その差出人と内容は……。
「まったく…、あれほど殺すと息巻いておいて、あの程度とはな…、時臣。」
「……。」
アーチャーからの嘲りを受けても、時臣は黙っていた。
しかし、やがて時臣を嘲るのに飽きたアーチャーが、部屋を出ていった。
「しかし、ゲテモノの奴、自身に宿るおぞましき力を自我意識がある状態で扱えるようなっているとはな。あれは、もはや死徒などという範疇では収まるまい。」
「完全無欠な生物などこの世にはいない。心臓を潰してもダメなら、脳を潰せばおそらく死ぬ。」
アーチャーが部屋の外に待機していた綺礼に話を振ると、綺礼はそう答えた。
「それをしようとして、アサシンを使い潰し、小娘共に邪魔をされただけで、雷撃(らいげき)を受けて死にかけたおまえが、今度こそできると?」
「あれはもはや人間ではない。ならば、その魂を速やかに救済し、魂に安楽を与えることは、代行者たる私の務めだ。」
「ほう? この期に及んで、己に課された責務を全うしようとするか?」
アーチャーがおかしそうに笑った。
「表面上は、死んだ父に代わり、私が教会を取り仕切っているのだ。無視していては、聖堂教会から何を言われるか分かった物じゃない。」
「ほう? てっきりアレだけのイキの良い…、いや、しぶといゲテモノを嬲り殺すのが楽しいのかと思ったぞ?」
「確かに、殺しがいはあるが…。」
「ならば、アレの目の前で、時臣の娘を殺してやったらどうだ? さぞや怒り狂い、そのゲテモノたる本性を露わにするだろうて。」
「……あのツツジという少女がいる限り、それは無理だ。」
「………………………………アレか……………。」
アーチャーにしてみれば、ゲテモノ呼ばわりしている雁夜以上に忌々しい記憶が残る人物だ。
自分を散々殴り、蹴り、王の財宝の攻撃を軽々と躱し続けた異常な身体能力の持ち主。殴る蹴るの攻撃がしつこかったため、うっかり感情にまかせて魔力解放を行ってしまった相手だ。もし彼女に魔術師の才能があったなら、アーチャーは、彼女に殴り殺されていたかもしれないのだ。
「我の見立てだと、ゲテモノをゲテモノに仕立て上げたのは、あの娘だろう。ゲテモノ以上に、醜悪なモノが宿っている。」
「はあ…。」
「なんだ? その反応は? 我の見立てを否定する気か?」
「いいえ、違う。ただ……、私はあの娘を始末するのは後回しにしたいと考えている。なぜだか分からないが…。」
「ほうほう。綺礼。お前はそう考えるのか?」
「えっ?」
「ゲテモノを生み出すモノを…、放っておくということは、つまりそういうことだ。なんだ? 言われないと分からんか?」
クックッと笑うアーチャーに、綺礼は黙った。
「お前は、あの娘が生み出すゲテモノを殺すことに楽しみを見いだしているのだ。あの間桐雁夜というゲテモノが死ねば、あの娘は次のゲテモノを作るだろう。そうすれば、次から次に…、お前は代行者という任のためと称して、ゲテモノとなった雑種共を殺せる。ゲテモノは、そう簡単には死なんし、妙な芸(※雷撃など)までするからなぁ。お前としては、これ以上に手応えのある獲物もいまい。」
「っ…!」
「我としては、あの娘をゲテモノ同様に始末しておきたかったが。気が変わった。お前のために取って置いてやろう。」
「……ありがとうございます。」
綺礼は、アーチャーに一礼した。
***
「…っくしゅん!」
雁夜とツツジは、二人同時にくしゃみをした。
「おじさん、ツツジさん、風邪?」
「んー。なんか今…。」
「噂されたような?」
雁夜とツツジは、顔を見合わせた。
二人は、見合わせていた顔を逸らし、話の続きをし始めた。
「…で、まあ、なんていうか、時臣の奴がおかしくなってたんだよ。」
「……。」
おかしくなっていた時臣のことについて話し合っていたのだ。桜は、無表情で黙って聞いていた。
「桜ちゃん…。どうする?」
「どうするって?」
「いや……。ああ、いいや。ごめん。」
どうやら桜にとっては、時臣がおかしくなったことについてはどうでもよかったらしい。
「地下室に隠れてて、匂いを感じたけど……、逆恨みしてるんだね。時臣さん。」
「俺に? なんでだよ? どういう心境の変化だよ?」
「私がバオーをあげる前の自分をよーく思い出したら? ああいう心境だと思うよ。」
