あと、綺礼との戦闘。
……綺礼が弱いというか、バオーをちょっと強くしすぎたかも?
2018/12/06
ランサーの口調をちょっとだけ変更。
ご指摘ありがとうございます。
でも、これでも合ってるかどうか分からない…。
「う…。」
雁夜は、口を手で押さえた。
泥沼とかしているサーヴァント達とと、キャスターの海魔の群れとの戦いにより生じる海魔の臓物臭が肺を侵した。
生身の人間では、この濃すぎる臓物臭を吸っただけで肺が腐って死に至りかねない。それほどに酷いものとなっていた。
ツツジから聞いていないが、バオーのもたらす力は、こういう毒に強いとは聞いていない。
即席の魔術師として、バーサーカーを使うためだけに体を酷使しただけに過ぎない素人の魔術師である雁夜には、結界を張るといった能力は皆無だ。
だが、このままこの場を離れたとて、先ほどの狙撃をしてきた相手がこちらに来ないとは限らない。未知数のバオーの力と、バーサーカーとのつながりがあるとは言え、身の安全のためには離れるわけにはいかない。
刻印蟲による魔術回路の開発よりも、一夜漬けでもいいから魔術の技を身につけるべきだった…。っと後悔しても後の祭りである。
しかし……。
さっきから、内側からザワザワとするような感覚がある。蟲に内側から食われている感覚とも違う、強いて言うなら、まるで凍った池の氷が割れるような音だ。
もしや、この毒と化した臓物臭に、己の内にいる寄生虫バオーが反応しているのか?
この場にたちこめる毒を、分解して無毒にしてくれているのなら大助かりだが……、物には限度がある。早く決着を付けないと寄生虫バオーがもたないだろう。
すると、セイバーとランサーが何か話し合っているのが見えた。
声は聞こえないが、何か突破口を開こうとしているのはなんとなく察した。
……賭けてみるか?
セイバーとランサーが突破口を開き、この状況を好転させた機を狙って、バーサーカーにキャスターを殺させられないだろうか?
バーサーカーの攻撃力は高いが、物量で圧倒してきているキャスターのこの海魔の群れをすべて倒すには至らない。観客のように離れた安全地帯にいるキャスターに剣が届かない。
正直、教会が提示した恩賞はいらないが、キャスターのやったことは個人的に許せない。だから、ここへ来たのだから。
雁夜は、悟られぬよう、セイバーとランサーの動向を伺った。
やがて、セイバーが動く。
騎士王たる彼女が放つ、ただ一撃にして、必殺の秘剣が解き放たれた。
「風王鉄槌(ストライク・エア)!」
密集していた海魔達は、その凄まじい一撃をもろに受けることになる。
風が…、その突風というにはあまりにも威力のある、万軍を吹き飛ばすほどの破壊力がある。
だがその破壊の突風も、キャスターに届く頃には、彼のローブをはためかせるだけの風になるほど威力が落ちた。
だが、それこそが狙い。
その風によって作られた…穴…、そこへランサーが飛び込む。
それは、速さを武器とするランサーでなければできない芸当だった。
そして、ランサーのゲイジャルグ(破魔の紅薔薇)が、絶望し悲痛な悲鳴を上げているキャスターの法具である本の表紙を切った。
その瞬間、生き残っていた海魔達が魔力のつながりを絶たれて、たちまち姿を消し、地面に触媒となっていた子供達の血と肉と骨が散らばった。
キャスターの法具は、即座に先ほどまで海魔の群れを維持していた魔力炉としての機能を取り戻し、傷つけられた表紙を直す。
だが、キャスターは絶望している。
なぜなら、また先ほどの海魔の群れを作ろうものなら、三体のサーヴァントの妨害を受けてしまうのだ。つまり…、いまやキャスターは、たった一人なのだ。
「貴様ぁっ! キサマ、キサマ、貴様、キサマキサマキサマぁぁぁぁ!!」
キャスターは、絶望のあまり白目をむくほど顔を歪め、口から泡を吐くほど喚き散らした。
「……参ったな…。」
雁夜は、これから先、自分が相手をしなければならない敵の強さを目の当たりにして、思わずそう呟いてしまったのだった。
いまだ絶望によって錯乱しているキャスターに、セイバーとランサーがそれぞれ武器を向ける。
このまま、二人に勝負を譲っても良いかもしれない。そんな気が起きた雁夜は、バーサーカーを下がらせようとした。
その時だった。
「なっーーー!?」
ランサーが突如、森の向こうを向いた。
「ランサー!?」
セイバーが驚いた瞬間だった。
錯乱していたキャスターが、法具である本から魔力がほとばしらせた。
「っ! 悪あがきを!」
しかしそれは、攻撃ではなかった。
わざと未完成で終わった召喚によって発生した血が沸騰し、辺り一面に霧状になって拡がった。
煙幕だ。
さすがにキャスターも、三体のサーヴァントを相手に、何の策も講じず戦うなどという愚かなことはできないというちゃんとした思考を取り戻しており、捨て台詞すらも残さず、その場から離脱したのだった。
キャスターにとって幸運だったのは、セイバーが霊体化するという選択しがなかったことと、ランサーがマスターの窮地に陥っていたことと、雁夜がキャスターを……。
「バーサーカー! 逃がすな!」
「ちいぃぃぃ!」
血の煙幕すらまったく気にしない、一番厄介なサーヴァントが逃げるキャスターに迫った。
ところが……。
バーサーカーの剣がキャスターを捉えようとした時、一瞬止まった。
「?」
その不自然な動きにキャスターが、驚いたが、これはチャンスだとばかりに、キャスターは急いでその場から離脱しようとして……。
「ウォォォォォム……、バルバルバルバル!」
聞いた。聞いてしまった。
自分とマスターである龍之介にとって、トラウマとなっていた、あの声が…!
