vsアーチャーだけど、3対1という状況ですが、アーチャーならおそらく恐れることなく戦いをすると思って……。
あと、首切断、表現有り。注意。
間桐邸に撤退した後、葵の証言で鶴野の居場所が分かり、今まで時臣が穴熊を決め込んでいた隠れ家にバーサーカーを行かせて気絶していた鶴野も一応連れ戻した。なお、目を覚ました彼は、雁夜の姿を見るなり悲鳴を上げて自室に逃げ込んだのだった。
「あの人、きっと雁夜さんがバオーだってこと気づいてるね。」
「見てたのか?」
まあどうでもいいが、っというのが二人の感想だ。
「おじさん。鳥が来てるよ。」
「えっ? 使い魔か? また…。」
時臣は、すでにこちらの手の中だ。ならば別の陣営が送ってきたのだろう。
ついさっき時臣を裏切ったアーチャーと綺礼ではないだろう。ならば、残るは、セイバー陣営とライダー陣営だ。
ふすまを開け、縁側にいる鳥の使い魔を出迎える。
鳥の足には手紙がくくりつけられていた。
ツツジがそれを取って広げ、三人で手紙の内容を見た。
「……ライダーが…。」
そこに書かれていたのは、ライダークラスこと、征服王イスカンダルがアーチャーに倒されたという知らせと……。
「あの女の人…、さらわれたんだ。」
綺礼に襲撃され、アイリスフィールを奪われたことが記されていた。
「えーと…、聖杯の器たる彼女を取り戻すため、協力願う…か。」
「せいはいのうつわ? あの人、人間じゃないってこと? まあ、ちょっと変わった匂いがしてたけど。」
いきなりの救援要請に、三人はウーンっと悩んだ。
「…よし。」
「どうするの?」
「…助けに行くぞ。」
「いいの?」
「ああ。バーサーカーの朋友だぜ? 彼女に死なれたら、バーサーカーの悲願は叶わない。時臣もこうして捕まえられたし、とりあえず葵さんと一緒に地下牢にでも閉じ込めておいて、行こう。あ、もちろん蟲蔵じゃないところに。」
「ますたぁぁぁ…!」
「こら、抱きつくな、硬い。」
実体化したバーサーカーが雁夜に抱きついて泣いた。
「おじさん…。行っちゃうの?」
「ごめんな。桜ちゃん…。」
「…いいよ。でも、必ず、帰ってきてね?」
「もちろんだよ。」
桜の頭を雁夜は撫でた。
「私は、どうしたらいい?」
「あー、戦力としてお前には来て欲しいところだが…、桜ちゃんを守るのと、時臣達の見張りのために留守番よろしく。」
「りょうかーい。」
悩みながらそう言った雁夜に、ツツジは、敬礼しながら返事をした。
***
手紙に指定されていた場所に、雁夜はバーサーカーを連れて、待っていたセイバー達と合流した。
「誰だ?」
雁夜は、切嗣と面識がないため、思わずそう聞いてしまった。
「ええっと…、あなたは知らなかったでしょうが…。」
「衛宮切嗣。セイバーのマスターだ。」
「はっ?」
つまりセイバーのマスターは、アイリスフィールではなく、衛宮切嗣という男だったのだ。
聖杯戦争において、マスターである自身を隠すのは、まあ常套手段だろう。雁夜は知らないことだが、ケイネス達が、ケイネスとソラウでランサーの令呪を分割して管理していたように他の陣営が策を講じていないのはおかしい話であった。
雁夜は、先ほどから切嗣から自分に向けられる視線に、居心地を悪くした。
かなり隠しているようだが、自分に対する敵意の濃い匂いも感じる。
「…セイバーから話は聞いてないのか?」
「聞いてる。お前達は、聖杯戦争を降りるつもりらしいな。」
「時臣は捕まえた。だから俺達には、聖杯戦争に加わる理由はなくなった。本当ならその時点で降りるつもりだったが、うちのバーサーカーの朋友の頼みだ。付き合ってやるよ。」
「ランスロット…。すまない。」
「いいえ。王よ。あなたへの贖罪になるのならば、私はこの剣を振るいましょうぞ。」
「んっ?」
「あー、今のバーサーカーは、狂化を自由に解いたりかけたりできるんだ。」
「それは、もはやバーサーカークラスといえるのか?」
「それについてはツッコむな。俺にだってよく分からん。」
さすがにツッコんできた切嗣に、雁夜は聞くなという風に答えた。
そして、今までのことをお互いに話した。
セイバー達は、切嗣の助手だった舞弥を殺され、セイバーがアイリスフィールをさらった綺礼を追ったものの、ライダーを倒して戻ってきたアーチャーに妨害され、追跡に失敗したことを語ってくれた。
切嗣は、アイリスフィールをさらった綺礼達の居場所をある程度は特定していた。
冬木市民会館。
ここだと。
魔術的な要素など配慮されず作られたコンサートホールだが、奇しくも冬木における、第四の霊脈となっている場所だ。
そこから魔術信号が打ち上げられたのだそうだ。魔術に疎い、バーサーカー陣営は気づかなかった。
「なるほど…。それで、俺達は何をすればいい?」
「セイバーと共にアーチャーを攻撃してもらいたい。」
「あんたは?」
「僕は、僕のやるべき事をする。」
その言葉に、雁夜はなにか違和感を覚えた。
「なあ、衛宮さんよ、あんたあの女の人を助ける気はあるのか?」
「あるが?」
なぜだろう?
