原初の御伽噺は神話へ至る   作:黒樹

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書いたはいいがサブタイトル迷走してしまった。


魔神を冠する娘

 

 

 

早速、問題が一つ。慣れないドレスとヒールを履いたミラは早々に転びそうになり、闇オークションを内包するパーティーの時間まで即席の練習をすることになった。娘の命が懸かっていることもあってか夫人はミラにヒールの歩き方やダンスの仕方などを猛特訓させ、それなりに上品な振る舞いというものを習得した。

そして、刻限が迫り夜の帳が落ちる頃、慣れないヒールに戸惑いながら歩くミラに腕を貸しながら、会場となる豪華客船に乗り込む。船内には既に数多くのパーティー客が乗船しており、闇ギルドらしき粗暴な者から品の良さそうな貴族までが点在していた。見渡せば人集りばかりで大きな問題を起こして逃走を図るには困難極まりなく、あの夫妻が来たならば確実に逃げ延びるなど困難なことが予想出来た。

 

「……思ってたより人多いな。それに乗船もスムーズだったし、よく私達が正規ギルドだってバレなかったよな」

 

本来、闇ギルドの者ならそのシンボルであるギルドの紋章を提示する。それが入場の条件だ。だが、貴族として潜入したミラと俺はギルドの証を提示しなくてもよく、ギルドの紋章さえ見せなければ身バレすることは少ない。

そのギルドの白い紋章がミラのは左ももにある。完全にスカートに隠れており、少し捲り上げれば危険な位置だ。

 

「不用意なことは言うな。誰が聞いてるかわからん」

「そ、そうだよな……ごめん」

 

何処に耳があるかわからない状況で不用意な発言を控えるように叱咤され、ミラは俯いてしまった。

 

そこにじーっと俺の顔を覗き込む、女がいた。

 

「あー、ローゼンだ。会いたかったゾ!」

 

天使のような格好……と言えばいいのだろうか。一見して、胸開きの素肌全開のはしたない格好をした女性が、俺ににっこりと笑いかけて全面的に好意を示してくる。

 

「……誰だよ、その女」

「誰だよその女、はこっちのセリフだゾ」

 

明らかに不機嫌になったミラと睨み合う女。年頃としてはミラとほぼ変わらないだろうか。説明を求める、と俺に二人の視線が集中するのもそれは必然。だが、俺は脳内の記憶の詰まった書庫をひっくり返し膨大な記憶を引っ掻き回しても誰だか思い出せないでいた。検索範囲を広めよう、この女を少し幼くしてみるのだ。随分昔に会ったのかもしれん。

 

「…………ソラノか?」

 

検索結果。もっとも似ている人物から名前を出してみた。

 

「覚えてなかったらお仕置きしてるところだったゾ♪」

 

そのお仕置きが俺に効くかどうかは不明だが、及第点はクリアしたようだ。

 

「でも、まさかこんなところで会えるなんて思っても見なかったゾ」

 

その言葉の意味は言葉通りでありながら、もっと深い所にある。

 

「……まさか、正規ギルド『フェアリーテイル』のローゼンがいるなんて」

「!?」

 

この言葉に動揺したのはミラだった。即時、警戒態勢になり魔法を発動しようと魔力を熾す。しかし、それはミラの頭をポンと撫でるだけで霧散する。

 

「それで、なんでソラノがここにいる?」

「ローゼンはお仕事だよね?私は闇ギルド『六魔将軍』の一人だからだゾ」

 

「闇ギルド」という言葉に過剰反応するミラ、しかし俺がもう一度頭を撫でると警戒した目をソラノに向けるだけで若干の不満はあるものの引き下がる。

 

「そんなに警戒されても別に私は何もしないゾ」

「し、信じられるかよ……そんなこと……」

「ローゼンは私にとって恩人であり、魔法を教えてくれた師でもあるからね。それと、今はエンジェルってコードネームだから控えてほしいゾ」

 

–––と、言いつつ鍵を取り出すソラノ。

魔法の触媒かとミラが身構える中、タクトを振るように鍵は振るわれ軌跡を描く。

 

