錬金術師世に憚る   作:みずのと

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第24話 後始末

 

 

 

 トラブルに次ぐトラブルに見舞われた怒涛の一日は、夜明けと共に終わりを迎えた。

 ヘルメスは心身ともに疲れ切った身体に鞭打つと、シャルティアらと供にナザリック地下大墳墓に向かう。

 さすがに一晩の内にこれだけの大立ち回りをやって、報告もせずに日常生活に戻れる程、ヘルメスは常識知らずでは無い。

 ナザリックの地表部分近くには、いつの間にやら立派なログハウスが建っており、扉から姿を見せたメイド姿のユリ・アルファに連れられ、転移門をくぐり、まずは第九階層に向かう。

 久しぶりのナザリックのロイヤルスイートは、相も変わらず現実離れした荘厳さを醸し出しており、改めて、ギルド拠点ごと転移してきたモモンガを羨ましく思う。

 

「ヘルメス様。モモンガ様より、シャルティア様と吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)と共に、執務室までいらっしゃる様にとの言伝を仰せつかっております。このまま向かってもよろしいでしょうか」

 

 前を行くユリ・アルファが此方を振り返りながら伺いを立てる。

 眼鏡がよく似合うメイドだなぁ、と疲れた頭でぼんやりとそんな感想を抱く。

 

「構いません。まずは報告が先でしょうから」

 

 ヘルメスがそう答えると、後ろを歩くシャルティアから緊張した空気が伝わってくる。

 至高の存在からの呼び出しとあらば、緊張しない方がおかしいという事なのであろう。

 

「心配いりませんよ、シャルティア。なんせ世界級アイテム獲得の大手柄なのですから。褒められる事すらあれ、叱られるような事はありません。私に任せて下さい」

「ヘルメス様……」

 

 どうやら、今回の一件で自分に対する印象を良くしてくれた様子のシャルティアに、兄貴風を吹かせたくなったヘルメスはそんな言葉を口にした。

 そうでなくても、可憐な少女に泣きだしそうな表情をされては、年長者として何か言いたくもなるというものだ。

 やがて、モモンガの執務室前まで連れられると、まるで全自動の様に大きな扉が開かれる。

 部屋の奥に控えしは、机について事務作業をする不死者の王であった。

 

「どうぞ。4人とも中へ」

 

 支配者ロール時独特の、威厳のある低い声のモモンガが入室を促す。

 ヘルメスらが部屋に入ると、後ろ手に扉が閉まり、ヘルメス以外の3人は跪いて頭を垂れた。

 こういう場面で、ヘルメスが頭を下げたりする事をモモンガが禁じているためだ。

 友人とは対等な立場であり、跪くのは臣下のそれである、というのが理由らしい。

 ヘルメスとしては、なんだか魔王の臣下ロールみたいで、ドキドキして楽しそうだと思っているのだが、それがモモンガの心労にしかならない事も理解しているため、我慢している。

 やがて、書類を机に置いたモモンガが、此方を正面に見据え、話し始めた。

 

「よくぞ戻った。大まかな概要については既に《伝言(メッセージ)》で聴いているが、()()()()も含め、改めて報告をお願い出来るかな、ヘルメスさん」

「承知しました。まずは――」

 

 実の所、ナザリックに来るまでの道中で、ヘルメスは《伝言(メッセージ)》にて、本当の成り行き(ぶっちゃけ話)についてモモンガに報告済みである。

 これは、ヘルメスのずさんなロールや細かな失敗を、シャルティアやナザリックの配下達に隠すための演技――もとい辻褄合わせの一環なのである。

 まず大前提として、「外部協力員ヘルメスによる現地視察」という存在しない任務を、あたかも最初から存在していたんですよ、と喧伝する事から始めなければならない。

 

 ヘルメスは、シャルティアの血の狂乱の発動については()()、武技保有者の確保の結果は芳しくない事、世界級アイテム「傾城傾国」の獲得とスレイン法国の実力者達の捕縛に成功した――という内容で報告をする。

 そして、取り逃がした冒険者や青髪の戦士についてであるが、今後の布石の為にあえて逃した、という表現で濁した。

 モモンガからの、「きっとデミウルゴスあたりが深読みして、イイ感じに捉えてくれるでしょう」というアドバイスに乗っかった形である。

 

