二月の悴んだ空気が頬を撫でる。半端に発展している地方都市の平日昼間は車道を走る車ばかりで歩道を歩いている人間などほぼ居ない。
近くのコンビニに入ってもそれは同じで、見知った顔の店員がいそいそと品出しをしていた。
とりあえず求人の無料冊子が出ていたので手に取る。どうせ書いてある情報は前回と変わらないのだろうが見ないよりはマシだ。
何時もの様におにぎりと適当なスープカップを持ってレジに向かえば、気づいた店員が何時もの様にレジを打ち袋に商品を詰めてくれる。
用事を終えた俺はコンビニを出て帰路につく。これがほぼ日課になっていた。
大学を無事卒業出来たものの就職した先がとんだモラハラ企業で、逃げる様に辞め、今は非正規雇用者として工場で働いている。
これから家に帰り昼飯を食べたら夕方まで仮眠。それが終わったら出社して朝方に帰り少し寝る。また起きたら昼飯を買いにコンビニに向かう...、前の会社で上司に罵倒されていた時よりずっとラクな暮らしだが、決して楽しくはない。
正規雇用になりたくて、転職したくてしょうがないがやる気がどうしても起きないので今の環境に甘んじている。
友達とも最近は遊んでいないし、職場でも親密な関係を築けるほどの友人は居ない。一人暮らしを始めてから実家にも顔を出さないし寂しい日常を送っている。
散々前の職場で言われたが「お前が居なくても代わりはいる」正にその通りだと思う。今の職場だってそうだ。俺が居なくても代わりはいる。
今でもあの女上司を思い出すと心に込み上げてくるものがある。「これから作るのに五ヶ月かかるプロジェクトがあるのにどうして他人に言われるまで放っておいたの!?」とヒステリックに怒鳴られた日から女が怖くなった。
そもそも他部署の部長が指摘するまでプロジェクトがある事をやりたくない嫌いな仕事だからと言って放置していたのはあの女である。
どうにもそれからというもの、俺は何かに対する情熱を失ってしまった。どんなに頑張っても結果に繋がらないどころか、怒鳴られ詰られるのだ。きっと、疲れてしまった。
あのブラックであった事を思い出す度に体から力が抜ける。
昔は一日中友達と外を駆けていたし、ゲームだって夢中で遊べた。今じゃ買ってもやらないゲームが部屋の隅に文字通り積んである。
あの頃の熱量はどこに行ってしまったのだろうか。大好きだったゲームだって、一つのカセットで一年だって二年だって長くプレイしていたが、気に入っていたシリーズ物さえ購入一ヶ月で飽きた。周回する気も起きない。
つまらない人生を日々、淡々と消化している。
だが、まだ思ってしまうのだ自分はまだ何か大きな事を成し得る力を持っているんじゃないかと。必要としてくれる人に出会えるんじゃないか。そんな下らない妄想ばかりして、大人になれよ。と、自嘲した。
勿論、俺みたいな自他共に言われる中途半端で誰にも必要とされていない人間が何か出来る筈も無く。
アパートの一階にある江倉と書かれた表札のあるドアに手を伸ばす。
今日も明日も明後日も、待っているのは虚ろな日々。ただ環境に流されて死んだように生きている無駄な日々。
そして俺は扉を開いた。