十二月の師走。
年末はどこもかしこも忙しく、忙しない。その空気がいつしか街中に広がる季節。営業マンは彼方此方と東奔西走するし、なんなら環状線を走り抜けたりもする。知らんけど。
総武高校も例外ではなく、いつからか忙しい雰囲気を醸し出してくる。確かに終業式も近いしそろそろ冬休みだしな。いや、休むことしか考えてねーな俺。やっぱ働くのってクソだわ。
冬の教室というのは独特の雰囲気がある。
ストーブ前には我がクラスのカーストトップである三浦達が陣取っていて、俺みたいなその他大勢はその暖かい空気の恩恵をほんのりとしか受けれない。今八幡嘘ついた。その他大勢の中でも孤立してるわ。
孤立も孤高って言い方をすればかっこよく見える不思議。なのにぼっちっていうと途端にかっこ悪い。いや別にぼっちはぼっちでかっこ悪くはない、ぼっち is ベストなのだ。ここテストに出るから。出ない。
放課後、暖房と雪ノ下の淹れてくれる紅茶で暖まりながら俺と雪ノ下は本を読んで、由比ヶ浜は忙しなくスマホを弄っている。無言で、それなのに暖かい空間。
慢性的に寝不足でやる気のない俺はつい微睡みそうになる。起きてるんだか寝てるんだかわからない目とも評されたことのある目をウトウトさせながら、静かに時間は過ぎていった。
「今日はもう外も暗いし、終わりましょう」
「そうだね、ゆきのーん一緒に帰ろー」
「んじゃ、俺帰るわ」
「ええ、また明日」
「ばいばいヒッキー!」
二人と別れて家路につく。
最近はもう夕方五時にもなればもう夜の帳が下りて、辺りは暗い。
マフラーを巻き直して白い息を吐きながら自転車に乗る。
そういえば今日小町も遅くなるんだっけなぁ。駅前のミスドでも行こうかな。疲れてる時は糖分。疲れてなくても糖分。ミスドのカフェオレも侮れない。
そうと決まればと、自転車で家に向かっているこの道を急遽変更した。
今日は何を食べようかなーとウキウキで店内に入店してからどれくらい経っただろうか。絶賛帰りたいです。
「お姉さんと同伴は不満?」
「雪ノ下さんだから不満というわけでもなく、誰と居ても大体不満を漏らしますよ俺は」
「結局不満なんじゃない。本当いい性格してるね君」
「あー、良い人だけど……。とはよく言われるんで」
「それ告白断る時の常套句だから」
店内に入店、座ってからすぐに俺の右側の席にニコニコと座ってきた陽乃さん。いや、なんでいんの……。
微妙に近いとちょっと色々意識しちゃうからやめてくれないかなぁ。
ミスド特有の甘い匂いとは別の甘い匂いがしてきてどうも、どきマギしてしまう。どきマギのまどマギ感は異常。
雪ノ下陽乃という人物を俺は決して嫌いではない。少し苦手ではあるけど。
だが、その性格の悪さは不思議と嫌いにはなれなかった。
ふらっと現れては臓腑の奥底に重いものを残して去るのは確かだが、物事に対してフラットに物を言う。言い方が半端じゃなく悪いしちょっと捻れてるけど。
人は雪ノ下陽乃の外見だけを見たら容姿端麗と言い。
人は雪ノ下陽乃の中身を知ると才色兼備という。
敢えて俺が言うならば、面の皮が厚いと言おう。多分口に出したら死ぬ。
「何か面白いこと話して」
「雪ノ下さんを満足出来るような話を持ってたら今頃俺はクラスの人気者ですよ」
「あら、学校中の人気者だったじゃない」
「別の意味すぎるんだよなぁ」
文化祭の一件で注目を浴びたのは確かに事実だけど、それはもう今は昔。今じゃもう視線に晒されることも少ない。なんなら多分クラスメイトに認識されてるかも定かではない。
「それで?雪乃ちゃんを救った感想は?」
「俺が救ったなんて厚かましすぎますよ。勝手に雪ノ下が救われたんです」
「ふーん……」
雪ノ下雪乃が抱えていたものは簡単には解決できるものではなかった。だけど解消なら出来た。
俺自身のおかげで成し得たなんてことは全くない。それでも、雪ノ下からの依頼を達成したのは、少しは裏でこの人が関わっていたんじゃないかと睨んでいる。
本心をひた隠しにする雪ノ下陽乃という人物は実は本心しか口にしてないのかもしれない。そしたら、本当にただの妹が好きな姉ということになる。めちゃくちゃ性格悪いけど。
「比企谷くんは誰でも助けるんだね」
「別に誰でもってわけでも……。というか助けられてるかも定かではないですし」
「……もし、わたしが助けを求めたら?」
「状況によりますよそんなの。第一、貴方が俺の手を借りるなんて状況を作るとは思えない」