 綿密な打ち合わせに裏付けられたヘルメスの報告は、つつがなく終了した。

 そして、報告を受けたモモンガは、大仰な仕草で両の手を広げ、机から立ち上がる。

 全て、茶番なのであるが。

 

「素晴らしい!まさか世界級アイテムまで手に入るとは!さすがは我が友人ヘルメス……そして、ナザリックの忠臣たるシャルティアだ」

 

 モモンガからの称賛の言葉に、シャルティアは歓喜を通り越して涙ぐむ。

 

「あ、ありがとうございます!お褒めの言葉を授かり、これ以上の喜びはありません!」

「うむ。ではシャルティアよ、まずは仕事の疲れを癒すのだ。しばらくはナザリックで羽を伸ばすといい」

「度重なる御厚意に感謝いたします。今後も一層の忠義に励んで参ります!」

 

 ヘルメスが嬉しそうなシャルティアの様子にうんうんと頬を綻ばせていると、モモンガが更に言葉を続けた。

 

「――私はヘルメスさんと少し話がある。シャルティアと吸血鬼の花嫁達は先に下がるように」

 

 ん?

 事前の打ち合わせには無かった台詞に、ヘルメスは首を傾げる。

 モモンガさんの声色が少し変わった気がするが、気のせいだろうか。

 

「畏まりました。それでは、モモンガ様、ヘルメス様。御前失礼致します」

 

 シャルティア達は再度臣下の礼を取ると、静かに部屋を後にした。

 必然、執務室には、モモンガとヘルメスの二人きりになる。

 そして、二人きりになった途端、モモンガが長く、そして深いため息をつく。

 

「……モモンガさん?」

 

 沈黙するモモンガに、ヘルメスは眉根を下げながら様子を伺う。

 表情が存在しない筈の頭蓋骨であるが、不思議なもので、ヘルメスはそこに呆れの感情を読み取る事が出来た。

 

「……はい。じゃあ今からお説教タイムです」

 

 ――覚悟を決めたヘルメスは、何も言わずに、その場で正座をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓、第6階層。 

 地下とは思えぬ高い天井には空が彩られ、数多の動植物で溢れかえるジャングルを模して造られたこの階層は、至高の41人達の手によって創造されたものである。

 未だ帰還し得ぬ至高の存在達に改めて敬意の念を抱きながら、この地を守護する一人の闇妖精の姿があった。

 アウラ・ベラ・フィオーラ。

 褐色の肌に映えるサラサラの金髪に、蒼と緑の透き通ったオッドアイ。

 まだ子供の体躯ながらも、その整った容姿は未完成故の美を誇っていた。

 そんなアウラは、己が守護するこの階層に侵入する存在を感知し、巨大樹の影から様子を伺う。

 

「何だシャルティアじゃん。帰ってたんだ」

 

 ポールガウンを纏った見知った吸血鬼の姿に声を掛ける。

 

「何だとは随分でありんすね、チビ」

「あんただってチビでしょうが。何しに来たの?」

 

 顔を合わせれば憎まれ口を叩き合う関係であるが、別段、シャルティアとは仲が悪い訳ではない。

 そうあれと創造されてはいるものの、その縛りは緩く、アウラにとってはナザリックの中でも話のしやすい部類に入る人物であった。

 手間の掛かる妹、といったイメージが近い。

 

「ふふん。実は、此度の仕事振りを評価されて、たった今モモンガ様からお褒めの言葉を頂いたのでありんす」

「え!?嘘!おバカのあんたが!」

「バカとはなんでありんすか!」

「……まぁいいや。外の世界に行ってたんでしょ?色々話聞かせてよ」

 

 アウラは現在、この階層の守護と、ナザリック近くに広がっているトブの大森林と呼ばれる広大な森の調査という任務を任されているが、飛び抜けた成果を上げる事が出来ていない。

 シャルティアは、そんな状況にあるアウラに自慢話をしたくてやって来たのであろう。

 

「まぁいいでありんしょう。丁度お暇を頂いた事でありんすし。付き合ってやっても構いんせん」

「あぁ。はいはい。じゃあ中に入りなよ」

 

 お子様気質なシャルティアの真意を即座に見抜いたアウラは、大人の対応で、巨大樹の中をくり抜いて出来た居住スペースに案内する。

 巨大樹の中は3階建て構造となっており、1階に設けられたリビングスペースのソファに、二人は腰かけた。

 

