芸術家は焔に嗤う 作:しじる
喫茶店【翠屋】。僕がよく通う喫茶店で、ケーキや紅茶が中々に美味しい。僕はお茶にはそれなりにこだわる方であるけど、ここはそれに答えられるほど良いものだ。放課後学校帰りにここに通うことはよくある事で、いつもので通じるくらいには常連となっていた。特にマスターである高町士郎さんは、同じカメラが趣味ということもあってか、暇な時は共に何かを撮影に出かけることも多い。息子娘さん達とも会うことが多く、あまり人付き合いの好まない僕でさえ引き込まれてしまった。恭也くんは有名な剣道有段者、というか父親の士郎さんも有段者だけれども。長女美由紀さんもそうだ。母の桃子さんと違い料理ができないと有名だけれど、そんなに酷いのだろうか。実際に見たことの無い僕にはわからない。なんというか、泥棒が入ろうものなら合掌ものだな、泥棒に。そして最後に次女こと末っ子のなのはがいる。彼女は私の下校時間とほぼドンピシャで店に帰ってくるからいちばんよく見るな。
今もまた、カランカランと扉のベルが鳴って彼女が元気よく入ってくるのが目の端に見えた。ただいまーと声を上げて、店の奥に消えていく。そんな彼女に着いてくるように、友人の2人。確か月村すずかとアリサ・バニングスだったか?2人が嫌そうな顔で自身の後ろに着いた存在を見ている。あれも友人ではないがいつも一緒にいるな。確か篠村皇牙とか言ったか。目の色が左右違うオッドアイなのが特徴な子だ。目立ちそうで困りそうな特徴と常々思うし、常々で思い出したが、なのはも含めて3人とも皇牙と共にいるのを嫌そうにしてるが、なんで離れたりしないのだろう。もしかして来るなと言っているのに来るのだろうか。そうだとしたら、そいつは迷惑で仕方ないな。まあ面倒事は嫌なのでスルーするが。
「はい、いつものブルーベリータルトとダージリンです!」
そんなことを考えていたら、いつものが美由紀さんに届けられた。彼女に軽く礼を告げて食事に移る。ブルーベリーのほのかな甘酸っぱい風味が口の中に広がり、紅茶の香りがそれを強くして際だたせる。あぁ、なんと美味なることか。気分が落ち着いてくる、こんな時はクラッシック音楽でも聞いてまったりとしたい。そんなささやかな願いを持ちつつ、私は思考に耽ける。
日々増え続けていく創作欲求を解消するためだ。どうしても作品が作りたい。だが、何事にも全力を尽くす僕は妥協が許せない。素材も厳選したものが欲しかった。そして人目につかない場所も。いや、場所なぞ最悪どうとでもなる。素材、これが見つからなかった。僕を表現するのに必要な、最高級の素材が。美しい人間が。だがそんな人間そうそう転がっていてたまるか。こうして僕の中の求める美は、表現するならば業火のように燃え盛続け、収まることを知らない。そんな創作欲求を満たすには絵を描くのがよかった。絵と言うより設計図に近い。図面や出来上がりを書くだけでも少しは抑えることが出来た。鉛筆を走らせ世界を型どる。生み出すものは私の表現したい炎。紅蓮の炎を、神秘の炎を。あぁ、いくら書いてもたりない。実際に生み出したい。
集中して描き続ける、カリカリカリカリと。そんな時、やかましい声が入った。
「なのは達が嫌がってるだろ、離れやがれモブやろう!」
「モブはそっちだ、お前こそ離れやがれ!」
2人、男、1つは聞きなれた皇牙の声だった。もう1つは知らない。あまりのやかましさにに集中を切らされた僕はイライラしながら、声の聞こえた後ろの席を見てみた。なんと皇牙と瓜二つの男の子がいた。いや、よく見れば皇牙とオッドアイの色が違う。皇牙は赤と青だがもう1人は青と黄色だ。どうでもいいかそんなこと。重要なのは僕の邪魔をしたことだ。
「ちょっとそこの君たち」
苛立ちを隠す必要なんてない。うるさい輩を黙らせるため、僕は語尾を強くして彼らに話しかけた。面白いことに彼らはほぼ同時に「なんだモブ!」と行ってきたがそんなことはどうでもいい。ただストレートに僕は僕の思ったことを伝えた。
「ここは公共の場だ、騒ぐなら外でしてくれないか。煩いんだよ」
僕の言ったことに賛成する人もいたのか、他の客も何名かじっと二人を見ている。それに動じることもせず、2人は無駄にでかい声で言ってきた。
「うるさい、モブ風情が俺に指図するな!」
「モブはモブらしく黙ってろ!」
あぁ、なんてめんどくさいガキ共だろう。ガキはガキらしく年上の言うことを聞いていればいいのに。だいたいモブってなんだろうか。意味のわからない言葉を吐くとは知能も低レベルと見える。いや小学生などそんなものか。こんなやつに関わると、こっちも馬鹿になりそうだ。さっさと黙らすのが一番だがここは人目につくし、店の中だ。僕の力で全身火だるまにしてやれば多少ましな楽器に変わってくれるだろうが、そんなことをすればこの店に怪奇現象が起こると言われて潰れてしまうかもしれない。そうなったら僕の至福の時間が消えてしまう。腹立たしいがここは出ていった方が良さそうだ。なんであんなガキのために僕が自分の時間を変更しなければならないのだろうか。
さっと席を立ち、士郎さんに告げに行く。お持ち帰りで頼むと。すると士郎さんが「すまないな」と言葉を出した。謝るのはあのガキで士郎さんではないだろうに。それにも腹が立つがどうしようもない。力でねじ伏せてやりたいがそういう訳にも行かないのが社会の不便なところだ。私は申し訳なさそうにする士郎さんを他所目に、【翠屋】を後にして自身のマンションへと帰路に着いた。
マンションへと続く帰り道、人家も少ない小さな路地を歩いていればいろんなものを見つける。ポイ捨てされた空き缶やタバコ、電柱に止まるカラス、コンクリート壁の上で昼寝をする野良猫。こういうのは僕の芸術を作る上でいい発想力を鍛えてくれる。日常の何気ないものが、時には爆発的な、例えるならば天啓のようなものを与える時がある。それは僕自身想像もつかないよう形で訪れる。来る時はそんなものだ。入浴中やトイレでも来る時はズドンと雷でも落ちたように。だが来ない時は来ない。天啓とは気まぐれなのだ。それには少し悩まされるが、それはそれで来た時の喜びが増えるので良しとしている。そうして地道にネタを探していた僕だが、少し今日は熱が入りすぎたようだ。いつの間にか日が暮れて夜になってしまっていた。まあそんな時もある。一人暮らしゆえ心配するものもいなければ門限もない。ゆったりと出来る。そんなのんびりと散策していた僕の耳に飛び込む音。
炸裂音、何かが大きく爆ぜる音が辺りに響き渡る。それはもう静かな夜の闇を切り裂くような、強烈な音。音の暴力。こんな平和な日本でそんな音聞いたことも無い。明らかな異常。そしてイコール面倒事。かなり近くから聞こえたため、僕は即座に離れることを選択した。自身の能力があるゆえ何ら危険はないが、面倒事なら話は別。好奇心は猫を殺すという言葉があるように、確かな野次馬好奇心はあるが、それ以上に今日はもう面倒事に関わりたくなかった。そうして距離を離していた時だった。空をよこぎる金の光。その光の中に映る人に僕は見覚えがあった。
「フェイト?」