運命は変えられない……。
っというのが、筆者が出した結末です。
「なっ!?」
その命令が下されたと同時に、セイバーが自分の意思に反して、剣を握り振り上げようとしていた。
必死になってそれに抵抗する。
これは、令呪による絶対的な服従。その強制力は凄まじい。
「王!?」
「イヤだ…。聖杯は…、あなたの悲願では!? 切嗣!!」
『バーサーカー!』
すると、念話に近い形で、雁夜がバーサーカーに語りかけた。
「マスター?」
『セイバーに、聖杯を破壊させるな!』
「えっ?」
『急げ! あれから、とんでもない恐ろしい“匂い”がしている!! アレを破られたら、この地がどうなるか分かったものじゃない!!』
「は、はい! 王よ…、申し訳ありません!!」
「ランスロット! 私を止めろ! 雁夜殿! 私を…!」
聖杯を破壊しろという令呪の命令により、狂化が解けているバーサーカーが吹っ飛ばされ、聖杯の近くに倒れた。
炎を揺らす泥に触れたとき、バーサーカーは、そこにある“とてつもない悪意”を感じ取った。
「これは…!」
『バーサーカー! 令呪をもって命ずる! 聖杯を守れ!!』
「っ!!」
令呪の強制力を受け、狂化したバーサーカーが立ち上がり、聖杯に迫ろうとするセイバーの前に立ちはだかった。
雁夜が、腕の刃をもってセイバーに躍りかかる。
令呪の命令に操られているセイバーが剣で迎え撃った。
宝具にて、聖杯を破壊せよ
重ねて命じられた令呪による強制力により、セイバーが魔力解放を行い、雁夜を吹っ飛ばした。
そしてエクスカリバーを振り上げ、エクスカリバーに力を溜め始めた。
『ば、バーサーカー! 重ねて命じる! 聖杯を守れ!!』
「ぁぁぁあああ、さぁぁああああ!!」
「ランスロット!!」
力の放流に逆らい、バーサーカーが一歩また一歩と、泣いているセイバーに近寄り、止めようとする。
セイバーの魔力解放で吹っ飛ばされ、全身の骨をたたき折られた状態から回復した雁夜は、気づく。ボス席にいる、傷ついた切嗣が、その右手の最後の令呪を使おうとしていることを。
「第三の令呪をもって…、重ねて命ず!」
雁夜の刃が切嗣と捉えるよりも早く、切嗣の右手にある最後の令呪の一画が消えようとしていた。
「セイバー! 聖杯を破壊しろ!!」
途端、雁夜の後ろの方で、エクスカリバーによる力の解放が起こった。
眼前でエクスカリバーの力をもろに受けたバーサーカーが、光の中に消えていく……。
「ランスロットォォォォオオオオ!!」
「申し訳…あり、ま、せ…ん……王……。」
バーサーカーが頭に被っていた兜が、まず砕け、その下にある顔が露わになり、泣き叫ぶセイバーに向かって微笑みを浮かべながら、バーサーカー…、ランスロットは、エクスカリバーの力の放流に飲まれて完全に消えた。
バーサーカーを飲み込んで、消し去って、なお止まらない光の束は、聖杯を直撃した。
聖杯は、静かに閃光の灼熱の中に消えていった。
それだけでは終わらず、エクスカリバーの力は、市民会館の上階を破壊し、雪崩のように瓦礫が崩れてきた。
そして露わになった夜空……。そこに浮かぶのは、孔(あな)。
深山街西端にある円蔵山の地下に秘められた『大聖杯』の魔方陣とを結ぶ、空間のトンネル。
六十年に亘り、地脈のマナを貪り続け、今また更に六人の英霊(マレビト)の魂を受け止めた大聖杯の内にある肥大化した途方もない魔力の渦。
それが黒々とうねっている。
止められなかった…
雁夜は、その光景を見つめながらそう思った。
これから起こるであろう、恐ろしく残酷な悲劇を……匂いとして感じていながら、止めることができなかった己の無力さを痛感した。
