「うぅ、寒いぃ~」
外に出ると、暖房のきいた店内とはうって変わり、身を切るような夜の冷たい空気が私たちを容赦なく突き刺してきて、となりにいる最愛の彼女がそれに悲鳴を上げています。
かくいう私もこの寒さはなかなかこたえるのだけど、それでもこの寒空の下に身をさらすのには理由があるんです。
というのも私も彼女も私生活が忙しくてなかなか予定を合わせることが出来ずにいたんです。特に私は卒論やバンドがメジャーデビューしたことで休む暇がないほど忙しくて、ここ1カ月は彼女とまともに話すことすらできずにいました。そんな中彼女とイルミネーションを見に行くことになって、やっと今日半日だけ時間を作ることが出来たんです。
正直年末のこの時期に半日時間を作るだけでも大変で、メンバーにも相当な迷惑をかけたはずなのにクリスマスくらいは好きな人と過ごして欲しいと言って送り出してくれました。メンバーには感謝してもしきれません。
とはいえ寒いものは寒いので、今日のために用意したマフラーを使うために彼女を呼びましょう。
「モカさん」
呼び声に反応してこちらを向いた彼女に丁寧にマフラーを巻いていきます。今回用意したマフラーはただのマフラーではなく一人で使うには長すぎるサイズのもので、余った分は自分に巻いていきます。これでいわゆるカップル巻きの完成です。
大人しく巻かれていた彼女は「あったかいです~」なんて言ってへにゃっと微笑みました。ああ、やはり彼女の笑顔はいいものですね。私は彼女のこう、ふにゃっとしたやわらかい笑顔が大好きなんです。すごくかわいくて癒されるじゃないですか。
「かわいい」
「へ!?……と、当然ですよ~。モカちゃん美少女ですから~」
久しぶりに見た彼女の笑顔に思っていたことが口に出てしまいました。私の言葉が予想外だったのか一瞬固まった彼女は努めていつも通りに返そうと軽口をたたいてきますが、照れてるのが隠せてません。いつもの余裕のある態度とのギャップがたまらないです。
「ええ、そうですね。日本一、いえ世界一かわいい女の子が私の彼女で本当に嬉しいです」
「あぅ……///」
それに今みたいに照れてるところにさらに褒めるとりんごみたいに真っ赤になってしまうんですがそれもまたかわいくて。あまりやり過ぎると拗ねてしまうんですがそれもまた愛しいんです。
そんな最高に可愛い彼女との貴重なデートを満喫するためにもそろそろイルミネーションを見に行きましょう。
「そろそろ行きましょうか」
しかし彼女は動こうとしませんでした。いったいどうしたのでしょう?
「モカさん?」
「手、繋いでください。繋いでくれないとヤです」
赤くなった顔をマフラーに埋めて甘えてくる彼女。普段はなかなか甘えてくれないのでちょっと、いやかなり嬉しいです。
「これでいいですか、お姫様?」
「~ッ!今日の紗夜さんはズルいです……」
私の言葉に赤かった顔をさらに赤くした彼女は、幸せそうに笑ってくれた。
「おお~綺麗ですね~!」
イルミネーションを見た彼女は珍しくテンションが上がっているようです。瞳はキラキラと輝いていて楽しそうに笑っている彼女。
「ええ、とても綺麗です。とても」
それからしばらくイルミネーションを見てまわったところで手ごろなベンチを見つけたのでそこで休憩することにしました。
ベンチに並んで座り、イルミネーションを眺めていると彼女が私の肩に頭を乗せてきました。同時に繋いだ手をギュッと握ってきたのでどうしたんだろうと彼女の方を見てみると、潤んだ瞳で私を見ていました。
「寂しかったです……。最近ずっと会えなくて辛かったです……。会いに行きたかったけど、忙しいのにあたしのわがままで迷惑かけちゃいけないって思って、でも会いたくて辛くて苦しくて寂しくて……」
「……」
「だから今日のデートが決まった時は本当に嬉しかったです。やっと会えるんだって、あたしといてくれるんだって。今もあたしと一緒にいてくれて手を繋いでくれてちゃんと見てくれてとっても幸せです。でも、だからもう離れたくない。帰りたくないです。デートが終わったら、そしたらまた紗夜さんと会えなくなっちゃう……」
「モカさん……」
「わかってるんです、こんなこと言っても紗夜さんを困らせるだけだって……。でもっ、でもぉ……」
そこからさきは彼女が泣いてしまったからよく聞き取れなかったけど、なにか言わなくてはと思った。自分が辛くなるほどに私を愛してくれる彼女に。
彼女に身体ごと向き合うと、繋いだ方とは逆の手で彼女を抱きしめる。彼女は一瞬びくりと震えたけれど私に身体を預けてくる。
「モカさん、寂しい思いをさせてごめんなさい。そして話してくれてありがとうございます。話してくれなければそんなにも寂しい思いをさせていることに気づけなかった。辛くなるほどに想ってくれていることに気づけなかった……。でも、ごめんなさい。今はまだ一緒にいてあげることが出来ません。だから……」
抱いてる彼女を離し、そっと優しく口づけする。彼女のやわらかい唇の感触にもっと味わいたくなるけど我慢して離れ、彼女の潤んだ宝石のような瞳を覗きこむ。
「だから、すみませんが今はこれで我慢してください。バンドの方が落ち着いたらモカさんが満足するまでずっと一緒にいますから。だからそれまで待っていてくれますか?」
「……わかりました、紗夜さんが来てくれるのずっと待ってますから……。だからもう一度だけ、キスしてください」
そう言って瞳をとじる彼女。私はそれに応えるためにもう一度口づけをする。今度はさっきよりも強く、長く、しっかりと彼女が私を感じれるように。
「愛してますよ。だれよりも」
「あたしも愛してます。いつまでも」