莫名灯火   作:しラぬイ

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香風可愛いのに主役小説無いのでカッとなって書いた。

後悔はしていない。

ライト()で短め()な小説目指して頑張っていくスタイル。


Chapter 01 涼州
File№01


「………………」

 

一目でこれは夢だ、と判断が付いた。

周囲は見覚えのある風景だが、陽炎が如く周囲はゆらめいていた。

 

その場所に立っているハズなのに立っている感覚がない。

その場所に居るハズなのに肌に何も感覚が伝わってこない。

足はその場から一歩も動かず、首を曲げる事も叶わないどころか声すら出ない。

 

唯一の自由は思考だけで、それ以外は一切の自由が許されない。

こうなれば後は夢の中で夢から覚める様に頭の中で叫ぶことだ。

 

(起きろ─────)

 

同時に体を動かそうとするのだが、体は動かない。

現実世界ではただベッドの上で眠っているのだから。

 

そうして周囲の状況は一転する。

 

見覚えのあった景色は失われ周囲は暗闇一帯。

目が覚めた訳ではないのは感覚で分かる。金縛り状態なのは継続しているのだから。

ただ一点、先ほどの明確な違いがあるとすれば。

 

『      』

 

目の前の光から声をかけられた気がした。

声は聞こえない。口も見えないからしゃべっているかどうかも分からない。

 

けど。

それでもその光が此方に向かってしゃべりかけている気がした。

 

『      ?』

 

理解できない。

何をしゃべっているのか理解できない。

理解出来ないのに、理解できた(・・・・・)

 

矛盾している。

意識では相手が何を言っているか把握も理解もできてないのに、自分の体は理解を示していた。

とは言ってもここは夢の中の世界。深くは考えない。考えたところでそこに意味はない。

 

(………お)

 

体が動く感覚が伝わった。

夢の中の意思が現実世界の体を動かした、その証明。

ならばもう間もなく目が覚める。

きっとこの夢も起きて数分もすれば綺麗すっぱり忘れる事だろう。

 

『  どうやらうまく情報伝達が出来なかった様だ。まあ(・・)いい(・・)。伝達方法の確立も出来た  』

『  喜ぶがいい。神の、試金石になれたモノ。対価は(・・・)後払い(・・・)だ。その対価がどの様なモノになるかはキミ次第  』

『  神は、キミに何も望まない。期待しない。取り立てもしない  』

 

『  ─────キミの役割は、既に全うされた─────  』

 

 

 

 

「………はぁ」

 

目が覚めた。古ぼけた木の板が視界に入ってくる。

軋む音を立てて起き上がればそこは変わらない我が家。

 

ただし、少なくとも現代日本の家と比較すればお粗末極まりない作りの天井や壁。

 

「慣れたもんだな」

 

─────生まれてから過ごすこと十余年。

古代中国「漢」の時代で、今日も元気に転生ライフ、頑張っています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付いたら転生していた。

神様に会った記憶もなければ転生特典を貰った記憶もない。

そもそもそんなものは2次元だけの世界と考えていたため、『転生』という出来事が身に起こっただけでも衝撃的すぎた。

 

これなら宝くじ一等を当ててくれよと思ったくらいには。

 

そしてここは漢の時代。

現代日本で生きてきた平成生まれの人間にとっては、文化レベルに絶望していた。

衣・食・住すべてにおいて予想の遥か下。当たり前ではあるが。

 

 

─────そうおもっていた時期が、私にもありました。

 

まず、家。

確かに現代日本と比べればその作りは粗末と言っても過言ではない。

が、ちょっと人の多い都なんかに出て見れば、どうやって建設したのか、と問いたくなるような建築物がちらほら。

無論現代建築と比較すれば下回るのは確実だが、それでも『ここ何の時代だっけ』と確認したくなる。

 

