莫名灯火   作:しラぬイ

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Q.なんでこんなに遅くなったの?
A.朝起きて終電近くに帰宅してたらこうなった

Q.「賄」と「賂」って─────
A.形似ているからセーフ(修正しました)

Q.”都の英雄”って?
A.香風[英雄]来てくださいっていう願掛け(真恋天下)


始まります。
(※誤字修正しました)


File№11.9

空を照らしていた太陽は地平線へ沈み、白く輝く月が夜を優しく照らす。

この時代宇宙から分かるほどに強烈な光を発する現代建造物は存在しないため、夜となれば恐ろしく見通しが悪くなる。

洛陽の主要通りにはまだ灯りがくべられているが、少し外れればあっという間に闇が支配する領域。

 

出陣を明日に控えた灯火がいるのは洛陽の城の一室。

そこは自分用に宛がわれた一室である。

 

部屋の中は寝台を始め、椅子や机、本棚といった基本的な家具がある。

官軍の将に宛がわれる部屋だけあって基本的な家具も一つ一つが凝った造りになっていた。

壁には壁画が描かれており、家具を含めて俯瞰すればこの部屋そのものが一種の芸術品である。

 

もっとも、そんな場所に住むとなれば落ち着くまでに時間を要するのだが。

 

この部屋にいるのは灯火を含め三名。

 

一人は徐公明こと香風である。

彼女も彼女でちゃんと一室を宛がわれているのだが今まで使った事は一度も無く、朝おはようから夜おやすみまでこの部屋で過ごしている。

香風からしてみれば仕官する前から灯火と居住を共にしていたし、涼州に居る時も同じ屋根の下で暮らしていた。

今更別の部屋を用意されても使う気になれず、今や香風に宛がわれた一室は物置部屋になっている。

 

もう一人は賈文和こと詠だ。

明日出陣にあたり灯火と香風がいるこの部屋に訪れ、灯火の報告書を読みつつ最後の打ち合わせを行っていた。

 

「黄巾の乱もそう長くはない。後の世がどうなるかは………残念ながら俺には分からない。出来る事なら平和になってほしいけどな」

 

まあそれは望み薄だろうなと内心零した。

そこまで楽観的になれるほど、灯火は思考を放棄していない。

 

「それはボクだって同じ。………けど、そうならないのは感じ取っているでしょ」

 

詠は報告書を読みながら灯火の話を聞いていた。

日に日に何進と十常侍のいがみ合いが苛烈になってきている。

無論武器を手に取ったり流血沙汰になったりはしていないが、何ともギスギスした雰囲気であるというのは容易に感じ取れた。

 

「まあ何進も十常侍も………流石に黄巾の乱が終わるまでは口喧嘩で済ませてるんだろうさ」

 

「その口喧嘩に巻き込まれるボクと月の身にもなってほしいわね。なんで言い合いを軍議でするんだって話」

 

露骨に嫌な顔をする詠に苦笑する。

 

「十常侍と何進が面と向かって話し合う主な場が軍議なんだろう。今は黄巾党っていう共通の敵がいるから同じ舟に乗っているだけだろうけど」

 

これが所謂呉越同舟。

それが仮にも身内にいるのだから、黄巾党が終わったからといって休む暇はないだろう。

詠はそれをひしひしと感じているし、灯火は知識から面倒事が起きそうだという予測を立てている。

 

誰も得なんてしない内ゲバ話はとりあえず横に置いておき、手に持っている報告書の中身について確認する。

その中には詠も初めて知る情報があった。

 

「黄巾党内部に紛れ込んだ間者からの報告では張角・張宝・張梁の三名は、噂で出回ってるブ男ではなく女旅芸人………って書いてあるんだけど」

 

「元は歌を歌いながら各地を旅していた旅人らしい。黄巾党はその歌に熱狂し、黄巾党になった。………いやあ、世も末だな」

 

「のんびり頷いてるんじゃないわよ。なんで歌を歌っただけでここまで叛乱の規模が大きくなるのよ………」

 

