エクラ「異世界召喚されたwww」   作:ソウキ

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 特務機関の城と紹介された城は想像よりもずっと広い。その広さに反して不思議な事に人の気配がしないので空虚さを感じた。

 目にする全てのものが興味深い。本当にファンタジーの世界に来てしまったんだと実感と共に感動する。

 シャロンに案内された厨房も鍋やら皿やら一つ一つが世界観を形作るアイテムだ。大きな樽やら石窯のような調理器具に鍋。

 それにしても、やはり食器や施設の規模は大きいのに人が使った痕跡があまり無い。

 

「あ、アンナ隊長ー!隊長もつまみ食いですか?」

「違うわよ。やっとご家族への報告も終わって一休みしてたの」

 

 俺達が入って来たところ、水瓶からコップに水を掬っているアンナが居た。

 そう言いながらがらんどうとし食堂の机に水を置き一人座る。とても疲れているように見えたし、淋しそうにも見えた。

「シャロン。夜の甘味は太るわよ」

「わ、解ってますって」

「あとフェーちゃんがそろそろお腹を空かせていると思うからご飯あげに行ってくれない」

「んー。解りました。フェーちゃんも特務機関の仲間ですもんね。あっ、お菓子見つかりました。アンナ隊長の分も置いて行きますね。共犯ですよ。すぐ戻ってきまーす」

 上手にバッチリ、ウィンクするとシャロンは焼き菓子片手に元気良く飛び出して行った。

「元気な子だなぁ...」

 素直で明るくて春風のような子だ。誰にでもあの調子なのだろう。良い意味で王女様だと思えない。野に咲く綺麗な黄色の花の様に華やかで可憐に思う。

 言いながら俺もアンナに倣って水瓶からコップに水を注いだ。机にはシャロンが置いてあった焼き菓子ある。麦の様な匂いがするが、なんだろう。

 ファイアーエムブレムの世界の食糧事情などプレイしている時は何も思わなかった。水道と電気がない世界はちょっと不便だなと薄暗い食堂を見る。

 

「珍しいな。隊長...上司なのに自分から報告や仕事をするなんて」

「貴方のいた世界では珍しいの?」

「部下の事なんて気に掛けない人達だったから」

 アンナはふうん、と興味なさそうに答える。

 

「特務機関の城ってなんでこんなに広いのかな。興味があるんだ。教えてほしい」

 

「昔はもう少し活気があったのよ。けれどエンブラが英雄召喚出来るようになって、どんどん使う人が減ったの」

 

 心苦しいことあったのか、アンナは大きく息を吐く。俺は自分の質問の迂闊さに恥じた。

「戦死、した仲間も居たわ。それよりも生き残った人達は圧倒的な力を持つ英雄へ恐怖してしまった。戦う心が折れて精神的な理由で機関を離れてしまったの。それに今回の作戦でも多くの負傷者が出たわ。暫くは戦えないでしょう。日常生活が儘ならなくなる者も出てくるわ。もうここに残っている者は殆ど居ない...」

「アゾットさん達は無事だったんですか」

「ええ、皇女サマ、派手に暴れただけで特に兵隊の生死はどうでも良かったみたい。でも、また何人も戦えたなくなった。...私は彼等を不幸にしてしまった。隊長である私のミスで」

 アンナだけが悪いわけではないだろうに、自分自身を許せないのか彼女はコップを強く握った。

 その表情からは自己に対する怒りやエンブラに対する怒り、そして己の無力さを嘆く悲しみが見てとれる。

「ま、お陰で今は召喚された英雄の休むスペースが出来たから丁度いいわ」

 気分を切り替えようと、気を強く持とうとアンナは努めて明るい声で話す。ミネルバやタクミも、今はこの城の何処かで休んでいるらしい。

 部屋の組分けやこれからの方針についても英雄達にアンナは説明していて、戦場から今までずっと働き詰めだったと言うのだ。

 俺なんて気絶していて寝てたのに。

「隊長だもの。みんながちゃんと戦える様に準備するのも仕事だし、休ませるのも仕事の内。ふふ、それに財政任されるの嫌いじゃないないのよね」

 確か他のシリーズのアンナは秘密の店の店主である事が多い。まさか全員別人で姉妹だとは知らなかったが、彼女のボーイフレンドととして登場したジェイクもそんな感じなのだろうか。