次に、食。

歴史に詳しくない身からして、この「漢」の時代の食文化が一体どれほどのものだったのか、と言うのは不明。

だが少なくとも現代日本人が食事をして、問題なく食べれる、と評価するくらいの美味しさはあった。

ここについては余り気にしなかった。

というより次の分野の衝撃が凄まじすぎた。

 

そう、衣。

都から離れた農村ではそれなりの、まあ衣類だった。

『だった』。

 

最近この家に食事をしに来る少女を見るまでは。

 

あと都なんかは普通にヤバイ。

女性専用の店なんか、普通に現代日本のランジェリーショップのそれだ。

パンツからブラまで現代日本に会っても違和感がないレベルと言ったら、その異様さが分かるだろう。

 

そしてこの世界が決定的に違うとわかったモノがある。

 

阿蘇阿蘇。

 

そう、阿蘇阿蘇である。

 

「あっ、これ恋姫ですか」

 

思わず敬語になってしまうくらいの、全ての疑問が氷解した瞬間だった。

こんな時代に女子向けファッション誌なんてあるわけないだろう!と。

思いっきり内心突っ込みを入れざるを得なかったくらいの印象があったので、直ぐに思い出せた。

 

その時、もし鏡が目の前にあれば俺の眼は死んだ魚の眼の様にハイライトが消えていただろう。

誰も二次元世界に転生した、なんて事実直ぐに受け入れられるハズがないのだから。

 

気が付いた時には両親はいなかった。賊に村が襲われたと、後になって教えてもらった。

顔も覚えていない両親に黙祷を捧げ、これからどうしようかと迷っていた。

 

恋姫と言ったってキャラクターは好きだし理解しているが、三国志の歴史に詳しい訳じゃない。

間違っても天下を取りに行く、なんて真似はしない。というかそんな度胸もない。

 

農民?

この時代で農民とか、絶対無理だ。

賊が湧く上に現代日本の農業と比べるとその全てが圧倒的に苦しい。

 

商人?

俺の一番やりたくない仕事は営業マンだ。

 

となればもうあとは役人しか残っていない。他にも道はあるかもしれないが、お金の事を考えた時、これが一番良い。

幸い現代日本で大学まで進学した身だ。

この時代の漢の文字を習得する必要はあるが、それをマスターできれば後はどうとでもできる。

どこかの私塾に通った後に試験受ければいけるハズ。

 

そんな軽い考えで見事役人になれた、というのが今の現状。

私塾時代に「天才」だの「神童」だのと言われたが、そりゃあ少なくともこの身体年齢に対して精神年齢は既に大人の域だからね。

多少天狗になりかけた事はあったが、前世での天狗になったときの痛いしっぺ返しを経験しているのでそこは自重できた。

恐らくそんな前評判もあったことで見事役人になれたんだろう。

 

都のしがない文官である。

無論賊にあっけなくやられない為にも体は鍛えているが、自身が文官寄りであるというのは認識している。

 

「賊………ですか」

 

「そうだ。各将に伝えておけ」

 

「………わかりました」

 

そう指示を出して去って行く後ろ姿が見えなくなったところで溜息。

 

上は俺の事を重宝しているのは感じている。

まあ現代社会の知識を小出しで提案しているのだ。この時代の人物では思いつかない、目から鱗のような内容も多々ある。

その事もあってか他の人と比べると出世は早く、給金もよいものを貰っている。

 

ただ出世が早いからと言って、何百人の部下が一晩で手に入る訳ではない。

所謂中間管理職で一番危険な役職である。

命の危険は(比較的少)ないが、上と下との板挟みに合う的な意味で。

 

少なくとも今ここで働いている現体制にはうんざりしている。

何かあれば賄賂賄賂。上は賄賂が送られてくるのは当然であるという考えだし、下は下で賄賂をするのが当然であるという考え。

そして賄賂が多い方が勝つ。

上が受け取った賄賂のいくつかが自身の給金に繋がっていると考えるとなんとも言えない気持ちになる。

 

先ほどの会話だって、言葉はなかったが『賄賂を受け取るのを忘れるな』というニュアンスが含まれているのは理解していた。

 