「それは言わずとも分かっているだろうに」

 

「限度っていうものがあるでしょ」

 

灯火が淹れた茶を啜りながら二人はテンポのよい会話を続ける。

香風は半分夢見心地で寝台の上で横になっており、会話には参加していない。

枕を抱き枕として体に挟み込んでウトウトしているあたり、眠りにつくまでそう長くはないだろう。

 

「何にせよ三人をひっ捕らえて処刑しないと。ここまで規模が膨れ上がった黄巾党の後始末の為にも」

 

「それなんだが、その結論は待って欲しい」

 

この時代としては至極当然な考えを口にした詠に灯火がストップをかけた。

 

「何? 何かあるの?」

 

「二つある。一つは利用価値。歌だけでここまで人を熱狂させる三人だ。詠、“軍師”として考えたとき────使えると思わないか? それに人々の娯楽を満たすためにも使える」

 

灯火の言葉に僅かに眉間に皺を作った。

だがそれに対する回答は出さない。

二つあると言ったのであればもう一つも聞いてから回答を言う。

 

「もう一つは黄巾党残党。黄巾党を討伐したとしても一人残らず殲滅しきる事は出来ない。これだけの規模だ、必ずどこかに残党は残る。その時、この三人を処刑し首を晒したとする。黄巾党の連中は三姉妹に熱狂的だ。いっそ狂信者と言っても過言じゃない。そんな連中の前で晒し首にしたら………」

 

「………確実に暴徒になるか。少数が暴徒になるくらいなら鎮圧できるでしょうけど、周囲に被害を齎したら今の二の舞、ということね」

 

瞼を閉じ、思考する。

暴徒に関してはあまり脅威にはならないだろうが、突然湧いてくるものをいつまでも相手にしなければならないというのは手間だ。

いつまでも黄巾党を相手にしていられるほど詠も暇ではないのだから。

 

「言いたい事はわかったわ。確かに灯火の言う通り利用価値はある。けどじゃあこの三人は死罪にはしない? 黄巾党によって田畑や家族を失った人だっているのに?…………そんなことをしたらどうなるか、分からない灯火じゃないでしょ」

 

「被害者である民の不満が爆発する。それは分かってるよ。けど、忘れてないか? “今”の張角は“ブ男”だぞ?」

 

灯火の言わんとする事を理解する。確かにそれならば三姉妹を生かす事はできるだろう。

だが詠は訝し気に灯火を睨む。

 

「………えらく張角三姉妹を気に入ってるみたいだけど。なに、アンタ気があるの?」

 

「はっはっは。詠が派手な衣装を着て民や兵士達の娯楽を提供する歌姫になるって言うなら三姉妹の処遇は任せるけど?」

 

「バカじゃない?」

 

「ひどいな」

 

シンキングタイムゼロセコンドで返ってくる罵倒。

まあ灯火自身も彼女がそれをやるとは思っていないし、詠もまた彼が本気で言っている訳ではないというのも理解しているが故の軽口だ。

 

「まあボク個人としては三姉妹の生死に興味はない。誰かを黄巾党に殺されたわけでもないし、涼州は黄巾党の被害もないからね」

 

この大陸全ての人間を救いたい、という崇高な考えを持っている訳ではない。

無論救える者がいるなら救うし、平和のために活動は惜しまない。

だが詠の中での天秤はあくまでも月を始めとした身内が最優先だ。

月の為ならばいくらでも冷酷になりきる自信があるし、月の命が危ないとあればどんな事をしてでも救い出すし守り抜く。

 

そして目の前にいる灯火も自分と同じ考えを持っている人物であると詠は知っている。

涼州を出立する前日に二人だけで話し合った内容は、今でも強烈に脳裏に焼き付いているのだから。

 

「ただ諸侯の中にボク達と同じ結論に至っているところがあったらどうするの?」

 

