アインツベルンの森で、キャスター戦に参加する雁夜おじさん。
冬木市には、こんな噂がある。
西にある人里離れた森には、おとぎの城があるという噂だ。
実はこの噂……、魔術の結界により隠されている、アインツベルンの別荘である城が実際にあるのだ。
切嗣は、キャスターがセイバーをジャンヌダルクと誤認しているのを利用し、戦いのためアインツベルンのこの城を使おうと画策した。
セイバーは、切嗣のやり方に最初から猛反発していた。騎士道を重んじる、アーサー王である彼女には、あらゆる手段を使って敵を葬ることを厭わない彼のやり方が受け付けないのだ。
曰く、切嗣は、英霊を侮辱していると。
サーヴァントとは、犠牲を最小限にするため、万軍に代わる一騎として命運を背負い勝敗を競うものだと。
なのに切嗣ときたら、ランサー陣営を速攻でマスターごと殺すために、ホテルひとつを爆破したり(ランサー陣営、無事)、今現在もキャスターをおびき寄せるために、本来は戦わせるための駒であるセイバークラスのサーヴァントである彼女を利用し、さらに本当の狙いがキャスターを狙ってくる他の陣営達を一網打尽にするときたものだ。
そんな作戦について、セイバーが怒らぬはずがない。
セイバーから向けられる怒りにも、切嗣は、まるで仮面でも被っているかのように冷淡な顔をしていた。
そんな切嗣の人間性を理解しているアイリスフィールは、今回の作戦以外のことを口にして話を変えた。
教会が提示した、キャスターを潰すまでの間の一時的な他の陣営との休戦についてどうするのかと。
切嗣は、罰則について言われてないから、構わないと言った。しらを切ればいい話だから。
そしてアサシンのマスターを隠していることもあり、今回の監督役である教会側が信用できないからだと言った。
遠坂もグルの可能性があるから、裏を見せない限りは疑ってかかるべきだと言ってのけた。
これについて、セイバーは怒りに震え、アイリスフィールは、複雑な想いを胸にして黙った。
セイバーが黙殺された後、部屋を出て行った切嗣を追って、アイリスフィールは、夫である切嗣と会話を交わした。
やがて、結界内に侵入者がやってきたのを感じ取り、遠見の水晶で確認した。
敵が……、キャスターがやってきたのだ。
***
森に入った雁夜は、バーサーカーと共に進んでいて、感じた。
いや、“匂い”を嗅ぎ取った
十数人に及ぶ、幼い子供達の恐怖と絶望の感情……、それが匂いという形で雁夜に流れ込む。
「っ! なにが起こってるんだ!? 行くぞ、バーサーカー!」
雁夜は、バーサーカーと共に森の中を走り抜けた。
走ってる最中、森の木の根でこけたのか、子供が泣いているのを見つけた。
「どうしたんだい? どうしてこんなところに?」
泣いてる子供を助け起こして、尋ねる。
子供は錯乱しており、まともに答えられなかったが、魔術による暗示の痕跡があることに気づいた。
「まさか……!」
雁夜は、用水路の牢屋に閉じ込めれていた子供達のことを思い出した。
キャスターは、また同じ事をやっていたのだと理解した。
すると遠くから子供の悲鳴が聞こえた。そして、匂いとして、子供が無抵抗に死の恐怖と絶望を味わった瞬間を嗅ぎ取った。
雁夜は、立ち上がり、子供をひとまずその場において、バーサーカーと共に、匂いを辿ってキャスターのところへ急いだ。
木々を越えた先で、ついに雁夜は、キャスターを見つけた。
キャスターの周りには、潰され、無残な姿で地面に横たわる子供達の死体があった。
そして、キャスターと距離をそこそこ離して立っているのは、セイバーだった。
「むっ? 貴様は…、あの時の……。」
「バーサーカー!?」
「ーーーーっ!」
「よせ! バーサーカー! まずは、キャスターだ!」
「っっ!!」
セイバーに襲いかかろうとしたバーサーカーは、雁夜の制止を聞いて止まり、剣の矛先をキャスターに向けた。
最初に遭遇したときの、自分に向けられていた圧倒的な狂気と禍々しさなどが失せ、マスターである雁夜の言うことを聞いているバーサーカーの姿に、セイバーは驚いていた。
「キャスターを倒したら、好きにしろ! ただし、子供は殺すな!」
「バーサーカーのマスター!」
「今だけは、共闘する! コイツ(キャスター)をぶっ殺すぞ! セイバー!」
「貴様も我が聖処女を惑わすか!」
「貴様も妄言もここまでだ、ジル・ド・レェ!!」
「……おお、我が名を呼んでくださいますか、ジャンヌ。しかし……。」
周りにあった子供達の死体が蠢いた。
いや、肉が、骨が、内臓が…別の物へと変わり始めていた。
それは、海魔だった。
生け贄として連れてこられ、殺された子供達を媒介にして数十ものおぞましい海魔が出現した。
「言ったでしょう? 次に会うときは、相応の準備をすると。」
「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
