あくまでも筆者の出した結論なので、ご注意を。
冬木市で起こっている、連続児童誘拐事件は、凄まじい勢いで広がり子を持つ親達を恐怖に陥れた。
使い魔をやって念のため遠坂の家の様子を伺った。
遠坂の家は、時臣により、どうやら葵と凜(りん)を避難させているらしい。
まあ、妥当な判断だとは思う。
雁夜が、狙撃によって二発、頭を狙われ、その後血の霧の中、隙を突かれて胸を貫かれたように、手段を選ばない魔術師がいる以上、身内を安全圏に置いておくのは当然だ。
なのだが、キャスターは、また同じことを繰り返そうとしているらしく、あろうことか、桜の姉である凜が狙われたようだ。
魔術師の血筋だから狙われたとかじゃない、単に無差別に子供を攫っているのだろうが、魔術師の子がもしキャスターの手に落ちたなら、あの森での圧倒的な物量戦以上の恐ろしいことが起こりかねない。
なにより許せなかったのは、時臣の妻であり、凜と桜の母である葵は、雁夜にとっては幼なじみであり、初恋の相手の子に手を出したことだ。
そんな彼女を悲しませたくないから、間桐の家に養子に出された桜を救うと決めて聖杯戦争に身を投じたのだ。
自分が好いた相手を奪ったうえに、悲しませる男…時臣が許せず殺すために……。
だが、臓現が死んだことで、雁夜は、かなり余裕が出来ていた。
まだ完全に信用は出来ていないが、ツツジという協力者のおかげで魔術師を越える力を望まずして手に入れたのもあるが、冷静に……、物事を考える余裕ができていた。
まずやるべきこと。凜がキャスターに奪われる前に凜を運ぶ海魔を倒して凜を奪い返す。
バオーがもたらす、すべての物事を“匂い”として感じ取る能力のおかげで、凜を運んでいる海魔を早々に発見できた。
その後、葵達が匿われている場所から三十分ほどもかからない場所の公園に凜を運び、駆けつけてきた葵に保護させ、自分は葵に会わずに姿を消した。
なぜ葵の前に現れなかったのか……。
それは、単純に合せる顔がなかったからだが、会ってしまうと揺らぎ始めている戦いの理由がまたおかしな方へ行きそうだったからだ。
時臣は、たしかに憎いが……、葵は、彼を愛してるのだ。それを初恋を奪われたからと奪っていいわけがない。
初恋は初恋…。自分は……、これから先の、未来を考えなければならないのだと。余裕が持てた心がそう訴える気がした。
秘密機関ドレスを潰すという、ツツジとの約束もあるし、臓現が死んだことで自由の身になったはずの桜が、なぜか自分から離れたがらないのも問題だ。
母である葵の元に返すと約束したのに、これでは本末転倒だ。
「ねえ…桜ちゃん…。本当に帰りたくない? お姉ちゃんの凜ちゃんやお母さんの葵さんだっているんだよ?」
「……。」
縁側で、もう何度目かになる質問を投げかけても、桜は答えない。
なんとなく、雰囲気で……、そんなのもうどうでもいいから…って感じ取れるのが……。
「おじさんといてもしょうがないよ?」
「いや。」
これについてだけは、即答されるのだ。雁夜は、ハア~~~~っと、長い息を吐いて、ほとほと困ったと頭を抱えた。
そうすると、必ず。
「おじさん…。桜のこと嫌い?」
っと、顔をのぞき込まれて聞かれるのだ。
「そ、そんなわけないじゃないか!」
「…よかった。」
慌ててそう言うと、桜はほとんど表情を動かさないが、安心した雰囲気を醸し出すのだ。
もしかしたら、桜にとって、雁夜は、精神を正常に保つための支柱にされているのかもしれない……。
もし自分が彼女の前から姿を消せば、忽ち精神崩壊を起こすかも知れないのだ。それは、なんとしてでも避けなければならない。だが、このままだと桜はいつまで経っても葵のところへ帰れない。
……どうしろと?