「こっちが確保して処刑したのが偽物じゃないのかって言ってくる奴がいれば処刑した奴が本物だと言い切る。他の誰かが確保しているのであれば………まあ仕方がない。確保している時点で俺達と同じ結論に達している筈だろうし、その時は諦めよう」

 

こういう時の為の官軍である。

それに黄巾党内部には灯火の手の者が入り込んでいる。情報の精度としてどちらが上か、というのは言うまでもない。

そのあたりの論理武装を整えてやれば反論は封殺できるだろう。

まあもっとも手に入れた情報と真逆の事を言おうとしているのだが。

 

「………てっきり官軍権限で要求するのかと思ったけど」

 

「それはやりすぎだな………地方軍閥との関係が拗れる。そこまでする価値はないよ」

 

無論本人達が此方側に来たいというのであれば話は別である。

 

「まあいいわ。灯火も理解してるでしょうけど、その三姉妹が人物的に害にしかないならボクは反対するからね。いくら利用価値があるとしてもそんな不和の原因になりそうな人物はお断りだから」

 

「言われるまでも無い。月と詠の方が大事だからな」

 

ぴくり、と反応を示したが言葉にしたら何か負けな気がしたので何も言わずに席を立った。

手には受け取った報告書をまとめている。

 

「それじゃボクは部屋に戻る。遅くまで付き合ってもらって悪かったわね」

 

「そっちの事情の方が最優先だ。何度も言うけど一人で抱え込むなよ?」

 

「分かってる。灯火達こそ、夜遅くまで起きて明日の出陣に間に合わないなんてこと起こさないでよ」

 

「了解、おやすみ」

 

部屋を出ていく詠を見送り、部屋を改めて確認する。

人の気配が減った事で香風が半目を開けた。

 

「………ん」

 

「ああ。俺ももう眠る。灯りを消すけど、いいか?」

 

「………んー………」

 

寝ぼけた風に生返事をする香風に薄く笑い、部屋の灯りを消す。

寝台に横になるともぞもぞと香風が近寄ってきた。

 

「あったかーい………」

 

ぴたりとひっついてくる香風。

流石は与えられた洛陽の城の一室というだけあって、この寝台も最高級。

こんなものを毎日味わっていたら床で眠るのは出来なくなるかもしれない。

そう思う灯火だった。

 

 

◆◆◆

 

 

黄巾党に官軍の手の者が入り込んでいる。

 

この事実を知る者は多くない。

月や詠を始めとした董卓軍、共に行動する楼杏と風鈴だけだ。

何せ彼らは数だけは多い黄巾党を内部から攪乱する役割を担っている。

その時がくるまでは目立ってはいけないし、情報として知られても困る。

故にこの事は秘中であった。

 

だが、それを看破してみせるのが伏竜鳳雛である。

 

元より冀州黄巾党が討伐されたという情報を入手した時点で、二人は現状に対して違和感があった。

この青洲は黄巾党発祥の地とも言われるほど小規模の黄巾党が乱立する激戦区。

そこへ冀州から逃れてきた黄巾党が入ってきたのであれば、遭遇率は上がる筈である。

初めはそれを警戒して二人で今後どうしていくかを話し合った事もあったが、いざ蓋を開けてみれば遭遇率は上がるどころか下がる一方。

糧食不足に悩む義勇軍としては、遭遇率が低くなるというのは良い話ばかりでもない。

 

違和感と言えば自分達が入手した情報そのものについても違和感があった。

情報の内容ではなく、情報の入手どころの話である。

 

何せ義勇軍は言ってみれば流浪の軍。

それこそ自ら動いて情報を集めるか、意図しなくとも聞こえてくるほどに話が広まっているかのどちらかしかない。

 

そして今回の情報は後者だった。

 

冀州黄巾党の壊滅、冀州黄巾党残党の流入、官軍が撃破したという情報、“飛将軍”の活躍の報せ、追手として官軍がやってきた。

これらの情報は全て伏竜鳳雛が意図して手に入れたのではなく、補給の際に立ち寄った街々で自然と手に入れた情報だった。

 