「まっ、そうなんだけどね〜。でも君のそのすぐ手を出したがる癖やめなさい。お姉さんからの忠告よ」
別に自分から手を出してる気はないんだけどなぁ。そういう部活だし、そういう仕事だからな。
いや、自分の行動の責任を誰かに押し付けるのはやめよう。これは俺のだ。
時刻はもう間も無く19時半を迎えようとしていた。またも、マフラーを巻いて今度こそちゃんと家路についた。
☆ ☆ ☆
その日、せっかくの休日だというのに千葉には雨が降った。
寒い日の雨は寒気を持ってきて室内との寒暖差のせいか家の窓も曇るしでどこか薄暗い。
家の中は物音さえあまりしなくて、まるで世界に一人取り残されたように感じる。
特段意識しているつもりはないが、ふと頭の中に過ぎったのは先日の陽乃さんとの突然の会合だった。……やだ、もしかしてこれは恋?嘘、それはない。
自分の性分と暇のせいで頭のリソースがそっちに結構な割合を持ってかれている。
それ以前にだ、俺は雪ノ下陽乃という人物をどれほど知っているのだろうか。
同級生の姉、性格が悪い、口も悪い時がある、爆弾を落としてくる……と、少し考えたら悪口しか出なかったのでこの思考をすぐさま放棄した。
あの人が意外と料理上手かったり家事炊事が得意だったりしてな。いやいやいやキャラじゃないわ。まぁ料理は雪ノ下の姉だし普通に上手そうだけど。キッチン立って洗い物する陽乃さんとか似合わなすぎでしょ。こわ。
その点、我が妹は家事炊事洗濯、果ては俺の面倒まで見てくれるパーフェクト妹。あっぶねー、妹がいなければ負けてたところだった。人生というゲームに。
そんなことを思考の片隅でダラダラとしていた時に階段をドタバタ、部屋の扉をバーン!した小町。ちょっと小町ちゃん?ノックくらいしようね?
「お、お兄ちゃん何したの!?」
「ふっ、ついにバレたか……。んで何が?」
「家の前に、は、は、は、陽乃さんと高級車が来てるの!」
「まずは落ち着け小町。ひっひっふーだぞ、んで何で?」
「ひっひっふー……。とりあえずお兄ちゃんは行ってくる!」
部屋の出口の方をビシッと指差し、ささっと対応してこいと言わんばかりの小町のために行きますか……。
うーん、陽乃さんが訪ねてくる理由がさっぱりわからん。怖い。
深呼吸して覚悟を決め、家の扉を開けた。
「ひゃっはろー比企谷くん、今暇?」
「暇じゃないですそれじゃ」
「比企谷くんが今から暇になるようなこと言っていい?」
「嫌です」
「うちの母が君と話したいって」
「あーよかった、ちょうど暇だったんですよね!!……えっ、なにそれ」
いやほんとなんでなの……。ぶっちゃけ雪ノ下の件のせいであまり良い印象ないんだけど。まぁ筋が通った人だとは思うけどさぁ……。
つーかこの人、色々手を出すなみたいなことこの前言ってなかった?ほらみろ、強制じゃねーか。これがシュタインズゲートの選択か。フハハハハ!全く面白くない!!
そんなこんなでめちゃくちゃ憂鬱にテキパキと支度を済ませ現在黒塗りの高級車の車内なう。インスタ映え凄そう。主にDQNに。
「詳しく話聞かせてもらいます?」
「いやー前々から興味はあったみたいでさ、まぁ別にそんな堅い話じゃないよ。ただ家に招待したいみたいな。えらい気に入ってるんだから君のこと。なにしたの?」
「特になにもしてないんですけど」
「わたしはただ呼んできてほしいって言われたから来ただけでなんでもいいんだけどさ」
ふぇぇ怖いよぉぉ……。今からビビっても仕方ないけど、雪ノ下母が普通に帰してくれるかな……。
頭の中で何を聞かれてもいいようにとデモンストレーションを重ねる。けれど、雪ノ下母にはあまり意味もない気がしてきたわ……。
「仕方ない、今日は君の味方でいてあげるよ」
「えっ、それも怖い」
「最近ちょっと言うようになったよね比企谷くんって……」
「いやでも本当頼みますよ。頼りにしてるんで」
頭の中で某RPGの仲間が増えるBGMを流しながら雪ノ下陽乃という大きな存在が味方してくれる事実を噛み締める。
そして、雪ノ下母が待つ雪ノ下家に着く頃には昨晩から降り続いていた雨は止んでいた。
曇天の切れ目から漏れる日の光は陽乃さんを照らし、強烈に目を惹きつけられた。
「さぁ行こうか。そしてようこそ、わたしの家へ」
つ づ く
俺ガイル13巻は良い八陽でしたね(大嘘)
僕のssは平和がモットー☆