桜ちゃんが、えらく強くなったような……。
「ツツジ……。」
「ん? なに?」
「なに、じゃない。それは、どうした?」
「ああ。家の中を覗いてたから、泥棒かと思って…。」
そこには、死んだ鳥の死体があった。
無残にも頭を打ち砕かれ、地面に羽と血を広げている。
「本当に泥棒だったらどうする気だったんだ? 殺す気だったのか?」
「さすがに殺さないよ。けど…、この鳥って、普通じゃなくない?」
「はっ? ……使い魔か。」
「やっぱり。あなたが使ってた蟲の使い魔にちょっと似てたから、ついね。」
「下手に他の陣営を刺激しないでくれ。戦うのは、俺だぞ?」
「魔術師といっても、あくまでも人間しょう? だったら私でも倒せなくもないわ。」
「……ツツジ。おまえ一体なんなんだ? 人間…じゃないだろ?」
「内緒。」
「またそれか! おまえは、人に信用してもらうってことをしろよ!」
「ごめん…。でも言わない。」
「おじさーん。」
「どうしたんだ、桜ちゃん?」
そこへやってきた桜が、次に放った言葉に、愕然とすることになる。
「蟲蔵がもう一個あったの。」
「はあああ!?」
「あれ? あの蔵って、まだあったんだ。」
「うん。地下にあったの。たぶん、餌がなくて、それで出てきたんだと思うけど、それで分かったの。」
「いますぐ処分しに行くぞ!」
「いや、待って。雁夜さん。」
「どうしてだ!」
「……制裁を加えるって気はある?」
「は?」
するとツツジが、雁夜の耳元でボソボソと囁いた。
それを聞いた雁夜は、ギョッとしてツツジを見た。
ツツジは、無言で親指を、グッと立てた。
「おまえ……、なんて恐ろしいことを……。ああ、でも、分からせるには殴るよりかはいい…か?」
「じゃあ、見つかった蔵の処分は、ちょっとの間だけ保留ってことで。」
「どうするの?」
「あのね。桜ちゃんの痛みを、あなたのお父さんに分からせてあげようって思って。」
「おおおおいいいい!!」
しゃがんで桜と目線を合わせて、ニッコリとそれそれは良い案だと言わんばかりに言うツツジの頭を、雁夜が引っ張ったいた。
「桜ちゃんのトラウマを引っ張り出すんじゃねぇよ!!」
「……あの人…、分かってくれるのかな?」
「桜ちゃん!?」
「よーし、じゃあ決まり。桜ちゃんのお父さんを、いつのタイミングでとっ捕まえるか決めよう。」
「遠坂の魔術師は、すごく強いから…。」
「うーん。じゃあ、雁夜さんに聖杯戦争を続けてもらって、引っ張り出せば良いか。」
「そうだね。おじさん、頑張って。」
「……えー…?」
ノリノリなツツジと、無表情だがノッてるらしい桜の会話と決定事項に、雁夜は唖然としたのだった。
ちょっとだけ…、ほんのちょっとだけ…、これから蟲蔵で制裁される予定の時臣に同情したのだった。
とりあえず、地下にあったもう一つの蟲蔵に、餌を放り込んでおいて、蟲が外に出ないように処置はしておいた。じゃないと、周囲に被害が出るからだ。
一方で、問題の時臣であるが、まるで背中に氷でも入れられたようにゾゾゾゾッ!っと悪寒がしていたのだった。
その時の間抜けな様を、アーチャーに見られて、アーチャーが内心で、間抜けって思い、より時臣から心が離れたのは、別の話である。
***
切嗣は、使い魔との交信が途絶えたことに眉間にしわを寄せた。
セイバーと、アイリスフィールと舞弥からの報告で、バーサーカーのマスターが、前日キャスター達を追いかけ回していた死徒らしき怪物だったことが分かった。
そのため、バーサーカーのマスターである間桐雁夜を監視し、隙あらば殺すべく使い魔をやったのだが、その使い魔が黒髪のボーイッシュな少女らしき人物を補足した途端、そこで交信が途絶えた。
間桐邸に用心して使い魔を忍ばせたのに、それを見つかったとあれば、使い魔の死体を調べれば魔術の痕跡からこちらの存在を割り出すことが出来るだろう。
マズいことになったっと切嗣は、己の迂闊さを悔やんだ。
バーサーカーの特殊能力は、いまだ謎であり、かつ雁夜は、あの姿に変じた状態でアイリスフィールと舞弥を叩きのめした綺礼を圧倒したというのだから最強のセイバーを有していてもまったく安心できない。
いまだ不可解な法具を持つアーチャーと、穴熊を決め込んで沈黙している遠坂を牽制する意味でも、この両者の力を測る必要がある。
しかし、あの綺礼を負傷させ、あと一息で殺すところまで行ったらしいので、もしかしたら、戦闘能力的には、バーサーカーの陣営が上なのかもしれない。
綺礼が、変身している雁夜の戦闘能力を見誤ったという可能性もなくはないが、あれだけ強い男(※例えば、ワイヤーで縛られてなお、後ろの木を素手で打ち倒すほどの打撃力を持つ)を、圧倒したのだ。やはり、今警戒すべきはバーサーカーのマスターである雁夜であるかもしれないと、切嗣は考えた。
ならば取るべき行動はひとつである。
アインツベルンの城がある森では仕留め損ねたが、今度こそキッチリと片を付けてやる。
切嗣は、舞弥と共に間桐邸へ向かった。無論、セイバーには悟られぬよう秘密裏に。
間桐邸は、さすが歴史ある魔術師の家らしく大きい。
大きいが、一方で住んでいる者が少ないため酷く静かだ。
夜なのもあって、寝静まっているのか、気配がほとんどない。
聖杯戦争中だというのに、あまりにも不用心すぎないか? それともあえて誘い込んでいるのか?