セイバーが風王結界(インヴィジブル・エア)を使って、清浄な風を吹かせ、血の霧を吹き払った時に、その異常の原因が判明する。
「ば、バーサーカーのマスター!?」
セイバーが驚愕する。
アインツベルンの城の方を見ていたランサーも、その異変に気づいてそちらを見る。
背中から、一発の狙撃によって心臓を撃ち抜かれてしまった雁夜の体が、見る見るうちに変化を遂げた。
「そ、その姿は!」
「知ってるのか?」
「あの時…、キャスターを追っていた、死徒!?」
「バオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
心臓への一撃で、バオー・武装現象を発動した雁夜が、森を揺るがすような咆吼をあげた。
「ひ、ひ、ひひいいいいいいいいいいいいいいいい!!」
おそらく、森の中を逃げている最中のキャスターの悲鳴が聞こえた。
雁夜は、クルッと、セイバーとランサーに背を向け、森の中を走って行った。バーサーカーもその後に続いた。
「待て!」
「追う必要はない。」
「しかし!」
「……マスターには悪いが、キャスターは、奴に任せていいんじゃないか?」
「どういうつもりですか?」
「…いや、奴とは…、関わり合いにならない方がいいって、そう感じただけだ。」
「?」
「……あれは…、そんじょそこらの死徒より厄介だ。って…思うが?」
ランサーは、冷や汗をかいていた。
セイバーは、その様子に絶句していた。
***
「……今の声は…?」
アイリスフィールと、久宇舞弥(ひさうまいや)を倒した綺礼は、森の向こうから聞こえた謎の咆吼を聞いて、顔を僅かにしかめた。
その声は、聞き覚えがある。
確か…、アサシンを通じて聞いた、キャスター陣営を追い回していた、あの青白い…。
すると、アサシンから念話が来た。
この森に、キャスター陣営を追い回していた、あの謎の青白い怪物が現れたと。
しかも、それが、バーサーカーのマスターらしき人物が変身したと。
やはりバーサーカー陣営だったかと、綺礼は確信し、動こうとすると、倒れている舞弥が綺礼の足を掴んだ。
どうやら彼女は、綺礼が切嗣のところへ行こうとしていると思ったらしい。
「……別件ができた。安心するがいい。」
「…な、に?」
満身創痍のアイリスフィールも舞弥も、綺礼のその言葉に驚いていた。
ウオーーーーーーーーム!
