アンナに任せた隊とは分かれて、アルフォンスが率いる隊は森の中を進んでる。
隊のリーダーになる事に戸惑っていたが、博識だし彼は頭もよく回るから良い人選だと思うのだが。
俺はただ後方から指示を出すだけなのてまリーダーの器に選ばれる人間ではない。
アルフォンスは俺に無いものを持っている。他人への気遣いとか、戦闘中でも冷静なところとか。
そういう人間に人は惹かれるのだと思う。強い力を持った武人とは言えないが、彼は他者を纏め、導く事が出来るタイプだ。
俺とは違う。それに俺は、
「随分、疲れていますが、大丈夫ですか?」
歩きにくい舗装されていない森の中での行軍に完全にバテていた。完全なる運動不足。体力つけなきゃいけないな。
俺の顔を心配そうに覗き込んできたシャロンは呼吸ひとつ上がってない。
「だいじょーぶだよー」
情けない声を俺はあげた。アルフォンスは俺がリーダーをやった方が良いと提案したが、こんな足を引っ張りまくるリーダー嫌だし申し訳なくなってくる。
「敵の気配、しませんね」
「うん。ここは手薄になっているのかな」
前方で辺りを警戒に観察しているクレインとアルフォンス。
後方には森に落ちない程度に低空飛行で空から周りを偵察しているパオラ。
完全に森の中まで見通せないし、隠れられたらお手上げだが、高いところから状況を把握できるのは良い。
「待って、少し先に人が立ってる...、武器を所持しているから敵兵かも。...ええっと隠れる気もなさそうだけど、気をつけて」
そんなパオラが声を上げて知らせてくれた。兵種柄、普段から周りをよく観察しているのだろう。とても目が良い。
助言を受けて慎重に前へ進む。
と、パオラが言っていた人物も俺達に気付いたのか、森の木々をかきわけて近づいてくる。
「エフラム...!!」
現れた青年の顔を見て、唸るように言った。さっそくヴェロニカに召喚された英雄と出くわすとは。
マギ・ヴァル大陸を魔王の手から救った英雄と呼ぶに相応しい人物。
腕っぷしが強く指揮能力も高い、味方として彼は心強い存在だが、敵として相対するには恐ろしい。
王子であり武人、武を持つカリスマ。なにせどんな逆境すら打ち勝って来た男だ。自然と身構える。
「白い衣装に金の鎧。お前達がアスク王国の兵か」
「そうだ。君達に力を示して契約を解く」
アルフォンスの言葉にエフラムの口の端が不敵に釣り上がる。
「その通りだな、だが、勝てればの話だ」
言いながらエフラムはルネス王国の神器である槍、ジークムントを構える。と、アルフォンスめがけて走り出した。躊躇う事無く、木々すら押し分けて!
「アルフォンス、引け!」
やばい。と、思った瞬間にはもう叫んでいた。森の中という機動力や武器の扱いを制限される場所にも関わらず槍を振るうなんて尋常じゃないぞ。
アルフォンスも不味いと思ったのか剣を防御の姿勢で構えたが、遅い。引くにも反撃するにも俺達の反応は遅すぎる。
「お兄様!」
エフラムのジークムントがアルフォンスの金翼の鎧を貫く刹那、シャロンが自身の槍でジークムントを受け軌道を変える。
慣れない不安定な足場の中、走ったのでシャロンは前のめりの勢いのままその場に転んだ。
「あ、たた...」
顔面から転んだのか顔が土やら葉っぱやらで汚れている。
ナイスアシストだがへたり込んで座っているのは隙だらけてまずい状況だと思う。
「シャロン、シャロン!!しっかり!!」
「あ、ああ...、はい!シャロン行きます!」
「...加勢するよ」
俺の呼び声に気がついたのかシャキッとした表情になって自身の槍を両手で握り立ち上がる。
様子を見ていたクレインが矢をエフラムへと放ち、間合いを開けてくれた。が、
「はぁっ!」
一体どんな動体視力、修行をしていればそんな真似が出来るのかエフラムはジークムントを振るい矢を撃ち落とした。
まずいな。思っていた以上に化物だ。武器相性もこちら側が不利だ。剣を持つパオラやアルフォンスに戦わせるのは下策。
ここは一度引いた方が良いかもしれない。
「...及第点より、下だが。まあ、良い」
そんな事をぐるぐる考えていたら何か考えている表情エフラムが呟く。暫くして警戒する俺達へと口を開いた。