この役職になるまで、俺は賄賂を受け取った事は一度もない。

過去に個人的に俺に対して『お願い』と一緒に何度か賄賂を渡そうとしてきた人物がいたが、全て断った。

断ったら断ったで、『金額が足りなかったんですか!?』とか『いくらならいいでしょうか!?』など絶望したような合わせた表情で詰めよってくる。

『お金を用意しなくてもちゃんと聞きますよ』と回答すると面食らった様な顔した後にお礼を言われる。

 

現代日本に生きた身としては賄賂にいい思いは無いが故の回答である。というか給金だけで事足りてるのに賄賂とか貰う必要もないのだ。

この世界にパソコンやらスマホやらガチャやらがあれば別だが、そんなものはない以上、寝床と食事、たまに衣類があればそれで充分である。

なお、あくどい事を考えている輩は今のところ一度も来ていない。こればかりは運が良かった。

 

「さて、どうしようか」

 

巷では聖人と呼ばれる人物がいるらしい。

はて、そんな人物がこの都に居たか、と思考を巡らせるが思いつかない。

まあ根本的に知識の時代が違うから、此方の知識内の聖人と巷の聖人とでは差があるんだろう、と納得させる。

ついでに俺も助けてくれないかな、と淡い願望を抱いていると。

 

「………あ、あの」

 

「ん?」

 

視界の隅に入ってきた人物に目を向けると、小さな女の子がいた。

というか見覚えがありすぎた。

 

「先ほどの賊の討伐の御話について、なんですが。それ、シャン………じゃない、わたくしにお任せいただいてもよろしいでしょうか」

 

「─────」

 

その姿に思わず固まっていると、少し困惑した様な顔で見つめ返してくる。

 

「あ、あの………」

 

「はっ!いやいや、すまない。えーっと、先ず名前を伺ってもよろしいですか?」

 

名前は嫌という程知っているが、ここでは初対面な上相手はまだ名を馳せていない。

この質問に問題はないハズだ、と無駄に思考を回転させながら問う。

 

「あ、えーっと。………わたくしは、姓は徐、名を晃、字を公明と申します」

 

後に真名を交換し合う、徐公明と初めて邂逅した瞬間だった。

 

 

 

 

賊退治は無事完遂された。

思っていた以上の賊の数だったためそれなりの時間は要したが、それが徐公明という名を馳せるのを後押しした。

無論街を歩けないほどの超有名人というわけではないが、耳が良い人物なら遠方に居ようと届くぐらいには。

 

その後その実力も相まって、次々と賊を討伐。

気が付けば騎都尉という役職にまで昇進していた。

俺が昇進するのにかかった時間よりも圧倒的に早いあたり、やっぱり今の世は武がモノをいう時代だなあ、とぼんやり考えていた。

 

その間、此方の昇進は無し。

知識は欲しいが、これ以上昇進されるのは目の上のなんとやら、というらしく、ものの見事に飼われている状態。

………別に反乱とか革命とか考えてないんだけどね?なんでそんな警戒するのやら。

そもそも現代社会の社蓄を経験していた身とすればこういう状態に抵抗は無い。

 

「へぇ。それでこの長安に」

 

「うん。目新しい政策を打ち出しているって」

 

徐公明もとい香風と午後昼下がり。

彼女がここに仕官した理由を聞いてみたら、俺が上に進言し実施された政策を聞きつけて来たらしい。

 

「けど、実際仕えてみてわかった」

 

「わかったって………何が?」

 

「ここの人も同じだった、ということ。………噂は間違ってなかった」

 

あ、この話の流れはあかん奴。

現代日本に生きた身としては不穏な場の空気の流れを読むくらい、造作もないのだ。

 

「まあその噂が何なのかは聞かないでおくよ。さて、それじゃ遅くなったけど香風の昇進祝いってことで食事に行こう?」

 

「………お兄ちゃんがいいのなら。うん、行こう」

 

