私は今、闇に包まれた深海に来ているわ。
地底火山がモクモクと煙を上げている所に手を突っ込んだり、偶に通りかかる謎の発光している生物を鷲掴みにして食べてみたりと、結構深海の旅を満喫していたのだけど、いい加減に飽きてきたわ。
タカミムスビに言われて、大人しく深海の宮殿を目指す事にしたのだけど、やっぱり適当に潜ってるだけじゃあダメダメね。
それじゃあ仕方ないわ、奥の手を出しましょう。
深海と言えば太陽の光が届かない完全な闇の中、つまり私の領域よ。
「深海のお宝を山程積んだ深秘境までの闇ツアーへ一名様をご招待ー」
私は体を闇と同化して海底の宮殿・・・長いわねコレ、良いわ、今からここは龍宮城よ、素敵な名前でしょう?もっと褒めなさい、で、龍宮城の目の前までひとっ飛びして来たわ。
平べったく広がる龍宮城は薄く発光しており、その周囲には多数の魚介類達が群れを成して楽しそうに踊っているわ、まさにお魚天国ね。
さて、他人のお宅をジロジロ眺める趣味は持ち合わせていなくてね、さっさと中にお邪魔しちゃいましょう。
「失礼するわよー・・・・・・え?」
龍宮城の門を開け、中に一歩踏み入れたところで猛烈な違和感を感じて立ち止まってしまった。
「この妙な違和感は何なのかしら、まるで私の中の力が欠落した様な・・・・・・ははーん、成程、時の力を極端に弱めていたのね、只の国津神と侮っていたけど、やるじゃない!結界限定とは言え、時の流れを操るなんて早々出来るモノじゃないわよ!こんな素晴らしい術式を備え付けた家主は誰かしら?」
私が玄関口でフンフン言いながら感心していると正面から武装した女の子が出てきたわ。
髪は緑の黒髪と言うに相応しい、艶やかな髪を腰まで垂らしている、人間にして16歳位の女の子が槍を構えながら私にジリジリ近づいて来る。
「何だ貴様は?わざわざ深海の都まで何の用だ!!!」
私を睨みつけている彼女が用を訪ねて来る。
「此処に海の水を操る宝具が有るって聞いたのだけど、知らないかしら?」
「成程、それでわざわざ正面から強盗か、良いだろう。邪な心を持つ者はこの私が成敗してくれる!」
あれ?貸して貰うだけで良かったんだけど、可笑しいなぁ、どうして強盗と間違えられたのかしら?
「えー・・・・・・」
「その首、貰い受ける!いざ、覚悟!」
私は迫り来る槍を避けようともせずに、一人奮闘する彼女を眺める。
彼女の握っている槍は綺麗な青、とってもとっても綺麗。たぶん、何らかの神槍なんでしょうね。
一流の者が扱えば文字通り破天砕地の武をモノに出来るのでしょうけど、棒立ちの私に対してへっぴり腰で槍を突き出す彼女には無理でしょうねぇ・・・。
「だから私は強盗じゃないってば」
「うるさい黙れ!今更遅いわ!女なら女らしく覚悟を決めろ!見苦しい!」
あ、暑苦しいわね、私からすれば貴女の槍裁きの方が見苦しいわよ!
