三人に後で何をされるかはひとまず気にしないことにした優は、 シアがなぜ自身のメイドに立候補したのか理由を考えていた。
だがいくら考えても理由が思い当たらず、 考えている間に自分の部屋の前にたどり着いてしまった。
「ここが優様と私の部屋です。 中を確認してみてください。 何か不満があった場合は私にお話ください」
「ならメイドを……」
「ちなみに、 メイドを変えたいというのは無理なのでそれ以外の不満があったら教えてください」
優は自分の思考が読まれたことに舌打ちをもらしたが、 今は気分を切り替え部屋のデザインを確認することにした。
部屋の中はいかにも金持ちの部屋といった作りであり、 高そうな家具が沢山置かれており、 お風呂なども完備されていた。
優は元々部屋について大した関心を示さないほうではあるのだが、 一つだけどうしても許せない不満があった。
「なあシアなんでこの部屋にはベットが一つしかないんだ?」
そうこの部屋にはベットが一つしかないのである。
優はこの事実に対し、 なんとしてもこの状況を回避しなければならない、 さもなくば自身の命はないと確信していたからだ。
「そんなの決まってるじゃないですか。 あのベットに私と優様二人で寝るんですよ。 幸いベットのサイズもかなり大きいようですし、 問題はないじゃないですか」
シアはさも当然の事のようにそう言った。
それもそのはずシアは初めから優をはめるつもりであったからだ。
優とてその事実には薄々感づいていた。
だがそれにより何故シアがここまで自分にこだわるのかその理由がとても気になった。
「優様はなぜ私がここまでするのか疑問に思っているようですね」
「ああそうだよ。 なぁ一つ聞かせてくれ。 なぜお前はそこまで俺を気にかけるんだ? お前らは俺たちのことをただの都合のいい道具としか思っていないはずだろ?」
優のその言葉は結構危険な意味合いをもつ言葉であった。
もし仮にシアが優の今の言葉を王に伝えたら優は確実に処罰されるであろう。
だが優はあえてこの言葉をいい、 シアが信用に足る人物か試そうとした。
「確かにお父様は、 優様たちのことを道具としか見ていないでしょう。 実際私もそう思っていました」
シアの態度は先程と一切変わらなかった。
それどころか王に対する裏切りと取れる発言までもしてきた。
これによりシアは信頼に足りうる人物という証明はできた。
だがなぜシアが自分にこだわるのかますます理解できなかった。
「その話が仮に本当だったとしたら、 なぜシアは俺の世話係に立候補したんだ? 道具に過ぎない俺に王女であるシアがわざわざ奴隷になってでも世話をしようとするのはおかしいだろう?」
「その質問に対しての答えは簡単です。 それは、 私が優様のことが好きだからです」
優はシアのその言葉の意味をうまく理解できず、 数分間固まってしまった。
「あの? 優様大丈......」
「いやいやいや! おかしいだろう。 俺とお前は初対面だぞ? それで俺のことを好きだと言われても到底信用することはできない」
「確かにそうですよね。 なら私の昔のことについて少々お話をすることにしましょう。 優様は、 私が人の心を読める魔眼を持っていることは知っていますよね?」
「ああ、 お前に教えてもらったからな」
「でも実は私昔はこの力をうまく使えこなせなかったんですよ。
優はシアのその言葉に対し、 何も言わず話の続きを言うよう促した。
「そんな私はこの能力のせいで人間の汚い部分を大量に見てきました。 それと同時に周りの人たちは私のことを恐れ、 私の事を化け物と呼びました。 お父様もお母様もお兄様もお姉様も誰も彼もが私のことを恐れて私はずっと自室に閉じ込められていました。 そんな時に異世界人召喚の儀式をするとお父様は私に言いました。 お父様は異世界人との旅に私を同行させ、 陰から私を消そうとしているのだとすぐに気づきました」
「なるほどな。 それでお前は人生に対して完全にあきらめたのか?」
「そうですね。 優様に会う前の私は生きることをただ苦痛にしか感じていませんでした」
「なぜ俺とあってからその心境は変わったんだ?」
「それは優様が私のことを一人の人間として見てくれたからです」
「それは別にお前が能力のことを話さなければ俺のクラスメイト達も普通に話してくれると思うぞ?」
「それではダメなのです。 私が欲しかったのは、 たとえ私の能力を知ったとしても私利私欲のために利用したりせず、 私のことを一人の人間として見てくれる人がずっと欲しかったのですから」
「俺は自分の親しい人以外はゴミとしか思っていないような人間なんだが...... まあそれはいい。 ただお前の言う条件は照山のやつでもいいんじゃないのか? あいつはクラスの連中から聖人君子だなんて呼ばれているような奴だぞ? そんなあいつならお前のことを化け物としてではなく一人の人間として見てくれるんじゃないのか?」
「あの方だけは絶対にダメです。 お父様が話をしているとき一通りの人間の心を見ましたがあの人の心は一人の人間を救うのより、 大勢の人間を救うことのほうが尊いと考えています。 そのためあの人は私が化け物と呼ばれていることを知ったら、 他の人にとって有害だと判断し容赦なく私のことを殺します」