別に何か目的があって役人になった訳ではない。

しいて言うなら恋姫達の誰か一人くらいとは仲良くしてみたいなあ、という願望があった程度。

 

時の流れのままに、うろ覚えな歴史の流れを頼りに今日ものんびり生きて行く。

そんな転生ライフである。

 

 

 

 

 

私塾始まっての天才現る。

 

その知識は遥か未来を先取りしていると言われた。

誰も、それこそ教える側の人間ですら考えつかなかった兵法を、政策を私塾で見せつけた。

 

私塾始まっての神童現る。

 

その武は決して苛烈では無いが、その体捌きは流水の如く。

折れそうなほど細長い武器は、しかして折れる事無く、風が戦ぐが如く。

そうして相手を一刀の名の元に斬り伏せる。

 

それが私塾に入る前に、曹孟徳が聞いた噂だった。

 

興味を持たないハズがなかった。

自分よりも先に私塾に入り、天才、神童と呼ばれた男。

 

だが時の運とはうまくいかないもの。

私塾に入った時にはちょうどその男はその私塾を卒業し、同じ場所に通う事はなかった。

無論それ以前に会おうと思い探してみたが、霞が如く捕まえられない。

後ろ髪を引かれる思いで私塾に入ったものだ。

 

私塾においても曹孟徳の名は伊達では無かった。その才能を十二分に発揮していく。

 

本来ならばその才能が故に周囲から敬遠されるところだ。

 

だが、ここではそうはならなかった。

同期となる生徒達からは一部を除いて遠巻きな視線を感じる事はあった。

だがそれは少数だ。

そして何よりも教師陣からは、何というか形容し難い視線を受けていた。

不快になるようなものではないのだが、何とも言えない視線。

 

それもそのハズ。

教師達は曹孟徳というチート的存在の前に、転生者というバグの存在を見ていたのだ。

彼女の才能も優秀なものである、というのは教師陣全員の認識は一致している。

ただ比較対象が過去に存在したために、なかなか優秀な子という評価に落ち着いていた。

 

「秋蘭、その後の足取りは?」

 

「はっ。どうやら長安にて仕えているという情報を」

 

「長安………最近だと徐公明という人物が賊退治で名を挙げた、というのを耳にしたわね。なるほど、そこにあの男が」

 

「その様です。どうやら長安では陰で『聖人』と民からは呼ばれているらしく」

 

「『聖人』、ね。最近長安あたりの治安が少しばかり向上した、という噂に絡んでいるのかしら?」

 

「かもしれません。ですが一方で不確かではありますが………」

 

「何?」

 

「その男、先ほどの徐公明と共に長安から暇を貰って姿を消した、という情報が」

 

「………何ですって?」

 

こんなやりとりが陳留で行われている事は知る由もなかった。

 

 

 

 

徐公明こと香風にとって、『彼』と出会えた事は正に幸運だった、と言えるだろう。

 

始めは長安にて凄い領主がいる、という噂を頼りにやってきた。

実際やってきてその街を見てみると、なるほど今まで見てきた街と比べるとどことなく『上向き』になっている事は感じ取れた。

少し目をやれば暗い所が多々見受けられるが、香風にとって『改善しようとしている』と見て取れるのは大きなプラス要因。

 

早速仕官したものの、いざ内部に入ってみると、落胆を禁じ得なかった。

賄賂、賄賂、賄賂。

そこそこ昇進するも、次は兵達の兵糧を賄う為に賄賂、賄賂、賄賂。

この繰り返しである。

 

この街で見た『上向き』の雰囲気はなんだったのだろうか、或いは思い違いだったのだろうか、と思い込んでいた時に耳にした。

 

賄賂を一切受け取らず昇進した文官。

聞いてみればここの領主が行った政策は、全てその文官が進言し、それを領主が然も自分が考え付いた様な振る舞いで行っていたこと。

しかしそれに文句の一つを言う事も無く、与えられた給金だけで満足しているということ。

 

