、ギースと呼ばれた生徒は、ビクビクした返事をした。
「お前の横にリノアスを座らせるが、いいか?」
「は、はい・・・・。」
弱々しく返事を返すギース。
その様子にも違和感を感じながらもリノアスは、笑顔のままで
獣人の生徒が多い席の間を取り抜けて行く。
「よろしくね、ギース君。」
そう言って席着いた。
「う・・うん。よろ・・しく。」
と顔を逸らしながら呟くように答えてくれた。
その後は、ホームルームが終わると同時に質問詰めだった。
「おい!」
突然、そんな声がした。
その途端、急に周りの生徒達が黙ってしまった。
リノアスが、そこに視線を向けるとそこには二人の男子生徒が立っていた。
かたや不良っぽい生徒とどこか冷たい雰囲気を漂わせた生徒。
正直な処あまり友好的な感じではない。
「なん・・・・。」
「ちょっと付き合え!!」
そう言って不良っぽい生徒は、腕を掴んで強引に連れ出した。
そのまま三階の踊り場で立ち止まった。
「てめぇ、あんまり人間以外の奴らに近づくなよ。」
そう脅すように言ってきた。
こいつは、何を言っているんだ?
「いきなり、なんの脅迫です?」
リノアスは、落ち着いて冷静に尋ねた。
「良いことを教えてやる新入り。」
今まで口を閉じていたもう一人が、口を開いた。
「この学園では、どの種族も友好的ではない。だから、お前も
私達人間のグループから出るな。」
「え・・?なんですかそれは?」
リノアスは、文字通り目が点になった。
その瞬間、いきなり視界が不良生徒の顔のドアップになった。
胸倉を掴まれたのだと気づくのに少し時間がかかった。
「うるせぇな!てめぇは、ハイって言ってればいいんだよ!」
不良生徒は、乱暴にリノアスを壁に叩き付けた。
踊り場に衝突する鈍い音が響き渡る。
「痛っ!」
体中に走る鈍い痛みに顔をしかめるリノアスを二人の生徒は、
鼻で笑った。
「せっかくだ、俺達の名前を教えてやるよ。俺の名前は、
ガロス・コウサイだ。覚えときな。」
「私の名前は、リアス・ジークフロストだ。」
そう言い捨てて二人は、教室の方へと帰って行った。そして、
1人取り残されたリノアスは、ゆっくり立ち上がると制服の胸元から銀色の鎖で繋がれたペンダントを出した。
そして、それを見つめる目には悲しみの色があった。
「ここでも・・・そうなのか。」
そっと悲しげに呟くと決意したかのようにペンダントをしまい、教室に戻った。
ガラリとドアを開くと騒がしかった教室が水を打ったように静まり返った。
リノアスには、その静寂がまるで決断の時のように感じた。
そして・・・・。
その一歩を踏み出した瞬間、教室中に動揺が走り抜けた!
なんとリノアスは、最初の席に戻ったのだ。
その瞬間、それが決定であると告げるかのように一時間目終了のチャイムが鳴った。
すると、リノアスはギースの方を振り返ると右手を差し出した。
不思議そうに手を見つめるギースにリノアスは、笑顔をむけてある事を口にした。
「今からでもいいからさ。学校案内してくれないかな?」
とお願いした。
「え!?」
予想もしていなかった言葉だったのか、目を見開くギース。
「あれ、やっぱり駄目かな?」
困ったような顔をして言うリノアス。
すると、なぜか慌てたように立ち上がった。
「う、ううん!いいよ!案内してあげる!」
「よかった!じゃあ、早速お願いしていい?」
そう言ってギースの手を取ると教室を出た。
背中にガロスとリアスの刺すような視線を感じながら・・・・・。
その後は、一通り学園を案内してもらったリノアスは最後に屋上へと上った。
「うわー!見晴らし良いなぁ!!」
リノアスは、歓声にも似た声をあげた。
学園の屋上からは、街の向こうに広がる海や豊かな自然が見えた。
本当に学園の屋上から見える景色とは、とても思えない程のものだった。そんな景色をベンチに座りながら見つめているとギースが何かを持って来た。
「あ、あの・・・。」
そう言いながらオドオドと缶ジュースをリノアスへ差し出してくれた。
「ありがとう!喉が渇いてたんだ!」
お礼を言ってから受け取り、中身を飲み干していく。
しかしギースは、ジッと立ったまま座ろうともしなかった。
「どうしたの?座らないの?」
リノアスは、自分の横に座る事を勧めた。
しかし、
「いいよ。気にしないで。」
それだけ言ってギースは、リノアスから目を逸らした。
「どうして、ギース君だって疲れてるでしょ?」
その言葉の後、少し沈黙が流れた。
「だって、嫌なんでしょ?」
ポツリとギースは、呟いた。
その声は、風に流されてしまいそうな程、儚かった。
「なにが?」
リノアスは、その言葉の意味について分かっていたが聞き返した。
「僕は獣人だし、それにハーフなんだ。こんな自分が隣に座るなんて本当は、嫌なんでしょ?」
ギースの言葉の中には、どこか諦めの雰囲気がまじっていた。
その言葉にリノアスは、胸の中に苦いものが広がっていくのを感じた。
最初で説明したように種族間の関係は友好的であるとはお世辞にも言い難い。その上、獣人族の中には系統の違う者同士の子供を雑種〈ハーフ〉として蔑んで呼ぶ傾向があった。そうなるとどうなるかは目に見えている。その事をギースは、気にしているのだろう。
「だからなんなの?」
「え?」
ギースは、リノアスの呟いた言葉に顔を上げた。
「いつ俺がギース君の事を獣人とかハーフとかって言った?」
「・・・・・。」
黙り込み、再び俯くギース。
その様子を見たリノアスは、ソッとベンチから立ち上がってフェンスにもたれかかった。
「人間と獣人が話をしたり、友達になったりするのがいけないなんて誰が決めたの?」
淡々と呟くように言うリノアス。すると、ギースは顔をあげて
リノアスの顔を見た。
「友達・・・?」
ギースは、初めて聞いた言葉であるかのように繰り返して言った。
「俺は、君と友達になりたい。」
リノアスは、静かに宣言するかのようにギースに言った。
「え・・・・?」
ギースは、耳を疑った。
今、なんて言ったのだろうか?
