錬金術師世に憚る   作:みずのと

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お待ちかねナザリックのお話です。


第7話 観戦

 カルネ村から北東に約10数キロ。

 トブの大森林にほど近いこの辺り一帯には幾つもの丘が存在していた。

 

 丈の短い草の生い茂る丘は、かつては遮蔽物の無い()()()()()であった。

 

 不自然でない程度、しかし巧妙に先を見通すことが出来ない様な造形の幾つもの丘は、何かを隠すようにそこにあった。

 

 そんな丘の上空に、一体の――一人の人物が突如として姿を現す。

 金と紫で縁取られた、豪奢な漆黒のアカデミックガウンを着こんだ人物。

 その剥きだしの頭部は髑髏(されこうべ)であり、彼が人間ではないことを主張している。

 

 空をゆっくりと下降した彼は、一つの()()()()入っていく。

 その丘は内側をくり抜かれた様な構造となっており、そこには朽ちた霊廟を思わせる建築物が建っている。

 霊廟の入口にはひとつの人影があった。

 

「出迎えご苦労」

 

 髑髏の不死者(アンデッド)――この地の主、モモンガは威厳ある重い声色で出迎えの労をねぎらう。

 

「有難きお言葉……。しかし、至高の御方であらせられるモモンガ様のご帰還とあらば、出迎えるのは当然の事。一僕でしか無い我々に労いなど不要でございます」

 

 皺一つ無い見事な執事服を着た白髪の男が、見事な礼をした後、口を開く。

 

「よせ。いちいち礼すら窘められては息が詰まるというものだセバス。その後、特に異常は無いな?」

「はっ。失礼致しました。状況に変化はございません」

「ふむ。よし、では私は自室に向かう。指輪で向かうので供は不要だ」

 

 モモンガは、その手――骨の身ではあるが――に輝く赤い宝石の宿った指輪――『リングオブ・アインズ・ウール・ゴウン』を目の高さまで持ち上げる。

 この地、『ナザリック地下大墳墓』内での転移を可能とするマジックアイテムである。

 ――そして()()()()()()()()()()()()()()()()()マジックアイテムでもあった。

 

「モモンガ様」

 

 では、と立ち去ろうとしたモモンガに、背後から声が掛かる。

 敬称はついているが、その声に含まれているのは怒りに近いものであることをモモンガは悟り、観念した様に振り返る。

 軽はずみな行動を窘められるのはこれで二度目であるが、一言詫びれば終わるだろう。

 

「……守護者統括アルベド様がお待ちです」

 

 否、死刑宣告であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ナザリック地下大墳墓』

 

 ユグドラシル時代、ギルドランキングの上位10位内に長きにわたり君臨し続けたギルド、『アインズ・ウール・ゴウン』の本拠地(ギルド・ホーム)である。

 かつては天然の地下ダンジョンであったそれは、アインズ・ウール・ゴウンによって攻略され、本拠地となって以後、改築に改築を重ね、現在は全10階層からなる巨大な地下施設となっている。

 

 モモンガは指輪の力で、第9階層ロイヤルスイートの扉前へと転移してきた。

 

「お帰りなさいませ。モモンガ様」

 

 花が歌えばこのような声がするのではないか、そんな可憐な声がモモンガに掛けられる。

 

「ただい……うむ。今帰った……アルベドよ」

 

 モモンガが振り返った先にあったのは、ナザリック地下大墳墓の最上位NPCアルベド――が片膝をつき、頭を垂れる姿であった。

 純白のドレスを纏い、その背には黒い天使の翼が生えており、陶器を思わせる肌、漆黒の髪、山羊の様な角、金に輝く瞳、それらが絶妙なバランスで配置された美貌は、まさに完全無欠の美女というに相応しい。

 なぜ転移してくるのがここだとバレたのだろうか、態々直接部屋に転移するのを避けたというのに。

 そんなモモンガの僅かな動揺をよそに、頭を上げたアルベドは上品な動作でモモンガとの間合いを詰める。

 レベル100にもなる戦士の速度に、モモンガが反応できる筈も無く、抱き着く様な形で密着されてしまう。

 

