芸術家は焔に嗤う 作:しじる
最初は何かの聞き間違いかと思った、僕の作品が綺麗と、フェイトは確かにそう言った。僕の作品が綺麗。
「君は……分かるのか、これの素晴らしさが!!」
つい彼女の両肩を掴んで問いただしてしまった。だがそんな僕にも怯えず、驚きはするものの頷く彼女を見て、僕はついに確信した。そして理解した。理解してくれたと。僕の作品が素晴らしいと、彼女は理解してくれたんだと。
あああぁ!!なんて嬉しいんだろう。こんな気持ちは初めてだ!心が破裂してしまいそうだ。生まれて初めて、僕の作品が正当な評価を受けた、これが嬉しくない訳が無い。嘘でも構わない、己の子供を褒められた親とはこんな気分になるのかもしれない。今確かに僕は舞い上がっていた、舞い上がらずにはいられなかった。褒められたのだ、褒められたんだ間違いなく。僕の作品が綺麗だと、皮肉でもなんでもなく!こんなに嬉しいことは無い!こんなに清々しい気分なんて初めてだ。
気がつけば僕は彼女から手を離して、その手を天に掲げて、全身で喜びを表現していた。あぁ、それでも表現し足りない。この喜び、誰かにわかって欲しい。世間の評価なんてどうでもいいと思っていたが、僕は心の奥底では求めていたんだ、自分の作品への賛美の声を。愛しき我が芸術への賞賛を。
「嘘じゃないんだね、それは君の本心だね!?」
心理的に嘘を着いていないと分かっていても、僕は聞かざるをえなかった。冷静でいられるものか。喜びが津波となって襲ってくるんだ、溺れずにはいられない。
「は、はい……とても、その…綺麗でした」
さすがに僕の剣幕にたじろいでいるものの、そう告げる彼女に嘘はない。やはり彼女は僕の作品が素晴らしいと理解してくれていた。
それからはほぼ無意識だった。彼女を部屋に誘ったのは。僕は誰かを自分の部屋に招き入れたことは当然ない。それは
「わぁ……凄い」
それしか出てこない、私はペンドラゴンさんに手渡されたアルバムを見ていた。
タイトルは【焔】。
ペンドラゴンさんが言うには、自分の作品集との事だったけど、中にある写真は、どれも私の心の奥底の何かを燃え上がらせた。
特に目をひかれたのが【皆既日食】という作品。
それは三重円を描くように繋がれた人が燃えて、一見するとただの炎の輪に見えるだけなんだけど、撮り方かな。中央の黒が飲まれるように錯覚するんだ。
それはまるで闇への螺旋階段のように見えて、多分本当に円を書いただけなのに奥行がすごく感じるんだ。
その闇から焼かれてる人達の絶叫が聞こえてきそうで、とても飲まれた。
アルバムを持つ手が汗ばむのがわかった。
「それね、とっても苦労したんだよ撮るの」
のぞき込むようにペンドラゴンさんが私に解説してくれる。
なんでも、発破のタイミングがズレたら1からやり直しを繰り返したらしく、完成に2年もかけた大作らしい。
私みたいに空中に飛べないから、撮影するのもクレーンを借りてしたみたい。
そう考えたら、一体いくらかかって作った作品なんだろう。
ちょっと想像するのが怖かった。
素材になった人達のことを考えれば、そんなことを感じてる場合じゃないって分かるのに。
ペンドラゴンさんは間違いなく生きた人間を燃やしてこの作品を…ううん、これだけじゃない。
分厚いこのアルバムに入った作品の数だけ、試行錯誤も含めて何百人と焼き殺したはずだ。
その恐ろしい行為に恐怖を抱くべきなのに、今の私は凄い綺麗なものを作った芸術家にしか思えなかった。
あぁ、私はおかしくなってしまったのかな。
こんな禁忌すべき作品たちが、今はとっても綺麗に見えるんだ。
そんな自分自身に恐ろしさを感じながらも、私はペンドラゴンさんの作品を食い入るように見続けた。
時間が経つのは早いものだ。フェイトを部屋に招き入れてから、もう数時間経っていた。私もだいぶ熱く語ってしまったせいか、時間なんて気にしなかった。ふと時計を見たらもう9時だった。フェイトを部屋に連れてきたのが5時だったから、夕飯も食べずに4時間ぶっ通しで語り続けてしまったという事だ。そんなにも私は嬉しかったようだ。自分の喜びが予想以上に大きかったと分かる。
「そろそろ子供は寝る時間だ…引き止めすぎてごめんね」
謝罪し、彼女に自分の部屋に戻るように告げる。フェイトもまた時間が過ぎ去っていってたことに気づいたようで、驚いていた。わかったと言ってさあ部屋からフェイトが出ていこうとした時だった。
彼女の胸に吊っていたペンダントが光を放つ。それはあの空を飛んでいたの時、彼女がまとっていた光であった。
あっと声を漏らして、フェイトがこちらを見る。どうやらあのペンダント、ジュエルシードの位置を探知すると光るようだ。しばらく私たちの間に沈黙が走るが、私からそれを崩した。なに、別に出かけるのに許可はいらないだろうって。
「…今度から、良かったら……また来てもいいかな」
左手にペンダントを握りしめ、私の部屋のドアノブを右手で握りながら彼女は聞いてきた。もちろんだとも。僕の理解者を拒む理由はない。
「いつでもいらっしゃい、君なら歓迎するよ」
そう言うと、すこし嬉しそうにフェイトは笑った。彼女が笑うところ、初めて見た気がした。
こうして僕らは互いに秘密を供し合う仲となった。この仲が腐れ縁としてずっと続いていくことになるとは、この時僕も彼女も知らない。