雁夜がキャスター陣営を襲いに行き、致命傷を負ってしまってバオー・武装現象を発動させ、逃げるキャスター陣営をバーサーカーと共に追っていたとき、それを目撃していた者達がいた。
そのことは、寄生虫バオーに意識を完全に乗っ取られた状態だった雁夜も、狂化により理性のないバーサーカーも知らない。
「な……なんなんですか? アレ…は…。」
先頃の戦いで左腕を負傷しているセイバーが、自分が目撃したモノの正体が分からず唖然としていた。
「バーサーカーが後ろに控えていたわ。まさか……。」
「いや、両方ともバーサーカーという可能性がある。……違うか。あの青白い怪物の方は、死徒かもしれないな。」
そう会話を交わす夫婦は、女性はアイリスフィール、男性は衛宮切嗣(えみやきりつぐ)。
女性は、アインツベルン家という魔術師の家系が錬成したホムンクルスであり、切嗣は、魔術師殺しと呼ばれる魔術師だ。
タバコに火を付け、フーッと煙を吸って吐いた切嗣が、バオー・武装現象を発動してバーサーカーと共に、キャスター陣営(と思われる二人を)を追い回していたのをたまたま見かけて、雁夜を死徒ではないかと思い言葉にした。
死徒とは、吸血鬼全般を指し、聖堂教会側の敵であり、種類は真祖と死徒に別れるのだが、切嗣が言う死徒とは、後者である。
真祖と違い、後天的に吸血鬼化・あるいは、魔術により改造されるなどした者を指す。
切嗣は、バオー・武装現象により、異形へと変じている雁夜の姿を見て、その死徒ではないかと勘違いしたのだ。
「……そうかもしれないわ。」
ホムンクルスであるアイリスフィールですら、あんなのは見たことがないので、夫である切嗣の言葉に同意した。
「では、死徒があのバーサーカーのマスターであると?」
「まだ断言は出来ない。だがキャスターを追っていたことや、バーサーカーを従えていたことが、どうも変だ。」
「メチャクチャ必死そうでしたね。」
「捕まったら殺される!って…、状態よ、きっと。」
追われていたキャスターともう一人の男の必死そうな状態を遠目に見たのだが、よっぽどヤバい状態に追い込まれていたのだろうと想像が出来た。
セイバーをジャンヌと誤認し、妄言を吐いていたあのキャスターの姿が嘘みたいに本当に…逃げるのに必死な状態であったのだ。
あのままあの死徒(※違う)が、バーサーカーと一緒にキャスターを葬り去ってしまえばよかったのにと、切嗣は心の中で思っていた。
「このことを教会に知らせますか?」
「いや…いい。」
「でも…。」
「まだ死徒だと断定できたわけじゃない。もう少し様子を見よう。」
「分かったわ。」
切嗣達…、セイバー陣営は、勘違いしたまま様子を見ることにしたのだった。
***
間桐の屋敷の縁側で、雁夜は暗くなっていた。
「おじさん…。仕方ないよ。」
「ううん…。おじさんがもっと早く行っていれば…。」
そう雁夜の心に暗い闇を落としているのは、キャスター達が潜伏していた場所に閉じ込めれていた子供達や、すでに手をかけれて手遅れになっていた者達のことだ。
子供達は、11人。そのうち3人は、壊れかけ…という言葉が合う状態にされていた。
そして、キャスターともう一人の男…おそらくはキャスターのマスターであろうもう一人の犯行だろうか、酷たらしい死体や、“オルガン”にさせられていたあの少女のように辛うじて生かされていた者達も見つけ、せめて死体を人目に付かぬよう処分し、生かされていた者達にはトドメを刺して死という安息を与えた。
もっと早く行動に移しいていれば……、彼らを救うことが出来たかもしれない。そんな後悔が暗い闇となって雁夜の心に重くのしかかっていた。
なお、生き残っていた子供達は、公園に連れて行って、匿名で通報して警察に保護してもらった。警察が来る前には、雁夜はバーサーカーと共に姿を消した。
子供達の多くは、桜とそう変わらない年齢だったり、それ以上に幼かったりした子供もいて、雁夜の後悔の念に拍車をかけていた。
「怪我を治すだけなら、バオーの体液でもできたよ。」
「! なんでそれを早く言わないんだ!」
「……ごめんなさい。でも、さすがに、“人間の形”を無くしてるモノまでは…。」
「………いや、俺も悪かった。怒鳴ってすまない。」
俯くツツジに、勢いで怒鳴った雁夜は、落ち着こうとして頭を振ってから、そう謝罪した。
「おじさんの判断は、きっと間違ってない。」
「桜ちゃん…、ありがとう。」
雁夜の横で、雁夜の袖を握って、そう慰めてくれる桜に、雁夜は微笑んで見せた。
それから、雁夜は、顔を前に戻し、庭の地面を睨み付けるように見つめ、思う。
後で分かったことだが、あれが今回の聖杯戦争で喚ばれたサーヴァント・キャスターだった。おそらく一緒にいた男はそのマスターだろう。
あんな惨いことを平然と、ほとんど隠すことなく行っていることは、同じ人間として許せない。
意識がないままキャスター達を追っていたらしく、逃がしてしまった後、冬木市の路地裏で呆然としていたことが悔やまれる。
「ツツジ。頼む。」
「ん?」
「俺に…、バオーの力の制御を!」
「前にも言ったけど、それは時間が解決してくれるよ。自力でどうとかじゃないの。」
「……そうか。」
「許せない気持ちは、分かる。でも、そのキャスターって奴ら、ものすごい怖い思いはしたよ。なにせ地上最強の生物に追い回されたんだもの。」
「? バオーは寄生虫だろ?」
「その寄生虫バオーを宿して力を授かった生物はみんなそうなるの。だから、今、雁夜さんは、この地上で最も強い生物になったの。」
「……なんだかなぁ。自覚も実感もないからな。」
「そのうち分かるよ。」
「そればっかりだな。いい加減、具体的に何ができるのか教えて欲しいもんだよ。」
「……うーん。それは、自力で変身できるようなれば自然と身につくから。あ、でも……、無呼吸状態になるのだけは気をつけて。」
「どういうことだ?」
「無呼吸になる…、例えば水の中に沈んじゃうとか。そうなると仮死状態になって自力じゃ起きれなくなるから気をつけて。あと、寄生虫バオーは脳の中にいるから頭を潰されるのだけはダメ。それ以外なら、例え手足をちぎられてもくっつければ治るから。」
「なるほど…。心臓を潰されるのは?」
「胴体に風穴開けられても、途端にバオーが再生させるからだいじょうぶ。」
「分かった。頭さえ無事ならなんとかなるんだな。」
「気をつけてね。スナイパーとかいないことを祈るよ。」
「さすがにそこまで用意周到な魔術師は……。」
「まだ寄生されてそんなに経ってないから、危機感知能力は自力じゃできないから。本当に気をつけてね。…あなたが死んだら、桜ちゃんは…。」
「分かってる。俺は、死なない。」
雁夜は、そう力強く答えた。
二人の会話を聞いた桜は、雁夜の服の袖を掴む手に、僅かに力を込めたのだった。
フラグを立てるツツジさん。
話を聞いてた桜は、いや~な予感がしています。
それにしても、Fateの世界観は、複雑すぎてメチャクチャ大変。