「帰りが遅かったので心配致しました……至高の御身に何かがあったのではと……」

「う、うむ。すまなかったな。……セバスにも怒られてしまったし、しばらくは大人しくしていると約束しよう」

 

 アルベドは必要以上に身体を摺り寄せ、瞳を潤ませながら上目遣いにモモンガに訴えかける。

 肉欲を失ったモモンガが、アンデッド特有の精神抑制機能を働かせる程のそれは、人間の頃であれば即陥落させられているであろう魅力を持っていた。

 

「……そこまで言われてしまっては、これ以上何も申し上げる事ができないではありませんか」

 

 アルベドは子供の様に頬を膨らませる。

 

「先程は急に呼び出して済まなかったな、仕事に戻ってくれ。私は自室で少しする事がある」

「畏まりました。すぐにメイドを手配致します」

「……うむ」

 

 モモンガは、アルベドの肩に手を置いて離れさせると、自室に向かって歩き出し――

 

「――して、あの闇妖精(ダークエルフ)の処分、如何いたしましょう」

 

 ――アルベドが間髪入れずに問いを投げた。

 花が歌うとは一体なんの比喩だったか、全ての生命を奪いそうな冷たい声質であった。

 

(まずい事になったな……でも、()()()の事は知らない筈だ。セバスも見ていなかったようだし)

 

「アルベドよ、処分とは些か不穏だな。別に何もしない……しばらくは様子見だ」

「……承知致しました。御身の御心のままに」

 

 アルベドは頭を下げ、次に顔を上げた際にはいつもの美しい微笑を浮かべていた。

 

「では、また何かあれば呼ぶとしよう」

「畏まりました。御前、失礼いたします」

 

 アルベドは再度臣下の礼をした後、優雅な足取りでロイヤルスイートを後にする。

 入れ替わりでホムンクルスの一般メイドがモモンガの傍に静かに侍る。

 

「部屋に行く。来客があれば対応せよ」

「畏まりました」

 

 モモンガはこの偉そうな態度を取る自分が嫌で仕方なかったが、部下からの受けがすこぶる良いのでやらざるを得ない。

 やがて、部屋の前に到着すると、メイドが音もなく前に出て、扉を開ける。

 礼を言いそうになるが、軽く頷くに留め、扉が閉まるのを静かに待った。

 

 やがて扉が閉まり、モモンガは一人になる。

 

 

 

 静寂。

 メイドは外に待機する様に命じているし、護衛の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)も今はいない。

 

「……ふふっ」

 

 モモンガは独り言を呟く。

 

「……いたんだな。本当に()()()()()……ふふ」

 

 そして何が可笑しいのか、小さく笑いを零すと、今度は頭を抱えて蹲った。

 

 

 

 

「……どうしよう。怒らせちゃった……」

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓が主人、最凶のPKKギルドアインズ・ウール・ゴウンのギルドマスターモモンガは、その姿形には見合わない弱々しい声を虚空に響かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――時を遡ること数日。

 

 モモンガは、『ギルド拠点ごと異世界へと転移』という異常事態に巻き込まれながらも、なんとか拠点の隠蔽、警戒体制の確立といった至急の課題を終え、少しばかりの余裕が生まれた。

 周辺の地理を確認しようという名目で、部屋で遠隔視の鏡(ミラーオブリモートビューイング)を持ち出して暇を潰すことにした。

 操作方法がコンソールではなくなっている為に難儀したが、ステレオタイプの魔術師よろしく、手を翳すことで操作するという事が判明し、ゲーム感覚で辺り一帯を眺めていた。

 探知迎撃タイプの情報系魔法を最初は警戒していたが、優秀な配下達の調査により、辺りには高レベルの者達がいない事も把握済みだった為、色々な所を見て回る。

 

「……しかし、本当に緑以外に何もない土地だな」

「左様でございますね」

 

