頼まれた雁夜おじさんが、キャスター陣営を襲うが……?
原作小説で犠牲になった少女の描写により、グロ注意。内蔵が…。
最後若干ギャグ?
「…ツツジさん?」
桜がツツジに話しかける。
ツツジは、部屋の中で目を閉じて座っているだけだ。
朝からだろうか、ずっとこんな状態だ。
「………最悪な、“匂い”…。」
ソッと目を開け、そう呟く声は、嫌悪感に満ちている。
「におい?」
「ん? 桜ちゃん、別にここが臭いわけじゃないの。ただ……、遠くからね…。」
「とおく?」
「そういえば、雁夜さんは?」
「呼ぶ?」
「……うん。呼んできて。ちょっと、話があるから。」
「分かった。」
『ひぃ…。ぎぃ……』
『よぉし、じゃあ“ミ”はここ、と…』
「……本当に…最悪だ。」
その“声”すらも、そして、その声が発せられている場所で行われていることすらも“匂い”として感じ取っているツツジは、桜が雁夜を呼びに行った後、そう吐き捨てるように呟いたのだった。
***
桜に呼ばれてきた雁夜が、部屋に入ると、ツツジは、少し難しそうな顔をして雁夜を見た。
「雁夜さん。あなたは、魔術師の倒し方を知ってる?」
「急になんだ? 藪から棒に…。」
「もし知ってるなら…、教えて欲しいな。」
「どういうつもりだ? 聖杯戦争には、俺の代わりに桜ちゃんを守ってくれても参加はしないんだろ?」
顔をしかめる雁夜に、ツツジは、困ったように自分の頬を指で掻いた。
「…消してしまいたい…、匂いが気になって仕方なくて…。」
「におい? どういうことだ? それに、消すだって?」
「雁夜さんは、まだ日が経ってないから分からないね。分かるようなったら……、きっと、あなたが殺したジジイとか、蟲のいた蔵以上に最悪な匂いを感じるかもしれない。」
「……ツツジ…、君は…。」
「で、教えてくれる? 魔術師を倒す方法を。」
「……俺が行こうか?」
「えっ?」
「相手が魔術師なら、同じ魔術師で対抗した方がいいんじゃないか? ツツジは、魔術師じゃないんだし。」
「その方が、いいと思う。」
「桜ちゃんまで…。いいの?」
「ああ。いずれにしても俺は、時臣…、桜ちゃんのお父さんに…用があるから、このまま聖杯戦争は続けるつもりだったんだ。体調も良いし、バーサーカーの制御も出来てるし、肩慣らしついでと言っちゃなんだが、やっても構わない。」
「ねえ、ツツジさん……。なにを感じてたの?」
「それは…。」
桜の問いかけに、ツツジは口ごもった。
ツツジは、思わず自分の手で自分の口を塞ぐようにした。
言うべきか…、言わざるべきか…。この最悪な“匂い”を言葉として二人に伝えて良いのだろうかと。
十字架に磔にされたいたいけな少女が、簡単には死ねぬように処置され、腹を割かれてその中の腸をピアノの鍵盤のようにして、その腸を刺激すると悲鳴で音を鳴らすという外道極まりない行いを、濃厚な血のにおいをまとった男が立案し、そして実行。そんな彼のアイディアを高く評価する…、おそらくは、サーヴァント。
目を閉じれば鮮明に感じ取っている匂いが脳内で光景となって現れる。
こんな行いが平然と行われるのが、聖杯戦争なのか……。っという、疑念が湧く。
バオーの、武装現象(アームドフェノメノン)を最初に発動した雁夜を追って、やってきた間桐の屋敷で最初に感じ取った蟲や蟲たちの操り手だったらしい雁夜の言うジジイとやらの匂いも最悪だったが、磔にされた少女に恐ろしい仕打ちをしている男とサーヴァントも別の意味で最悪だ。どっちが上か下かとかじゃない。どっちも最悪。
早く…、早くこの匂いを消したい…!
