最後の部分にはお好きな感情を当てはめてもいいですけど、何も当てはめないのが個人的にGood
困りました。
「なあネーチャン、俺らと遊ぼうぜ」
たいへん困りました。
駅前で複数の男性に絡まれ、あっという間に壁際に押し込まれてしまいました。
誘いを断っても引く様子はなく、おそらく色の良い返事がもらえるまで解放する気はないのでしょう。
完全に囲まれていて逃げる事も出来ません。それなら大声で助けを呼ぼうと息を吸い込み―――
「っ……!?」
声が、出ない!?
そうこうしているうちに男のひとりが私の顔の横に手をつき、ニヤついた顔を近づけてきました。
「なぁ、俺らと一緒に気持ちいいことしようぜ。大丈夫、優しくしてやるからさぁ」
いったい何が大丈夫なんでしょうか。それにあなたたち程度の人間に私の貞操を捧げるなんて冗談じゃありません。私はお世辞にも整っているとは言えないその顔を睨んで精いっぱいの拒絶を示します。
「おいおいお前がブサイクなツラ近づけるからビビって震えちまってるじゃねえか!かわいそうによぉ!」
その言葉にゲラゲラと下品に笑う男たち。一方言われた男は意に介さず、私の顎を持ち上げてきました。触れられたところから嫌悪感が全身を駆け巡りますが、耐えることしかできません。
「もうさっさとホテルに連れ込もうぜ。こいつの顔見てたらすげーヤりたくなってきたぜ」
その言葉に周りの男たちは賛同し、私を強引に連れて行こうとしてきました。私は必死に抵抗しますが、体格となにより人数の差でどんどんと引きずられていきます。
きっと私はこの男たちに無理やり犯され、そして飽きたらゴミ同然に棄てられるのでしょう。
そんな結末は死んでも御免ですがもはや私ひとりではどうしようもありません。しかし、道ゆく人は誰も助けてくれません。……もういっそのこと全てを諦めてしまったら、そしたら楽になれるのでしょうか……。
「紗夜さんを放してください」
「あ?」
助けてくれる人がいる!声がした方を見てみるとそこにいたのは
「青葉……さん?」
Afterglowのギターを担当する青葉さんでした。青葉さんに気づいた男のひとりが青葉さんに近づいて行きます。
「なんだァアンタ?このネーチャンの知り合いか?」
「そーですよ、さっさと紗夜さん放してもらえませんかね?」
「アァ?このネーチャンは今から俺らと楽しいことすんだよ」
「あははー面白い冗談ですねー。俺ら”が”の間違いじゃないんですか?それとも日本語が不自由なほどバカなんですか?見るからにバカそうですもんね~」
「んだとテメェ……!」
「ところであたしケーサツに通報済みで~、まだ通話中だったりするんですけど」
青葉さんは言葉とともに右手を掲げる。その手に握られているスマホには通話中の文字が。
青ざめた男たちは捨て台詞を吐いて足早に去っていきます。
「……あ」
その背中を呆然と見送り、その姿が完全に見えなくなると身体から力が抜けてその場にへたり込んでしまいました。
「大丈夫ですか?紗夜さん」
「っ」
「うわっ!?」
私はしゃがんで優しく話しかけてくる青葉さん胸に、気づいたら顔を埋めて泣いていました。
「ひっぅ……あぁぁ……っ!」
「……もう大丈夫です。大丈夫ですから」
青葉さんは突然のことに驚いた様子でしたがすぐに抱き締め、囁くように大丈夫と繰り返しながら優しく撫でてくれました。青葉さんの腕の中は心地良くて安心して、まるで母の腕に抱かれているようで、余計に涙が溢れて止まりません。
そのまましばらく青葉さんの胸の中で泣き続けました。
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泣き止んだ私に青葉さんは送って行くと言ってくれました。正直また知らない人に絡まれるのが怖かった私にとって、彼女の申し出は本当にありがたいものでした。
道中は青葉さんが手をつないでくれて、恥ずかしかったですが嬉しくて、繋いだ手を意識するたびに顔が熱くなりました。
家について彼女の手が離れると途端に寂しくなり、あれこれと理由をつけて青葉さんを家へと招き入れました。
私の部屋に青葉さんを通す時はどこか変なところがないかと気が気じゃありませんでした。
私の涙で濡れた服を着替える時、青葉さんの白い肌とブラに守られた胸に何故かドキドキして、青葉さんが私の服を着ると何とも言えない感情が沸き上がりました。
日菜が帰ってきて青葉さんと仲良さそうに話すのを見ていると何故か嫌な気分になりました。
夕食の時、青葉さんが幸せそうに食べるのを見てると、私も嬉しくなりました。
そして今、私のベッドで青葉さんと一緒に寝てます。青葉さんの寝顔は無邪気で可愛くて、青葉さんのすべてを一人占めしてしまいたいだなんて考えて。
いったい私はどうしてしまったというのでしょうか。あの男たちから助けてくれて感謝している、これは本当です。でもそれとは別の感情が確かにあるのです。
今はまだその感情がどういったものなのか分かりませんが、きっと悪いものではないのでしょう。
だってこんなにも――なのですから。