Fate/zero×バオー来訪者 ネタ   作:蜜柑ブタ

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雁夜と時臣の心境状況が、逆転しているというのを書きたかったんですが……、ただ時臣のキャラが崩壊しただけになりました。

なので注意。

2018/12/17 20:22
※感想でセイバーの言葉に誤りがあったので、一部修正。


SS21  失策

 時臣は、家訓である優雅さを一瞬忘れ、動揺した。

「な…なぜだ?」

「申し訳ないが、彼には恩があるので、討ち滅ぼす協力は出来ない。」

 セイバーが心底申し訳なさそうに、言った。

「私も、同様です。」

 アイリスフィールが言った。

「なぜだ!」

 たまらず時臣が声を荒げた。

「君らとてすでに知っているだろう! あの醜悪な力を持つ者を! この聖杯戦争にあんなモノは、不必要だということを!」

「それならば、私とて同じになりますわ。」

「な…、そうか…、ホムンクルス…か。」

「そうです。私は、アイツンベルンが創造せし、人の形をした異形なのです。生まれながらに人ですらない私と、後から人じゃなくなった間桐雁夜と、何が違うのです?」

「こうは言っては何だが。遠坂の当主よ。あなたは、まるで彼が“悪”でなければ、落ち着かないように見える。」

「私は…、ただ娘を…。」

 セイバーにそう言われ、時臣は、僅かに目を泳がせた。

「私には、彼がそのようなことをする悪人だとは到底思えないのです。あなたの娘を、当主を失った家に監禁しておくなど。」

 セイバーは、キッパリと、雁夜は“悪”ではないと断じた。

「そもそも、あなたの話では、あなたはその娘・桜を間桐に養子に出したのでしょう? なぜ今になって連れ戻すと?」

「それは…、雁夜では、あの子を導くなど出来ないからだ。」

「なぜ、そう言えるのです。」

「娘の身の上については黙秘させてもらう。他言できないのでな。」

「なるほど、魔術師としての魔術の秘法の機密ですね。」

「申し訳ない…。だが、あの子を守るためには、なんとしてでも雁夜から取り返さなければならないのです。」

「そして…、今度はどこへ養子に出すおつもりで?」

「それは…、まだ…。」

「なら、もしも、その桜というあなたの娘があなたの元へ帰ることを拒んだらどうするのです?」

「なっ…。馬鹿な? そんなことが…。」

「一度は、余所の家に送り出しているのですよ? 自分がいらない子だと、その子が思わないとでも?」

「っ…。」

 アイリスフィールにずばり言われ、時臣は、言葉を詰まらせた。

 その瞬間、脳裏を過ぎったのは、自分に向けられた桜の冷たい目だった。到底、十にもならない子供が出来ような目じゃない、あの目だ。

 そこで時臣は、ハタッと思いついた。

「もしかしたら、桜は暗示をかけられている可能性がある。」

「なぜそう言い切れると?」

「そうでなければ、あそこまで雁夜に懐くのはおかしい。……確かに以前から雁夜とは、妻が親しかったが…。」

「ですが、仮にも始まりの御三家の血筋でしょう? 暗示に対する抵抗力はあるはずよ?」

「あの子には、まだ魔術とはなんたるか…、そういう基礎を何も教えていないのです。」

「まあ…。」

 アイリスフィールの問いに、時臣は少し苦しそうに答えた。

「それなら、まだ可能性は…無くはないかもしれないけれど…。」

「アイリスフィール!」

「分かってるわよ。セイバー。」

 声を上げるセイバーを、アイリスフィールが制した。

「遠坂の当主。…間桐雁夜との会話の場を設けるということはしないのですか?」

「……人ならざるモノに、話し合いの余地などない。」

「ならば、私とこうして話し合うこと自体、意味はありませんわ。帰りましょう、セイバー。」

「はい。」

「ま、待ってくれ!」

「私は…、アイリスフィール・フォン・アインツベルンとして、そして一人の娘の母として言わせて頂きますが…、あなたは本当に自分の娘の現状を憂いているのですか?」

「なっ…!」

「単にあなたが怖がっているだけなのではないですか? 間桐雁夜という存在に…。」

「馬鹿な! 私が…、あのような落伍者になど…。」

「そうして彼を見下し、そうして恐れて、同じ共感を得られる仲間が欲しかった。違いますか? ライダーではなく、私達に話を持ちかけたのも、そのためではありませんか? あなたが魔術師として己を律する態度を悪いとは思いませんが、今一度……考えてはどう?」