「むっ!」
「バルバルバルバルバル!! バオオオオオオオオオオオ!!」
森の茂みから飛び出してきたのは、青白い人型。
ソレは、跳躍で降りてきながら腕の刃を、綺礼に向けて振り下ろそうとした。
綺礼は、舞弥の手からすぐに逃れながら後ろに跳んで避けた。
しかし避けきれなかったのか、神父服の上着が僅かに切れた。
「…えっ…?」
アイリスフィールも舞弥も、突然の乱入者に目を剥いた。
「自ら裁かれに来るとは……。」
綺礼は、黒鍵を出し、構えた。
青白い怪物……、バオー・武装現象を発動している雁夜は、ジッと綺礼を見ている。
綺礼は、ピクリッと眉を動かした。
おかしい…っと思ったのだ。
コイツ(雁夜)が死徒ならば、舞弥のような若い女の血に反応を示さないはずがない。しかし、雁夜は、まったく興味を示していない。
死徒は死徒でも、血を必要としない改造されたタイプなのか? しかしアサシンからの念話では、バーサーカーのマスターが突然変身したと言っていた。
よーく見ると、服の胸のところに小さな穴が空いている。位置からして心臓だ。しかも出血の跡もある。
もしかしたら切嗣に攻撃されて、死に瀕し、それで身を守るために変身したのではないかという見立てが脳内に浮かんだ。(※実は正解)
だとしたら、なぜ切嗣の方ではなく、こちらに来たのかが分からない。
大量出血による補給のために若い女の血の匂いを辿ってきたというのなら、舞弥とアイリスフィールに興味を示すだろう。だがそれをしていない。
よく分からない、謎の死徒…。それが印象だった。
だが死徒であるならば、聖堂教会の代行者として、コイツ(雁夜)を葬らなければならない。それが使命なのだから。
次の瞬間、雁夜の頭部で揺れる肌と同じ色の髪の毛が不自然に動いた。
綺礼は、ハッとし黒鍵で、飛んできた髪の毛の針を防ぐ。
しかし、一本腕に刺さった。
そして少し時間を置いて、ボッと腕に刺さっていた一本の髪の毛の針が燃えて、袖に火がついた。
「くっ。」
腕を振って火を払うと、一瞬にして距離を詰めてきた雁夜が腕の刃を振るってきた。
それを黒鍵で迎え撃つ。
バキンッと黒鍵と、雁夜の腕の刃がぶつかり、ギリギリとつん張り合いになる。
綺礼は、黒鍵の隙間から、雁夜の顔を見た。
そして驚く。
雁夜の目には、白っぽく光っているものの、そこに意思と呼べるようなものがなく、綺礼を…“見ていない”のだ。
次の瞬間、綺礼は、横へ体をずらした。
直後、彼の右耳に、数本、雁夜の髪の毛の針が刺さっていた。あと一歩遅かったら、顔に何十本もの針が刺さっていただろう。
少し間を置いて、ボッと針が発火し、綺礼の右耳を燃やす。
右耳を手で押さえ火を払う綺礼は、それと同時に黒鍵を投擲した。
雁夜は、まったく動じることなく黒鍵を腕の刃で弾く。
弾いた隙に、綺礼が雁夜の懐に飛び込み、その胴体に拳を振るった。
だがその拳がめり込む前に、腕と体を弾き飛ばされた。
「!?」
右腕が…痺れる!
見ると雁夜の体が放電していた。
目に見えるほどの電量がほとばしり、辺りを照らす。
雁夜が咆吼する。
雁夜自身の中にある魔力回路により、常人にははない魔力という力が混ざって増幅された威力を誇る、バオーの最大の必殺技・バオー・ブレイク・ダーク・サンダー・フェノメノンが、まるでこれから黒焦げにされる綺礼に見せつけるように電量を増していく。
綺礼は、負傷した右耳の痛みと、先ほど電流が流れて痺れ焼かれた右手の痛みをジクジクと感じながら、その光景を見ていた。
右に逃げようが、左に逃げようが、後ろに逃げようが、あの電量による攻撃を避けることは出来ないだろう。
かといって、アイリスフィールや舞弥を人質にしたとて、あの意思のない目をしていては、意味を成さない。“人間”でないものに、道徳だの理屈だのへったくれもないのだから。
どうやら己は、敵の強さを見誤ってしまったらしい……。っと綺礼は、腕をだらりとさせて突っ立った状態になりながら思った。
そして、間もなく膨れに膨れた電力が放たれる直後になって、綺礼は、まるで断罪を待つ罪を自覚している死刑囚のように目を閉じた。
「アイリスフィール!」
その時、セイバーの声が近くでした。
その瞬間、雁夜の体が破壊の突風により、横に吹っ飛んだ。
綺礼は、電気の光が消えたのをまぶたの上から感じ、目を開けた。
さっきまでそこにいた雁夜の姿はなく、残されたのは、瀕死の舞弥とアイリスフィールだけだった。