この現状二つの違和感を抱きつつ、平原へ行軍していた時に遭遇した黄巾党。

規模は此方よりも多い約一万。真正面からぶつかり合えば消耗戦は必須である。

故に軍師である二人は周囲の地形を読み取り、此方側が有利になるように戦場を展開した。

 

結果は見事勝利。

術中に嵌った黄巾党は兵力差があるにもかかわらず義勇軍に敗北することになった。

だが─────

 

「どうしたの、朱里ちゃん、雛里ちゃん?」

 

「あ………桃香様」

 

難しい顔で話し合っている二人が気になった劉備が声をかけた。

彼女の背後には関羽と張飛もおり、劉備の性格上、黄巾党を逃がしてしまった二人を励ましていたのだろう。

そんな劉備が二人の難しい顔に反応しない訳が無かった。

 

「いえ、先ほどの黄巾党についてです」

 

諸葛亮のその言葉に眉間に皺を寄せたのは関羽だった。

 

「それは………すまない。私がもう少し踏み込んでいたら黄巾党を逃すこともなかった」

 

「鈴々も追いかけたけど上手く逃げられちゃったのだ………」

 

「あ、いえ。愛紗さん達を責めている訳ではないのです。それを言うなら私達の見通しが甘かったのが原因です。此方こそ申し訳ありません」

 

互いが謝罪する形となってしまう。

お互い至らない点があったという認識を持っていたのだからある種当然とも言える。

そんな様子に苦笑しながら劉備が仲裁に入った。

 

「愛紗ちゃんや鈴々ちゃんは敵をやっつけて、朱里ちゃんと雛里ちゃんは策を以て勝利した。だからもっと自信持っていいんだよ?………私なんて、白蓮ちゃんと別れてから何もしてないんだから」

 

はぁ、と軽い溜息をつく劉備にあわあわはわはわと慌てる軍師二人。

確かに戦闘や策を出すという事に関しては関羽や諸葛亮が主立っているが、劉備が何もしていない訳はない。

彼女にしかできない事をやっているというのに割と真剣にそう悩んでいるあたり、それに気付いていないのだろう。

そんな様子に小さく笑って、空気を入れ替える。

 

「ところで二人は難しい顔をしていたが、何か問題があったのか? 先ほどの黄巾党は確かに逃してしまったが、それではないとすると?」

 

関羽の問いに諸葛亮と鳳統が顔を見合わせ、頷いた。

 

「皆さん、ここ最近黄巾党との遭遇が少ないと思いませんか?」

 

つい先ほど黄巾党と戦ったばかりで今すぐにその実感は湧かないが、記憶を掘り返してみると確かに諸葛亮の言った通りである。

青洲にやって来た当初などあまりの黄巾党との遭遇に憤りを超えて疲労したものだ。

 

「皆さんは冀州黄巾党が官軍によって壊滅させられたのはご存知ですよね? その煽りを受けてこの青洲に黄巾党の残党がやって来ているということも」

 

続く言葉に三人は頷いた。

こうして義勇軍を率いる彼女達にすら届くほど、冀州黄巾党壊滅の話は噂されている。

だが、それは不可解な点である。

 

「………一つ目の疑問点。私や朱里ちゃんが意識的に情報を集めようとして手に入れたのであれば兎も角、特にそういうこともしていないのに風の噂で私達にまで情報が出回ってきました………」

 

「………それだけ全く関与していない街の人々まで知っている、ということか」

 

鳳統の言葉に関羽も同意する。

頭脳で言えば諸葛亮や鳳統には及ばないが、二人と出会うまでは三人組の中で一番頭脳役として働いていた彼女である。

少し考えればその事にも行き着いた。

 

「………二つ目は、その話が出回るほどだというのに、実際は黄巾党との遭遇が減っている事です。何も考えなければ私達や官軍、地方軍閥の活躍により黄巾党の数が減ったから………と考えることが出来ます。ですが………」

 