「…ツジ…、ツツジ。」
「……ハッ。」
声をかけられ、雁夜に左肩を揺すられてツツジは、ハッと我に帰った。
「そんなに…、嫌な“匂い”なのか?」
「……うん。雁夜さん……お願いします。この匂いを消して…!」
ツツジは、左肩に触れていた雁夜の手首を握ってそう懇願したのだった。
ツツジの剣幕に驚いた雁夜だったが、よっぽどのことなのだろうと感じたのか、頷いた。
桜は、無表情だが、どこから心配そうに二人の様子を見ていた。
そして、ツツジは、冬木市の地図を持ってきて欲しいと頼み、だいたいの場所を示してそこへ雁夜がバーサーカーを連れて向かったのだった。
***
ツツジが示した場所の近くまで来たせいか、雁夜は、嫌な感じがした。
「……におい…?」
そう例えるなら、その感覚だろうか。
これが、ツツジが言っていた“匂い”なのか。確かに、この“匂い”は、不快だ。汚物の匂いとも違う、全身の五感を刺激する…異様さ。
しかし、ふと思う。
なぜ、ツツジは、“匂い”として遠くの出来事を感じ取ることが出来るのかと。
今までの話を総合すると、匂いを感じ取るのはバオーの特性らしい。
しかし、ツツジは……。
「ツツジ……、まさかな…。」
それは、帰って問い詰めよう。
そう考え直した雁夜は、不快な“匂い”を辿って、用水路に入っていった。
いつでもバーサーカーを実体化できるように用意して、暗い…中を進んでいく。
しばらく歩いていると、濃厚な血の匂いと共に、微かに声が聞こえた。
よ~く耳を澄ませる。それは、子供のすすり泣く声だった。
少女だろうか。若い声だ。
『はーい。それじゃあ、ワンス・モア・タァーイム』
男の声が聞こえ、その後に少女の泣く声が苦悶の悲鳴変わった。
まさか!っと雁夜は、叫びかけて慌てて口を手で塞いだ。
『ん、ん~? 気のせいか? んじゃ、改めて…。“ド”、“レ”、“ミ”』
気づかれそうになったが、なんとかごまかせたようだ。
だがその後、またも少女の悲鳴が聞こえてきた。
この濃厚な血の匂いといい、この悲鳴といい…、少女がどんな目に遭っているのか…想像したくもない。
ツツジが、あんな必死に“匂い”消してくれと言っていた理由が分かった…。
この惨劇を止めるべく、雁夜は、バーサーカーを実体化させようとした。
その時……。
「不届きなネズミが!」
「!?」
背後から男の声が聞こえ、ハッと振り返った雁夜の顔に向かって、男の大きな手がすぐそこまで迫っていた。
その手を、一瞬にして実体化したバーサーカーが止め、相手の男に拳を振りかぶった。
相手の男は、ローブの布地を宙に浮かせながら、人間とは思えぬ動きで飛び退いた。
「青髯の旦那? ん? 誰?」
「ちっ!」
雁夜は、気づかれたことに舌打ちしつつ、後ろの方に現れた別の男に体当たりして吹っ飛ばし部屋に転がり込んだ。
「!」
そこで見たモノは……。
「う、ぐ…、これは!? おまえがやったのか!?」
その惨状を見て、雁夜は吐き気を堪えつつ、倒れて呻いている男に向かって叫んだ。
「イデデ…、な、なんちゅー馬鹿力だよ、ちくしょう…!」
男は、雁夜の体当たりのダメージが予想以上に大きかったらしく、起き上がらない。
「我が領域に踏み込んだ不届きなネズミめ! そこな子供のように、腸を引きずり出してくれるわ!」
「っ…! バーサーカー! その子を…!」
「! ああー!」
雁夜は、バーサーカーに命じて、惨い状態で生かされている少女にトドメを刺した。途端、床に転がっていた男がオモチャでも壊された子供のように悲鳴を上げた。
「バーサーカー? …おや、つまり、貴様はこの聖杯戦争に参ずるマスターということですか。ならば、ちょうどいい。貴様と貴様のサーヴァントを、私を選んでくれた聖杯の供物とし、その首を我が聖処女に捧ぐとしましょう。」
「簡単に殺せるとは思うなよ?」
「あ、青髯の旦那…。コイツ…、あそこで戦ってた奴の一人じゃね? サーヴァントだったっけ? その二人相手にして暴れてた黒い奴じゃんか。ヤバくね? ってか、なんでここが分かったわけ? ってゆーか、勝手に俺のオルガン壊すなっつーの。」
「おる、がん…?」
さっきまで惨たらしい有様で生かされていた少女をオルガンだと言うのか、この男は…!っと、雁夜の中に怒りがこみ上げてきた。
「バーサーカー! こいつらを殺せ!」
怒りのままに命じると、バーサーカーは、うなり声のような声を上げ、剣を抜いて青髯と呼ばれている男に斬りかかった。
「愚かな…。」
青髯と呼ばれている男が、吐き捨てるように呟いた直後、雁夜の背中と胸に衝撃が走った。途端、バーサーカーが止まった。
「がっ…。」
「ありゃりゃ、あっけねー。」
ようやく起き上がった男が、胸から大量の血を流す雁夜を見て、芝居がかった大げさな仕草と声で言った。
雁夜を襲ったのは、ヒトデに似た海魔だった。青髯と呼ばれる男が召喚していた、この場所を警護していたモノだ。
「ここが我が領域だと言うことを失念していましたね。呆気ない幕切れですが、バーサーカーを先に潰せたのは良いことです。」
胸からの出血を両手で押さえながら、へたり込む雁夜。
し、死ぬ? こんなところで? せっかく健康な体を取り戻し生きながらえたというのに!