 そもそもこのアンナにジェイクの事を聞いたらセクハラになってしまいそうで気軽には聞けないのでその事は言わないでおこう。

 

「...アンナ隊長みたいな人がいる場所で戦えて俺は良かった」

 

「ねえ、エクラ。あなた本当に私達に力を貸してくれるの?」

 言いにくそうに目を伏せるアンナ。

「ブレイザリクを使ってもう一度儀式をすれば貴方は元の世界に戻れるわ。文献にはそうあった」

「えっ!?」

「この国の戦争は貴方には本当は関係無い、それでも一緒に戦ってくれる?今日は無理矢理、貴方を戦闘に関わらせて、申し訳ない事をしたわ」

 言葉が詰まる。

 帰りたいと素直に言えば帰りたい。門の前で見た惨状は恐ろしく、戦争なんかと無関係に暮らして生きたい。が、

『逃げるなよ』

 俺の存在を求めてくれた人達を見捨てる事は二度と出来ない。

 英雄達が少女の玩具の人形の様に従わなければならないのも、放っておけない。

 もう逃げたくない。俺という人間が助かるには、進むしかないのだ。

「召喚士が居なくなったらアスクはどうなるんだ」

「...私達はエンブラに、英雄に、徹底的に抗うわ。最後の一人になっても」

「アスクがそんな事になるなら帰らない。俺は返品出来ません。争いが怖いのはみんな同じだ。戦争に巻き込んだ事を気に病まないでくれ...それに殺し合いなら形は違えど俺の世界でもやってる」

 持ち合うのは刃じゃなくて言葉の弾丸だが、これも一つの戦争の形。首吊り縄まで持ち出されて『死ね』って言われた事もあるしな、俺も。

「ありがとう、エクラ」

 アンナがやっと笑った。

 と同時にバタバタと厨房の外で足音が聞こえる。

 大きな白いミミズク...あれはフクロウなのか...?を抱いたシャロンとアルフォンスがやって来たのだ。

「すみません。フェーちゃんがエクラさんに会いたいっていうので連れて来ちゃいました」

「僕はシャロンとさっき廊下で会ってね。アンナ隊長もエクラも食堂に居るって聞いたから、部屋に戻らない事にしたんだよ」

 

「ふえぇぇ、これが件の召喚士様ですかぁ〜」

 

 猛禽類と言うには穏やかな目つきをしたフクロウが、目を爛々と輝かせ俺を見つめる。

 待て、何故、フクロウが言葉を話しているんだ。精霊の加護でも受けた生き物なのか。全然解らん。

「フェーちゃんは伝令のお仕事をしているの。城の管理も任されてるしっかり者」

「そんな事言われたら照れますねぇー」

 獣に変身する種族も居たし、フクロウが話したところで大騒ぎする事でもないか。

 それにしてもこのフクロウ。なんて羽毛が柔らかいんだ。意味もなく触りたくなってくる。

「エクラさん、フェーちゃんにメロメロですね」

「あはは、動物好きなのかな」

 フェーを触りまくる俺をよそにシャロンとアルフォンスは笑っている。そこにまた厳しい表情に戻ってしまったアンナが口を開いた。

 

「ブレイザリクの事、元の世界に帰れる事。エクラに隠さず話したわ」

「そうか...」

 途端にアルフォンスの顔が曇り、シャロンが真剣な表情になる。

「うん。話してくれて嬉しい。俺、元の世界には戻らない。君達の助けになりたい」

「エクラさん!!と言う事は!」

「特務機関の新人召喚士、エクラです。これから宜しく」

 今更ながら改めて友好の意味を込めて手を差し出す。意味はちゃんと通じて居たようで、アルフォンスが手をとってくれた。

 これからこの世界での戦いが始まる。

 もう逃げない。

 そう、心に誓った。

 

おわり


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