そして、切嗣の失策を……痛恨のミスを思い、ボス席にもたれている切嗣を見た。
切嗣は、破壊すべき対象を間違えたのだ。
本当に破壊すべきは、空に空いている、あの孔の方だったのだ。
聖杯は、あの空にある孔の中にある“それ”をせき止めておくための、制御装置に過ぎなかったのだ。
それを失えばどうなるかなど、火を見るよりも明らかだ。
そして、孔…、黒い太陽…、黒い魔力の渦が溶け出す。
『この世全ての悪(アンリマユ)』の呪詛を受け、染まった黒い泥。
すべての生命を焼き、裁く、破滅の滝が市民会館の上に降り注いだ。
膝を突き、静かに泣いていたセイバーが泥に触れた瞬間、分解され泥と一体化した。
泥は川となり、周囲一帯へと流れ出た。
その頃には、雁夜は、切嗣を置いて高所へ逃れていた。
自分を追ってくる泥から走って、高所から高所へ飛び、逃れる。
「おじさん!」
高所から、周囲一帯を飲み込み、生きとし生きるモノ全てを飲み込み、殺していく様を、眺めていたときだった。
そこに桜の声が聞こえたので、そちらを見ると、反対側の高所に時臣と葵と鶴野をヒモでくくって担いでいるツツジと、その傍らでピョンピョンと跳ねて雁夜を呼ぶ桜がいた。
どうやら、あちらも泥から逃れため避難してきたらしい。
雁夜は、そちらの高所へ跳んで移動した。
そして、雁夜は、武装現象を解いた。そして、力が失せたように両膝をついた。
「おじさん? どこか痛いの?」
「………止められなかった。」
「こんなの…、たった一人でどうにかするって方が無理だよ。」
ツツジが、すべてを焼き払う火災を発生させる泥を眺めながら、そう言った。
やがて、孔は閉じた。
だが泥が残した火災は、広がりに広がっていき、勢いを殺すことなく、逃げ惑う人々を黒い炭にしていった。
雁夜達は、ただ見ていることしかできなかった。
後に残されたのは、紅蓮の地獄。
生きたモノの気配の匂いがほとんど残っていない…、焼け野原と、焼けて壊れた家の瓦礫の山。
阿鼻叫喚の声が、匂いとなって、感じ取れる。
雁夜は、耳を塞ぎ、震えていた。
桜はそんな雁夜の傍らに寄り添っていた。
ツツジは、黙ったまま、耐えるように目を閉じていた。
夜の闇を爛々と照らす紅蓮の炎は、夜が明ける頃には、ようやく勢いを失っていった。
炎が舞あげる、焼けた空気に乗って、ツツジは、受肉したアーチャーと、復活した綺礼と、生存していた切嗣の匂いを感じ取った。
雁夜は、自ら感覚を閉ざそうと躍起になっているため気づいていない。
雁夜に捨て置かれた、この惨状の原因を起こしてしまった者……、衛宮切嗣は、たった一人で炎に焼かれた景色の中を、文字通り抜け殻のようにゆっくりと歩いている。
綺礼達は、そんな切嗣を見つけたようだが、もう気にもとめる必要もないと判断したらしく、その場から去って行った。切嗣の方は、綺礼達に気づいていなかった。
どれくらい時間が経っただろう…、やがて、小さな生存者の匂いを、濃厚すぎる焼けた死の匂いの中から見つけ出し、その小さな生存者を切嗣が見つけた。
そして切嗣は、涙と共に、こう言っていた。
ありがとう。っと。
「……可哀想…。」
それは、誰に向けて言ったのか。思わずそう呟いたツツジにも分からなかった。
色んな結末を考えて……、でも、あの汚染された聖杯を残しててもヤバいし、かといってどうすればいいかも思いつかなかったしで…、こんな結末になってしまいました。
セイバーに殺してもらいたかったバーサーカーだけが、得した?
でもマスターである雁夜の命令を守れなかったから、ダメか……。
切嗣さん…、焦ってたのと、聖杯がヤバいのに気づいたのはいいけど、もうちょっと……なんていうか、あーもう…。
もうすぐ最終回かな……。