雁夜は、あふれ出てくる血を口から流しながら、悔しさに歯を食いしばった。
そして、変化は……突然起こった。
「………ーーーーム…。」
「?」
青髯と呼ばれていた男も、もう一人の方も目をぱちくりさせた。
「ウォォォォム…! バルバルバルバルバルバル!!」
雁夜の意識が一瞬にして切り替わった。
そして、変化が始まった。
見る見るうちに変色し、ひび割れていく肌。
変色し、ボリュームを増す髪の毛。
背中に突き刺さっていたヒトデのような海魔がグググッと、筋肉に押し出され床に落ちた。
「うわわわ! 何コレ!? 何コレ!?」
「これは!?」
二人は、雁夜の変化に驚きを隠せていなかった。
「バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
バオー・武装現象(アームドフェノメノン)へと変化を遂げた雁夜が、咆吼をあげた。
「マズい…、非常にマズい!」
「うげっ、だ、旦那、なにす…?」
「逃げますよ、リュウノスケ。この場所は捨て置きます。」
「ええー!?」
リュウノスケと呼ばれた男の後ろ首を掴み上げ、青髯と呼ばれていた男は、この場から逃げようとしたのだった。
だが逃げようとすると、背後にいつの間にか回り込んでいたバーサーカーが立ちはだかる。
「我が聖処女を取り戻すまで、私は死ぬわけにはいかないのです!」
凄まじい数の海魔が天井や壁、床から現れる。
バーサーカーは、剣を振ってそれを邪魔だとばかりになぎ払う。
雁夜も、腕に刃を出現させたり、変形した髪の毛を針のように飛ばして海魔を燃やしてどかしていく。
すべての海魔を退けたときには、リュウノスケという男も、青髯と呼ばれていた男も姿を消していた。
しかし、雁夜は、海魔にも、牢に残っている子供たちにも目もくれず、用水路を移動し始めた。
バーサーカーは、雁夜の後ろに続いて移動した。
***
「ハアハア…、あんだよ、アイツ! 変身ってアリかよ!? 仮面ライダーじゃあるまいし!」
ウオーーーーーム! バルバルバルバルバルバル!!
「ん…、この声…、ましゃか……。」
「足を止めてはなりません! リュウノスケ!」
「ゲッ!?」
用水路の先、自分達がさっきまでいた場所の方向から、ソレが、やってきた。後ろにバーサーカー付きで。
青髯と呼ばれていた男が素早く海魔を召喚する。
「ど、どうすんだよ!?」
「とにかく、距離を! 奴に補足されないほどの距離を取るのです!」
「逃げるってこったな!」
物量のものを言わせるほどの凄まじい数の海魔で、用水路そのものを塞ぐようにして、二人は逃げ出した。念には念を入れて、とにかく分厚く何段階にも厚みを作っておき、そう簡単には破られないようにしておいた。
そうして、用水路から脱出した二人だったが、傍にあった廃屋の壁に背中をもたれさせようとしたリュウノスケの真横から、ボコッと青白く鋭い爪の手が生えてきて、あわやリュウノスケがその手に捕まる寸前になったりもした。
そんなギリギリの追いかけっこがしばらく続くことになった。
で……、結論から言うと…、結局リュウノスケこと、雨生龍之介(うりゅうりゅうのすけ)と、青髯…あらためキャスターは、バオー化している雁夜とそれに従うバーサーカーの追跡から命からがら、超ギリギリで逃げおおせたのだった。
敵を逃してしまい、バオー化が解けた雁夜は、しばらく何が起こったのか分からず放心していた。
その後、ツツジからの連絡で、キャスター達が拠点としていた用水路の奥の牢屋から子供達を助け出したのは、別の話である。
この襲撃で、キャスター陣営は、バオー化した雁夜おじさんにトラウマ植え付けられました。
ツツジがなぜバオー特有の匂いによるすべての認識ができるのか……。それは、明かさないことにしていますが、もう分かる人には分かるかな?