芸術家は焔に嗤う 作:しじる
プレシアがあんなんだから、フェイトもこうなる可能性が微粒子レベルで存在したんじゃないかなって…
この管理外世界に来てから数日がたった。
この地球と呼ばれる世界は、広いようで狭い。
母さんの指示でジュエルシードを集めることとなった私は、母さんが手配したマンションで、使い魔のアルフと共に暮らしていた。
ジュエルシードの反応があれば飛び出し、なければ食べて寝る。それだけの毎日を過ごしていた。
そんな繰り返しの中の今日、私は奇妙な出会いをしたんだ。
それはお隣さんのラムダ・ペンドラゴンさんとの秘密のお話。
ちょうどアルフが今日の夕飯を買いに行っていた時だった。
コンコンと鉄の扉を叩く音が聞こえる。
なんだろうと私はソファーに投げかけた体を起こして開けに行く。
アルフならノックの必要は無い。
となれば別の人だ。だけれども、この世界に私の知り合いはいない。
もしかしたら母さんが?
いやそれは無い、母さんは…私に会いに来るわけがない。
そう考えながらも、少しの期待を胸に扉を開けた。
「誰ですか…ペンドラゴンさん?」
そこに立っていたのは、お隣のラムダ・ペンドラゴンさんだった。
彼女はこの世界に来た最初の日に、最初に私が知った人で、顔の半分が包帯で隠れた、少し怪しいけど優しそうな人という印象だった。
話がしたいとのこと、特に私は困ることもないので、彼女を部屋に招き入れた。
「それで、話ってなんですか?」
次に飛び出す言葉に、私は驚愕することになると思わず、私はただ疑問を聞いた。
そうすれば彼女は答えた、それこそ心臓が飛び出したんじゃないかと驚く言葉を。
「この前空飛んでたよね…君何者?」
一瞬自分の聞き間違いだと思った。
まさか自分が空を飛んでいたのを目撃されてるなんて、それもよりにもよって隣の人に。
確かにあの時認識阻害の魔法をかけてたはずなのに。
汗が吹き出す、心臓が早鐘を打つ。
「空を飛ぶ……な、なにを言ってるんですか。空を飛ぶ?空なんか飛べませんよ」
「オウム返し、図星か…しらばっくれても意味ないからね」
冷静に判断できない、精一杯の誤魔化しがバレた。
私はどうなってしまうのだろうか。
かくなる上は彼女を黙らせるか?
だけど、彼女は地球の人で、無関係で、傷つけたくなくて。
胸に吊ったバルディッシュを握る、その手が震える。
「まあ君が何者で、何をしようが興味なんてないけど…面倒事は嫌なんでね。隣に住んでるから巻き込まれんじゃないかなって保険をかけに来たんだよ…言ってることわかるかい?」
そういうペンドラゴンさんの顔は、本当に面倒そうな顔で、巻き込んでくれるなと言ったふうで。
その言葉は私に安心を与えた。
本当に喋らないか、でも嘘は言ってない、そう感じる。
それなら、こんな、力で黙らせなくてもいいんじゃないか。
「迷惑はかけないと約束する……だから、秘密にしておいて欲しい」
隠し通すのは無理だと悟った。
だから私は、胸に抱えていたものを吐き出すように彼女に話した。
自分がなんなのか、何故ここにいるのか。
すると本当に面倒くさそうにペンドラゴンさんは天井を仰いだ。
「本当に迷惑はかけませんから…」
そうは言ってみたが、怖くてたまらない。
信じてくれるかも怪しかったのに。
「僕は君のそれを秘密にする、君は僕を巻き込まない。それでいいでしょ。お互いに不干渉ということで」
でも彼女はそう言ってその場を去ろうとした。
つまり、本当に信じてくれたんだ。
その上で秘密にするって言ってくれた。
少し、ほっとした。
そんな時だった、彼女のポケットから1枚、何かがはらりと落ちたのは。
彼女は落ちたそれに気づいてないみたいで、このままじゃあ置いて言ってしまうと思った。
だから私はそれを拾って渡そうとしたんだ。
その時、それを見たんだ。
そこには…炎があった。
人が、燃えていた…
有刺鉄線で結び付けられた5人の裸の人が、お腹から上を炎に包まれて、苦しそうに叫んでいた。
いや叫んでるように見えるだけで、黒くなったそれはそのままの形で固まってるんだ。
炎が、紅蓮が、松明のように人を燃料にして燃えていた。
男の人も女の人も、性別なんて関係なく、真っ赤にドロドロに、溶けて燃えて混ざって…
おかしい、おかしい。
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしいおかしい、こんなの絶対におかしい。
何かが、私の中の何かが燃えているようだ。
燃やしちゃいけない何かが、今ので焼かれていく。
それは尊厳とか、理性とか、法律とか、当たり前とか、そんなもの?
その写真の、物体は…まるでお花のようで。
とっても……綺麗に見えてしまった。
それを理解した途端、私の中のそれが、大切な何かがパキリと壊れた気がした。
「っ!?」
ペンドラゴンさんが、私の手から写真をひったくる。
その顔は怯えたようで、まるでさっきの私みたいだった。
ああ、これはペンドラゴンさんが隠したい秘密なんだ。
あれは、多分、ペンドラゴンさんが作ったんだ。
何故かそう思えた。
「今の……綺麗な…なに」
自然と、そんな言葉が漏れた。
それにペンドラゴンさんも驚いた様子で私を見た。
その惚けた顔は、初めて見るペンドラゴンさんの表情で、少し、こんな顔もするんだなって思った。
しばらく固まっていたペンドラゴンさん。
だけど、固まりが溶けると直ぐに私の両肩を掴んで、私と視線を合わせて大きな声で言った。
「君は……分かるのか、これの素晴らしさが!!」
そう叫ぶペンドラゴンさんの顔は、多分今まで見たどんな表情よりも、嬉しそうに見えた…