「ここは一旦引く事にする。...勝てない勝負はしない主義だからな。それに兄妹の愛を魅せる戦だったか、そちらの兄妹の連携は荒削りで未熟だが伸び代がある。だが、俺達の方が凄い。お前達にも仲の良さであらぬ噂を立てられるエイリークとの戦いを見せてやりたいものだ」
それだけ一方的に言うと、森の奥の方へさっさと行ってしまった。
なんだ。おかしいぞ。ここで俺達を全滅出来る力がありながら見逃すなんて。
エフラムともあろう男がこんな雑な戦をするだろうか。とても強い違和感を感じる。
そもそもあんなお喋りだっけ?何故わざわざエイリークの事まで語った。罠へ誘い込むにしてはお粗末な言動だ。
悩む俺の横でアルフォンスへシャロンが駆け寄った。
「お兄様、無事で何よりです」
「ありがとうシャロン。あの攻撃を防げなかったら危なかったかもしれない」
「そうですね、エクラさん。エクラさん?どうしたんです難しい顔をして」
「いや、納得いかない事があって...」
「エフラムの事だね。罠かもしれないし、森の奥に伏兵がいないとも限らない。どうする?」
「マップの配置を見る限り十中八九罠なんだと思う。たぶん、森の中で立ち往生させてエイリークと挟み撃ちにするつもりだろう。そう言う作戦なのは分かるけど。けど、」
エフラムの言動がどうにも引っかかる。エフラムはあんなこと言わない!と半分冗談で半分本気で叫び出しそうになる。
兄妹の愛を競うつもりなどさらさら無さそうなのに、何故あんな事を言ったのだろう。
エフラムがそんな間抜けな事を戦場でするだろうか。いいや、しない。彼は王子であり武人でもある。そんな人間が戦場で巫山戯るとも思えない。
何を考えているんだ。何か伝えたいのか?考えろ、考えろ。エフラムは何をしたいのだ。勝てない勝負はしない。そう言った。
わざわざ兄妹の愛を証明するような男でもない。という事は”兄妹の愛を見せる為の戦い”とやらを彼は利用している?そもそも何も競ってはいない。では彼は何と戦い、何に勝つつもりなのだ。
「...俺達に、何かを伝えようとしている?」
力を示させようとしている?確か腹芸は得意では無いだろう。だったら先程のトンチンカンな言動には納得行く。
「...」
「どうします?ミネルバ様達と合流しますか?」
パオラが俺に語りかける。
「...ああ、ミネルバに連絡してくれ。エイリークが動いたら他のエンブラ兵の行軍を阻止して欲しい。けど、エイリークにはちょっかいかけないでくれ」
「そうなると、合流されてしまいますが...」
「ああ、それで良い。エンブラ兵さえ居なければ大丈夫だ。」
「解りました。ご武運を」
「俺の予想ならエイリーク達が動き出しても騎馬隊はそっちには動かない。けど危なくなったらすぐ撤退してくれ」
「はい」
パオラは真面目な顔で頷くとペガサスを扱い森を超えて飛んで行く。
見届けたアルフォンスが俺に向き直る。
「僕達はどうする」
「エフラムを追う」
「勝機は?」
「無い。勝つ気はしないが、負ける気もない」
「...エフラム王子が何を考えているのか解るのかい?」
「エフラムは俺達を試そうとしている。”まだ敵ではあるが味方側”の状態だと思うんだ。だから、このまま彼の望むままに進む」
「...解った」
「もし、最悪俺の予想が外れて罠でエフラムが攻撃に出たら、バラバラに逃げよう。とにかく生き残る事が前提条件で戦おう」
誰もロストさせない。
これはゲームでファイアーエムブレムを遊んでいた時からの誓いだ。全員で生きて帰らなければ真の勝利ではない。
森の外に構える暗夜の騎馬隊の事もあり反対されるかと思ったが、アルフォンスは賛成してくれた。
勿論、クレインもシャロンも頷く。
「それにしてもエフラムさん、恐ろしい力ですね。まだ腕がビリビリしてます」
そう言った槍を握っていない方の手を見るシャロン。
「ザカリアさんと互角、それ以上の槍術...」
「シャロン、」
「す、すみません。お兄様。今言う事ではないですよね...」
ザカリア?誰だ。特務機関のメンバーだろうか。少し興味があったが普段はしないアルフォンスのシャロンを咎めるような視線を見ると聞きづらい。
それに今の状況でするような会話でも無さそうだ。
気持ちを切り替え、俺達は森の奥へと足を踏み入れた。