脳筋なステータスで最強を目指す   作:右腕ボッキボキ

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今日は三話まで投稿します。


第一話

 眩しすぎる白い光に堪えられずギュッと目を閉じていた鷹裕は、それまで感じていた奇妙な浮遊感がなくなったのを感じた。それと同時に、別の違和感に気づく。自分は教室にいたはずだ。しかし今は雑踏の中にいるような、そんなざわめきの中にいる。

 

 ゆっくりと目を開けると、まず目に飛び込んできたのは壁いっぱいに描かれた絵だった。縦横十メートルはあるだろうか。授業で見た聖子像のように、頭の後ろに後光を背負い、微笑を浮かべる中性的な顔立ちの人物が描かれていた。その人物の後ろには、写実的描写と抽象的描写を混ぜ合わせたような、美しい自然が描かれていた。

 

 美しい壁画だ。それは認める。だが鷹裕はその絵、正確にはその人物に理由の分からない嫌悪を感じて目を逸らす。

 

 周囲を見ると、自分が教室にいたクラスメイトと共に大きな円形の広場にいることに気づいた。見上げると、色鮮やかなステンドグラスが飾られている。どうやら何かの宗教の聖堂のようだ。

 

 そして聖堂の奥には、法服を着た集団が鷹裕たちに向かって跪いていた。皆一様に「エヒト様、勇者様万歳」とつぶやきながら手を合わせている。彼らの中から一人、金の刺繍がされた法衣を纏う一番偉そうな老人が立ち上がり、困惑する生徒たちを見た。

 

 「初めまして、勇者様。そしてご同胞の皆様。トータスにようこそ。私は聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申します。以後、よろしくお願い申し上げますぞ」

 

 イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を浮かべた。

 

 

 鷹裕たちはイシュタルをはじめ僧服の集団に先導され、長机が並ぶ大広間に通された。この部屋も先ほどの聖堂に負けず劣らず煌びやかな作りだ。おそらくは貴賓室だろう。

 

 光輝たち四人と畑山がイシュタルと正面から向き合う形で座り、他はそれぞれ適当に席についている。鷹裕だけがただ一人、座ることを強引に断って壁際に立っていた。いざとなったら暴れまわるためだ。どうにも僧服の連中が信用ならない。

 

 ここに案内されるまで特に騒がなかったのは、光輝がカリスマ性を働かせて落ち着かせたことが大きな理由だろう。

 

 自分よりも教師らしく生徒たちを纏めていると、愛子先生が涙目だった。

 

 「皆様、話の前にまずは喉を潤しましょう」

 

 全員の着席を確認したイシュタルが、そう言って指を鳴らした。

 

 カートを押しながらメイドが入ってくる。カートの上にあるものからフルーティな香りが漂ってくる。だが思春期男子の視線はメイドに釘付けだった。何せ全員が美人だ。おっとり系、クール系、かわいい系、あらゆる種類の魅力的な女性が揃えられている。そのせいでこんな状況彼女たちを見ている男子たちは、女子たちに軽蔑の目を向けられているに気づくことができない。

 

 「さて、あなた方の混乱はもっともです。一から説明させていただきますので、質問はその後にして下され」

 

 そう言って始まったイシュタルの話はファンタジー的かつ身勝手極まりないものだった。

 

 まず、イシュタルらはこの世界をトータスと呼んでいる。そしてこの世界には大きく分けて人間族、魔人族、亜人族の三つの種族が生きている。人間は北一帯、魔人は南一帯を支配し、東にある巨大な樹海には亜人族がひっそりと暮らしている。

 

 この三種族の内、人間族と魔人族が何百年もの間戦争を続けている。数に勝る人間族と、個人戦闘力で勝る魔人族の戦争は今まで拮抗していたのだが、最近になってその均衡が破られたのだ。

 

 その原因が魔人族による魔物の使役である。優れた身体能力と、個々に持っている固有魔法を本能のままに振るう、恐るべき害獣である。それを魔人族は何体も使役できるようになり、数の差が埋められつつあるのだ。

 

 この危機に唯一神エヒトが救いの手を差し伸べた。このトータスの上位世界である鷹裕たちが元いた世界から優れた才能を持つ人間を召喚する。規格外の潜在能力を持つ彼らに魔人族を打倒させ、人間族を救わせるとイシュタルから信託を受け取ったのだそうだ。