 モモンガは独り言のつもりであったが、傍に侍るセバスが相槌を打つ。

 暇を持て余しているだけなのを知ってか知らずか、このアイテムの操作方法が判明した際には、大仰な世辞と拍手まで送ってくれた。

 まさに執事の鏡だ、と今はこの場にいない彼の創造主の聖騎士(たっち・みー)に感謝する。

 

「町……いや、村や集落レベルでもいいから文明のある者達がいれば……ん?」

 

 適当に掌で映像をスクロールしていたところ、緑の芝しかなかった映像の中に、ぽっかりと地面が露出している箇所を発見した。

 綺麗な円状のそれを拡大表示すると、地面が割れて黒く焦げ、そこにだけ芝が存在していなかった。

 

「ふむ……何か不自然だな」

「……何かの爆発跡……《火球/ファイアボール》の着弾跡のようにも見受けられますね」

「ほう。なるほど」

 

 興味をそそられたモモンガは、さらに映像をスクロールさせていくと、やがて一つの村に行きついた。

 村の規模は大きくなく、周囲に畑が広がっていることから、農業を主とした寒村であろう、と当たりをつける。

 

「建物も粗末なものだし……大したものは……ん?」

 

 小さな家屋が点々と村の中に建っている中、ひときわ立派な屋敷が村の外れにあるのが見えた。

 

「屋敷……でございましょうか。村の規模に見合わぬ不自然な建築物ですね」

「……セバスもそう思うか。しかしこれは……」

 

 モモンガは逸る気持ちを抑えながら、映像を屋敷に絞って展開させ、様々な角度から確認していく。

 

(……間違いない!ユグドラシルアイテムのグリーンシークレットハウスだ。これは……本当にアタリかもしれない。俺以外のプレイヤーの可能性がある)

 

「……セバス。これにはユグドラシルプレイヤーが住んでいる可能性が高い」

「なんと!……流石で御座います。範囲を絞っているとはいえ、方々に隠密に長けた僕を放っている中、御身が一番にそれを見つけるとは……」

「しかし解せんな……。これだけ覗いているのに、なんの魔法的カウンターも無い……。情報系に疎い、もしくはあまり気を遣わないプレイヤーという事か?」

「……ナザリックには戦闘時にしか、防壁を展開しない者達もおります。……もしやそれに類する者なのでは?」

「まぁどちらにせよ、不用心な奴だな。幸い、ナザリックから覗く分にはカウンターも怖くないし、しばらく観察させてもらおうか」

 

 モモンガは「暇な時は、これでも眺めるとしよう」と考え、鏡に座標を記録させる。

 

「モモンガ様のお手を煩わせる程の事ではありません!すぐに、隠密に長けた僕を周囲に派遣いたします」

「え……いや、待て。それは……」

 

 モモンガは考える。

 せっかく見つけたプレイヤーの痕跡なのだ。

 対象が人間種であった場合、配下の反応が悪いのは想像に難くない。

 敵対する事があればそれは脅威だが、可能な限り友好的に接触したいと考えていた。

 

「セバス。しばらくの間、この件は私が預かる」

「モモンガ様!御身に何かあっては……」

「このナザリックから監視する限りは問題無い……それにセバスよ、そんな時のためにお前達……いや、お前(セバス)がいるのではにゃ…いるのではないのか?」

 

 セバスは雷に打たれた様に顔を上げて硬直し、直後に頭を下げる。

 慈悲深き至高の御方は、レベル100として生み出された自分に、形上だけであっても、御身を守るという勅命を下さったのだという事実に身を震わせる。

 モモンガが噛んだという些末な事実は、すぐに頭から消え去った。

 

「……畏まりました。モモンガ様の温情、このセバス、しかと受け止めました。……この件は私の中で留めておきましょう」

「…………うむ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……楽しそうだな」

 