時臣を殺す気は失せたが、時臣と葵から恨まれかねない状況ができあがってしまった。
「ねえ、雁夜さん。桜ちゃんを引き取るって選択肢は?」
「いや、そういうわけには……。葵さんのところに帰すって約束したし…。」
桜の隣にいるツツジがそう語りかけてきたので、雁夜は弱々しい声で答えたのだった。
「実の家族のところに帰りたがらない理由も考えてあげたら?」
「っ!」
「そもそもどうしてこの家に養子に出されたのか……。その理由だってあるんじゃないの? この子……、私が言うのもなんだけど、体質的にちょっと普通の子供と違うと思うけど。」
「それは、魔術師の血を引いてるからだろうな。遠坂は…、あれでもかなりの歴史がある家だ。」
「……でも、それだけかな?」
「どういうことだ?」
「雁夜さん。あなたにとって、時臣という人がどういう人なのかは私には分からない。だけど、自分の子供を余所にやるのに、もう一人の子供と奥さんを避難させているのに、何も感じていないなんておかしいと思うけど。」
「……それは、魔術師のしきたりのせいだ。」
「っというと?」
「魔術師は、一子相伝だ。つまり子供が二人いれば、もう一人は余所へやる…。遠坂は魔術師としては優秀だ。だから仕来りにも厳しい。だから、素質のある凜ちゃんを残して、桜ちゃんを間桐の家に……。」
「……なるほど。でも、なんでわざわざ間桐だったの?」
「なんだと?」
「魔術師としての素質が無いなら普通の家に養子に出せば良い。ただそれだけでしょう?」
「それは…遠坂が間桐と同盟を…。」
「それに、あなたが殺したジジイって人も、桜ちゃんには何か期待してた。そうだよね? 桜ちゃん。」
「っ、おい!」
「……桜はね…。間桐に新しい“胎盤”だって。言われた。」
「たいばんって…、要するに…子供を産まされること前提で…。」
「おまえはもう口を開くな! 桜ちゃん、気にするな。もう思い出さなくていいんだ。」
「あの人が……、時臣さんが…、部屋で独り言言ってるの聞いた。桜を守るにはこれしかないって。」
「さくら…ちゃん…?」
桜の口から出たのは、衝撃の言葉だった。
時臣を父ではなく、さん付けで呼んでいたこともだが、それ以上に、時臣の独り言を聞いており、それが桜を守ることであったという事実に。
桜は嘘を吐いていない。それは確信できた。
「ねえ、雁夜さん。気は進まないだろうけど……、一度、聞いてみたら? その時臣さんって人に。桜ちゃんのことを。」
「それは……。」
「たぶん、奥さんには、話してないんじゃないかな?」
「うん。お母さんは、魔術のこと全然ダメ。」
「だってさ。」
ツツジの言葉に、雁夜は悩んだ。
葵を魔術師同士の戦いに巻き込みたくないが、彼女は魔術師の妻として嫁いだ身だ。魔術師については疎くても、おそらくは、時臣が魔術師として家を空けていることは理解しているだろう。
桜が帰りたがらないのには、間桐に養子として出された理由以外にあるのだとしたら……。
自分は、ひょっとして最初の段階でとんだ勘違いをしたのではないか?
そう思った瞬間、雁夜は、とてつもない脱力感に襲われた。そして、縁側の床に倒れた。
「俺がやろうとしたことは、無駄だったのか……。」
「まあ、人生、そういうこともあるよね。」
「うるせぇぇぇぇぇぇ!!」
バオーを寄生される前、自分の余命を捨ててまでやろうとしたことが、実はとんでもなく無駄な行いだったと思い知って雁夜は、勢いのまま絶叫したのだった。
こういうのを書くのに、オリキャラは便利。なんというか、核心を突いていくのにいいので。
雁夜おじさんも、葵さんもなんで桜が養子に出されたのか、本当の理由を知らないから、桜自身も幼いからという理由とかで知らされていないと思ったので、時臣に直接聞こうということにしました。
おそらく雁夜おじさんが出奔しなければ、時臣は雁夜に理由を告げていたと思うのですが……。
心に余裕ができた雁夜は、今後時臣を殺すって気は失せました。けど、その代わり、理由次第じゃ……、全力でぶん殴るぐらいはするかも。って状態。
桜ちゃんは、もう家族のところには帰りたくないって感じ。帰っても、また余所に養子に出されるだけだってなんとなく予感しているので。