「ぶはっ! おまえ!」
もはや雁夜にとっては、黒歴史となっている、時臣への逆恨みしていた頃を掘り返され雁夜は吹いた。もしちょっと昔の余命一ヶ月だった彼ならば、確実に吐血していただろう。
「けど、本当にどうしたんだろうね? 何があったのか気になるところだけど。もしかして、セイバーさん達との対談が上手くいかなかったとか、雁夜さんに殴られたこととか…、自分が雁夜さんを見下してるのに負けてるの悔しいのかな?」
「それ…どーなんだか。」
「ま、とにかく、何をするか分からないから気を抜かない方がいいと思うよ。下手すると桜ちゃんにまで危害を与えるなんてこと…。」
「あいつ、桜ちゃんが自分のところに帰りたがってないって言ったら、メチャクチャ否定してたもんな…。マズいな…、あの様子じゃあり得なくない。」
あの骨の髄まで魔術師だった男が、あそこまで動転していたのだ。下手をすると言うことを聞かないからと桜に何かしらの罰を与えようとするかもしれない。
それだけはなんとしてでも防がなければ!っと、雁夜は焦り、そして守らなければと決意した。
ふと気がつくと、桜が雁夜の傍に来ていて、雁夜の服の袖を掴んでいた。そして、雁夜の顔をジッと見上げていた。
「桜ちゃん。だいじょうぶだからな。俺達が君を守るから。」
「うん…。」
雁夜が安心させるように微笑むと、桜は俯き小さく頷いた。
雁夜の服の袖を握っている手が微かに震えていた。
コレ…、もし父親にまで手を上げられたら、本気で二度と立ち直れないほどぶっ壊れないか!?っという危機感を、雁夜とツツジは感じた。
「雁夜さん!」
「ツツジ! 絶対に時臣に勝つぞ!」
雁夜は、桜に掴まれてない方の手でツツジと拳を合せて誓い合ったのだった。
その後、フルフルと小さく震えている桜をなだめるために抱きしめたり、撫でたりしてたら、部屋の窓が割れた。
「なんだ!?」
「…鳥だ。ん? 鳥? あれ? 宝石で出来てる?」
「翡翠でできた鳥だって?」
「なんか足に縛ってある。手紙かな?」
部屋の中に侵入してきた、その異様な鳥が運んできた手紙をツツジが取って広げた。
「……ねえ、雁夜さん。」
「なんだ? 何が書いてあった?」
「これ…、時臣さんからだよ。」
「はあ!?」
「………教会に、桜ちゃんと来いって。」
「何考えてやがんだ! 無視だ、無視! こんな時に!」
「……続きがある。もし来ないのなら、お前の兄を殺すって…。」
「アイツ(鶴野)…、いつのまに…。」
完全に忘れていた存在が、いつの間にか時臣の手に落ちていたことに驚いた。
「どうする?」
「……。」
「……桜ちゃん?」
すると桜がクイクイッと雁夜の服を引っ張った。
見ると桜は雁夜をジッと見つめてきていた。
「……行く…のか? 行ってもいいのか? 本当に?」
「…うん。私、直接、話がしたい。」
「でも、アイツ……。」
「そしたら…、守ってくれるよね?」
「! 当たり前だ!」
「…よかった。」
強ばっていた桜の雰囲気が、和らいだ。
「私は、どうしたらいい? 手紙には、二人に、来いってしか書いてないけど…。」
「教会の外で待機しててくれるか? 来るなっとは書いてないんだろ?」
「うん。分かった。」
「よし。じゃあ、準備して。行くぞ!」
「決戦だー!」
「おー。」
三人は、オーッ!と手を上げた。
***
そして、準備を整えた三人は、教会にやってきた。
ツツジは段取り通り、教会の外で待機し、雁夜は、桜の手を握って教会の扉の前に立った。
「……桜ちゃん。もう一度聞くけど、本当にいいんだね?」
「…うん。」
「もし何かあったら…、おじさん、時臣を…。」
「分かってる。」
「そうか…。じゃあ…、行こう。」
雁夜は、空いてる手で教会の扉を押した。
キイッと音を立てて開いた扉。
中は、薄暗い。
二人は、周りを警戒しながら、ゆっくりと教会の中に入った。
「桜!」
「……えっ?」
そこに響いたのは、雁夜にとって、聖杯戦争に加わることになった大きな理由…、その人の、声だった。
声がした方を見ると、桜の母・葵が、時臣と共に祭壇前に立っていた。
葵さん登場。
時臣は、死んでません。
葵を連れてきたのは、桜を連れ戻すためです。母親になら心を開くと思ったからです。
でも……?
次回で、アーチャーが裏切る。