暫く侵略者の影に警戒しながら先に進むと、破壊された民家であろう建物の中から突如として金髪の少女が飛び出して来た。
白いマントに黄金色の鎧。仲間であることは一目瞭然である。
ここなら隠れながら敵の様子を見るにはうってつけだろう。
「お兄様!アンナ隊長!!良かった。無事だったんですね」
戦場には似つかわしくない底抜けに明るく大きな声をだったが、不思議とその声は煩わしく思わない。
寧ろ少女の持つ穏やかな空気と相まって上手い具合に緊張や殺伐とした空気を中和させている。
少女は俺を見るなり華が開いたようにぱッと表情を輝かせ、抱きつかん勢いで詰め寄って来た。
十代の女の子と接点なんてないからビビる。
「その燦然と輝く神器、あなたが伝説の召喚士さんですね。わーっ、百年前からファンでした。あなたのシャロンです!!」
「あ、ああ...、うん...」
「シャロン、あんまり近いと彼も困るから。それに、はしゃいでいる場合でもないだろう」
受け答えすらまともに出来ず、ぎこちなく頷く俺。その様子を見ていたアルフォンスが、シャロンを嗜める。
この子が先程、偵察に行っていたというアルフォンスの妹で間違いないな。
未だに俺に対し強い興味を持っているようだったが、シャロンもテンションを落として頷いていた。
「はっ。すみませんお兄様。つい...」
「わかってくれたら良いよ。彼はエクラっていうんだ」
「エクラさん、よろしくおねがいします」
シャロンはお辞儀をする。良い子だ。
「時間はあまりないけど、説明するって言ったよね。聞いてくれるかい?」
「ああ、アスク王国とエンブラ帝国だっけ」
自己紹介もそこそこにアルフォンスは今この世界にある危機について話し始めた。
「この地は歴戦の英雄達の記憶の眠る異界と【扉】で繋がっているんだ。アスク王族には扉を開ける力が、エンブラ王族に扉を閉める力がある。けれど、いつからかエンブラ王族は扉を閉める事を拒否して異界を支配しようとし始めた」
「それを食い止めるために結成されたのが私達、特務機関”ヴァイス・ブレイブ”っていうわけ。アスク王国は今、滅亡の危機にあるの」
エンブラ帝国とやらの真意は解らないが、どうやら以前から彼等は戦って来たのだろう。
「ここ最近、エンブラ帝国に異界の英雄達を召喚する事が出来る力を持つ者が現れた。エンブラの召喚士は召喚の力を悪用し、その土地の英雄と契約をして他の異界もを侵攻しつつある。僕達もそれに対抗しなくてはならない」
「それで呼ばれたのが俺か」
「呼ばれた。と言うか僕達からしたら来てくれたって言う解釈の方が正しいと思うのだけど...、違うのかい?」
「助けを求められて悪い気はしないから、別にそれでも問題ない。呼ばれなくても来たと思う。放っておけないしな」
つまり敵対するエンブラ帝国にいる召喚士へのカウンターとして俺が存在する訳か。
「で、異界の英雄達ってのはなんだ?」
先程から気になっていたが、英雄の地だの異界の英雄だのは何なのだろう。
「僕達が異界という扉の繋がる世界の向こうには、かつて他の国の歴史で世界をかけて戦った英雄達の記憶が刻まれている。その記憶は召喚によって実体となり本人と同等の写し身となる...」
「確かにそれを悪用されたら大変だ」
「うん。強さもその時の戦争で戦っていた時と同じだからね。まあ、英雄の中にも記憶や肉体の齟齬があって、若い肉体で召喚されたのに晩年の記憶を持っていたり、終戦へ導いた将なのにその事を知らなかったりするんだけど」
「そうなんですよ。それに召喚さえすれば同じ英雄さんを何度も呼べますし、同名の英雄さんでも違う時期の、違う姿をした英雄さんで呼ばれ事もあみたいです」
ややこしい話だが、同名の英雄で違う姿といえば蒼炎と暁のアイクや、暗黒竜と外伝のカミュとジークに近いものだろうか。
記憶が形作られているといえば、似姿で幻影を生み出す覚醒に出てくるの魔符に近い性質なのかもしれない。
「召喚した英雄達はどうなるんだ?」
「それはアスク王族が開いた門から元の異界に帰す事も出来るよ。僕達は送還って呼んでる」
ちゃんと元に戻すシステムも作られているのか。それを軍事的に悪用するとはエンブラ帝国は酷い国なのだろうな。
「とりあえず、こんな所でいいかな」
「ああ、ありがとう。アルフォンス」
まだ英雄について解らない事もあるが大体は納得できた。
それにまだ戦場の中にいる訳で、これ以上の長話も出来なさそうだ。
俺が頷いたのを見て、アルフォンスはやっと本題のこの地に侵攻してくるエンブラ帝国の話を切り出した。
「シャロン、戦況はどうだい」
「あっ、はいそれでですねエンブラ兵なんですけど。異界の英雄を召喚したみたいです。紋章の世界の文献に書かれた紅の竜騎士が空を飛んで行くのが見えました」
「まずいわね。先を越されたかしら」
「だ、大丈夫ですよアンナ隊長。特務機関全員が夢にまで見た異界の大英雄...、救世主様が力を貸して下さるんですよね」
眉を寄せたアンナにシャロンが声をかける。我ながら大仰な設定の夢を見ているものだ。
確かにうだつの上がらない日々に飽き飽きしていたがこんな夢を見るほど承認欲求大きかったのか俺。
それにしても紋章の世界の紅の竜騎士...、まさか”紋章の謎”に出てくるミネルバか。赤い竜騎士はシリーズ恒例だが、紋章と言えば彼女しか出てこない。
「竜騎士なら弓兵がいればこちら側はかなり有利になるけど...」
アルフォンスが言うが、残念ながらアンナは斧を持っているし、シャロンは槍を装備しているし、この場に弓兵の仲間は居ない。
なるほどこれはゲームの設定と変わらないのか。
「だったらエクラに英雄を召喚してもらいましょう。シャロン、オーブは持って来てる?」
「はい。ちゃんと隠してあります。まってて下さい」
と、言うやりとりをアンナとしながらシャロンが草むらに隠してあった麻の袋を取り出す。
中を開くと虹色に輝く大きな丸い宝石が出てきた。
「これをブレイザリクに充填して英雄を撃ち放つの。使い方は解るわよね」
アンナはそう言って九つほどオーブを渡してきた。意外と軽い。と、言うがこの玩具の銃の使い方解らない。
知らないと言ったら落胆されるんじゃないかと思い、今更になって銃をまじまじと観察してみる。
ごてごてした見た目とは意外に簡素な作りになっていて、オーブを充填出来る穴を見つけた。うん、本当に玩具の拳銃だ。
一つ、二つとオーブを入れてみる。九つも入るのかと思ったが、意外とすんなり出来た。
自信は無いものの水鉄砲を噴射する要領でブレイザリクを構える。三人の期待が篭った眼差しに緊張してしまう。
「......行けっ」
小さく呟いてトリガーを引く。
途端に眩い赤、緑、青、白の四色の光が銃口から放たれた。
その輝きはやがて人の形になる。