『タカミムスビ!カミムスビ!緊急よ!』
『どうしました?』
『なにかあったのか?』
『海底の神が私達の力の欠片を集めているわ、おそらく目的は自身が第二の主神に成り、私達を葬った後――――』
そこで闇神からの念話は途切れてしまった、おそらく悠長に念話を飛ばしている状況ではなくなったか――――
『殺された』
『ああ、相手はどうやら造化四神の力を拾い集めていた様だし、闇神を瞬殺する手段ぐらい持ち合わせていてもおかしくはないな』
――――ただ、アイツは不死者。普通に殺しただけでは死なない。闇とアイツを同時にそして完全に消滅させなければ直ぐに復活してしまう。
闇と言う概念を完全に消し去ったのなら俺達が直ぐに気付くはず。
と言う事は・・・
『否、おそらく回路の強制切断だ。それ以外考えられない』
『成程、確かに彼女を完全に葬り去るのは私でも不可能ですからね』
『とは言え、アイツの相手はある意味、俺達二柱の力だ。そう長く持たんぞ』
『かと言って私達の性質は完全に把握、対策されていますでしょうし、何の対策もせずにノコノコ顔を出しなどすれば・・・』
『取り合えずお前は主神を呼んでくれ、俺は魔王とツクヨミに話を付けて来る』
『空白前後の大戦力ですね』
『奴が本当に造化の力を使いこなしているならこれでもまだ足りないぐらいだ―――――――とにかくお前は主神を呼んでくれ、話はそれからだ』
『それにしても本当に・・・本当に厄介な・・・』
『俺達も一世界を管理する身だ。多少は、な?』
天上の
水の枯れた深海の都。そこはかつての光り輝く魚の楽園、臥龍の安息地、深淵の龍宮城――――
おおよそ、おそらく、その様な名前で呼ばれている土地を踏み鳴らしながら得意気な笑みを浮かべる少女と、含み笑いを絶やさない初老の男性がお互いに手を伸ばせば届きそうな距離を保ちながら語り合う。
「――――終わり、ね」
「ああ」
「あら?意外と素直ね」
「事実を否定はしないよ。ただ――――」
一拍溜めてから周囲をグルリと見渡し、
「終わるのは僕ではなく君だがね『三神封印』」
ごく自然体、なにも違和感を感じさせない、警戒心を抱けない雰囲気での突然の封印術、あまりにも自然すぎる不意打ち、これでは防御も回避も出来っこない。
何とも呆気なく、光、法、概念の三種の力で構成された封印式が少女を縛り付けるする。
「ぐっ・・・流石に無理か・・・」
少女は全身に絡め付く、眩しい程に輝く拘束具を破壊しようともがくが、流石に自分以外の全ての造化神の力を注がれた封印式には逆らえないと見て力を抜いた。
「さて、そこで大人しくして貰おうかな。良い子にしていれば穏やかに消し去ってあげられるけど、暴れられたら・・・ねぇ?」
老人は手に持つ杖をしばらく眺め、そして何かを思い出したかの様な動作でその先端を少女の肌に突き刺す。
「痛い、わね。凄く痛いわ、どうなっているの?」
両手両足、首に羽に肩、太ももに指、両耳と服。
文字通り全ての関節と装備品を貫き、一ミリたりとも動く事の敵わない少女が激しい痛みに顔を顰める。
「この杖は世界の外壁を参考にして造られた宝杖なのだよ。だから僅かながら混沌の力を秘めている、本当に僅かだがね」
得意気に掌の上で杖を弄びながら続ける。
「混沌の力は全てを溶かし込む力。それが無防備に肌を晒している君の中に入ったのだ、当然体は内部から喰い荒される」
老人は杖を持ち直し、少女の顔の前へ杖先を運ぶ。
「その痛みは想像を絶するだろうね!」
老人は少女の眼球めがけて杖を突き刺す。
万物を溶かし去る混沌の力を纏った杖に対抗する手段の無い少女は自己再生と混沌浸食の繰り返しが作り出す地獄から抜け出す事は出来ない。
「・・・」
「凄まじい精神力だね、地獄が生ぬるく感じる程の痛みだろう?それでいて正気を保つとは――――」
―――全く、見た目とはエラい違いだ。
老人は苦痛に顔を歪める少女を見下ろしながら呆れた風に言い放つ。
「確かに痛いわ、凄く、凄くね。でもくたばる程ではないわね。まだ、まだまだ・・・」
―――足りないわ。
「強情な娘だ」
老人は少女の体を次々と刺し、抉り、傷つけていく。
対する少女は全身から赤い血を被り、脳を焼き切る程の痛みに耐えるべく歯を食いしばっている。
「ふぅ、どうやら君は本当に闇の力を使う気は無い様だ」
「どうせ表に出した瞬間に根こそぎ奪い取られるだけでしょう?」
