時臣と綺礼の会話。
時臣が他の陣営に対談を持ちかけたのを、盗聴(?)しているツツジと桜の話。
綺礼は、目を覚ました。
「気がついたか?」
「…はい。」
体中を包帯で巻かれた状態でベットに寝かされた綺礼が、ベットの傍らで自分を見おろしてる時臣に答えた。
「なぜ、アサシンを使った…?」
時臣は、ベットの傍に置いてある椅子に座りながら聞いた。
「死徒…のような存在と化しているバーサーカーのマスター…、間桐雁夜のサーヴァント・バーサーカーへの足止めのためです。」
「だが、その結果はどうだ?」
「……申し訳ありません。」
「謝罪など必要ない。私が言いたいのは、そこまでして、なお、なぜ雁夜を殺せなかった?」
「……申し訳ありません。通常の死徒ならば、首をかき切り、多くの血を失わせ、心の臓を潰せば死ぬので、そうしたのですが、どうやら心の臓を潰したところで死なず、脳を潰さねば死なないということに気づくのが遅れました。」
「そこまで気づいていてなぜ失敗した?」
「あの者…、雁夜という男には、協力者がいます。肋骨と肺の傷は、その者にやられました。」
「その者とやらも、死徒か?」
「分かりません。しかし、アサシンの一人を無傷で倒し、殺すほどの実力は持ち合わせているようです。」
「魔術師か? それとも君と同じか?」
「それは、まだ分かりません。」
「ふむ……。」
時臣は、顎に手を当て、考え込んだ。
あの落伍者の雁夜に好き好んで協力するようなお人好しがいるのか?っという疑問が浮かぶが、そういえば、雁夜に殴られた時に、自分を気絶させた少年っぽい少女がいたではないか。おそらく綺礼に一撃を与えたのも、アサシンの一人を殺したのも、あの少女なのだろう。それほどの力が、あの十代半ばくらいの少女に備わっているとは到底思えない。
その時、ふと脳裏を過ぎったのは、桜の顔だった。
そんな怪物達の巣窟に、自分の愛娘を託しておくわけにはいかない。
そして何より、間桐の当主の影がまったくないのも気になる。
まさか…っと、時臣は思った。しかし雁夜が殺したとは思えなかったが、その時点で人じゃない力を手にしていたなら可能ではないかとも思った。
もしそうならば、間桐に娘の桜をやっておく理由はない。
魔術の道を捨てた雁夜が、桜を導くことなどできるはずがないのだから。
しかし…っと、わずかなためらいが起こった。
あの時、雁夜に殴られた後、見た桜の自分に向ける目が……。そしてまるで雁夜しかこの世で頼れる者はいないのだと言わんばかりの雁夜への寄り添い方も、かつて遠坂にいた頃からは想像も出来ない変わりようだった。
桜の髪は、元々凜と同じ黒髪だったはずだ。あの時見た桜の髪は…、紫色になっていた。もしかしたら間桐の魔術の影響かもしれないが、それは置いておこう。問題なのは、例え遠坂に連れ戻したとて、桜が魔術の道をきちんと歩んでくれるかどうかだ。その身を守るためにはどうやっても避けられないのだから、なんとかして魔術の道を歩ませなければならない。。
ならば、自分が取るべき道は、ひとつ。
「綺礼。私は、アインツベルンに書状を送ろうと思う。」
「…つまり同盟を?」
「ランサーも潰え、バーサーカーと拮抗しうるサーヴァントを有するのは、そこだけだろう。ライダーは……、宝具の力がどの程度かによるが、おそらくは動かぬだろう。」
「……アーチャーにはこの件を?」
「一応は伝える。どう動くかは様子見だ。」
アーチャーは、だんまりを決め込んでおり、キャスターとの最終決戦でも動かなかった。そのため、時臣は令呪をもってキャスターの巨大海魔を討たせようともしたが、それでは彼との絆を潰えさせると我慢した。喉の傷はすでに完治しているのだが……。
そうして時臣は、早速と、部屋を出て行き、自分の研究室で、書状を書き、使い魔である翡翠の鳥に送らせた。
***
朝ごはんを食べ終え、部屋で座り込み、瞑想をするように目を閉じているツツジの傍らに桜が座っていた。
桜が読んでいるのは、間桐に置かれていた魔術書だ。
ほとんどは分からないし、かつて父だった男の研究室にあった本を、姉の凜と一緒になって盗んで一緒になって解読していたことを思い出しながら、少しずつ読み進めていた。
「……桜ちゃん。それ読んでて分かるの?」
「…ちょっとだけ。」
ふいにツツジから聞かれ、桜は答えた。
「私達、魔術に関しては素人だから、桜ちゃんに頼りきりでごめんね。」
「そんなことないよ。桜、頼ってもらって嬉しいよ?」
「そっか。」
そして会話が途切れる。
時々、パラ…、パラ…っと、時々桜が魔術書のページをめくる音が聞こえる。
「……あぁ…。」
「どうしたの?」
「桜ちゃんのお父さんが困っている匂いがする。」
「ふーん…。」
「興味ない?」
「どっちでも…。」
「そっか。」
そしてまた会話が途切れる。
しばらくして。
「……断られちゃって、困ってるみたい。」
「ふーん。」
「雁夜さん、なんだかんだで恩を売ってるから、そういうのを重んじる人には裏切れないんじゃないかな?」
「そうなんだ。」
「どうも…、他のサーヴァント持ってる人に頼んで、一緒にここに攻め込もうって話みたいだね。」
「えっ?」
「……なんか勘違いされてるのかも。桜ちゃんが怪物のお家に監禁されてるって。」
「……。」
「それで、桜ちゃんを取り返すのを手伝ってくれって頼もうとして、他の人に断られてるみたい。」
「…あの人…何考えてるんだろう?」
「興味出た?」
「ううん…。でも勘違いされてるのも、嘘言われてるのもヤダ…。」
「嘘は言ってないけど、本当のことでもないからね。時臣って人、たぶん分かってない。桜ちゃんが自分の意思でここにいるのに。」
「……ツツジさん。」
「なに?」
「私…、おじさんと離れたくない。」
「…そっか。じゃあ、私、頑張らないとね。二人が離ればなれにならないように。」
目を開けたツツジが、桜の頭を撫でた。
時臣について無関心気味の桜ちゃんです。
詳しい内容は不明だけど、時臣が、他の陣営(セイバー陣営)に桜救出のために雁夜を殺すことを持ちかけたらセイバーから恩があるから断られたのを、ツツジが匂いで感じ取っています。
けど、苦悩の末に託した娘が怪物が住む家に監禁されている(※勘違い)と聞いて、セイバー達ならたぶん食いつくとは思いますが、雁夜がそんなことをする悪人だとは思えないので、どうするかは悩むと思います。
ライダー陣営は、言わずもがな。一応休戦することを約束しているから。