紅の竜騎士を探し、辿り着いた場所は如何にも空からの奇襲がしやすそうな、聳え立つ山と平野が広がる地形だった。
飛竜に乗る女性は予想通りペガサスナイトを三騎従えた、ミネルバ女王その人だ。彼女を守る隊列を組んでいるのが部下であるパオラ、カチュア、エストの三姉妹であろう。
ゲームで見ていた時から綺麗だと思っていたが、夢の中でも彼女達はとても凛として美しい。正に戦場の華。
エンブラの召喚士と契約を結んでいる身らしいが、望んでこの侵攻に加わっているのか、知りたい。
彼女の生い立ちを思うとミネルバが侵攻に加担する将だとはとても思えないのだ。英雄にも自由意思はあると聞いたし契約を破棄出来ないだろうか。
説得の言葉を口にする前にミネルバは武器を構え、宣言する。
「手荒い真似はしたくない。異邦の旅人よ、元の世界に帰りなさい」
「僕達の国を侵攻しようとしている事はアスクの人間として見過ごせない」
女王に臆する事なくアルフォンスは毅然とした態度で答えた。
その言葉を聞いたミネルバは目を伏せ、憂いに満ちた表情をする。
「我が身は既に契約を結ばれている。紋章の世界はエンブラ帝国の支配下だ。故に召喚士の命令は絶対のもの...」
「そ、そんな」
やはりミネルバはアスク王国への侵攻など望んでいないようだった。三姉妹の表情を見るに彼女も達も契約とやらをしているのだろう。
アルフォンスは英雄にも自由意思はあると語っていたが、これでは意思を蹂躙されて汚されるのと一緒じゃないか。そんなの酷い、あんまりだ。人権なんてあったもんじゃない。
英雄達の身の上話を知ると嫌でもブラック企業で働いていた時の事を思い出す。反抗も意見も無意味でチームのトップであったあの女上司が独裁をしていた時のこと。
奴隷のように繋がられ彼女を褒めることを強要さる、ストレスの捌け口や雑務を押し付けられた日々。
楽しい夢だと思っていたが、これは悪夢だ。最悪だ。好きだったファイアーエムブレムのキャラクター達が、自分の様な酷い目に遭わされるなんて。
情けないが戦う力のない俺はアルフォンスの影に隠れながら、疑問を呈するしかない。
「そ、その、召喚士が死ねと言えば、貴女達はその命令に従わなければいけないのか?」
「...」
ちらり、と誇り高い女王の瞳が俺を見ただけで反応は無かったが、その痛ましい沈黙こそが是という答えである事は明白だった。
「力を示す事が出来れば、契約は解かれる。私達を止めたくば、力を示しなさい。アスクの戦士よ」
「力を示すって!?」
「戦うって言うことよ」
斧を構えたアンナが言う。最早、言葉は必要も意味も無い。戦って勝つ事以外に出来る事はなかった。
力を示せば契約が解かれると言う事は、エンブラ帝国の召喚士の命令に縛られたミネルバ達を自由に出来るかもしれない。
俺は、彼女達を助けたいと思った。
「アンナ、シャロン、君達は天馬騎士団を頼む。彼女達に連携されると厄介から出来るだけ戦力を分断したい。タクミは天馬を牽制しながらシャロン達の援護を、みんな危険を感じたら一旦引いて仲間と協力してほしい」
「解ったわ」
「はい、頑張ります」
「上からの奇襲に気をつけて」
心を決めてアンナ達に指示を出す。誰も死なせずにクリアするまで何回だって繰り返しマップを攻略して来たんだ。
ゲームと少し勝手が違ってもいつもどおりやれる筈だ。こんな悪夢さっさと終わらせてやる。
「ありがとう、エクラ」
アルフォンスが口を開いた。
「ああ、いや、こちらこそ俺なんかの指示を聞いてくれてありがたい...」
「下卑する事じゃない。...君が出来ない事は僕がする。英雄に力を示そう」
アルフォンスの視線の先にはミネルバが居る。斧と剣では斧は相性が不利だ。ただミネルバ自身、歴戦の英雄なわけで相性の有利不利など技術(スキル)で覆される可能性もある。
「行くぞ!!」