「少なくとも、さっきの黄巾党は今まで戦ってきた中で一番の数だったのだ。撤退も早かったし、鈴々でも追い付けなかったのだ………」

 

「指揮に優れた者がいる?」

 

劉備が疑問を出すが、諸葛亮はそれを否定する。

 

「いえ、もしそんな人がいるのであれば、もっと私達は苦戦していたでしょう。今回の策は賊だからこそ容易に成った策です。これをもし正規軍相手にするとなるともっと別の手を考えなければなりません」

 

「………分からないな。朱里達が疑問に思う事と先ほどの黄巾党。どう繋がるのだ?」

 

冀州から黄巾党の残党が入り込んでいるにも関わらず遭遇回数は減り、遭遇してみれば黄巾党の規模は大きく、なのに不利と見るや撤退する速度が速い。

これが先ほどの黄巾党に言えること。

 

「…………黄巾党は元々官軍に反抗する為に立ち上がった人達。それに対して官軍が黄巾党を破ったという活躍の情報が街で溢れかえっています」

 

鳳統が現状持つ情報と知識を用いて三人に説明する。

 

「………ともあれば黄巾党は大きく二分されます。官軍を恐れ黄巾党から脱却する者、憤慨し官軍打倒を目指す者。脱却する者に関してはこれ以上話に出てくる事はありません。問題は官軍打倒を目指す者です。………冀州黄巾党討伐の情報と共に“飛将軍”の活躍も聞こえてきます。逃れてきた冀州黄巾党残党達はその体験者ですから、その話が偽物か本物かというのは知っているでしょう。それは各地にいる黄巾党が確かめたい情報でもあります。各地の黄巾党は残党を招き入れるでしょう。同じ側に立つ者、必要な情報を持つ者として。そして“飛将軍”の話が“本物”だと知ったら………」

 

「………今までの様な小規模では太刀打ちできない、と判断するか。つまりこの青洲黄巾党も徒党を組んで官軍に対抗しようとしている、ということか?」

 

「ほぼ間違いなく。私達が黄巾党と遭遇しなくなったのも、各地にバラバラになっていたのが一ヵ所に集まり始めたからです。先ほどの黄巾党は恐らくその場所へ向かおうとしていた人たちだと思います………」

 

鳳統が言うには先ほどの戦は遭遇戦。

撤退が早かったのも本来は青洲黄巾党本隊と合流するのが目的だったからと言われれば納得できる。

 

だがそれが今になって話すあたり、彼女達も確信がなかったということだ。

相手は各地を転々とする黄巾党。

城を占拠していたり本拠地を構えていたりするのであればただその場所目指して行けばいいが、黄巾党はそういう集団ではない。

移動し、各地で騒ぎを起こすその性質上、一ヵ所にずっととどまっている事は無い。

遭遇しないというのは単純に義勇軍が行く道と黄巾党が行く道が被っていないだけの可能性もあったのだ。

 

「けど、官軍に対抗するために黄巾党が大きくなったら、私達だけじゃもうどうしようもないよね………」

 

「………ええ。いくら賊と言えど、巨大な規模になれば私達は無論、官軍でも容易に手を出せなくなる」

 

義勇軍の兵は六千程度。

策を用いて約一万の黄巾党に勝利したが、これ以上の規模を相手にしようと思ったらいくら何でも無理がある。

 

いくら関羽や張飛が猛者と言えど、一人で何万人も相手に出来る訳ではない。

どこまで行っても戦いは数が多い方が勝つ。

それをひっくり返すのが策だと言っても、それにも限度はあるのだから。

 

だが、伏竜鳳雛は違う。

相手はどれだけ大規模になろうとも所詮は賊である。

 

「大規模と言っても相手が賊であれば手が無い訳ではありません。例えば火計。兵糧を焼けば大規模な人数はそのまま枷になります。賊である以上正規軍の様な統率を維持できることも無いでしょう。混乱に乗じれば殲滅とは言わずとも大打撃を与える事は可能です」

 