「なるほど。 あいつはそんな性格をしていたのかそれは知らなかった。 それでなぜ俺はほかの人間と違うと断言できるんだ?」
「優様は私と初めて会ったとき自分が何を考えていたか覚えていますか?」
「昔の俺と似ていて、 どこか暗いものを抱えていると感じたな」
「その通りです。 そしてそう思ったとき優様は、 自分の過去のことを思い出していました。 私は優様の過去のことを見て、 自分と同じでこの人も両親から愛されていないのだと感じました。 また私はなぜ自分の感情が自分と同じ能力もないただの人間になぜ見抜かれたのか疑問に思い、 興味を抱きました。 そして会話をしているうちに優様の体験した過去のこともあり、 この人なら自分のことを受け入れてくれるかもしれないと思い、 自分の能力のことについて打ち明けました」
「それで?」
「優様は私の能力を聞き、 意味を理解しているにも関わらず恐れることはありませんでした。 普通人間というものは心を読まれることに恐怖心を感じるはずなのに優様はただ納得し私のことを一人の人間として見てくれました。 初めて人として見られたと感じた私はその時に、 恋に落ちたのでしょうね。 まさか私が人のことを好きになる時が来るなんて夢にも思ってもみませんでした」
「それでお前は俺の世話係に立候補したのか?」
「そうです。 優様がどこの馬の骨とも知らない女と一緒の部屋で住まわせるのもいやだと思いましたし、 優様が道具として扱われるのにも我慢なりません。 ですのでお父様を脅して優様のお世話係にしてもらいました。 まあ優様はもともと魔王を討伐する気はないということはさっき知りましたけどね」
優はシアの話を聞き終えると一つ質問をした。
「まず初めに聞いておきたい。 お前の魔眼の能力は、 今では制御は可能なのか?」
「はい。 私が使いたいと思ったタイミングで、 オンオフ切り替え可能です。」
「その事実を知っているの奴はいるのか? 」
「いえ。 このことは私と優様以外は知らないはずです」
「まあ確かに今更城にいる連中に話しても誰も信用しないだろうしな。 次にお前が俺のことを思って俺の世話係に立候補したのはわかった」
そう言い終えた優は自分の思考を整理するために数分間考える仕草をした。
その間シアは緊張した面持ちで優の口が開かれることを待った。
そして次に口が開かれた時、 優の表情は笑顔であった。
「ひとまずだ。 お前が俺の心を読むことを俺の許可したとき以外に使用しないのなら、 この部屋で一緒に住むことを許そう」
「魔眼の能力は発動しているかしていないかは本人にしかわからないんですよ? もし私が嘘をついていたらどうするんですか?」
「俺は基本人のことは信用していない。 しかしお前は信用に足る人間だと俺は判断した。 それにそんな話を聞いたら自分と似た境遇の人間を見捨てるわけにもいかないしな。 だから俺はお前の言葉を信じることにするよ」
「ありがとうございます! それと優様は人のこと信用しないと言っていますが、 本当の優様はそんなことはなくとてもやさしい方だと私は思いますよ?」
「うるさい! 余計なお世話だ!」
優のその絶叫が面白かったのかシアの顔は笑顔だった。
ただその笑顔は今までの作り笑いではなく、 彼女の人生で初めての心からの笑顔であった。
「そういえばお前って一応俺の奴隷の扱いなんだよな?」
「はい。 そうですよ?」
「なら奴隷の刻印とか入っているのか?」
「はい。 私の太もも部分に刻まれています。 一応私は王女なので、 見える位置に刻印があるのはまずいので太ももの位置に刻印があります」
「なるほどな。 ああ、 それとお前の告白への返事だが……正直俺は恋愛関係のことがよくわからない。 だから俺が仮にお前のことを好きだと思ったらその時はこちらから告白すると約束しよう。 だから今は友達という扱いで我慢してくれ」
「ええ! 今はそれで構いませんあくまでも今はですけどね! それと絶対に優様を私にメロメロにさせてやるんですから、 覚悟しててくださいね?」
そのシアの積極的な態度に優は自分の選択は間違いだったかもしれないとはやくも後悔し始めた。
「そういえばシアは俺のことを様付けで呼ぶけどそれ恥ずかしいから俺のことは優と呼んでくれ」
「いいえ! それはダメです。 私は奴隷なんですから主人を呼び捨てなんてできません!」
「ならお前の主人として命令するぞ?」
優のその脅しに対し、 シアは折れるしかなかった。
「わかりましたよ! なら優さんとこれからはよばさせてもらいます! さすがに、 これ以上は譲歩できません!」
「仕方ないそれで我慢するか」
これにより優とシアの関係性も無事丸く収まり、 解決かとそう思われる絶妙なタイミングで雪、 詩織、 胡桃の三人が優の部屋に会らわれた。
「さて優ちゃんお話を聞かせてもらいましょうか?」
「優君正直に話してね?」
「お兄ちゃん王女様と同じ部屋で暮らすって本当なの?」
そういう三人の目は先ほどよりも虚ろであり、 体からは目に見えるほど禍々しいオーラを放っていた。