やはり歳上との青春ラブコメは……   作:ゆ☆

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やはり歳上との青春ラブコメはまちがって……

 

 

 拝啓、小町へ。俺は今千葉県議会委員、雪ノ下建設社長と錚々たる名称がつく正真正銘のお金持ちの家に来ています。敬具。

 いやもう緊張。デカさはまぁ一般家庭の二倍まではいかないくらいかな。

 でもこの辺のエリア、千葉のくせに金持ちばっか住んでるだけあって土地がめちゃくちゃ高いから致し方ないといえば致し方ない。それでも俺の家より遥かに大きいことは確かで……。

 下手に家の調度品に傷でもつけようなら……。と考えて自然と歩く速度が遅まる。

 

「ほら、早く」

「ちょ、ちょっと心の準備がですね……」

「そんなの今することじゃないでしょ」

「いやこの家入った瞬間から既に緊張が始まってるんですけど」

 

 玄関を上がって、まっすぐと伸びている廊下とその両脇にちらほらと部屋と思われる扉の数々。まるで、ホテルの中みたいで少しテンションがあがる。家の廊下がフローリングじゃなくてカーペットってそんなんありですか?

 しかし、その家の雰囲気は俺が初めて来た家ということを差し引いても余所者を迎えるためだけに建てられた家みたいで暖かみに欠けていた。

 事実、他人が出入りすることも多いのであろう。

 二階が住居スペースというか普段生活しているところらしいから仕方ないかもしれないけど。つーかそんなじろじろと余所見してる暇と場合じゃなさすぎる。

 少し、陽乃さんの部屋が気になった。

 

「お母さんったらもう応接室にいるんだって。どんだけ楽しみなのよ本当」

「楽しみにされても楽しませられるか……」

「まぁいいんじゃない?少し会話に付き合ってあげれば満足すると思うよ」

 

 適当に会話が出来るくらいなら昔から友達の一人や二人に苦労することはなかったんですがそれは……。

 ヒンヤリとした廊下の右奥の部屋、そこに雪ノ下の母がいる。

 案内役の陽乃さんが部屋をノックし、返事が返ってきたところで扉を開ける。面接かよ……。

 

「し、失礼します」

「比企谷さん、わざわざ御足労おかけしてごめんなさいね」

「いえ、とんでもないです。迎えまで用意して頂いたので」

「うちの都築がどうしても行かせてくれって言ってきたのよ?」

「あーなるほど。それは気を使わせてしまって……」

 

 まぁまぁまずは当たり障りのない会話が出来たことが一安心……。

 八幡、ぼっちだけどコミュ障ではないからね。本当だよ?

 白い革張りの高そうなソファに案内されて座る。見た目の革張りに対して、思ったよりも身体が沈むことにびっくりしながらも、身を落ち着かせた。今更ながら雪ノ下家というのは白を基調にしているらしく、家の内観は本当に何処かのホテルみたいだった。

 

「比企谷さんは、どちらの大学へ?」

「とりあえず◯◯大学志望ですね」

「あれ?比企谷くんわたしの後輩になるの?」

「他意はないですけどね」

「それでは陽乃、気を遣ってあげなさいね」

 

 文系全振りマンの俺だが、たまたま陽乃さんの通う◯◯大学の受験科目がこれまた文系全振りだったことから志望出来た。勿論だが、陽乃さんとは違う学部だけど。

 違う学部で全然いいんだけどね。なんかほら、陽乃さんって絶対有名人だしそんな人と関わってたら俺のぼっちキャンパスライフが壊れそう。

 というかまだ受験は来年なんだけどね……。

 そりゃあ受験は早めに意識しておいて損はないだろうけど。今の苦労が大人になって楽をするための先行投資みたいなもんだし。

 

「比企谷さんは将来どんな職に就くのかしらね」

「出来れば専業主夫にでもなりたいくらいなんですけどね」

「貴方程の面白い人材は就職先に困らないと思うわ。機転、如何にトラブルを処理出来るかというので仕事が出来る人なのか決まると言っても過言ではない。その点貴方は……」

「買い被りすぎですよ。まだまだ高校生のクソガキですから」

 

 事実大人の、成熟した人から見たら俺はまだクソガキも良いところなんだろう。青臭いと言われるかもしれない、まだ考えが幼いと言われるかもしれない。でも、今しか出せない答えだってきっとある。

 しかしなぁ……。トラブル処理能力を買ってもらうくらいトラブルと出会ってしまってると考えると少し複雑かもしれない。

 解決ではなく解消。とりあえず一旦問題を置いておける状態にする。大体の物事は置いておくうちになんとかなったりする。時間が解決してくれる。しかし、そう時間ばかりに頼っていてはいけないことも多々あるからなぁ。

 

「ところで比企谷さん、うちの陽乃が欲しいって聞いたけれど?」

「お母さん冗談はやめて」

「心臓に悪いんで冗談はやめてくださいよ……」

「あら、では雪乃狙いかしら」

「とんでもない」

 

 雪ノ下姉妹の母親だけあって、冗談の言い方が二人に少し似ている気がするけど、とんでもない爆弾を落とすなこの人……。

 なんの脈絡もなく、そう言われると身に覚えがなさすぎて逆に本当っぽい。

 陽乃さんは陽乃さんで呆れてるのか無表情だし、雪ノ下母は薄っすら笑みを浮かべてる奇妙な空間。えっなにこれ?