「開け、双児宮の扉–––ジェミニ」

 

一瞬、光が満ちた。輝き船内を照らす光が晴れた後、宙に浮かぶのは人形のような星霊。

 

「ジェミニ、コピー」

 

ポンっと音を立てて、煙が上がる。

ジェミニと呼ばれた星霊が消え、そこには–––。

 

「……え、ローゼンが二人!?」

 

俺と瓜二つの人間。格好も、何もかも、同一の俺にミラは隣にいる俺と目の前にいるジェミニを見比べた。

 

「ふふっ、コピー完了。もうコピーは一生変えないゾ」

 

ご満悦なソラノは星霊門を閉じ、ジェミニを星霊界に帰した。

 

「さてと、これは口止め料って事で」

「随分安いな」

「むしろ私が払い足りないくらいだゾ。どうせ目的がなんであれ、ローゼンの邪魔をしてもこんな連中、相手にすらならないだろうし」

「賢明な判断だな」

「私もローゼンに恩を仇で返すような事はしたくないゾ」

 

交渉は成立した。元々、あってないような交渉だが、少なくとも彼女は協力的らしい。

 

「オークションで出品される少女について何か知らないか?」

「うーん。……少なくとも、まだ仕入れはないなぁ。危険な禁呪指定の魔道具なら厳重に管理されてるけど」

「そうか。取り敢えず、探ってみるか」

「あー、あまり警備が敷かれてる場所に近付き過ぎると警戒されるから気をつけるんだゾ」

 

 

 

 

 

 

それから数時間、船内を捜索した。しかし、探し人は見つからず。やはり警戒した闇ギルドの連中にマークされながら澄ました顔で一度用意された部屋に立ち寄り躱し、ただの乗客を装い、会場に二人で戻れば立食形式の料理に舌鼓を打っているミラと隣り合いながら乗客達へと視線を移していく。ワインの入ったグラスにさっきから尾行してくる闇ギルドの連中が映っていた。

 

「ふむ。やはり警戒されたか」

「……私はもうエンジェルってやつと会った時点で詰んだと思ったけどな」

「もしそうなら、闇ギルドの連中を全員捩じ伏せた上でゆっくり捜索するつもりだったがな」

「……そんな自信ねぇよ」

「安心しろ、おまえにできなくても守ってやる」

 

連れてきたのは俺だからな。と、責任に対して普通に対処したつもりなのだが、ミラはそんな言葉聞いてないという風に皿の上のパスタを胃の中に収めた。

 

「パーティーも中盤、焦っても仕方がない。目的のオークションまであと何曲か。踊ろうか」

「……え、あ、あぁ」

 

手をミラに差し出す。差し出された手に戸惑いつつも手を取ると流れるようにダンスしている客達の中へ紛れ込んだ。一瞬、腰を抱いて体を近付けた時に強張りがあったがゆっくりと深呼吸することで対応する。頰を赤くしたり、きゃっと小さく悲鳴をあげたり、しかし踊り始めると流麗なステップで優雅に踊る彼女は割と物覚えが良いのかもしれない。

 

「……さっきから様子が変だな」

「変って?私にはわかんないけど」

「違う。ミラ、おまえだ。体調が悪いなら、俺一人で片付けるぞ」

「別にそういうんじゃなくて……ローゼンは、その、なんとも思わないのかよ?」

「何がだ?」

「……その、私とこんな密着していて」

 

改めて自分達の置かれた状況を俯瞰してみる。手を繋ぎ、お互いの腰に手を添えて、時々体の一部が触れ合ったりしている。なるほど、年頃の娘としてはそういうのを気にする歳頃か。

 

「嫌なら、ダンスを止めるが」

「いや、そうじゃなくて……」

 

何か言いたそうに俯く。その顔を見て、表情について考察しようとした時、不意に照明が消えた。

 

「レディースェーンドジェントルメーン! 紳士淑女の皆様、ようこそお越しくださいました」

 

