今回は、時臣と綺礼が、バオー化していた雁夜おじさんを死徒勘違いする。
でも正体が雁夜だとは、知りません。
言峰綺礼(ことみねきれい)は、アサシンクラスのサーヴァントからの報告を受け、そのことを師である遠坂時臣(とおさかときおみ)に通信機で報告した。
『青白い化け物?』
「先頃、セイバーの陣営と接触したキャスターとそのマスターらしき人物を、その青白い怪物がバーサーカーと共に追い回しているのを目撃したとのことです。」
『バーサーカーと共に? ……ありえんな。』
「しかし、深夜の夜道を歩いていた冬木市の住民も、目撃しているらしく。すでにネット上などで、噂が流れているようです。情報隠蔽のため、工作中です。」
聖杯戦争は、一般民に知られないようにする。それも戦争に参戦する魔術師達と教会側のやることだ。
アサシンの調べによると、キャスターは、就寝中の子供達をところ構わず誘拐し、時に発見されれば家族を皆殺してまで犯行に及んでいたこと、さらにその犯行そのものが魔術を惜しまず使っており、隠してもいなかったこと。ところが、翌日その誘拐された子供の大半が、なぜかとある町の公園で警察に保護されたというのが新聞を飾った。行方不明になっていた子供のうち、三人は、いまだ不明のままだが……。
綺礼の調べで、キャスターのマスターが、いま評判の連続殺人犯と同一人物ではないかと見ており、またキャスターのことを青髯と呼んでいたことから、時臣は、青髯の真名が、ジル・ド・レェ伯ではないかと見た。
サーヴァントに選ばれる英霊は、その知名度とや伝説の行き渡り具合などで選ばれる。
ジル・ド・レェ伯も、錬金術と黒魔術で知られる人物なだけあり、今回の聖杯戦争で喚ばれたのも頷けるほど有名である。
しかし、その存在はキャスターという英霊としてのクラスとは真逆で、怨霊と呼ぶに相応しいかも知れない。
分からないのは……。
『問題は、そのジル・ド・レェ伯とマスターと思しき殺人犯を追っていた、バーサーカーと共にいた化け物だ。もし死徒であれば、教会としては、放っておくわけにはいくまい?』
「ええ。ですから、今アサシン達に、その行方を追わせています。追って調べが付き次第、お伝えします。」
『キャスター達の件といい……、此度の聖杯戦争は、イレギュラーが多いようだな。』
魔術師とは縁のない(※実際には陰陽師の血を引いている)が、自覚の無いままサーヴァントを召喚し、そして暴走するサーヴァントを律することなく、むしろ一緒になって一般市民を苦しめる。
魔術師同士の戦いで一般市民が犠牲になることは、決して珍しくない。表沙汰にならなければ、黙認されるのだ。
だが、身勝手な、聖杯戦争に関係ない殺戮が行われているのは、決して良いことではない。それも堂々と隠すことなく行われていては……。
よって、時臣、そして、教会の代行者である綺礼は、キャスター陣営を聖杯戦争の妨げになる障害として認定し、その討伐をすることとした。
相手がサーヴァントであるため、毒をもって毒を制すと言うように、サーヴァントにはサーヴァントをぶつけるしかないとして、他の陣営に伝え、その排除、そして排除が叶えば恩賞を与えることとした。
つまり……、キャスター以外のサーヴァントを動員して、キャスター陣営を潰すのだ。
聖杯戦争には、ルールがある。そのルールを破りすぎれば、排除されるのは当たり前である。
しかし、まだ問題は残っている。バーサーカーと共に、キャスター達を追い回していた青白い怪物のことだ。
アレがもしも、死徒に分類される者であるならば、聖堂教会の代行者として、綺礼は、アレを処分しなければならない。聖杯戦争に、死徒が関わっているなら、バーサーカーの陣営も怪しまれるだろう。場合によっては、バーサーカーの陣営もまた排除される対象になりえる。