 私室にて、モモンガはもはや日課となった遠隔視の鏡(ミラーオブリモートビューイング)でのプレイヤー観察をしながら、一人ごちる。

 グリーンシークレットハウスに住んでいたのは、闇妖精(ダークエルフ)であり、装備からして明らかにユグドラシルプレイヤーであった。

 この日課が始まって早3日だが、睡眠が不要な身体である為、四六時中覗いていると言っても過言ではない。

 映像の中の彼は、初日こそ村人達と一悶着あったようだが、今では村の中に拠点を移し、現地の人間達と飯や酒を共にし、うまく溶け込んでいる様だ。

 

(……別に、俺にはナザリックがあるし、皆の忘れ形見ともいえる大事な子供たち(NPC)もいるけど……)

 

「ソロプレイヤーなんだろうか。近くに仲間もいない様だしな……」

 

 村の中に、彼以外の闇妖精(ダークエルフ)種はいなかった。

 もし、人種を理由に村から追放される様なことがあれば、それを切っ掛けに接触をと考えたが、それも杞憂に終わってしまった。

 相手が魔法職であるなら、仮に出会って戦闘となったとしても、退却を念頭に入れれば、最低でも引き分ける自信はあったのだが。

 

(一応、彼も人間種だが、アウラやマーレと同じ闇妖精(ダークエルフ)だ。人間を見下したり……虫の様に感じることは無いのだろうか?)

 

 モモンガは、自身の心の変化や、配下の人間蔑視の思想を鑑み、思考する。

 事実、映像を覗いていても、村人達にはまるで関心が湧かない。

 

 丁度、映像の中の彼は、村人たちの前で《フライ/飛行》を披露し、どうやら歓声を受けているようだ。

 

「ずるいぞ……俺はナザリックの運営で毎日えらい目に遭ってるというのに。未知の世界を楽しむ……まるでユグドラシルの続きをしているみたいじゃないか」

 

 やっかみもいいとこだが、連日の書類決済と恭しく忠義を捧げてくる配下に揉まれているモモンガは、自由にふるまう映像の向こうの彼に嫉妬していた。

 

「……まぁ現地からの情報の収集は必須課題だし、計画中の『冒険者モモン』活動をそろそろ……ん?」

 

 映像の中の闇妖精(ダークエルフ)が、空中で静止した為、その視線を追う様に鏡の視点を動かすと、何やら黒い蟻の群れの様なものが、村に向かっているのが映り込む。

 映像を拡大すると、鎧を着込んだ兵士であることが分かった。

 

「何やら状況が動きそうだな。こいつの戦闘も見られるし……現地に行ってみるか」

 

 モモンガは誰に対してのものなのか、『外出の言い訳』を作り出すと、同行する僕の選別を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レベル差が酷すぎて虐めである。

 

 それが、村を襲ってきた兵士達と、錬金術師『ヘルメス』の戦闘を間近で観察して得た感想であった。

 

 モモンガは、村の周囲には隠密化に長けた僕を、探知魔法に引っかからない距離で配置し、護衛として完全武装したアルベドを横に置いている。

 二人とも《完全不可知化/パーフェクトアンノウアブル》を掛け、更にアウラに高位の隠密系スキルを施してもらった上での()()である。

 

 突然、「プレイヤーを発見した為、村に行く」と言い出したモモンガに、アルベドを筆頭に守護者全員が猛烈な反対意見を述べた。

 反対されるであろう事が分かっていたモモンガは、魔法的手段では、防壁により監視が露見する可能性があること、防御に長けたアルベドを護衛にすることを述べ、なんとかナザリックを抜け出して来た次第である。

 絶対に許さないと豪語していたアルベドであったが、供にすると宣言した途端に賛成派に鞍替えし、対立して激高したシャルティアをその卓越した頭脳で論破していた為、帰るのが少し怖いが。

 

「それにしても……酷いレベルの低さだな。この世界の住人達は」

「全くですねモモンガ様。して……あれが、例のユグドラシルプレイヤーでしょうか」

 

 アルベドは完全武装の為、兜で表情を窺い知ることが出来ないが、敵情視察の面があるにも関わらず、声が弾んでいた。

 こんなに嬉しそうにしてくれるのであれば、執務に詰めているアルベドにとっても良い気分転換になって良かった、とモモンガは気楽に考えたが、その鎧兜の下がどうなっているのかは知る由も無い。

