太陽が傾いてくる時間、すすり泣く人々を遠くから見つめるアインズは象牙で出来たワンドをローブの中で撫でていた。
「……蘇生することは簡単だが……リスクに対してリターンが少ないな。人の生き死にをそう思ってしまうのはアンデット化のせいなんだろうな。君はどう思う?」
恩を着せることは簡単だが、人を生き返らせることが出来ると噂が広まれば面倒なことになるのは明白だ。だがその考えに横にいる天使……カルマ値+であろうアリスはどう思うだろうか。アインズとしては同じ境遇の同士と無闇に敵対したくはない。彼女が望むなら、彼女と友誼が結べるのならそれはナザリックに対して大きなリターンだと感じていた。
「助けてあげたいとは思います……ですが、彼らは必死で前に進もうとしていますから」
そう言いながら気丈に振舞う少女と、その少女にすがり付いている幼子を見つめながら何かに耐えるように手を握り締めている。
「……でも叶うなら、もうこんな悲劇を起こしたくはありません。私一人では不可能かもしれませんが守ってあげたい。そう思います。」
その言葉にアインズは深く頷いた。
「ならば彼らを守るために私も力を貸そう。アインズ・ウール・ゴウンの名に掛けて。……アルベド!」
「はっ! 現在後詰として展開しているシモベの中から数体選抜し、村の守護を任せます。」
「うむ。この世界のレベルなら問題ないだろう。この村は後々ナザリックに対する窓口となるだろう。ナザリック全体に周知しておいてくれ。」
かしこまりました。とアインズの傍を離れ、
「すみませんでした。こんな話し方で」
「いえいえ。NPCの手前、支配者ロールを行っているのに下手に出ているところを見せられないのは理解していますから。」
先程、村長宅でこの国や周辺国家の知識などを確認中、葬儀の準備が出来たと中座したタイミングで少しだけ二人で情報交換を行ったのだ。
「それにしてもアインズさんは私の思っていた通りの方です」
そう笑いながらこちらを見るアリスに
「え?! もしかしてお会いしたことが?」
「直接はないですけどアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーには何人かお世話になりました。」
まさか異世界で偶然出会った他のプレイヤーとこんな接点があったとは夢にも思っていなかったアインズは、是非話が聞きたいと身を乗り出していた。
「そうなんですか?! いやぁ嬉しいなぁ。実はギルメンのほとんどがリアルの事情で引退してまして。是非色々話を……ん? アルベドか? なんだ?」
ふいに入った
「「アインズ様。 周辺を偵察中だったアウラより、この村に武装した集団が馬を走らせているとのこと。またそれに付随して潜伏しつつその集団を包囲しようとしている集団があるとのことです。……排除いたしますか?」」
「「それには及ばん。私が武装集団を対処する。アウラには引き続き潜伏しつつ2つの集団を監視するよう伝えろ。」」
そう
アインズはアリスに事情を説明すると村長に指示を出し、自分は広場の真ん中で待ち構えるのだった。
「私はガゼフ・ストロノーフ! 王命により、昨今村々が襲われている状況を調査するために来た! この村は幸いまだ無事だったようだな。」
広場の中央、ガゼフ・ストロノーフと名乗る人物、村長によれば王国戦士長という立場の人物らしい。が、安堵の表情でよく響く声を上げていた。
「ガゼフ・ストロノーフ殿。私はアインズ・ウール・ゴウン。旅の
そこまで言ったところでガゼフはすぐさま馬上より降り、アインズ達に頭を下げる
「この村を、王国の民を救っていただき言葉もない。ゴウン殿、アリス殿。」
王国戦士長という地位にいるものが素性の知れぬ者達に頭を下げる。そのことはアインズ達に彼の実直な人柄が好ましく映った。
「いえいえ。こちらも無償せ助けたをけではないですし、事実少なくない被害がでてしまいました。」
「ゴウン殿達は冒険者なのかな? いや、それでも多くの民を救って頂いた。このご恩は王城に帰還したらすぐ陛下に奏上し、謝礼を約束する。」
アインズ達はガゼフに村の復興を願い出、それに二つ返事で了承したガゼフは、王都に来た際には是非我が家へとアインズ達を誘う。
自発的に王国戦士団の兵士たちが壊れた家屋から荷物を持ち出したり、お年寄り達の手助けをしている。
少しだけ弛緩した空気。そんな中に、
「ガゼフ様! 大変です! この村を包囲している集団が!」
一報を持ち帰った兵士に、ガゼフは苦虫を噛み潰した。
恐らく狙いは自分だったのだろう。貴族派閥に根回しして自分の装備、王国の至宝を取り上げ、村々で戦士団の人員を割いた。なんとも執念深い相手のようだ。
「狙いは……やはり俺か。」
「ガゼフ殿は嫌われているようですね」
「ハハハッ! 違いない。周辺国家最強などと分不相応な俺の首を取るためにここまで手を回すか……ゴウン殿。恥を忍んでお願いが……」
覚悟を決めた男の、決意に満ちた瞳に眩しさを感じながらも、アインズは言葉の途中で手をかざしてその先を言わせない。
「……申し訳ないが私が助太刀することはお断りする。だが私の名にかけて村の人々は守ろう。」
少しだけ落胆しながらも、この底知れぬ御仁が人々を守ると言ったのだ。もう後顧の憂いはない。
そう踵を返したところで背中に声が掛けられた
「……私は助太刀しない……が、彼女はどうだろうか?」
その言葉に振り向くと、まだ少女といっていいだろう年齢の子供が、ガゼフがアインズに感じたのと同じくらい底知れない雰囲気を感じていた少女が一歩前に踏み出していた。
「アインズさんが村の人たちを守ってくれるなら、私が戦士長さんの助太刀をします。」
普通なら子供を戦場になど連れ出さない。しかしガゼフはこの少女が見た目通りではないことを、自分などより遥かに強者なのであろうことを本能的に悟っていた。
「……アリス殿が手助けしてくださるなら、これほど心強いことはない。……皆! いくぞ! 俺に命を預けろ!」
オオオォ! と鬨の声を上げながら馬にまたがったガゼフを先頭に戦士団が走り出す。それを見送ったアインズは魔法によって監視を始める。アリスの戦力の一端が掴めるかもしれないし、ああは言ったがガゼフかアリスが危なくなれば助けに行くつもりだ。
夕日が草原を黄金色に染め上げる中、後に「法国最大の失敗」と呼ばれる戦いの戦端が開かれようとしていた。