照らされる、ステージの方。そこには一人の道化。一身にスポットライトが当たる男はマイクを片手に陽気に礼儀正しく戯けた感じでお辞儀をしてみせた。

 

「今宵、皆様お待ちかねのオークションには世にも珍しい珍品がずらり!貴方がお探しの商品もあるでしょう!おっと、紳士の皆様ご期待の麗しい玩具も取り揃えております」

 

道化の声に会場全体が一斉に拍手を送る。

それに気を良くした道化はもう一度頭を下げた。

 

「長話も退屈でしょう。では、早速張り切っていきましょう!」

 

ステージ横から檻が運ばれてくる。その中には、首輪と足枷を嵌められた金髪の少女が一人。前座だろう。その少女は依頼内容として聞いていた通り、写真で確認済みの顔と一致した。

 

「まさか最初から出るとはな。待つ手間が省けた」

「でも、この状況で連れ出すなんて……」

「確かに出港してだいぶ時間が経つ。だが、これ以上依頼主に心配させるのもあれだ」

 

ステージの上へ一足飛びに降り立つ。一瞬にしてステージ上に現れた俺に客は目を白黒とさせた。その間にも知った事かと戦斧で檻を斬り払う。首輪と足枷を破壊し、少女を抱え上げた。

 

「あ、あの……お客様?」

「気にするな。それとも、船ごと仲良く評議員に出頭するか?」

 

仕事の邪魔だと道化を睨む。もう既に危険な魔道具のリストは評議員に送ってあるので、今頃は逮捕のために大勢の兵が岸へと押し寄せている事だろう。もちろん、エンジェルの姿はない。逃げたか、利口な判断だ。闇ギルドもそれくらい聞き分けが良ければいいのだが、そうは問屋が卸さないのが現実らしい。

 

「楯突くか?それもいいだろう。ミラ、暴れていいぞ」

 

この日、闇ギルドが2桁壊滅。

押収品は100に登ったらしい。

しかし、恐ろしい事に何処までやれるか見守るつもりで任せていたら、八割は一人で壊滅させてしまったのである。

俺はこの日、ミラは極力怒らせない事に決めた。

 

 

 

 

 

 

依頼達成報酬を依頼主から受け取り、少女を帰した後、ギルドには寄らず家へ直行。依頼報酬の魔導書の解析を進めたいがため自室に篭ろうとしたら、リビングにはまだリサーナとエルフマンの姿があった。

 

「ミラ姉、ロー兄お帰り」

「姉ちゃん、兄ちゃん、お帰り」

 

長い年月の間に二人は俺を兄と慕う様になった。二人共立派な魔導士になり半年程が経つが、基本はミラと一緒に依頼に行くため今回は留守番をしていたようだ。

 

「それで姉ちゃん、S級の依頼どうだった?」

 

男としてS級は憧れなのか目を輝かせて内容を聞くエルフマン。しかし、ミラ本人は少し疲れた様子でぐでっと机に突っ伏していた。

 

「んー。……もうダメ、無理。寝る」

 

それもそのはず、魔力が空になるまで大暴れしたミラは体力的にも魔力的にも限界だった。流石にギブアップというところで俺が最後の後片付けに割って入ったのだ。それまではミラに闇ギルドの軍勢を相手に何処までやれるか手を抜いて加勢していたので、疲弊しきっているのである。

 

「あらら、本当に寝ちゃった。ミラ姉ー、そんなとこで眠らないで部屋に行きなよ」

 

くーくーと可愛い寝息を立てて眠るミラ。

リサーナが揺り起こそうとしても、起きる気配がない。

 

「仕方ないなぁ。そうだ、ロー兄シチュー食べる?」

「……いただこう」

「じゃあ、ミラ姉を部屋に運んであげて。温めておくから」

「いいや、リサーナ。ここは漢の俺が。兄ちゃんだって疲れてるだろうし」

「エルフ兄はダメ」

「……いや、ダメとかじゃなくてだな」

 

誰がミラを運ぶか喧嘩し始める二人。しかしそれくらいの労力、拒む理由もない。

 