 

「うむ。恐らく使ってたのは錬金術師専用の魔法だろうな。タブラさんが使っているのを見た事がある。本人も錬金術師を自称していたしな」

「左様でございますか。タブラ・スマラグディナ様の魔法と同じ……という事はやはりカンストプレイヤーという者なのでしょうか?」

「恐らくな。しかし錬金術師とは思っていなかったな……それにあの自己紹介……ふふ」

「モモンガ様?」

「いや、なんでもない」

 

 《完全不可知化/パーフェクトアンノウアブル》を掛けた二人は、抜け抜けと会話が聞き取れる距離で観戦していたのだが、ヘルメスの名乗りや振る舞いは、見事なまでに厨二病のそれであり、かつての仲間である大悪魔ウルベルトを彷彿とさせた。

 

(しかし、古代の錬金術師(エルダー・アルケミスト)か。ただのロールでは無く、実在する職業と見てよさそうだな。タブラさんも、異形種の職業が圧迫してて取り切れない職業があるって愚痴っていたしな)

 

「くふふ。……それにしてもモモンガ様、これはもう……その……所謂デートと言っても過言ではないのですよね」

 

 アルベドが絡めた腕に力を籠める為、モモンガは文字通り骨が軋んだ。

 《完全不可知化/パーフェクトアンノウアブル》をお互いにかけている為、見失わない様にと手を繋いでいたのだが、何時の間にか腕を絡めとられていた。

 

「え……ま、まぁその……なんだ。気分転換にどうかと思ってな」

「まぁ……はっきりとおっしゃって下さい!モモンガ様」

 

 兵士達の怒号や悲鳴が響く戦場の中に、場違いな甘い空間がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、リ・エスティーゼ王国の戦士長を名乗る者が村に来訪し、正体不明の部隊に囲まれたヘルメスらと情報共有する場面に潜ることにも成功した。

 

「どうやら下等生物達は、小賢しくも敵国に扮し、王国で力を持つというあのガゼフなる戦士を釣り上げたという訳ですね」

 

 重要な情報がやり取りされる中、アルベドは、目に見えず、触覚だけで捉えるモモンガに興奮して絡みつきながらも、しっかりと情報を収集してくれていた様だ。

 所々、聞き取れなかったモモンガは安堵する。

 

「その様だな。しかし戦士長と呼ばれる人間で、あの程度のレベルか」

「所詮は、下等生物という事なのでしょう」

「それと、スレイン法国だったか。人間至上主義とは……ナザリックとは反りが合わんだろうな」

「お望みとあらば、全軍を以て排除致します」

 

 言いながら、アルベドの右手は既にモモンガの鎖骨を捉え、弄っている。

 見えないのに器用なものだな、とモモンガは意識を遠くにおいやる。

 彼らの話し合いも終わり、どうやらこれから再度の戦闘に入る様だ。

 

「さて、()()()()はイベント目白押しだな。この戦いが終わったら、どうするか……」

 

 ふ、と込めていたアルベドの力が少し抜ける。

 

「どうした?アルベド」

「いえ、何でも御座いません。さぁ観戦と参りましょう、モモンガ様」

「はは。随分と血生臭いショーの公演もあったものだな」

「……ええ。急がないと……良い席が()()()()()()()()()()……」

 

 モモンガとアルベドは連れ立ち、今度は村から距離のある荒野まで観戦の為、移動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヘルメス対陽光聖典。

 

 内容は先程の焼き増しの様なものであった。

 違ったのは死者が出たという事と、ユグドラシルの魔法を現地の人間も使用していること位である。

 

(人が死ぬところを見ても、やはり何も感じない。不死者(アンデッド)となった俺はともかく、闇妖精(ダークエルフ)となったヘルメスも何も感じていないのだろうか?)

 

 丁度、ヘルメスがアイテムを用いて《電撃球/エレクトロスフィア》を放ったところだった。

 

(ん?今何をした?弾道系魔法が18発?《魔法封印/マジックシール》系の応用としても数が合わんぞ……スキルか?)