「前からずっと考えてきた事だったけど、種族が違うからどうだって言うの?ハーフだから友達になったり話をしたりしたらいけないの?そんなの下らなすぎるよ。大切な誰かと一緒にいる事すら許さないのなら、そんな考え方なんて俺は必要ないし、いらない。だから・・・。」
そこで言葉を切るとリノアスはギースを見つめて
「俺は、君と友達になりたい。」
沈黙が2人の間に流れた。ギースは、俯いたまま動かなくなった。
そのまま、どのくらい時間が過ぎたのか・・・・。
ギースがゆっくりと顔を上げた。
「ぼ・・・僕でいいんだったら。」
そう言ってくれた顔には、ありったけの勇気と決意を込めたという雰囲気があった。
その瞬間、リノアスの顔がパッと明るくなった。
「ありがとう!ギース君!」
リノアスは、笑顔と一緒に感謝の言葉を贈った
「うん!!」
そして、ギースもまた笑顔で返事を返してくれた。初めて見るギースの笑顔は引き締まった狼の顔に不釣合いな程、優しく、暖かな笑顔であった。
今の時代では、珍しい光景だが暖かな雰囲気が屋上の一角を満たしていた。その時だった。
『随分と仲良しだな、新入り。』
「っ!」
ギースは、その声に怯えるように
リノアスの背後に隠れた。
その様子に内心驚きながらもリノアスは、聞き覚えのある声の持ち主を見た。
そこには、いかにも苛立ったガロスと冷たい視線を向けるリアスの二人が立っていた。
「何か用?」
リノアスは、ギースから注意を逸らすために毅然とした態度で言った。
すると、いきなりガロスは、胸倉を掴みあげて睨みつけてきた。踊り場でされた時以上の力が込められていた。
「てめぇ!あれほど言ったじゃねぇか!裏切ってんじゃねぇよ!!!」
歯を剝き出しにして脅してきた。
しかし
「離せ・・・。」
リノアスは、呟くように言った。
「な!」
ガロスは、目をむく。
それを無視してリノアスは、胸倉を掴みあげていた手を払い飛ばした!
「俺が誰と友達になろうと君には関係のない事だろ?」
「んだと!」
ガロスが再び掴みかかろうとしたが、その時には、殴りつけられ床に叩きつけられていた。
「1人じゃ何も出来ないくせに他人の事に口出しするんじゃない!」
リノアスは、ガロスを怒鳴りつけた。
「く・・・・!?」
ガロスは、いきなりの展開や発言に完全に動揺していた。
そんなガロスの横をリノアスは、手を引いて足早に通り過ぎようとした。
しかし、今度は、リアスが2人の前に立ちふさがった。
「分かっているのか?そいつは、人間でないばかりかハーフだぞ!?」
そう怒鳴ってきたが、その時には、彼も壁に叩きつけられていた。
「それが何だって言うの?そんな事を気にしてるなんて子供だね、君は。」
そうリノアスはリアスの胸倉を掴んだまま嘲笑を浮かべた。
そして、離すとドサリ!と音を発てて床に崩れ落ちた。リノアスの瞳には、先程までなかった嘲笑が浮かんでいた。
「行こうギース。」
リノアスは、固まって動けなくなってしまったギースの手を優しく引いて屋上から出て行った。
そして、屋上に残されたのは、ショックで呆然と石像と化したガロスとリアスの姿があった。
ここに小さい変革の兆しが生まれた。