「………ただそうなった場合、その作戦をどのように成功させるかが鍵になります。敵陣地の隅で炎が生まれても、その規模からしてすぐに消火されて終わりです。相手に混乱を生み出そうとするならばもっと相手の被害が大きいところを攻撃するのが上策。………ただ相手は正面からぶつかれば大損害を被りかねないほどの大規模。当然見張りは複数あるでしょう。それを欺きつつ内部へ奇襲をかける………というのは非常に危険です………」

 

「………確かに。よしんば奇襲に成功し、相手の兵糧を焼く事ができたとしても、周囲を囲まれている状況では生きて帰れない、か………」

 

「むー、それじゃ意味がないのだ。やっぱり戦いは数なのだ」

 

いくら関羽や張飛でも生きて帰れるイメージはつかなかった。

奇襲である以上相手に気付かれてはならない。つまりそれだけ少数で行動しなければならない。

だがそんな少数による工作が成功したとしても周囲は敵だらけ。どうあっても生き残れないだろう。

 

「………そんな作戦、私は嫌だよ。誰かが行くにせよ、捨て駒なんてしたくない」

 

劉備が断固として反対する。

自身が行っても絶対に成功しないというのはわかっているし、関羽や張飛ならば成功するとしても生きて帰れないと聞かされれば劉備の性格上実行には絶対に移さない。

 

「愛紗さん、桃香様。………“都の英雄”と呼ばれている徐公明という人はご存知でしょうか」

 

鳳統が問いかけた。

いきなり話題が切り替わった事に疑問を覚えるも、二人は記憶の中から該当する情報を思い出す。

 

「聞いた事はあるな。何でもまだ黄巾党が蜂起する前、司隷付近の賊を討伐し、一時の平穏を齎した………と聞く」

 

「あ、それ私も聞いた事ある。私じゃどう頑張ってもそんな武は無いから、凄いなあって思ってた」

 

「その“都の英雄”が、何か関係があるのか?」

 

魔女帽子がコクリと頷く。内気な性格である鳳統だが、知識欲は人一倍あった。

 

過去の様々な書物を読み漁っている中で聞こえてきた司隷の話。

当時はまだ“都の英雄”と呼ばれてはいなかったが、司隷の賊を一掃した、という噂話は鳳統の知識欲を大いに燻った。

どのような方法で賊を討伐したのだろう、と。

 

その知識に関する貪欲さをもう少し外向きに出来ないだろうかと、彼女の教師が密かに思っていた事を彼女は知らない。

 

「………先ほどの話。確かに火計が成功したとしても、内部に入った人たちは生きて帰れないです。よほどの武を持たない限り。………ですが、それを安全に、確実に成功させる手法があります。………それが“都の英雄”がかつて使った方法」

 

 

「─────“埋伏の毒”、です」

 

 

◆◆◆

 

 

明日出陣を控えているのは何も官軍だけではない。

勅命により豫洲へ赴くことになっている孫呉もまた同じである。

戦準備を整え、明日早朝に出陣を控えている。

 

ならば今日は明日に備えて早く寝よう、ということで眠っているのが灯火と香風であり。

 

 

─────明日に備えて景気付けようと酒を飲むのが孫堅である………!

 

 

「いやいやいやいや、何やってるの、炎蓮さん。明日出陣だよね?」

 

食堂にやってきた一刀。

中には当主である孫堅を始め、周瑜、孫策、黄蓋が居た。

 

「なんだぁ、一刀か。─────飲むか?」

 

「飲まないよ!?」

 

手元の杯と一刀の顔を交互に見た後、杯を突き出した孫堅に思わず大声で拒否してしまう。

いやだが考えてもみてほしい。

明日は大戦になりそうだと昼間話していて明日出陣を控えているのに、前日の夜に酒を飲むだろうか。

 

「なんだ付き合いの悪りぃ奴め。俺の酒が飲めないって言うのか?」

 

「もうすでに酔っている………うん、酔うな、それだけ飲んでいれば」

 