「で、なんだっけ。モモンガ様のご勅命で、武技とかっていう特殊技能持ちの現地人を捕まえに行ってたんだよね?」

 

 テーブルに備え付けられた菓子の入ったバスケットから、ビスケットを一つ取り、咀嚼しながらアウラが尋ねる。

 ちなみに、このバスケットは、アウラの創造主であるぶくぶく茶釜が設置した一定時間が発つとランダムに菓子が追加されるユニークアイテムである。

 

「……あー。そ、そうでありんすねぇ。そうだったでありんす」

 

 アウラは、手柄を立てて自慢話をしに来たのであろうシャルティアの歯切れの悪さに首を傾げる。

 

「まぁ、実は……そ、そっちの方はあんまり上手くいかなかったのでありんす」

「はぁ?モモンガ様のご勅命以上に大事な事なんて無いでしょう?」

「むぐ……」

 

 シャルティアは思わずといった風に口をつぐみ、明後日の方に視線を逸らす。

 こいつは何をしにここに来たのか、とアウラはため息をつき、話の先を促すことにする。

 

「じゃあ、モモンガ様に褒められたことってのは何なのよ?」

「……!そうでありんす!そこが大事な所でありんす!」

 

 息を吹き返した様に、目を輝かせ、シャルティアは前のめりにアウラに顔を近づける。

 アウラは心底うざったそうに、まるで出来の悪い弟から距離を置きたがる姉の様な動作で、シャルティアを押し返す。

 

「ふふ。聞いて驚きなんし。……あの!至高の御方々が長い時をもってして11個までしか揃える事が叶わなかった超希少な世界級アイテム!……その一つを持ち帰ったのでありんす!」

「えぇぇ!ちょっと、本当に凄いじゃん!」

「本当にって何でありんすか……」

 

 アウラは素直に感心した。

 おそらくではあるが、武技習得者を確保するという勅命については結果が芳しくなかったものの、何かしらのイレギュラーにより世界級アイテムを回収するに至ったのだろうと想像する。

 実直に仕事をこなしてはいるものの、目立った功績を上げる事が出来ていないアウラからすれば羨ましい限りである。

 

「いいなぁ。私もあんたやデミウルゴスみたいに目立った功績を立ててみたいなぁ」

「そうでありんしょう、そうでありんしょう。モモンガ様も大変な喜び様で、褒美として一夜の帳を約束してくれんした」

 

 調子に乗ったシャルティアはさらりと嘘をついた。

 

「で、どんなアイテムなの?」

「え」

 

 アウラの質問に、上機嫌だったシャルティアの表情が固まる。

 

「……いや、だからその世界級アイテム。どんなアイテムなのよ?」

「……」

 

 シャルティアが黙る。

 そして、頭に人差し指を当てて、うんうんと唸りだした。

 

「ちょ、ちょっとちょっと。あんたが回収したアイテムでしょうが。何を考え込むのよ」

「待ちなんし!……今思い出すでありんすから……あっ!そうそうドレスの様な装備型のアイテムでありんした!」

「ふーん。どんな効果なの?」

「……」

 

 再びシャルティアが黙る。

 アウラはジト目でそんな吸血鬼を見つめた。

 

「……えっと……確か……精神系がどうたらのアイテムとかって言ってたような……」

()()()()……?」

 

 しまった、とばかりにシャルティアが口を両手で塞ぐ。

 ジト目を強めるアウラの視線から逃げるように、シャルティアはそっぽを向いた。

 

「……ねぇシャルティア。あんた吸血鬼の花嫁達を連れての単独任務じゃなかったっけ?」

「……そうで、ありんした、ねぇ」

「……」

「……まぁ、ちょこっとだけ助けてもらったでありんすけど……」

 

 最後の台詞の際には、シャルティアは完全に真横を向きながら喋っていた。

 アウラはアルベドやデミウルゴスの様に、腹芸が得意では無いと自覚しているが、少なくとも目の前のおバカよりはマシな演技が出来ると確信する。

 

「ズルじゃん!自分一人の手柄みたいに言って……で、誰に助けてもらったのよ?」

 

 大方、デミウルゴスあたりの入れ知恵だろう、とアウラは推測するが、シャルティアの口から出てきたのは予想外の人物であった。

 

「……ヘルメス様……」

「えぇ!?」

 