っと、警戒心を抱かせたが、近寄れば近寄るほど、その警戒が杞憂だったと思い知る。
本当になんの罠も、結界もしていないのだ。強大な魔術師の家ではありえない。
確か、この家の当主の名は、間桐臓現といったはずだ。とつてもない長い年月を生きた老人だったはずだ。そのような人物が何もせず侵入者を入れるなどありえない。
まさか…?っという予感が過ぎった。
間桐雁夜は、こちらの調べでは、最近になって突然実家である間桐邸に戻ってきたらしい。
何のために戻ってきたのかは分からないが、長らく出奔していた。
魔術師の家には、ありえないこの異様な静かさと無防備さ……。
まさか、雁夜は、臓現を殺したのか?
だとしたら、長らく魔術から離れていて、素人である雁夜が管理している間桐邸がここまで不用心なのも頷ける。
間桐邸の裏口から、切嗣が、舞弥が、塀から入って中に侵入した。
裏口から入った直後、武器を握る切嗣の右手を、ヌッと暗闇から伸びてきた手が握った。
「!?」
「しー…。」
ギョッとして横を見ると、そこには、ボーイッシュな少女が指先を口に当てて、静かにするよう示してきた。
切嗣は、ドッと汗をかいた。
っというのも、まったく気配がしなかったのだ。それと、あまりにも場違いな笑顔を少女が浮かべているのもある。
「あなた、誰?」
「……。」
「もう一人いるね。そっちは、桜ちゃんが対応してくれてると思う。お願いだから、帰って。もう一人の人と一緒に。」
「……そうはいかない。」
「雁夜さんが狙いでしょ? 知ってるよ。」
「っ…。」
「このまま、令呪がある手を無くしたい?」
「ーーっ!」
その直後、握られている右手に痛みが走った。いや、熱……、違う…溶けている!
僅かに皮膚の表面を溶かされたことに驚く切嗣は、このまま従わなければ数秒とせず右手を骨ごと溶かされると直感し、小さい声で言った。
「……分かった。今日のところは帰る。」
「うん。よかった。」
切嗣の言葉を聞いた少女は、切嗣の右手から手を離した。
切嗣は、溶かされかけた手を触って確認した。表面の皮膚が焼けて溶けただけで、支障はない。帰ってアイリスフィールに直してもらえば跡も残らず治せるだろう。
「ツツジさん。」
「あ、桜ちゃん。」
「連れてきたよ。」
そう言ってやってきたのは、十にもならない、幼い少女だった。
幼い少女の隣には、かなり大きな虫が数匹飛んでおり、その虫が気絶している舞弥を運んできていた。
切嗣は、舞弥の体を抱き留め、裏口から出て行った。
そして、間桐邸から、数キロ離れたところで、舞弥を路上に下ろし、隣に座り込んで、タバコを吸った。
「う……。」
「気がついたか?」
「あ…、私は…。そうだ、女の子が…。」
「どうやら、僕らは敵を見誤ってたらしいな。」
「っと、いいますと?」
「……とんだ守護者(ガーディアン)が、あの死徒モドキの男に二人も付いてたってことさ。」
切嗣は、夜の闇に、タバコの煙を浮かせながら、額の汗を腕で拭ったのだった。
なお、狙われていた雁夜は、暢気に、グーグーと安らかに寝ていたのだった。
桜ちゃんじゃなく、桜様(?)ですねぇ…。
ツツジもツツジで容赦ないけど、多少は手加減してるので切嗣の右手が無事でした。
ケイネス達を殺すためだけに、ホテルひとつ爆破した切嗣だから、間桐邸そのものを燃やすとか考えましたがやめました。
雁夜おじさん、暢気の寝てますが、バオー寄生させられる前の苦労を考えたら、安らかに眠ることすらできなかったでしょうから。
切嗣の口調がよく分からないので、違ったら教えてください。