「……次に現れれば、無用で排除します。」
綺礼は、青白い人型の怪物……、雁夜が変じた者を次に見つけたらすぐに殺すと決めた。
***
マズいことになった。っと、雁夜は思った。
っというのも、教会から招集がかかったのだ。
間桐の当主だった臓現は、自分が(意図せず)殺した。なので、実質間桐は、雁夜のものだ。……非情に遺憾であるが。
「どうしたの?」
「ん…、ああ…ちょっとな。」
ツツジに尋ねられ、雁夜は口ごもった。
「おじさん…。なにかあったの?」
「えっと…。ごめん。桜ちゃんには関係ないことなんだ。」
「ほんとう?」
「ああ。」
「で? 何があったの?」
「…教会から招集だ。」
「きょうかい? しょうしゅう?」
「ああ。キャスター達がやっていたことが目に余るから、キャスター以外のサーヴァントで、キャスターを潰すから詳しいことは追って説明するから教会に集まれって。」
「あー…。なるほど。行くの?」
「いや。マスターが無防備で行くなんてあり得ない。だから使い魔を行かせる。他の陣営もそうだろう。」
雁夜は、そう言い、使い魔に臓現が使っていた蟲を使うことにした。
あの晩…、キャスター陣営を潰せなかったのが、いまだ歯がゆい…。っと、雁夜は思っていた。
「おじさん…。また行くの?」
「桜ちゃん…。だいじょうぶだ。俺は死なないよ。」
「また…、戦うの? 桜を置いて…。」
「仕方がないんだ。桜ちゃんを危ない目に遭わせるわけにはいかないんだ。だから、ツツジと一緒にここで待っててくれるかい?」
「……必ず、帰ってきて。」
「分かった。約束するよ。」
キュッと上着の裾を握ってくる桜の頭を、雁夜は撫でた。
そして、使い魔を教会に行かせ、知覚共有で教会の神父からの言葉を聞いた。
まず、キャスターのマスターが巷を騒がせている連続殺人犯だと分かったこと。
教会は、監督役としての権限を持って聖杯戦争のルールを一部変更し、いったん聖杯戦争そのものを止めて、キャスター陣営の殲滅をした者には、または、共闘して殲滅してくれたら、予備令呪というものをあげるということになった。
令呪は、雁夜の手の甲にもある模様で、これでサーヴァントを制御するため、三度だけ、絶対服従させるという力そのものだ。まあ、言ってしまえば、聖杯戦争に参加するマスターの証である。
つまりその三回しか使えないサーヴァントの絶対服従させる力を、増やすことが出来るのだ。マスター側としては、願ったり叶ったりだろう。特に、すでに消耗している者にとっては。
聞き終わり、使い魔を戻した雁夜は悩んだ。
バオーの力によって自分の体が健康になったことで、すっかり従順になってるバーサーカーがすでにいる。
今更、絶対服従させるのもなぁ……っと、思うところがある。
しかし、キャスター達の行いは個人的に許せない。意識が無いまま、しかも取り逃してしまったこともあり、余計にそう思う。
「ねえ、雁夜さん。」
ツツジの声で、雁夜は我に帰った。
「なんだ?」
「キャスター達が、移動してる。あれは……、誰かを強く求めてる“匂い”。」
「……ツツジ。聞くの忘れてたが、君は…。」
「ごめんなさい。それは、言えない。」
「またそれか。正直俺は、君を完全には信用してないんだぞ?」
「分かってる。でも、言えない。」
「……だいたい把握はしてるつもりだ。」
「それで十分。私は、約束通り、桜ちゃんを守るから。あなたは、存分にやって。あなたの戦いを。」
「……分かった。」
ツツジの嘘偽りの無いまなざしを受け、雁夜は頷いた。
桜は、二人の会話や、様子をジッと伺っていた。
キャスター陣営を殲滅のため、聖杯戦争、一時中断。
雁夜おじさんもバーサーカーと共に参じます。
雁夜おじさん、臓現がすでにいないことがバレてないかちょっとヒヤヒヤしてます。