「追いつきました、兄上!私の契約は解かれ、今はエクラさんの所に居ます」
「大半のエンブラ兵も撤退したわよ!」
エフラムとマークスが戦っている所へ案内したら開口一番エイリークが宣言し、アンナが敵の士気を削ぐような事を言う。
アルフォンスとシャロンも疲労は隠し切れないが、エンブラ兵を倒せたみたいだ。
「エイリークも、早かったな」
「早かったじゃないですよ兄上、敵陣の真ん中で寝返るなんて危険な事をまた...」
再開した双子はお互いの無事を確認して笑っている。
敵兵として残っているのは未だに氷を彷彿とさせる冷たい瞳をしたマークスと、困り眉で俺達を観察するエリーゼくらいだ。
「多勢に無勢、力を認めずにはいられない。か...」
「お兄ちゃん...」
もはや戦いの雌雄は決していた。残ったエンブラの兵士達も士気が低い。
マークスが剣を降ろした刹那、怒りを含んだ少女の声が辺りに響く。
声のする方を見れば水晶玉片手に怒りに表情を強張らせたヴェロニカが、護衛の兵士の馬に跨り俺を睨んでいる。
「まけたのね...つまんない。あなたたちのせいでだいなしよ」
「...ヴェロニカ」
「暗夜の異界はかえしてあげる。でもあなたたちのおもいどおりにはさせないわ」
それだけ吐き捨てるとさっさと背を向け立ち去ろうとする。
アルフォンス達からすれば倒せねばいけない相手。追おうとしたが、マークスがそれを阻んだ。
「エンブラの軛が切れ、この暗夜の地は解放された。私の契約も切れたが、...私はヴェロニカ皇女の側に行く。あの淋しそうな顔が忘れられぬ」
「正気か?」
聞いたのはエフラムだ。
「それはお前の贖罪か?父の異変に気付けず、むざむざ屍を増やした自身への罰のつもりか!?」
「そうだぞ、マークス。側にいて甘やかすだけが慰めじゃない。確かにヴェロニカは同情する可哀想な境遇だけど、悪い事したら叱るのも優しさだぞ!」
「エクラさん、話がこんがらがるので黙っていて下さい」
「アッハイ」
良かれと思ってエフラムに加勢したがエイリークに注意されてしまった。
誰の説得も聞かずにマークスはヴェロニカ皇女の後をついて行く。一人残されたエリーゼが交互にマークスと俺達の顔を見て、大きく溜息を吐いた。
「お兄ちゃんが何を考えているのかは解らないけど、ヴェロニカ皇女と友達になれるかなって思ったの。無理なのかなぁ...」
「...あの、迷っているならエリーゼ、俺たちの所に来るか?」
「ううん。お兄ちゃんやヴェロニカ皇女の事もあるから、貴方達の味方にもなれない。...でも暗夜の異界を守る為だけなら力を貸してあげる。私にとって、ここは大切な場所だから」
エリーゼの瞳から自分達の存在する異界を守ると言う決意を感じた。兄はエンブラ帝国に行ってしまったが、彼女は彼女なりに考えて自分で答えを出した。
そう選択したなら無理強いは出来ない。暗夜の異界の平穏を守ってくれるならアスク王国としても問題無いだろう。
「わかった。僕達も暗夜の異界を戦場にするような事は避ける。約束しよう」
アルフォンスもそう言ってエリーゼの決意を尊重してくれた。
「ああ、そう言えば、ヴェロニカ皇女がどうかしたのか」
忘れる所だった。エフラムがマークスが来る前に何か言おうとしていたんだ。
俺の質問にエフラムは深く頷く。
「信じられないと思うが聞いてくれ。たぶん、ヴェロニカ皇女は何者かに取り憑かれている」
「私も人格を弄られているように感じました」
と、エイリークも説明してくれた。
「私にはただ構ってほしいだけの女の子に見えますが...」
「どんな理由があれヴェロニカ皇女のした事は許されないよ」
シャロンとアルフォンスは判断がしづらいのか、困った表情をしている。
精神系の病気なのでは、と思うがファンタジーの世界の出来事だし不思議な力が働いていると言うオチも有り得る。
「エンブラ帝国と戦うのであればあの皇女とも幾度となく戦う事になるだろう。その時に真実を見極めれば良い」