「もう面倒臭いわ、即死魔法・・・じゃなくて気絶魔法」
紫でも聞き取れない程の速度で高速唱詠し、僅かな抵抗すらさせずに気絶魔法を直撃させる。
「ぐっ!ふ、ふははははは!!!魔力を弾くお札を持って来て正解だったわっ!」
私の気絶魔法が直撃し、刹那には意識を失った彼女だが、どうやら懐に忍ばせていたお札とやらで即座に回復したみたいね。
手加減しているとは言え、私の魔法を防ぎ切るお札・・・世界は窮屈でいて、広いわね、彼女自慢の綺麗な槍より、その紙切れの方が余程価値が有るわよ。
「すごいお札ね、あなたが作ったの?」
「戯け、貴様に聴かせる口など持ち合わせてはおらんわ!」
「じゃあ無理矢理吐かせてあげるしかないわね」
今度はかなり強めに魔力を注ぎ込んだ読心魔法を飛ばす。
「なっ!」
私の唱詠の速さか、魔法の強度か、それともその両方に驚いたのかは分からないが、彼女は一瞬だけ驚きに包まれた悲鳴を上げ、体を仰け反らせる。
「効果は・・・はぁ、やっぱり駄目なのね。薄々分かってはいたけれども」
私は彼女の反応を見て、若干期待に胸を膨らませていたが、やはり弾かれて効果を成さない。
「・・・・・・ふ、ふはは、ふははは!!!どうした?まさかそれで終わりでは無かろう?」
むかっ!今のにはちょっとイラッと来たわ・・・
「魔法が効かないなら、物理で勝負よ!」
私は展開していた魔方陣を収め、神鉄で出来た鉄槍を取りだす。
「良し来た!」
彼女は私の槍と自分の槍を見比べ、獰猛な笑みを浮かべる。
「フッ!ハッ、セイヤッ!!ソイヤッ!オラァッ!!!!」
彼女の槍は力任せの大振りで、避けるのは非常に容易い。
「・・・ッ・・・ッ・・・ッ・・・ッ・・・ッ」
が、あえて避けずに手に持っている槍で猛撃を真正面から受け止める。
全て受け切り成程納得、流石に大振りなだけはあってこちらの槍が圧し折れてしまう程の勢いね。
やっぱり、この子は自分の武器を完全に間違えているわね。
槍は小手先の技術で勝負を仕掛ける綿密な武器よ、力任せの怪力娘には斧や大剣等の大型武器が良く似合うと言うのに・・・この子の指南役はボンクラなのかしら?
それとも、あの子の持っている槍は見た感じだけでも結構な代物、先祖代々から受け継がれる槍道家業の子なのかしら?
ま、主神以外で世界一の膂力を持つ私でさえ斧や大剣は滅多な事では使わないから、案外、理に適った選択なのかもだけど、鎧の上から胴体を一刀両断っ!てね。
さて、もうこの子と槍でにゃんにゃんしたところで未来は無いわね、怪力娘相手なら拳一つで殴り合うのが私流の礼儀よ。
「あなた相手に武器を持つまでもないわ、来なさい!素手で相手してあげるわ」
「・・・ッ、ァアアアア!!!おのれ小娘が!舐めた真似をォォォォォ!!!!」
私の挑発に見事釣られて武器を手放す彼女。
・・・こんな簡単な挑発に釣られるなんて・・・この子頭大丈夫かしら?
「そこを動くなよ、その綺麗な面をぶっ飛ばしてやるからっな!」
「喋りながら激しい運動をすると舌を噛んじゃうわよ、自殺したいのなら手伝ってあげるわよ?」
特に構えという構えを取っていない私に対して、石畳が割れる程の猛烈な踏み込みを乗せた、大振りの必殺パンチを放つ彼女。
「お腹ががら空きよ!」
私は左手を軽く握り、本当に小突く程度の力で殴り付けた。
「ガアアアアア!!!ゴフッゴフッオエェ」
まるで猛反発する磁石の様に私の拳から離れて行く彼女の体。
あらためて彼女の様子を詳しく観察してみると、どうやら内臓は全て破裂し、脊髄は粉々に粉砕され、背中の皮膚が破け臓腑がはみ出している様ね。
まるで死に体の彼女だが、今だにその瞳は荒々しい闘気と輝かしい希望で私を焼き尽くさんとばかりにギラギラと光り輝いている。
「降参しなさい、素直にするなら傷は治してあげるし、屋敷の道案内以外の外道を働く心算はないわ」
「だま・・・れ!!!待ってろ、今殺して・・・やるからなァァァ!!!!」
「・・・・・・」
鬼気迫る勢いで飛びあがり、佇む私を懐に隠していた宝剣で滅多刺しにしていく彼女。
私は体中を宝剣で刺されながら、それを一切気にせず彼女に問いかける、なぜそこまでするのか、と。
彼女はそれに意か無意か奇声で言返し、それからは壊れたロボットの様に自分の傷を広げながら佇む私をただ機械的に傷つけるだけの自我の無い人形の様なものへと成り下がってしまった。
「・・・もう良いわ、もう十分よ、狂った者に興味なんてないわ、眠れ」
想像を絶するほどの魔力を込めて練り上げられた誘眠術式は彼女のお札の加護をぶち破り、狂戦士を眠り姫へと変えてしまった。
一対一での完全勝利は初めてかも?