この例えようのない違和感。
そして風に乗って匂う、微かな死の匂い……。
「まさか…。」
「どうした?」
「いや、なんでもない。」
雁夜は嫌な予感を振り払うため首を振ってから答えた。
そしてアーチャーを抜いた、残る二つの陣営が動き出した。
***
冬木市民会館にたどり着くと、まず屋上に目が行った。
「来たか。」
そしてアーチャーが、フワリッと飛び降りてきた。赤きマントをなびかせ、夜の闇の中で、コンサートホールから漏れる光を浴びて輝きを増す黄金の鎧を纏って。
「アーチャー! アイリスフィールを返すのだ!」
「おお、セイバー。よくぞ参った。待ちかねていたぞ。」
アーチャーは、それはそれは美しく笑った。
「こっちのことは無視かよ…。あっ。」
っという間に、切嗣が走り出し、アーチャーの横を駆け抜けていった。アーチャーは、まったく眼中にないのか無視していた。
「どういうつもりなのです?」
「アレについては、綺礼に任せる。そういう手はずだからな。」
「バーサーカー!」
バーサーカーが剣を抜き、アーチャーに迫った。
「狂犬。貴様の首を贄として聖杯に捧げ、我とセイバーの婚儀のための祝杯にしてやろう。」
向かってきたバーサーカーの攻撃を身を翻しながら避けつつ、アーチャーが言った。
「なにを!?」
セイバーがいきなりのアーチャーからの婚儀の言葉に惑った。
「セイバー! 我が妻となれ!」
「断る!」
「ふっ、そう言うと思っておったわ。だがな、セイバー…、お前はなにゆえ聖杯に縋る?」
「決まっている! 私は、あの時の敗戦を覆すため…。」
「そんなことにいかほどの価値があるというのか?」
「なんだと?」
「国など、いずれは尽きうる夢のような物。なにゆえそれに縋る? なにゆえ執着する? そこの狂犬…、かつてお前を裏切った忠臣の醜態を見てなお立ち上がる?」
「貴様になど騎士の本望など分かるまい!」
「ああ、分かるぬなぁ。我はもとより王であるがためにな。そもそも、お前はこの聖杯戦争がいかなるものか分かっておらぬだろう?」
「なに?」
「そもそもこの冬木の儀式はな、七体の英霊の魂を束ねて生け贄とすることで、“根源”に至る穴を空けようとする試みだ。“奇跡の成就”という約束も、英霊を招き寄せるための餌でしかない。その餌にまつわる風聞だけが一人歩きした結果、今の聖杯戦争という形骸だけが残ったのだ。」
「馬鹿な!?」
「信じられられんか? だがお前のマスターと大事にしていた人形は知っていることぞ?」
「切嗣とアイリスフィールが?」
「これは、遠坂の当主たる時臣を師としていた言峰綺礼からの確かな情報だ。間桐、遠坂、アインツベルンとそれに連なる者達のみ許された秘密ぞ!」
「嘘をつくな、アーチャー!!」
「そこなゲテモノは、知らんかったようだが…、ゲテモノに始末された間桐の当主は知っていたはずだ。」
「あのジジイ……。」
「では…、初めから切嗣は…。」
「我もお前も…、そしてお前のかつての忠臣たる狂犬も、始まりの御三家の魔術師が求める根源へ至るための贄だったということぞ。」
「っ…!!」
「セイバー! 剣を落とすな!」
セイバーが構えていた剣を握る手を下ろし、膝をついたため、雁夜が叱咤した。
「騎士王と名乗るお前の誓いと願いとやらも、しょせんはその程度ということだ。セイバー。そんなものに縛られる必要はない。」
「あぁぁぁ、さあぁぁぁ!」
「ランスロット…、私は…私の願いは…。」
「違うぅ!!」
「ランスロット?」
「本当に…困った方だ。」
バーサーカーは、狂化を解いて語り出した。
「あなたと懐いた…、あの誓いも理想もすべては淡雪の夢などではありませんよ。たかだか、王の中の王を名乗るだけの半神などの言葉に惑わされ、消える理想ではありませんでしょう!」
「ランスロット…! そうだ、私は!」
「ええい! 忌々しい犬が! 我の前で自らの力を高めていた狂化を解いたことを悔いるがいい!!」
王の財宝が発動された直後、バチンッ!と放電が走り、王の財宝が全て弾き飛ばされた。
「……俺を忘れるなよ? 自称王様さん?」
雁夜の体かほとばしる放電。
たちまち雁夜の姿が、武装現象へと変異した。
「雑種に劣る…ゲテモノが…!」
アーチャーの手に剣が現れた。
だがそれは、剣というには異様だった。
柄があり、鍔があり、刃渡りはおおよそ長剣の程度。だが肝心の刀身にあたる部分が刃物として形状を逸脱しすぎている。
三段階に連なった円形と、その切っ先はらせん状に拗くれた鋭い刃、三つの円形は挽き臼のようにゆっくりと、交互に回転を続けている。
それは、“剣”という概念が現れるよりも前のモノだ。