最初はさぞ地位の高い人物なんだろうと思ったが聞いてみれば言うほど地位は高くない。

明らかに高位の地位にあってもおかしくないような働きをしているのに、である。

 

香風は興味を持った。

一体どんな人物だろう、と。

まだここに来て日が浅い香風はもう少しだけ情報収集をする事にした。

 

曰く、賄賂を受け取らず、その知識だけで今の地位に上り詰めた。

曰く、文官なのに常に腰に武器を帯刀している。

曰く、無償で街の清掃や治安維持に貢献している。

曰く、無償で街の子供達に私塾紛いの教養を施している。

曰く、お腹を空かせてどうしようもない人たちに『たきだし』なるものを行っている(しかも美味しい)。

曰く、その事もあって今の地位から上に行けない。

曰く、曰く………。

 

調べてみれば、立場が上の者には『重宝されてはいるが、上に来られると自分達にとって都合が悪い』というのが手に取るようにわかった。

逆に民や『彼』より下の地位の者達の評価は真逆で好評価なものばかり。

 

それは、単に現在社会の知識を小出しした結果であり。

それは、余った時間に賊に殺されない為にいつでも素振りが出来る様にと所持している(加えて盗難防止)結果であり。

それは、仕事以外にやる事があまりにもなさすぎるが故の活動(あと単純に自分の武の鍛錬を含めた)結果であり。

それは、仕事以外でやる事があまりにも(ry。

それは、衣・住に頓着しないが故に余ったお金をボランティア活動と評した(ついでに経済を回して活性化)結果であり。

それは、別に高官になろうとも思っていないが故の結果である、のだがここは割愛する。

社蓄だった人間が休日になって『休日、何しよう? やること無くない?』となる現象と同じである。

 

特に何もない日は料理をとことん突き詰めて調理するか無心に鍛錬に励むしかやる事がないほどには、やることがなかった。

そのため料理の腕がそこら辺の店よりも遥かに上なのだが、それを当人が知るのはもう少し先である。

先進文化に触れた記憶があるが故の出来事であった。

 

こうなってくると香風の興味は領主ではなく、その文官へ移る。

香風が感じた『街の上向き』の雰囲気は決して間違いではなく、さりとて領主が何かをしたわけではない。

政策は関与しているだろうが、それをしようとしたのは領主ではない。

その文官が直接的、あるいは間接的に月日をかけて少しずつ改善していったが故の結果であり、経過だったと気づいた。

 

『賊………ですか』

 

ふと視線の先にはその文官と領主が居た。

思わず隠れてしまったが、その話声は届く。

 

『そうだ。各将に伝えておけ』

 

『………わかりました』

 

話が終わったのを確認して覗いてみると溜息をついている一人の男。

香風が聞いていた通り腰には武器を帯刀しており、その顔立ちも知っているソレだった。

 

「さて、どうしようか………」

 

ここに来て日がまだそれほど経過していないとはいえ、香風もまた先ほどの領主の言葉に含まれていたニュアンスには気付いていた。

そして同時に思いつく。『彼』は上から疎まれている、だが賄賂を受け取れば上もそれを出汁にしてくる、と。その考えに至ったとき。

 

「………あ、あの。先ほどの賊の討伐の御話について、なんですが。それ、シャン………じゃない、わたくしにお任せいただいてもよろしいでしょうか」

 

これがファーストコンタクト。

香風と『彼』こと 灯火 が初めて会話をした時だった。

 

 

 

 

彼女の性格も相まって真名を交換し合った二人は共に仕事をしたり、食事をしたり、昼寝をしたりした。

何より香風自身、灯火に興味を持っていたこともあり、すぐさま仲良くなった。

灯火自身も香風に関する前世の記憶は持っていたので邪険には扱わず、むしろ仲良くなろうと意識していたくらいである。

 

一度読んだ書簡は忘れないという完全記憶染みた能力を発揮して見せた香風に、定期的に行っている私塾(但し無料)の助手をお願いし子供達への教養を。

今まで素振りがメインだった鍛錬は香風と鍛錬をするようになった。

 

