対八雲紫
さて、諸々のごったごたを済ませてから地上に戻ってくると、そこは黄金の月が輝く、草木も眠る深夜。
吹く風が肌を冷やし、ほんのちょっぴりの興奮と寂しさが混ぜ合わさった、良く分からない感情が込み上げて来る。
「さぁ、どこに向かいましょうか?地獄に潜って魔王とお遊戯するのも良し、天上界にちょっかいを掛けるのも良し、月に行って宴会でも開いて遊ぶのも良し、私の星に戻って一人でのんびりするのも、修行を積むのも良いわね、でもそれは暫くお預けにして・・・」
そう言って私は何もない空間を叩き切る、魔力を乱雑に固めただけの簡素な剣は空中でその動きを停止させ直ぐに消滅してしまった。
「あらあら、ばれてしまいましたか」
無数の目が妖しく見つめるスキマ空間から半身だけをにょきっと生やしながら私を挑発してくる怖いもの知らずの妖怪さん。
「ばれるも何も、私に隠し事は出来ない事ぐらい知っているでしょう?」
「うふふ、それもそうでしたね、ところで話は変わりますが月に興味はおありで?」
「月面戦争なら私はやらないわよ、一応だけど友好関係にあるのだから。月のご飯は旨いわよ」
月の文明は自然と調和する事に重点を置いているからね、やっぱり食べ物は自然由来じゃないとね、そこら辺、月はしっかりしているわ。
まぁ、紫は月を単なる面倒な妖怪を処刑する為の道具としか見てないようだけど。
「悲しいですわね、私は平和主義ですのよ」
「・・・まぁ、ほどほどにね」
平和主義、つまり大義の無い争いは避けると言う事、つまり自分の手を汚さずに強豪妖怪を月の民に始末してもらうつもりなのね。
適当な大義をでっち上げて、邪魔な妖怪を屠ると・・・なんともまぁ、狡賢いわね。
ま、それは置いといて、億年を生きる妖怪が目の前に居るんですもの、やる事は一つよね。
「さて、私としてもあなたがどれだけ成長したか見てみたいのよ、一戦交えないかしら?」
「勝ち目の無い戦いは避けて通る人間・・・もとい妖怪ですので」
「そういうの好きでしょ、無謀な戦い、もっと具体的に言おうか?」
少しだけ、本当に少しだけ紫の瞳が揺らぐ。
「わかったわよ!一発殴り合えば良いんでしょ!あんたは鬼かッ!戦闘狂かッ!」
返す言葉が無くなったようで紫は吠える。
良くぐぅの音も出ないと言うけれど、
「と言ってもあんたも暇でしょーに、ずっと地上でボッチだったんでしょう、力余ってるんじゃないの?」
「ボッチじゃない!・・・まぁ、私が消滅しない様に妖力を配給して戴いたのには感謝します」
あら?意外に素直ね・・・まだまだ未熟者って事かしら?
ってまだ妖力ライン繋げっ放しだったのね、切断切断っと。
「ああ、すっかり忘れていたわ、そう言えば妖力配っていたわね、いやぁ、偶然とは言え良かった良かった。借り一ね」
「冗談じゃありませんわ、人妖大戦を私に押し付けたのは何処の何方ですか」
「その理論で行くとあなたは私に命を預けた事になるわよ」
「・・・」
「まだまだ未熟ね、私が鍛えてあげるわ」
二人は大空へと飛翔した。