 

 やはり魔法の応酬は見応えがあり、低位魔法が多いながらもモモンガは十分に楽しめた。

 ヘルメスが引導を渡して決着も付き、もはや得るものは特に無さそうだ。

 

「さて、アルベドよ。私はもう少し様子を見て、可能であれば接触する。先にナザリックに帰還せよ」

「……!そんな!それでは護衛になりません!」

 

 アルベドは離れるまいと、絡めた腕に力を籠める。

 だが、これはモモンガの中での決定事項であった。

 相手がソロの後衛職である以上、戦士のアルベドを連れていては警戒される恐れがある。

 

「先程の戦闘を見ていただろう?強大な魔法詠唱者という訳でもない。奴が一人になるタイミングがなさそうなら、当然無理に接触せず帰還する」

「それでは納得できません!私と共にナザリックへと戻りましょう」

「……アルベド」

「……そのお顔は……卑怯です」

 

 顔どころか、姿すら見えないのに何を言うのだろうか。

 しばらくの沈黙の後、アルベドが口を開く。

 

「……承知致しました。先に御前失礼致します。決して、ご無理はなされぬ様……」

「無論だ。何かあればすぐに呼ぶさ」

 

 アルベドはゆっくりと腕――の拘束――を解くと、名残り惜しそうに指輪の力を発動させ、ナザリックへと帰還した。

 

 

 

 

 

 アルベドの気配が無くなったのを確認し、さて、とモモンガは振り返る。

 

(どうやって接触しようか。偶然を装っていくしかないと思うが……ずっと覗いてましたなんて言えないしな。煽りプレイじゃあるまいし)

 

 ユグドラシル時代、低レベルプレイヤーの背後に《完全不可知化/パーフェクトアンノウアブル》をかけた上位プレイヤーが張り付き、その様子を面白可笑しく撮影した動画をネット上にアップするという行為が流行った事がある。

 大多数のプレイヤーは、悪趣味だとして低評価をつけたものだが、何が楽しいのかそういった煽り動画は人気が高く、かなりの再生数を稼いでいた。

 運営側としても、クレームが殺到し、対応に手を焼いた様だが、もともとが隠密の為の魔法であるため、注意喚起をするに留まらざるを得なかったというものだ。

 

(少し離れた位置から、魔法を解除して接触かな)

 

 モモンガが、移動を開始しようとした瞬間。

 

 びきり。

 

 と、空に亀裂が走った。

 

(あ。まずい。やっぱり今は防壁がオンになってる――)

 

 モモンガが予想した時にはもう遅かった。

 

 びきり。

 

 と、それにもう一つの亀裂が走る。

 

「「誰だ!」」

 

 ヘルメスが叫び、スクロールを複数発動しているのが見えた。

 

(バレた!まずい!まずい!今バレたら印象最悪の『煽りプレイ野郎』に……!……ん?)

 

 しかし、ヘルメスはそれ以上の行動起こさなかった。

 戦士長の男に落ち着くように声をかけられ、落ち着きを取り戻した様である。

 さらに転移門を開いて村に戻る様子を見て、ついモモンガは安堵してしまった。

 

 モモンガは後悔する。

 アルベドと共にナザリックに帰還しなかった事に。

 煽りプレイが、ユグドラシル古参プレイヤーのプライドをどれだけ傷付ける行為か考えなかった事に。

 

 ヘルメスは転移門に人間()()を放り込むと、こちらを振り返る。

 

 

 

 

 

 

 

「「気のせいな訳ねぇよなぁぁ!舐めやがって、この覗き見野郎がぁ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 振り返ったヘルメスの顔は怒りに満ちており、振り上げた右手には無詠唱化した魔法が宿り、光を放っていた。

 モモンガは慌てて指輪の力で転移する。

 

 煽りプレイをされたヘルメスがどんな魔法を行使したのか、モモンガは知る事なく、ナザリックへと転移した。

 

 

 

 

 

 

 

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