「では、あなた方は恐れないというのか? 間桐雁夜という存在を!」

「ええ。まだ、得体が知れないとは思いますが、そこに恐れはありませんわ。」

「私も同様です。」

「っ…、もし…、もしあの人ならざるモノの力が、一般の人間に向けられたとは考えないのか?」

「彼は、その力を力無き者達に向けるような外道ではないと、私は考えています。」

 苦し紛れに出した可能性について、キッパリと言うセイバーに、時臣は今度こそ言葉を失った。

「確かに、何度も彼のサーヴァントであるバーサーカーに阻まれたりもしましたが…。私は、アインツベルンの領地の森で見た間桐雁夜という人間からはそのような外道な行いをする気配は感じなかったのです。そして、彼はバーサーカーを見事制御し、キャスターが召喚した巨大な海魔を打ち倒す大きな痛手を負わせました。キャスターの討伐においての実際の大きな功労者は間違いなく、間桐雁夜とバーサーカーでした。そのように、正しきことに力を振るう者を、なぜなじることができるのです?」

「お話は以上ですわね。では、失礼します。」

 アイリスフィールが椅子から立ち上がって、セイバーと共に去って行った。

 残された時臣は、二人が去った後、目の前の机を両手の拳で叩いて、ワナワナと震えた。

「……なぜだ…、なぜなのだ! なぜ雁夜を…あの落伍者をなぜ! 人にも劣る狗が! 私は間違っていない! 間違っていないのだ! 私は、私は私は私は私は私は私はぁあぁあああああああああああああ!!」

 一度せき止めを失い、流れ出た激情は、止められず、たった一人の対談の場に空しく響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 

「こういうのって…、ざまぁって、やつ?」

「……ちょっと前の俺なら、泣いて喜んだだろうな。」

 昼食中に、ざっくりとだが、ツツジから、時臣の失策の過程を聞かされた雁夜は、どう反応したいいか分からず半笑いだった。

「今は?」

「…なんか微妙な気分。心が晴れるでもないし、胸くそ悪いとも違う。」

「おじさん。お代わりいる?」

「あ、お願いするよ。」

「最近、食欲増したね。」

「ああ、なんか異様に腹が減るんだ…。まさかこれもバオーの影響か?」

「うーん。膨大なエネルギーを消耗するって意味じゃ、栄養分が必要だけど、もしかしたらバーサーカーとの繋がりで消耗してるからじゃないかな? ご飯食べて回復できるなら、健康になってる証だよ。」

「はい。おじさん。」

「ありがとう、桜ちゃん。」

 受け取った茶碗のご飯を、雁夜はガツガツと食べた。

「食欲旺盛なのはいいけど、そろそろ冷蔵庫が空になりそうだから、買い出しに行かなきゃ。」

「この近所じゃ商店がないからな…。」

 間桐の影響かは不明だが、近所にはそういう商店は存在しない。ちょっと遠くに行かないといけない。

「ご飯の後で、買い出しに行ってくるよ。桜ちゃんも一緒に。」

「待てよ。俺も行くぞ。荷物持ちぐらいする。」

「雁夜さん、他の魔術師に狙われてるんだから、隠れてた方が良いよ。またアサシンみたいなのが来ても困るし。」

「あの夜全滅させただろ?」

「もしも…のことがあったら、それじゃあ手遅れなの。だから、ごめんね。」

「ちぇ…。」

「お金は?」

「あっ。」

 桜の一言で、二人は声を揃えた。

「……ジジイの懐の金使おう。」

「どこにあるのか知ってるの?」

「……悪い…。」

「桜、知ってるよ。」

「桜ちゃん、ナイス!」

 二人は揃って桜に親指を立てた。

 

 その後。

「じゃあ、いってきまーす。気をつけて。」

「そっちこそ、桜ちゃんを守れよ。」

「分かってるって。」

 雁夜に見送られ、ツツジは桜と共に買い出しに行ったのだった。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

 二時間後……。

「ふう、これだけあれば十分だよね。」

「桜、喉渇いた…。」

「じゃあ、そこのフルーツ屋さんで買おうか?」

「うん。」

 二人は、スムージーを売っている果物屋でジュースを買った。

 そしてカップに刺さったストローからチューチュー吸っていると(結構吸う力いる)……。

 

「おい、そこな小娘共。」

 