 アウラが、最初から詳しく説明するように捲し立てると、観念したシャルティアは、包み隠さずに全てを話し出した。

 ヘルメスがモモンガに報告しなかった、血の狂乱による失態も含め、全てである。

 説明を終えたシャルティアは、すっかり意気消沈しており、アウラはため息をつく。

 つまり、ただ自慢話をしたくて来たのでは無く、ヘルメスに庇われた事について懺悔の様なものを誰かにしたかったのであろう。

 

「全く……しょうがないわねぇ。あんた、ヘルメス様にちゃんとお礼言ったの?」

「一応……」

「一応って……ちゃんと言っときなさいよ」

「そうでありんすね……」

 

 話を聞く限り、本来視察であった筈のヘルメスは、血の狂乱で暴れるシャルティアを実力で抑え、逃した目撃者に対し何かしらの措置を講じ、要警戒令が出されている法国の実力者達を生かしたまま捕らえ、更には世界級アイテムを奪取した――という大役満の手柄を立てたという事になる。

 その上で、シャルティアの失態について攻める事無く、フォローをするというおまけ付きだ。

 至高の御方の友人と言うに相応しい、恐ろしい程の知略と手腕に、アウラはヘルメスに対する評価を再度改める。

 そして、いまだよく知らない人物ではあるものの、このおバカな妹分をフォローしてくれたという事実に、少しだけ親近感を覚えた。

 

「全く。つまらない見栄張るんだから……それにしても、さすが至高の御方のご友人なだけはあるわね、ヘルメス様」

「……そうでありんすね。わらわとは違って凄いでありんす……」

 

 懺悔したら懺悔したで、落ち込むシャルティアに、アウラはお手上げとばかりにソファにもたれかかる。

 話を変えた方が良さそうだ。

 

「あ。そうだ。少しお話する機会あったんでしょ?ぺロロンチーノ様のお話とか聞けた?」

「それでありんす!」

 

 一瞬にして瞳に輝きを取り戻したシャルティアが、顔をがばりと持ち上げる。

 

「すごいのでありんす!なんでもぺロロンチーノ様は、他のぎる、ど……?まぁ要はナザリックに仇名す連中から「爆撃の翼王」として恐れられていたばかりか、「うぃき」という世界の記録板に名を刻まれる程の偉大なお方であったらしいのでありんす!」

「へ、へぇ……ヘルメス様、ぺロロンチーノ様ともご交友があったのね」

 

 シャルティアの剣幕に若干引きながらも、アウラは相槌を打つ。

 ヘルメスからの受け売りであろう、己の創造主について自慢げに語るシャルティアに苦笑しながら、自分の創造主であるぶくぶく茶釜とも交友はあったのだろうか、との思いを巡らせた。

 いつか、ナザリックの外から見たぶくぶく茶釜の話を聞いてみたいものだ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 2時間が経過した。

 ヘルメスの足の痺れは限界を迎えようとしている――が、モモンガの説教はまだ続いていた。

 

「――本当にもう!心配したんですからね!分かっているんですか?もし「傾城傾国」で洗脳支配されていたらどうなっていたのやら!」

「……はい。勝手な事をしました。もうしません……」

「嫌ですからね!また全裸の闇妖精を狩りに行くなんて!」

 

 まだ比較的新しい古傷を抉られながら、ヘルメスは項垂れる。

 

「報連相って知ってますか?仮にも社会人であるなら実践してくださいよ」

「……なので、こうして報告に……」

「『連』と!『相』は!?報告だけじゃ意味ないんですよ!連絡と!相談!三つ揃って報連相です!分かっていますか!?大体ヘルメスさんは以前から危機意識管理が――」

 

 しまった。藪蛇だった――。

 

 モモンガからの終わらない説教に、ヘルメスは死んだ目で頷き続ける。

 アンデッド由来の精神安定化作用の為か、ねちねちとした静かな怒りから紡がれる言葉に、ヘルメスの何かがガリガリと削られていく。

 途中、無詠唱化した《静寂/サイレンス》で聞き流していたのがバレた事で、さらに説教の時間が延長したのが効いている。

 

 そもそもの発端――いつの間にかヘルメスが視察をする事になっていた件については、モモンガも思い当たる節があるのか、「……まぁ気持ちは分かります」と同情的であったが、その後、独断で動いた事についてモモンガは納得がいかなかった様だ。