「俺が行こう」

「だ、だけど兄ちゃん……」

「もう、エルフ兄は黙ってて!」

 

ついに妹に押し切られてしまうエルフマン。姉を運ぶか、妹の言う事を聞くか、天秤に掛けた結果どちらの言い分も尊重すべきものとして認識しているらしく、結局押し黙って椅子に座った。

椅子に座ってテーブルに腕を重ね器用に寝入るミラを横抱きにして、ミラを部屋へと運ぶ。ベッドに寝かせると布団を掛けて、戻ろうとしたところで袖に違和感を感じた。振り返るとミラが袖を掴んでいたのだ。しかも寝ながら、という奇妙な状況に優しく解き腕を布団の中に戻しておく。

今度こそ、リサーナとエルフマンのところへ戻った。

 

「……ねぇ、ロー兄」

「なんだ?」

「ミラ姉と何かあった?」

 

いきなり妙な質問をされて、返答に困る。

逡巡し今回の依頼中の出来事を思い出してみたが、特別な事など何もない。

 

「どうしたんだ急に」

「だって、ミラ姉いつもより機嫌が良かったから」

 

姉妹間でしかわからない変化なのだろう。俺にはミラがいつも通りに見えて、リサーナの言い分に首を傾げた。

 

「……今回の依頼報酬は魔導書だったんだが、そういえばミラには報酬を渡してないな」

 

流石に魔導書を半分にするわけにもいかず、報酬を渡してないから怒っているのかとも思ったが、リサーナは苦笑いで此方を見ていた。

 

「確かにミラ姉怒る時、たまに怖ーい笑顔になるけどさ、今日はそういうんじゃなくて」

「うぅ、姉ちゃんが笑顔の時ってマジで怖えんだよなぁ」

 

何を思い出したのかエルフマンがガクブルと震え始めた。

 

「それに報酬なんて要らないと思うんだよね。もしそれで納得できないんだったら、ミラ姉と今度デートでもしてあげてよ」

「……デート?」

「本当はロー兄だって気づいてるんでしょ。ミラ姉の気持ち」

 

直球を偶にぶん投げてくるリサーナの言葉を無視して、俺は目の前に置かれたシチューにスプーンを突っ込み、具材を弄び出て来た芋を口に運んだ。だが、放っておいてくれないのがリサーナだ。

 

「ねぇー、無視ー?」

「……一緒に出掛けることが報酬とは到底思えないが」

「そんなこと言って本当はわかってるんでしょ」

「大体、依頼に付き合って外に出ているのにそれではダメなのか?」

「……本気で言ってる?わけないよねー」

「それに俺は恋だの愛だのを理解するつもりはない」

「ねぇねぇ、私、恋愛感情をミラ姉が抱いてるなんて一言も言ってないよ」

「俺もミラが恋愛感情を抱いてるとは思ってない。お前達のような歳頃が話題にしそうなことを予想しただけだ」

「私もロー兄と出掛けることをデートって言うよ。別に恋愛じゃなくても、そうであっても、私はロー兄とデートするし。何よりデートって言ったらミラ姉が面白い反応するし」

「…………」

 

リサーナ相手に口論をするのがそもそも間違いだった。昔から誰かと会話するのは苦手なのだ、それにリサーナはお喋り過ぎて言葉遊びが過ぎる。

 

「……もう寝る」

「うん。ちゃんと考えておいてね」

 

言いたいことだけ言ってリサーナは話を切り上げた。俺が話を全て聞いている前提だ。まったくもってその通りなので反論できもしないし、反論したらちゃんと話を聞いていた肯定になるが。

自室に逃げるように帰り、魔導書の解析に没頭する。今、眠りにつけば、余計な夢を見そうだった。

 

「……恋愛感情か。もう二度と、関わる気もなかったんだがな……」

 

いったい何から逃げているのかも、俺はわからないままだった。

 




途中で何書いてんだ?と思ったら魔神ミラジェーン伝説製造してた件。サブタイトルはその結果。
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