老人は肩を竦め、
「根こそぎは無理だ。ほんの一欠片を拝借するだけだよ」
「十分よ。それでお前は完成するのでしょう?」
「いや・・・それでも足りない。全く世界と言うものはどこまでも不思議なものでね、知れば知る程未知の世界が広がってゆくのだ、まるで僕に深淵を触れさせまいとする何者かの意志が働いているかのように――――」
少女は一瞬目を見開き、口元を緩ませた。
怒り一色の少女の眼は既にまるで果ての無い大バカ者を見守るようなやさしいものに変わっていた。
そして、心の底から面白愉快そうに、老人に問い掛ける。
「私の力だけでは世界の全てを知る事は出来ない、と?」
「ああ、今のままでは世界の全てを造ったといわれるアメノミナカヌシの神に勝てる気がしない。たとえ君の全ての力を奪い取ったとしても」
少女は大変愉快なモノを見たとでも言いたげな表情で老人を見上げ、そして更に問い掛ける。
「じゃあ私を倒そうが倒さまいが待ちうけているのは結局、滅びじゃないの。只の海底神として細々とやっていたならそこそこの長生き、出来たんじゃないの?」
「愚問、同じ長い時を生きた身だ。私の真意ぐらい、分かっているのだろう?」
「世界の全てを巻き込んだ壮大で傲慢な最後っ屁、でしょ?死にかけの爺。」
少女は血濡れの顔でニヤニヤしながら更に更に問い掛ける。
「やはり闇を纏って入ずとも造化の神は造化の神か。見事な洞察力だ」
「見た目は神力で誤魔化しているのだろうけど、その私以上に老練された技術と知恵と手口を見れば子供でも分かるわ。貴方、何歳なのよ」
「不可説不可説転を超越した所までは数えていたね、君は何歳なのだい?」
「せいぜいが無量大数に届くか届かないかのレベルよ。貴方とは文字通り、桁が違うわ」
改めて年齢を声にして数えたおかげで実感が沸いてきたのか、途方もない時を置いてきた事を少し後悔するように笑い合う。
「それで、いい加減もう魂が限界なのでしょう?造化の者ならまだしも、貴方はこの世界出身の身。不可説不可説転の時に耐えられる筈が無い」
「ああ、もういい加減限界だ。魂そのものが完全に磨耗し切っている。精神も世界の真理を解き明かすという信念一つで辛うじて支えられている状況だ」
「それで?それほどまでの時を費やして得たものとは一体何だったのよ?」
「なにもない・・・かな。魔の始祖である君を圧殺出来る程の魔法技術や、法の始祖であるタカミムスビに正面から打ち勝てる程の演算能力を手に入れても、それ自体は只の道具に過ぎないしね・・・」
「タカミムスビは世界を構成する術式の解析は済ましたって言っていたけど?」
「あれはいわば、設計図を手に入れた様なものなんだ。造る事は出来てもそれが意味する事は誰にも理解出来やしない。事実、僕があれほどまでの時を費やしたにも関わらずまだ完全な理解の枠には収まっていない代物だ」
「それでも諦めずにコツコツと解読を試みていたけれど―――」
「己が身に残された時間は少ないと悟り、一か八かの大勝負に出た。これが恐らく今、天上界を揺るがしている筈の大事件の真実だよ」
「もうじき天上界と冥界と世界の外側から造化の神達がやって来るわ。どうする?降参する?」
「自殺・・・は無意味か。ならば最後の力を振り絞って無の領域に飛ぼうかな?」
「どうせ主神の意味不明術式によって拾い上げられるだけよ。貴方に物理的逃げ場はどこにもないわ」
「如何すれば良いかな?」
「どうせ全ての決定権は主神にあるのだから気軽に構えていれば良いのよ。なんなら私と魔法合戦でもする?」
「死に際の魔法遊戯か・・・良いだろう」
少女は体を闇化して檻から抜け出し、自らの魔力の結晶を圧縮させた簡易杖を構える。
老人は元々持っている杖を持ち直し、少女の方へ向きなおす。
解説、
老人はごく平凡な海底神だったが、ある事がきっかけで世界の真理に憧れる。
老人は時を猛烈に加速させる魔法を使い、不可説不可説転を超える程の時を研究に費やす。
だが元々の魂はごく平凡な海底神の物だった為、魂が莫大な時の流れの果てに磨耗し、死にかける。
そこで自分の寿命が差し迫っている事に気が付く。
絶望した老人は半ばヤケクソ気味に造化四神の力の破片を拾い集めて下剋上。
本来は全ての造化神の力を根こそぎ奪い取ってその力を行使する事で世界の全てを手にする筈だったのだが、計画半ばで荒闇大妖に見つかり、そのまま総崩れ。
大体こんな感じです。