マグノリアへの帰還から約一ヶ月、新婚生活を楽しんだ。
大きく変化したところといえば、やっぱり寝室を一緒にしたところだろうか。朝起きると愛する人が隣にいて、おはようという何気ない朝のやり取りだけで、嬉しくて幸せな気持ちで一杯になった。
それ以外は、特に変化はない。
多分、原因は一緒に住んでいたからだろう。半同棲していたようなものだし、付き合っていたようなものだから、お互いのことはある程度知っているし結婚に踏み出すのも早かった。
周囲から見たら『もう結婚しちまえよ』と言われるほどの関係だったわけで、文字通り過程をすっ飛ばして私達は夫婦になったのだ。
他にも違いがあるとすれば、ローゼンが私をちゃんと女性として扱ってくれることだろうか。以前はデートと言えば渋い顔をしていたのに、今は肯定してくれるのだから、それがほんのちょっぴり嬉しくて、甘えると甘やかしてくれるのだけども。それがいつもの比じゃないくらいに甘くなっている。
「ローゼン、はいあーん」
「……」
「どう、おいしい?」
「そうだな。昔より料理は上手くなったか」
今日も今日とて新婚生活を満喫中。いつも通りテンションの低い彼に朝食の食べさせ合いっこをしていると、不意に玄関の扉が大きく開け放たれた。
「姉ちゃん!兄ちゃん!」
朝から突然訪ねてきた弟に、私は少し不機嫌になる。
今いいところだったのに……。
「あら、エルフマンじゃない」
匙を置いて振り返ると、弟はすっごい気まずそうな顔をしながら私達を見ていた。
「この際だから言うぜ姉ちゃん。新婚だからそっとしておいてやれってマスターには言われてるけど、俺は言うぜ。兄ちゃんも姉ちゃんもイチャイチャしすぎだよ!」
「そう?まだ一ヶ月よ?」
「もう一ヶ月だよ!」
弟は何が不満なのか、私の指摘にそう返した。
「兄ちゃんも姉ちゃんもその間、一回もギルドに顔を出さねぇじゃねぇか!」
どうやらエルフマンは寂しかったらしくそんなことを言ってくる。
「もう一ヶ月も経っていたのか?」
気づかなかった、と言わんばかりのローゼンの反応にエルフマンが項垂れた。
「兄ちゃん……」
多分、エルフマンが思っている理由ではなく、ローゼンはただ時間を忘れていただけだ。きっと私といるのが楽しかったからとか、そういった意味ではないと思う。本を読んでたら一週間、ギルドに顔を出していなかったとかよくあることだし。
「ごめんなさいねエルフマン。寂しかったのよね?帰ってくる?」
「何が悲しくて二人の愛の巣に帰らなきゃ行けないんだよ……」
確かにエルフマンがいると私達がイチャイチャ出来なくなる。それは死活問題だ。
「それより兄ちゃん、仕事しなくて大丈夫か?結婚生活って何かと必要なものがあるんじゃないのか?」
「特に問題はないな。一生遊んで暮らせるくらいの金はある」
だから、仕事もせずに私と四六時中一緒にいてくれるのだろう。お仕事に行く見送りを妻としてやりたいけど、それはそれで寂しいので現状維持だ。
「なんでもいいからギルドに顔出してくれよ。頼むから」
ついにエルフマンが本音を吐いて、机に突っ伏した。
その翌日、私とローゼンは一ヶ月ぶりにギルドへと足を運んだ。まずはマスターへの挨拶に行こうかと思って酒場の方に顔を出せば、いつも通りの席にマスターは座っていた。
「おはようございます。マスター」
「ん。来たか。ほほっ、並んでいるのを見るとやっぱり違和感があるのぉ」
そう言ってマスターはローゼンを揶揄う。「まさかお前さんが結婚するとは」と言わんばかりに、ニッと笑う。
「揶揄うために呼び出したのなら帰るぞ」
「そうじゃないわい。実はお前さん宛に指名依頼が来ていての」
「断る」
「最後まで話を聞かんかい」
仕事を受ける気がないのか、ローゼンが拒否するとマスターは渋い顔をする。
「断れるわけがないじゃろ。王族からの指名依頼じゃ」
「ヒスイか……」
そういえば前にも王族からの指名依頼が来ていたことがあった。その時の依頼主もヒスイ姫だった。
「ねぇ、そういえばローゼンってヒスイ姫とどういう関係なの?」
「あれが子供の頃に会って、懐かれただけだ」
既視感。私、同じ質問してる。
ローゼンの答えも一緒だ。
「それと呼び出した理由はもう一つある」
マスターが視線を隅の方へ移動させる。そこには見慣れない子供の姿がある。翡翠の瞳と、黄金のような瞳を持つ、五歳くらいの黒髪の少女がちょこんと座っていた。
「どうやらあの娘が父親を探しに来たらしくてのぉ」
「このギルドにいるのか?」
「うむ。そうらしい」
ローゼンは少し考え込んだあと、カナを呼び出すと何やらぼそぼそと内緒話を始めた。何を言い合っているのかわからないけど、二人して納得して頷き合うと、黒髪の少女へ視線を向ける。
「おまえの妹じゃないか?」
「いやいや、知らない知らないあたし知らないよ!」
「異母兄弟……この場合は姉妹か?」
「うっ、ありえそう……」
そうして少女を見つめていると、少女がこちらをみた。そして、ぱぁっと表情を輝かせると椅子から降りてとたとたと走ってきた。
「パパー!」
そう言って飛びついた相手は、予想外の人。
「パ…パ…?」
私の愛する夫、ローゼンだ。
ゴールデンウィークカムバック。