 

 「ふ、ふざけないでください!」

 

 恍惚とした表情を浮かべる信徒たちに向かい、愛子先生が猛然と抗議する。

 

 「誘拐したこの子たちに戦争をしろってことでしょ!そんなこと許しません!この子たちが戦争に巻き込まれる筋合いなんてないんです!さあ!早くみんなを元の世界に返しなさい!ご家族が心配していらっしゃいます!」

 

 生徒たちのために、愛子先生はぷりぷりと怒る。だが悲しいかな。低身長に童顔、ボブカットの髪を揺らして怒鳴っていても、保護欲を刺激されるだけで威圧感はない。

 

 「お気持ちはお察しします。…しかし、あなた方の帰還は現状不可能なのです」

 

 その言葉に空気が凍り付いた。

 

 「そ、そんな!?呼べたのなら返せるでしょう!」

 「それが不可能なのです。繰り返しになりますが、あなた方を召喚したのは我らではなくエヒト様なのです。そもそも我々人間に、異世界に干渉できる魔法は使えませんのでな。あなた方が帰れるかどうかはエヒト様が決めることですので」

 

 事も無げに言われたその言葉に、愛子先生は崩れ落ちるように椅子に腰を落とす。他の聖とも口々に騒ぎ始めた。

 

 「うそだろ?おい、何でもいいから早く返してくれよ!」

 「そんな!パパ…。ママ…」

 「戦争なんて冗談じゃねえ!」

 「そうだ!なんで俺たちがあんたらの世界の事情に巻き込まれなくちゃならねえ!?」

 

 阿鼻叫喚とはまさにこのこと。生徒たちの大半は怒って怒鳴り散らすか、泣き崩れていた。そんな様子を、イシュタルは不思議そうに見ている。なぜ、エヒト様の使徒となり、剣をとれることに喜んでいないのだ?、と。

 

 混乱冷めやらぬなか、光輝が立ち上がり、テーブルを叩く。全員の注目が自分に集まったことを確認した彼はゆっくり話し始めた。

 

 ここでイシュタルを責めてもどうにもならない。困っているこの世界の人々を救い、神に元の世界に返してもらおうと。そしてそのために自分は全力を振るい、皆を守ると。

 

 光輝のカリスマ性あふれる演説は、みんなの心を動かした。自分たちが戦えば、この世界の人々を救うことができる。そして魔人族に勝てば帰れる。希望を持ち、生徒たちが次々に戦うと口にする。クラスがいつもの活気を取り戻し始めた。

 

 だが、ハジメと鷹裕はそんな光景を冷ややかに見つめる。

 

 「お前ら馬鹿か?今まで愛子先生から何を教わってきた?」

 

 そう口にしたのは後者だった。心底あきれた様子で言う彼に、光輝が激怒して立ち上がる。

 

 「馬鹿とは何だ!?皆戦う覚悟を決めているんだぞ!」

 「馬鹿だから馬鹿って言ったんだ。もう一度聞く。お前ら、愛子先生から今まで何を教わってきた?」

 

 何を言っているんだこいつ、という表情の光輝を見て、鷹裕は苛立ち、顔を顰めながら問う。元から鋭い眼光を放っているその顔がさらに威圧的になった。

 

 「愛子先生が言ってただろ?戦争は悲しいことだって。敵も味方も関係なく大勢の人が死ぬ。遺族が泣いているドキュメンタリーを見て、お前も含め、泣いていただろうが。あの涙は嘘か?」

 

 その言葉に数名の生徒がうつむいた。愛子先生は社会科の先生だ。彼女は大切な自分の生徒たちが過去にあったような戦争に巻き込まれてほしくない。だから次世代を担う生徒たちに教えてきたのだ。戦争は残酷で、悲しいものだと。

 

 それが今、光輝の甘言によって忘れられそうになっていた。

 

 だが、光輝はまだ反論を続ける。

 

 「それとこれとは話が違う!」

 「違うものか!俺たちはここに喧嘩をするために呼ばれたんじゃない!戦争をさせられるために呼ばれたんだ!」

 「でも、悪いのは魔人族だ!」

 「そう思う根拠は?お前が魔人族に何かされたか?」

 「それは…。そ、そうだ!この世界の人間族が殺されている!」

 「それはお前と直接関係ないだろ」

 