 

「いいじゃない陽乃、貴女比企谷くんにもらわれなさい」

「いい加減にして」

「わかってるの?雪ノ下家では二十五歳までに進路、今後の指針を決めなければいけないのよ」

「……わかってる」

 

 苦虫を噛み潰したような表情をする陽乃さんを見るのは初めてかもしれない。そして、雪ノ下家のルールというのを知った。

 陽乃さんの選択肢はいくつあって、どれを選ぶのだろう。陽乃さんに残された選択の時間は残り数年。

 この人達が見てる未来の姿は共有出来てはいない気がする。

 完全に部外者の俺でさえ息がつまる。いや、部外者だからだろうか。

 時計を見ると意外に時間は進んでいて、緊張感からか時間の進みが早いのだろう。

 全く、なんて日だ……。

 

 ☆ ☆ ☆

 

 あれから少し経った後、雪ノ下母との会合も恙無く終わり今は陽乃さんの部屋へと案内された。

 陽乃さんの部屋へと案内された。

 大事なことなので(ry

 陽乃さんの部屋は予想通りというべきか、スッキリとしていた。

 よく片付けられていて、でもベッドや座椅子からはそこはかとなく高価そうな雰囲気がある。陽乃さんの物っていう認識があるからだろうか。

 そして何より匂いである。

 いつも陽乃さんから漂ってくる柑橘系だけど甘い匂い。それが部屋の中に充満していてクラクラしてしまいそう。

 後は俺の部屋に勝るとも劣らない蔵書の数。ジャンルは様々、ハウツー本も少々。こういうの読むのかと言うのも多々あって、陽乃さんの意外な嗜好を知った。

 

「雪乃ちゃんの家と行き来してるから結構荷物少なくてスッキリしてるでしょ?」

「いや、陽乃さんって散らかすイメージ全然ないんで」

「家事は一通り出来るからね」

「散らかすのは主に俺の周りだけですね」

 

 少しキョトンとした顔をした後に笑みを浮かべてるあたり自覚はあるんですねそうですね。

 しかし確かに俺の今まで記憶の彼方此方に陽乃さんが居るのは事実だしな。

 今気付くと机の上にはやたらと重厚な表紙の本が一冊。日記だろうか。

 

「雪ノ下さんって日記とか付けるんですね」

「想いの丈を書き殴る日記帳兼メモ帳みたいなものよ。見る?」

「見たら末代まで祟られそうなんでやめときます」

「なによ、人を悪魔とか魔王みたいな扱いしちゃって」

 

 少し拗ねたように言う様は悪魔や魔王どころか、その逆ですらあった。

 その顔を見てから今の状況を再確認すると急に陽乃さんを女性として意識してしまって妙に気恥ずかしくなってきた。そういえば女性の部屋に入るの初めてかも……。

 

「今日はごめんね?」

「あー、驚きはしましたがなんとか大丈夫です」

「意外に冗談ばかり言うのよあの母」

「ちょっと考えると意外でもないですけどね」

「そう?」

「雪ノ下や、雪ノ下さんの母親なんで」

 

 ちょっとそれどういう意味?とは聞かれずにただ笑っているということは自覚はあるんだな。

 しかし雪ノ下母といえば、先程言っていた発言が妙に引っかかって仕方なかった。

 

「そういえば二十五歳までにってあれ……」

「あれ、昔から言われてるのよね。それまでに結婚、やりたいことを見つけろって」

「大変そうですね」

「やりたいことはいっぱいあった筈なのに、気付いたらもうこんな歳だしね。結婚なんて相手は居ないし、どんどん自分で自分の自由を狭めて行っちゃってるなぁ……」

 

 やりたいことは沢山あった。それを物語るのは沢山の本の中に紛れているハウツー本等が示している。

 自由が欲しい。それは沢山の物語を読むことで沢山の可能性を想像するのだろう。もしわたしがこうなったら…と。

 陽乃さんの言ってる意味はこの部屋の本達が本当だと告げてくる。

 いつもは冗談ばかり言って、俺をからかったりしてくるその意地の悪そうな顔が、俺にはなんだか……。

 

「まだ大丈夫です。何かあるはずですよ」

「なにを言って……。比企谷くんが出る幕じゃないよ。もうそんな次元じゃない」

「そんなこと関係ないです。俺が雪ノ下さんに、陽乃さんに好きなことをしてもらいたい。それだけなんです」

「なんだって急にそんな……」

 

「だって、だって俺にはさっきの雪ノ下さんの顔が、泣いてるように見えたから」

 

 

 そしてここから俺と陽乃さんの物語は動き出す。

 雪ノ下陽乃を自由にするために。

 雪ノ下陽乃に自由でいてもらうために。

 

 雪ノ下陽乃に、笑ってもらうために……。

 

 つ づ く

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