たまに彼女の家に行ってみればゴミ屋敷かと見間違う程の光景に絶句し、無心無表情で家の大掃除をしたこともあった。

何度やっても結果ゴミ屋敷になっていたため、最終的に自身の家に香風を泊まらせるという行為まで仕出かした。

現代日本みたく医療が発展しているわけじゃないし、衛生面を考えてもこのままはヤバイと本気で考えていたので、同棲するしかないと至った次第である。

 

食事は外で食べたり、灯火が作ったりしていたが後の香風が言うには、『外で食べるよりもお兄ちゃんのご飯の方がおいしい』とのこと。

『香風ゴミ屋敷事件(命名:灯火)』をきっかけに同棲し始めた灯火がこれを聞き、料理の腕を更に向上させていくのは余談である。

 

そして─────

 

「さて、それじゃあ………忘れ物はないか?」

 

「うん、大丈夫」

 

仕官して稼いだ路銀と、食糧。武器は勿論忘れずに街の入口に二人はいた。

香風が暇を貰い、それに追従する形で彼もまた暇を貰った。

 

香風も灯火もいくらお互いが同じ職場に居るからと言って、職場自体に不満がないわけではなかった。

賄賂・賄賂な毎日だったし、面倒な事務作業や賊討伐等々。

日に日に仕事量が増してくる二人は満足に空を眺める余裕もなかった。

 

漸く取れた久方ぶりの休暇でふと香風が口にした言葉。

 

『鳥の様に自由に空を飛びたい』

 

ああ、そういえば。と、前世の記憶からそんな話もあったな、と思い返す。

 

『空を飛びたいのか?』

 

『うん。鳥はどこまでも自由に空を飛べる。………そう考えたら、今のシャンは何してるんだろう………って』

 

心当たりがありすぎる言葉である。

現代社会で生きていた時でもそういう感覚に陥った事は多々あったものだ。

 

『あ、でも』

 

『?』

 

『シャンは飛びたいけど、一人じゃ寂しい。………飛ぶならお兄ちゃんと一緒に飛びたい、かなーって』

 

不意打ちの言葉に思わず香風の顔を見てしまう。

ほんわりと笑う香風の頬は僅かに赤くなっている様にも見えた。

 

『………なら、飛んでみるか?』

 

『飛べるの?』

 

きょとんとする顔に笑いながら前世の記憶を漁っていく。

流石にヘリコプターや飛行機等と言ったオーバーテクノロジーは除外だ。

 

『飛べるとも。んー………最終目標は気球、かな』

 

気球も十分オーバーテクノロジーだが、まあ先の2つよりかはまだ試しやすい。

 

『ききゅう?』

 

『お楽しみってことで。手短にやるなら竹とんぼで遊んでみようか』

 

『竹とんぼ?』

 

実演してみたときの香風の瞳は、それはもう眩しいくらいに輝いていた。

その後自分の斧で同じことをしてみようとした時は慌てて止めに入ったが。

 

「まあ置き土産も置いてきたし………」

 

手土産に現代知識の一部分だけを書き写した書物を残したので、この先少しだけなら政策を続けられるだろう。

暇を貰っても、後任が仕事をしやすい様に資料を作っているあたり、現代社会の感覚が未だ残っていた。

 

その後はここの領主の腕次第である。

 

 

「お兄ちゃん」

 

「うん?」

 

 

 

「これからもよろしく」

 

「………ああ。よろしく、香風」

 

笑う香風の頭を撫で、手を握って街の外へ歩いていく。

 

不安が無いとは言わない。

だがそれ以上に彼女と共に旅する事の方が、好奇心が勝った。

 

 

 

 

─────これはそんな転生者の物語である。

 

 

(………あれ?そういえばあの三人組とはいつ出会うんだ?)

 

 

─────これはそんな転生者の物語である!

 

 

 

 




俺達の戦いはこれからだ! ~完~
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