孫堅の足元には酒が入っていたと思われる瓶が複数転がっていた。

彼女が大変な酒豪であるというのは知っていたが、何度見ても軽く引いてしまう一刀である。

 

「というか止めなくていいの、冥琳、雪蓮? 明日出陣だよね?」

 

「確かに明日出陣ではあるが、明日戦をするわけじゃあない。二万もの軍勢となれば目的地に行くだけでも時間を要する。今日酒を飲んでも問題ないさ。………酔いを明日に残さなければな」

 

「大体、この人が止めろといって止めると思う?」

 

孫策の言葉に答えは出ない。

というか娘である孫策がそう言っている時点でそれが答えなのだ。

 

「この俺が次の日に酔いを残す事と思うか、一刀?」

 

まだ数度だけではあるが、酒を信じられない程飲んで翌日にその酔いを残している孫堅を一刀は未だに見た事がない。

今回も明日には問題なくいつも通りになっているのだろう。

 

「そういう事だ。お前も一杯ぐらいは酒に付き合え。こうして食堂に来たあたり、適当な物を欲して来たのだろう?」

 

「………まあそういうことなら」

 

喉が渇いたということで水を飲みに来たのだが、こう言われては断るのも躊躇われた。

さっきは勢いで断ってしまったが、明日出陣なだけであり戦をするわけじゃない。軍師の御言葉である。

酔いも残さなければいいわけで一杯くらいならばと手渡された杯に口を付けた。

無論一刀は孫堅ほど酒に強いわけではないので慎重に飲んでいるのだが。

 

「けど、戦力は本当に二万で大丈夫かな。確か相手は─────」

 

「はっ!面白れぇじゃねぇか。相手の軍勢は十八万。それに対して勅命に書かれていた要求兵力は二万。向こうの九分の一の兵力で良いっつうんだから、痛快だ。官軍………いや董卓軍と言った方が正しいか。どれだけの連中なのか、是非とも興味が湧いた………!」

 

「ほんっと、そういうところは相変わらずよね………」

 

「んん? 何か言ったか、雪蓮」

 

「なんでもないですよー」

 

酒を飲みながらも見せるその眼光はまさしく狂虎の名に相応しい。

情報として董卓軍の活躍は知っている。

官軍の情けなさにほとほと呆れていたのだが、こうも強気の要求となれば孫堅が興味を持つのもある種当然であった。

 

「ねぇ冥琳。あなたはどう見る?」

 

「十中八九何かしらの策があるだろう。現在官軍は荊州や青洲を始めとして多方面同時作戦中だ。この豫洲に全ての兵力を集める事は出来ない。純粋な数で言うならば我らと官軍を合わせても黄巾党が勝る。今までの官軍であれば何を考えているのか不安でしかないが、今の官軍………というより董卓軍であれば、何かしら手があるのだろうとある種期待している」

 

「過度な期待をしすぎるのも危険だと思うがのう。無論策はあるのだろうが、これだけの兵力差。如何に相手が賊であろうと生半可な策では数で押し切られてしまうのではないか?」

 

「ええ、それは十分にあり得ます。無論、私とて軍師である以上、策は考えましょう。官軍側の軍師が把握している情報も得られるのであればそれに越した事はないでしょうし」

 

「期待しているわよ、冥琳♪」

 

親友に激励を飛ばし、手に持っていた杯を勢いよく喉へ流し込んだ。

敵の数は甚大、決して楽な戦いにはならない。

それでも孫策の勘は告げていた。

 

きっとうまくいく─────と。

 

 

 

 

 

 

 




感想、評価、お気に入り登録、誤字報告ありがとうございます。


話の流れは作れてるのに、肝心の時間が取れないという状況のため更新速度は落ちますがご了承ください。


次回はいよいよ官軍と孫呉軍が合流するよ、きっと。




というか香風でいない属性って水だけだから来るとしたら水になるのか?
そうなれば恋(英雄)と同じ属性………これはもう編成で組ませるしかないな!

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