雁夜は、匂いで感じ取ってしまった、先ほど助け起こし、あの場に残していった子供までも海魔によって内側から食い破られて死んだのを。
「よせ、バーサーカーのマスター!」
「殺せ! バーサーカー!!」
「邪魔ですよ!」
海魔達が、一斉に雁夜とバーサーカーに襲いかかる。
バーサーカーが剣を一振りしただけで、その剣圧で十何匹もの海魔がなぎ払われて死んだ。雁夜の背後に迫った海魔ももれなく倒される。
「冷静になるのだ! バーサーカーのマスター!」
「……くっ。」
セイバーも剣を振って海魔を斬り殺しながら、雁夜に近づいて肩を掴んで正気に戻した。
「す…すまない。」
「今は、キャスターを…。っ!?」
セイバーは、気づいた。
バーサーカーとセイバーが斬り殺した海魔から、新たな海魔が現れ始めたことに。
「持久戦か…。おまえのマスターどこだ、セイバー?」
「……。」
「…無粋な質問だった。すまん。」
「いや…、私こそ。」
「頼むぞ、バーサーカー…。好きなようにやれ。そして必ず、キャスターを殺せ!」
「! それは、いけない!」
バーサーカークラスが凄まじい魔力を消費することを知っているセイバーは、雁夜に制止をかけた。
「だいじょうぶだ。体調はすこぶるいいんだ。それよりも、そっちの左腕は?」
「……。」
「無理か…。」
バーサーカーは、強い。セイバーも強い。だがセイバーは、先の戦いで左腕に呪いを受けてしまっている。
二体のサーヴァントが戦い続ければ、いかに強大な魔力を持つキャスターでもいつかは魔力が枯渇するだろう。だが、それまでセイバーが持つだろうか。それに自分だって今はだいじょうぶでも急にブレーキがかかるかもしれないのだ。油断は許されない。
セイバーは、セイバーで歯を食いしばっていた。
両腕が使えたら、自らの法具である『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』で、海魔とキャスターを灰にすることができたのに…と。
雁夜は、戦況が膠着していることに焦りを覚え始めた。
「このままじゃ…。」
せめて自分の中にいるバオーの力を自力で扱えれば……っと思うが、念じても体は反応しない。応えてはくれない。
まだなのか…? まだ時間が足りないのか?っと考えるも状況が好転するわけもない。
その時だった。
閃いた赤と黄の稲妻が、海魔の群れをなぎ払った。
「無様だなセイバー。」
「ランサー!?」
「何者だ!?」
セイバーと雁夜よりも、キャスターの方が数段驚いていた。
「誰の許しを得ての狼藉か? そこなセイバーの首級は我が槍の勲。横合いからかっ攫おうなどとは、戦場の礼を弁えぬ盗人の所行だぞ。」
「たわけ! たわけたわけたわけたわけたわけぇぇぇ!!」
キャスターは、頭をかきむしり、目を剥いて奇声を張り上げる。
「ランサーだって…?」
雁夜は、敵が増えてしまい、焦るが、逆に考えた。
教会が提示した聖杯戦争の一時休戦の中だ。今だけは、救援とみるべきだろうと。
「しかし驚いたな。あのバーサーカーが、あの時と違ってえらく従順になってるじゃないか、バーサーカーのマスター? あの時の戦いもちゃんと御してくれたらよかったのに。」
「……色々とあるんだ。」
あの時は、まだ寄生虫バオーを寄生させられてなかったのだ。死にかけの体で、暴走するバーサーカーを制御するなど無理だった。
ハァッと雁夜が、ため息をひとつ漏らした時、雁夜は、ハッとした。
途端、すべてがスローになった。
目線だけを斜め上に向けると、一発の銃弾がこちらに向かって飛んできているのが、ゆっくりと、退屈になるぐらいのスピードで飛んできていた。
あまりにもスローで、けれど、自分の体が思うようには動かない状況で、ただ思考だけを巡らせることができた。
敵は…、自分の頭を狙って撃ってきたのだと。理解した。
そう理解した瞬間、雁夜は、首を僅かに横にずらした。
その瞬間、雁夜の背後にあった木に銃弾がめり込み、穴が空いた。
空いた穴からプスプスと小さな煙を出す木の幹を視線だけを動かして見て、そして視線を戻したとき、またも銃弾が飛んでくるのが見えた。
雁夜は再び首を横にずらして避けた。
銃弾が飛んできた方向を見る。今度は飛んでこなかった。
風に乗って、遠距離射撃を行ってきた相手が焦っている“匂い”を感じ取った。
「おい、ボーッとすんなよ、バーサーカーのマスター。」
「あ…。」
ランサーの声で我に帰った雁夜は、キャスターとの戦いに専念した。
最後の方の狙撃は、バオー来訪者の漫画を参考にしました。
ケイネスが襲撃する前に、雁夜を殺そうとした切嗣の仕業です。
二発とも避けられて、しかも明らかに弾丸を見ていることに気づいて焦りました。
さあ…、キャスターとの決着…、どうつけようかな?