 ヘルメスの身の安全を考えての怒りである為、ヘルメスは甘んじてそれを受ける事にした。

 

「……まぁ、()()()これ位にしておきましょうか」

「ハイ……ドウモスンマセンデシタ……」

 

 モモンガの説教が終了し、ヘルメスは漸く正座を解くと、震える両足でフラフラと立ち上がる。

 

「……色々言いましたが、法国の一味の確保と世界級アイテムの確保はお手柄でした……。ナザリックの戦力増強に大きく役立つ筈です。ありがとうございました。」

「いえいえ……運が良かっただけですから」

 

 ツンデレにしては、ツン成分が多すぎる、と口走りそうになる己を強い意志で律した。

 

「お疲れでしょうから、今日はナザリックに泊まっていきますか?」

「……そうですね。お言葉に甘えようかな……」

 

 ヘルメスの返事に、ひどく嬉しそうな様子のモモンガは《伝言/メッセージ》で部屋や食事、専属メイドの手配をし始めた。

 本当にお節介が好きな人だな、と思わず苦笑する。

 その後は、ヘルメスが最近開発した現地の材料で作る紫色ポーションの事や、守護者達とのやり取りについて雑談し、食事のタイミングで部屋を後にする事となった。

 部屋を出た際に、デミウルゴスと入れ違いになる。

 

「これはヘルメス様。失礼しました」

 

 ヘルメスは跪こうとするデミウルゴスを手で制する。

 

「やぁデミウルゴス。元気かい?」

「はい。元気にやらせて頂いております。……此度のご活躍の件、伺いました。流石はヘルメス様に御座います!」

「いやいや、運が良かっただけですよ……」

「何をおっしゃいますか!モモンガ様同様、一手に幾つもの智謀を巡らすその手腕!ご謙遜されてもこのデミウルゴスの目は誤魔化されません!」

 

 満面の笑みを浮かべて褒め称えてくれるデミウルゴスに悪い気はしないのだが、これ以上、この上位悪魔に関わるのは危険かも知れないと感じたヘルメスは、言葉を濁しながら部屋の前をそそくさと後にした。

 ヘルメスの姿が見えなくなるまで、デミウルゴスは礼の姿勢を保つと、やがてモモンガの部屋の扉をノックした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「デミウルゴスか」

「はっ。失礼致します」

 

 モモンガは、デミウルゴスの入室を許可する。

 デミウルゴスは、至高の主が小さく溜息をついたのに気が付いた。

 

「ふぅ。少しヘルメスさんに言いすぎてしまったかな。大手柄なのは事実だが、少しは自分の身を大事にしてほしいものだ」

「……至高の御方々同様、素晴らしい知略と行動力の持ち主であらせられるのですね、ヘルメス様は」

「ふふ……まぁ、そうだな」

 

 かつての友人達、そして現在の友が、ナザリック一の知者に認められて嬉しくない訳が無い。

 モモンガは知らず、口元に手をやっていた。

 

「……して、奴らは……あぁ、()()()()()()はどうなっている?」

「現在、ニューロニストらに預け、私の指揮の元、情報の絞り出しにかけております。どうも()()()()に、何人かは心が折れてしまったようですが」

 

 デミウルゴスは嗜虐趣味の笑みを押し殺し、淡々と説明する。

 

「そうか。それにしても……まさか世界級アイテムを持っていようとはな」

 

 ヘルメスが偶々、世界級アイテムである『賢者の石』を所持していたから良かったものの、下手を打てば今頃ヘルメスは法国の手に落ち、絶対の精神支配を受けていただろう。

 そして、いつの日かナザリックに牙を剥いていた可能性すらあるのだ。

 

 それを想像した時、モモンガは捕らえた人間の一人の頭を()()()()()()()

 

「糞が……奴らには死すら生ぬるい。情報を抜いた後は、決して殺さず、永劫の苦しみを与えよ」

「畏まりました」

「ただし……ヘルメスさんの耳には入らないよう注意せよ」

「心得ております」

 

 奴らの処遇について、ヘルメスは何も知らなくていい。

 既に闇妖精の精神に大分引っ張られている様子ではあるが、人間種である彼が、万が一にも心を痛める様なことが無いように。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 モモンガは、自身が我儘であることを、誰よりも知っていた。

 

 

 

 

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