飛竜の嗎が鼓膜を震わす。ハリウッドのファンタジー映画も裸足で逃げ出すど迫力に腰が抜けそうになった。
神器オートクレールを軽々と振り回す女竜騎士に躊躇う事無くアルフォンスが駆ける。
「はああああっ!!」
力を入れるために獣の咆哮を彷彿とされる声を上げて敵対する相手を倒すべく、風を刃で凪いだ。
途端に金属が擦れ合う高い音が辺りに響く。
「ぐっ」
力の差は歴然だった。
アルフォンスも鍛えているのだろうが、歴戦の戦士であるミネルバの攻撃は一撃が重い。
空から攻撃するのに竜の体重もかかるのだろう、襲いくる刃の軌道を逸らすだけで精一杯に見える。
流石、暗黒戦争と英雄戦争二つの動乱時代の中で戦ってきただけの事はある。
このままではどう見てもアルフォンスに勝ち目がない。
「逃げるなら逃げても良いぞ、敗走兵を追うつもりはない。私とて無駄に傷付く者を増やしたくはない」
「ここで退いたら君達はアスクを侵攻しなくてはならない。そんな事は、」
アルフォンスが隙をついて剣を構え直す。
「させない!!」
ミネルバに斬りかかる。が、ミネルバも予想していたのか綱を引き飛竜を空高く舞い上がらせる。
彼女自身の戦士としての強さもあるが、あの飛竜の機動力も厄介だった。
何とかして倒す糸口を探さなければ。俺はどうしてもアルフォンスを、アスク王国を勝たせたかった。
ミネルバ達を契約や支配から解き放ちたいという理由もある。だが彼等は、俺の事を必要だと言ってくれた。俺じゃなきゃ駄目だと言ってくれた。...ずっと欲しかった言葉をくれた。
例えこれが夢でも祖国を守るという責務の為という理由でも、俺は彼等に報いたい。
どうしたら良い、どうしたら。あの戦闘に飛び込んでも即退場だろうし、俺が出来る事は...、
ごと、とブレイザリクから音がする。
そうだ、アンナから渡されたオーブが残っていた。何も出来ない俺が出来ること。
考えるよりも先に、トリガーを引いた。頼む、応えてくれ。
光を撃ち放った。
「俺を助けてくれ!」
挨拶をすっ飛ばして召喚した緑髪の魔道士の姿を見るやいなや言った。
緑髪の魔道士...と、言ってもリキアでは闇魔法、古代魔法を扱う魔道士なのだが、手伝ってくれるなら誰だって有難い。
「エクラ...?」
アルフォンスが俺が英雄召喚した事に気付き、不審そうな表情をする。が、すぐにミネルバの猛攻が始まり戦う事を余儀なくされた。
一瞬だったが、アルフォンスと目が合った。さっきので俺の魂胆に気付いてくれれば良いが。いや、アルフォンスを信じよう。
「で、何の用だよ。呼んでいきなり助けてくれだなんて」
ぶっきらぼうにレイ少年が言う。
竜騎士との戦いが経験積みであろう英雄を呼べたのは幸運だった。
彼がかつて敵対し戦った国は竜騎士の大軍団を擁するベルンだ。かなり心強い。
「そこで戦っている白いマントの剣士を援護して欲しい」
「別に良いけど」
「助かるよ、更に頼むんだけど飛竜の羽を狙ってくれるか」
「飛竜の羽?騎手を倒した方が早いだろ」
「これは俺の我儘なんだけど、彼女を傷付けたくない。だから先ずは飛竜の機動力を落とすんだ。その先は、アルフォンスがなんとかしてくれる」
「侵略者に傷付けたくないなんて甘い事言うんだな。でも、あんなに必死になって呼ばれちゃ仕方ないか」
憎まれ口を言うがやはり良い子だ。話を聞き入れてくれたレイに作戦を話す。
まずドラゴンナイトの性質は力が強く硬いが、魔法攻撃と弓に弱い。ペガサスナイトの方は力は劣るが魔法耐性はドラゴンナイトより高い。
だから戦うアルフォンスに加勢する形でレイを投入するだけで突破口は開けるだろう。
だが、あのミネルバ女王の事だ。
下手に戦うと対策を取られる可能性がある。それだけは避けなければならない。
だから俺は、勝つためにアルフォンスを裏切る。
守るから側に居てくれと、そう言ってくれた事は嬉しかったが、守られるだけは絶対に嫌だ。