それは、ヒトより以前に神が創り出した神の業の具現。
その武器からほとばしる魔力の量は…、あり得なかった。
「この我が、これを貴様のような凡俗に向けることとなろうとはな…。」
だが、その武器…、『対界宝具』が本来の威力を発揮することはない。
なぜなら、先頃のライダーとの戦いで一度放たれていたからだ。
この宝具には、膨大な魔力を必要とするうえ、本気の本気で完全出力で放とうものなら、地球どころか宇宙とかも含めて世界に大ダメージがある。それほどに強力だが、神秘が失われつつあり、源であるエーテルが少なくなった現在ではその完全出力での放出はほぼ不可能である。だが、それでもライダーの固有結界である軍勢を全滅させたほどの威力はあるのだ。
「まずい…、アレは解放されてはならない!」
「王…。」
「ランスロット…。雁夜殿!」
セイバーが自らが手にするエクスカリバーを握り直し、雁夜に話しかけた。
匂いでセイバーが言わんとしていることが分かった雁夜は言葉を発さず、頷いた。
セイバーが剣を掲げる。そこに凄まじい光が膨らんでいく。
「ほう、エクスカリバー(約束された勝利の剣)で、我に太刀打ちしようとするか?」
聖剣の輝きによって照らされるセイバーの美しさに、ほぅっと…息を漏らすアーチャーの頬を、投げられた、剣の刃が切った。
途端表情を一変させたアーチャーが、かつてバーサーカーに奪い取られた宝具の剣を投げたバーサーカーを睨んだ。
「どこまでも…、我を怒らせる天才よのう、狂犬!」
「エクス…カリバーーーー!!」
「エヌマ・エリシュ!」
セイバーが放った聖剣の光の破壊を、乖離剣エアで迎え撃つアーチャー。
二つの巨大な力がぶつかり合う。
光と光がぶつかりあった瞬間の、白…。その中から、青白い腕が伸び、肉薄になっていたアーチャーの首を捉えた。
ぁ…が…!
ズズッとゆっくりと…っと錯覚しているだけかもしれないが、雁夜の腕の刃が、アーチャーの首を切り裂いていく。
お…の……れ…!
心の中ではそう悪態を吐きたかった。さらに反撃することが出来なかった。なぜなら首を落とされるまでの時間が、乖離剣エアにより歪められ、ゆっくりと体感する状態に陥っているのに、自身はそれについていくことができない。だが雁夜は、その中で動いている。
雁夜の中に潜む寄生虫バオーが、魔術師という不確定要素を手に入れた結果、普通の人間に寄生したのではあり得ない段階へと成長した証だった。しかし、そのことを雁夜自身も、誰も知るよしもない。なぜなら、この段階を必要とする敵は…、今まさに葬られるのだから。
首があと少しで切り落とされるところまで刃が食い込んだとき、最後にアーチャーが思ったことは…。
最後に、セイバーの姿を、この目に焼き付けておきたかった…。
で、あった。
アーチャーの首が落ちたとき、狂っていた時間が元に戻り、白かった景色が色と景色を取り戻した。
アーチャーの胴体がうつ伏せに倒れ、首から流れる血が道路を染めた。
「……やった。」
大きな力を解放し終えたセイバーが剣を杖にしてふらついた。
やがてアーチャーの死体が消えていった。
ドクンッ
雁夜は、ビクッと震えた。
「雁夜殿?」
その大げさな反応にセイバーが訝しんだ。
その直後、雁夜は、弾かれたように走り出し、市民会館に入って行った。
「雁夜殿!?」
「マスター!」
セイバーと、バーサーカーもその後を追った。
コンサートホール…、であった場所。
そこには、黒い泥と、炎の中に浮かぶ、黄金の杯があった。
それが聖杯だと、理解したときだった。
セイバーの頭に切嗣の声が聞こえた。
聖杯を破壊しろ…と。
アーチャーのセイバーへの揺すりの言葉は、メチャクチャ悩みました……。
結局、この聖杯戦争に呼ばれた理由が根源を求める魔術師達による企みで、最初から願いを叶えてやるつもりはなかったのだということを材料にしました。
ランスロットの励ましも悩みました。私の執筆力ではこの程度です……。
あと、アーチャーとの決着をあっさりにして申し訳ないです。
でも、あのとんでもない一撃を乱発されたら、セイバーが倒される可能性があるし、バーサーカーじゃ防げないし、バオーでも無理だから、二つの力がぶつかった瞬間の歪みに乗じて、魔術師という不確定要素により進化したバオーの新たな力により、時間の歪みの影響をほとんど受けず、アーチャーの首を切り落とさせました。
まあ、もっとも、この新しい力については、ギルガメッシュほどの強敵が現れない限りは使われないので、おそらくこれっきりでしょうね。
次回、回避できない悲劇の運命が動き出す…予定。