 ヒートアップしていく光輝とは逆に、鷹裕の表情はどんどん冷めていく。

 

 そもそも命を奪う行為に対する考え方が違うのだ。狩猟を通して命の取り合いを経験している鷹裕と光輝は。

 

 狩猟における命のやり取りには、獲物に対してある種の敬意を払う。あなたを食べるために殺します、命をいただきます、と。しかし、戦争は別だ。”食べるための殺し”ではない。”殺しのための殺し”なのだ。そこには敬意も生産性もない。鷹裕はそれを理解していた。

 

 「それは…、いや、でも…」

 「もういい。お前の心地がいいだけの戯言は聞きたくない。耳が腐る」

 

 光輝は鷹裕にどんと胸を押されて強制的に椅子に座らされる。そして鷹裕はさっきまで自分も戦うと騒いでいたクラスメイトたちに向かって言い放つ。

 

 「俺はお前らに戦争するなとは言わない。人間族が困っているのは事実だろうしな。だが、自分の意思とは関係なく殺す奴は人間じゃない。ただの殺戮兵器だ。それにさっきから調子よく戦うとか言っているが、逃げてんじゃねえよ。戦争するってことは“殺し合う”ってことだ。そのことから目を背けるな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、少し考える時間が必要だろうと言ってイシュタルたちは大広間から出て行った。

 

 先ほどの鷹裕の言葉のせいか、皆の表情は暗い。自分たちが殺し合いをさせられるために呼ばれたと、ああもハッキリ言われてしまったのだから当然の反応だ。

 

 そしてそんな発言をした本人は、大広間の隅で頭を抱えていた。

 

 (最悪…。俺も戦争のことなんて良く分かってないのに)

 「越君」

 (そのくせ偉そうに長々と講釈垂れるとか、いったい何様のつもりだ?)

 「越くーん?」

 (しかもほとんどが受け売りじゃねえか。それをさも自分の言葉のように言うとか…)

 「越君!」

 「えっ?あ、先生。何か用ですか?」

 

 愛子先生に呼ばれてようやく鷹裕は、うだうだと続けていた自己嫌悪をやめた。

 

 「何か用かって、あんなにダウナーな雰囲気を漂わせていれば、心配にもなりますよ」

 「ああ、すみません。でも分かったような口をきくのはやはり…」

 「あ、こらいけません」

 

 また頭を抱えて自己嫌悪に浸り始める。だが愛子先生は鷹裕の両頬を持って無理やりに顔を上げさせた。

 

 「そうやって自己嫌悪に浸るのはいけません。自省できるところは越君の美点ですが、やりすぎは越君自信を傷つけるだけですよ」

 「ですが」

 

 鷹裕を慰める愛子先生の声音はとても優しかった。だがそれでも鷹裕の心は晴れなかった。なぜなら発言した場がまずかった。あの場にはイシュタルら聖教教会の信者がいたからだ。確実に鷹裕は、悪い意味で彼らに目をつけられただろう。自分たちの意志を邪魔する者として。もし鷹裕に賛同する者が現れたら、その者たちも目をつけられるはずだ。

 

 あの時は光輝への苛立ちから勢いで行ってしまったが、頭が冷えた今、ようやくそのまずさに気づけた。

 

 「それに反省すべきは私です。それに越君が今言ったことは、私が伝えるべきでした。それなのに私は先生なのに…うう」

 

 愛子先生はそう言って目に涙を浮かべた。

 

 泣きそうな女性を前にして、鷹裕は焦り始める。

 

 「だ、大丈夫です先生。あなたは立派な先生です。だってほら、こんな見た目の俺にも優しいし。それに可愛いし」

 「ああ、生徒を慰めようとしたら逆に慰められた。やっぱり私はダメダメ教師です…」

 「せ、先生…」

 

 本気で泣き始めた愛子先生に対し、自分はどうすればよかったのだと鷹裕は天を仰ぐ。一部から先生を泣かしたなという非難の視線を背中で感じながら、彼女の背中を優しくさする。

 

 (しかしあの目…)

 

 愛子先生を慰めながらも、鷹裕は頭の隅で考えていた。イシュタルが退室するとき、確かに見たのだ。

 

 自分を忌々し気に見つめるイシュタルの表情を。

 

 




私は宗教を否定するつもりはありません。ただ、利用する人間が嫌いなだけです。
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