綺礼は、キョトンッとしたが、やがて走ってくるセイバーの気配を感じ、踵を返して、その場から去って行った。
駆けつけたセイバーは、現場を見て目を見開いた。すると、吹っ飛ばされ、木を数本を倒して倒れていた雁夜が起き上がり、歩いてきた。
「貴様が…、貴様がやったのか!?」
セイバーが雁夜に剣を向けた。
「せいばー…、ち、違うわ…。」
「アイリスフィール! 喋ってはいけない!」
「彼じゃない…。違うの……。」
「アイリスフィール! っ!? なにを…。」
いつの間にか近くに来ていた雁夜が、右手を差し出し、拳を握った。力を込めたことで爪によって手のひらが切れ、血が垂れる。その血は、重傷を負っていたアイリスフィールの傷口に入った。
すると、みるみるうちにアイリスフィールの傷が癒えていった。
「これは!?」
雁夜は、答えず、倒れている舞弥の方に行き、同じように血を垂らした。そして傷が癒えた舞弥が起き上がった。
「…バーサーカーのマスター……、あなたは…?」
セイバーの問いかけに、しかし雁夜は答えない。答えられないのだ。
今の雁夜は、寄生虫バオーに支配されている。それゆえに、自分が嫌だと思った匂いを消す以外には興味を示さない。
切嗣の方ではなく、綺礼の方に来たのは、キャスターが霊体化して速攻で森から逃げたことや、自分を攻撃した遠くにいる切嗣より、近くにいた女性達を瀕死の状態に痛めつけた綺礼の匂いに反応したからだ。もし、切嗣がこちらの方に向かってきていたなら、速攻でバオーは、切嗣の“匂い”を消しにかかっていただろうが……。
これは、宿主である雁夜の深層心理が、バオーに働いてそうさせたことである。
雁夜が、動こうとした。
すると、何が起こったのか分からず呆然としていた舞弥がハッとして、雁夜を掴んだ。
「舞弥さん?」
「切嗣のもとへは行かせない!」
「!!」
舞弥の言葉で、アイリスフィールは、気づいた。
この怪物(雁夜)は、切嗣のところへ行こうとしているのだということを。
「セイバー! 止めて!」
「アイリスフィール…。しかし、彼は…。」
「この怪物は、切嗣を殺す気よ! お願い、止めて!」
雁夜は、ズルズルとしがみついている舞弥を引きずりながら、歩く。
セイバーは、迷った。彼は…バーサーカーのマスターたる雁夜は、重傷を負っていたアイリスフィールと、舞弥を救った。だが一方で、自分と相容れないマスターである切嗣を殺そうとしているらしい。
アイリスフィールの懇願に答えなければならない。だが……、同時に恩人である彼の恩を仇で返すことは自分の信条に反する。
やがて、舞弥が銃を拾って、雁夜の頭を狙おうとすると、雁夜は、立ち止まり舞弥の手を銃ごと握った。
そして……。
「待って。おじさん!」
場違いな幼い少女の声が聞こえ、途端、雁夜が止まった。
すると、木の間から、十歳にもならない少女と、十代半ばくらいのボーイッシュな少女がやってきた。
幼い少女が、走ってきて、雁夜の足に抱きついた。
雁夜は、少女を見おろし、舞弥から手を離した。
「雁夜さん。帰ろう?」
ボーイッシュな少女が語りかける。
雁夜は、ビクンッと震え、やがて、人間の姿へと戻っていった。
「? 俺…は…。」
「おじさん。」
「桜ちゃん! どうしてここに!? ツツジ、どういうことだ!」
「桜ちゃんが、どうしてもって…。」
「これじゃあ約束が違うぞ!」
「ごめん…。」
「ツツジさんを怒らないであげて、桜がいけないの。」
「…帰ろう。雁夜さん。」
「……分かった。」
「バーサーカーのマスター…。」
「すまなかったな、セイバー。それと、セイバーのマスターも…。」
「いいえ。あなたな、恩人ですから。戦わずにすんでよかった…。」
「……でも次はないからな。」
「ええ…。」
お互いに本来は敵同士であることを認識し合い、雁夜は、桜の手を握って、ツツジと共に森から去って行った。
桜ちゃんが来たことにより、命拾いした舞弥でした。もうちょっと遅かったら手が銃と一体化させられてました。
雁夜おじさんが、魔術師なので、魔力も入ってバオーの電撃攻撃が育郎のそれよりも強くなっています。現段階では、コレだけど、時間が経てばもっと強くなるので……。
ハッキリ言って、電撃が出来るので接近戦もダメですよね…。たぶん。
あと、雁夜は、まだアイリスフィールがセイバーのマスターだと思ってます。序盤の戦いでのこともあるので。
綺礼とは、一戦させようと思ってたので、城にいる切嗣よりも近くにいる綺礼を狙ったという流れにしました。