「……誰のことだろうねぇ? 桜ちゃん。」

「分かんない。」

「貴様らだ、貴様ら! 我が直々に声をかけたというのになんだその態度は!」

「……逃げようか。」

「うん。」

「こら、逃げるな!!」

 ツツジが桜を抱き上げ、買い物袋を全て腕にぶら下げて、猛ダッシュ。

 その後ろを、金ぴか鎧ではなく、私服姿のアーチャーが追いかけた。

 そしてしばらく走って、誰もいない寂れた公園に二人が入って立ち止まった。

 ツツジは、桜を下ろし、公園の端にあるベンチに買い物袋を置いてから、ゼーハーゼーハーっと、息を切らしているアーチャーに向き直った。

「サーヴァントなのに、体力無いんだね。」

「やかましい! 時臣の馬鹿者が我への魔力供給を制限しているせいだ!!」

「この間、食い潰しかけたから?」

「……まあ、いい。雑種共、いや一方はアレと同じ“ゲテモノ”か。……アレよりも醜悪のようだがな。」

「失礼な人。」

「失礼なサーヴァント。」

「黙れ。しかし、アレと狂犬はどうした? まさか怖じ気づいて、あの邸にこもっているのか?」

「ううん。違う。私がお留守番を頼んだだけ。」

 速攻で返されアーチャーは、一瞬言葉に詰まった。

 だがすぐに息を整え、キリッと表情を整えて偉そうに腕組みした。

 普通の人間なら笑えるところだが、アーチャーほどの美しい存在ならば、なぜか絵になる。しかし、ツツジと桜は興味が無かった。

「今すぐに、アレと狂犬を呼ぶがいい。」

「雁夜さんとバーサーカーを? どうして?」

「さもなくば、貴様らの首をあの邸の門に飾ることとなろう。そうなりたくなければ、大人し…、ゲフッ!!」

「わー、ツツジさん、つよーい。」

 アーチャーがすべてを言い切る前に、距離を詰めたツツジによる、真空飛び膝蹴りがアーチャーの顎にクリーンヒットした。

「き、貴様…小娘! 王たる我にこのようなことを!」

「あー、さすが英霊。頑丈。」

「なっ、グッ、ガハッ、グワっ! やめんかーーーー!!」

 アーチャーは、自身の自慢の宝具を発動する前に、ツツジに散々殴られ蹴られ、それは最後にアーチャーが魔力解放を行ってツツジを吹っ飛ばすまで続いた。

 ツツジは、吹っ飛んだが、宙で回転して体制を整えて地面に着地した。

「ようするに…、この間、雁夜さんに負けたから、挽回するためにもう一回勝負したいってことでしょう?」

「黙らんか、ゲテモノ小娘!! その口を引き裂いてくれるわ!」

 アーチャーが王の財宝を展開し、ツツジに投擲した。

 しかし無数の武器の群れを、ツツジは軽々と避けた。

「ゲテモノが! ちょこまかと!」

「適当に投げてちゃ当らないよ。」

 ツツジは、そう言いながら、ヒョイヒョイと余裕で全ての攻撃を避けた。

 やがて、攻撃が止まった。見ると、アーチャーの姿が消えかけていた。

「チィっ! 真(まこと)につまらん男よ! 時臣め!!」

「じゃあね。サーヴァントさん。」

「我は、アーチャーぞ!!」

 ヒラヒラと手を振るツツジと桜に、カッとなったアーチャーが叫んだ。

「じゃあ、アーチャーさん。このことは、ちゃんと雁夜さんに伝えておくから、準備が出来たら家に来るといいよ。」

「うるさ……。」

 アーチャーは、最後まで言えないまま、霊体となって消えた。

 アーチャーが消えたのをしっかりと見届けてから。

「じゃあ、帰ろうか。」

「うん。」

 二人は買い物袋をもって、間桐邸に帰ったのだった。




セイバーが雁夜のことを評価しすぎているかな?

時臣は、最後にあんな最後を迎える前に、一回、自分が落伍者だと断じた相手に負けたらどうなんだ?って感じで書きました。
何事も優雅にな時臣はログアウトしました……。はい。

ツツジにボコボコにされたアーチャーですが、ツツジにもしも魔術回路があったなら、殴り殺されてたと思います。


2018/12/17 20:23
※感想でのご指摘ありがとうございます。言葉って難しいですね…。
人格者を、外道に変えました。

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