「私からも宜しくお願いします。力はいつでも貸しますので...」
ここで漸く俺はエイリークとエフラムが友人であるリオン王子が魔王に精神を乗っ取られ亡くなった事を思い出した。
気にかけて当然か。と言う事はマークスも黒幕にいいように操られた父の事があってヴェロニカ側についたと思われる。
淋しそうだなら側に居るというのは半分は建前、半分は本当の事なのだろう。
(精神病、と断定は出来ないよな。この世界では)
考える俺をよそに、頭の隅にでも置いといて良い。と、その後エフラムは言って、話題を打ち切った。
この先、ヴェロニカと戦わなくてはいけなくなった時まで覚えておこうと思う。
今の状況ではエンブラ帝国の凶行に黒幕が居るのか、ヴェロニカはただの病気なのか、取り憑かれているのか全てを判断する事は出来ない。
とにかく今は暗夜の異界を奪還した事を素直に喜ぶとしよう。
何時の間にか陽は傾きかけて夕方になろうとしていた。
◆
暗夜の異界をエンブラの支配から解放した記念とエイリーク、エフラムの仲間入りを祝した宴会...は出来る状況では無かった。
特務機関の城に帰った俺達は夕食もほどほどにこれからの方針を手を貸してくれた英雄達と話し合っていたのだ。
内容は特務機関メンバー及び扉を警備している兵達の戦闘技術の低さについて、だ。そういうものはからしきの俺は殆ど口を閉ざしていた。
兵士達の戦闘技術に甘さは英雄達が直々に指導する事が決定した。それと、アスク王国の扉の護りも英雄達が交代制で護り、また侵略があったら衛兵の指揮をしてくれる事となった。
が、まだまだ人手が足りないのは事実で、支配下にされている異界を解放し英雄達の力を借りなければ特務機関はまともに機能しない。
オーブが貴重で手に入らず、ポンポン英雄を召喚する事も出来ないので、解決には時間がかかるだろう。
エンブラ帝国がアスク王国や異界に侵攻しなくなれば、その問題も無くなるのだが。
これからの事を考えながら広間をウロウロと歩いていれば、広間に設置してあるスタンド型の止まり木でフェーちゃんが休んでいるのが見えた。
モフモフの羽毛を求むて早足で距離を詰めるとフェーちゃんも俺に気付き、ビクっと震え大きな目を開く。いかん、がっつき過ぎて警戒されている。
「今日はお疲れ様でした。暗夜の異界が解放されたようで、とてもめでたいですねえ」
俺がフェーちゃんの頭を撫でる前に、何時もの細い目になって労ってくれる。
「みんなが頑張ったお陰だよ...って、それは何?」
フェーちゃんが座っている藁の下に道具が収納されていることに気付いた。回復薬のボトルとオーブがひとつ。なんでオーブがこんなところに。
困惑する俺をよそにフェーちゃんが器用にも取り出してくれる。
「アルフォンスさんのお父様とお母様からの贈り物ですよ。いつもこっそり仕送りしてくれているのです」
「特務機関に資金は回せないって聞いたけど...」
「ええ、特別扱いは出来ません。なので国王のポケットマネーです。ワタシが思うにご両親の親心ではないでしょうか」
「そっかぁ」
「国王とあう立場もありますし、この事は内密にお願いしますよ。ワタシも王様達から”この事を知ったら頼り癖がつくから子供達にこの事は内緒に”と言われているので」
確かに王族だから、身内だからと贔屓していれば国防の為と言えど民衆は不満を募らせそうだ。
民衆が居るから国が成り立つわけだし、王族への年貢も彼等が納めているのだろうしそれを無碍にするほど国王は愚かな人では無いらしい。
こちらも貰ったからからには善意をちゃんと受け止めて、成果を還元出来るようにしなければならい。
大事にしようと頷きつつ、フェーちゃんからアイテムを受け取る。
アルフォンスとシャロンのご両親はどんな人なのだろう。いつか会える日が来るのだろうか。
その時はちゃんとお礼を伝えなければいけないな。