子供の頃、俺は魔法使いになるのが夢だった。
きっかけは、父さんが何度も読んでくれた一冊の古びた絵本。
その絵本の内容は、魔法使いの少年が世界を旅をするという至って在り来たりなもの。
しかし、俺はその物語に惹かれた。
色鮮やかな煌めく魔法の数々。
子供の頃の俺はページをめくる度に胸が踊り、憧れが強まっていった。
“俺も魔法使いになりたい”
そう思って、父さんに聞いてみたんだ。
『魔法使いってどうやってなるの?』
『簡単にはなれないさ。厳しい修行をしなくちゃ』
子供の俺の夢を壊さないように父さんは言ったのだろう。
今になって振り返れば当たり前だが、子供は純粋なのだ。良くも悪くも。
だから俺は父さんの言葉を鵜呑みにしてしまったのだ。
当時5歳だった俺はまず、町を走り込むことを決める。
修行と言えば走り込み!そんな印象があったから。
⋯⋯けど、1年経っても魔法は使えない。
もう一度父さんに聞いてみた。
『他に何すれば魔法使いになれるの?』
『まずは体を鍛えなきゃだめだなー』
そう言われ、俺は走り込みに加えて体を鍛え始めた。
周囲の人達からは変な目で見られてた気がするけど、知ったこっちゃない。
魔法使いになるためなら何だってやってやる。
当時の俺はとにかく必死だった。
━━━更に2年が経つ⋯⋯が、魔法は使えない。
『鍛え方が甘いんだ。父さんが直々に鍛えてやろう』
父さんはそう言って、俺に武術を教え始めたのだ。
流石に8歳になった俺は疑ったよ、“これって関係あるの?”って。
でも、父さんが嘘をつく筈がない。
そう信じて俺はひたすら修行に打ち込んだ。
━━━更に5年が経つ⋯⋯が、魔法は使えない。
『人には覇気という力が存在するんだ』
もはや魔法の“ま”の字も無くなってしまった。
父さんは訳の分からないことを言い出して俺を更に鍛え始める。
⋯⋯しかし、まだ俺は信じていた。
魔法使いになるにはこの修行が必要なのだと。
これを乗り越えた先に夢の実現が叶うのだ⋯⋯と。
━━━更に5年経つ⋯⋯が、魔法は使えない。
何故だ、何故だ⋯⋯何故魔法が使えない?
俺には才能が無いのだろうか?
毎日毎日修行をしたんだぞ。
最近じゃ手合わせで父さんにも勝てるようになってきたんだ。
覇気だって使えるようになったのに⋯⋯!
それなのにどうして⋯⋯!
どうして魔法が使えるようにならない⋯⋯!?
俺はこの悩みを父さんに打ち明けた。
しかし、返ってきたのは無情な言葉だ。
『お前も18歳になるんだ。いつまでも馬鹿な事を言うんじゃない。⋯⋯魔法使いになんてなれるわけないだろ?』
『は⋯⋯?』
『お前は俺と同じ海兵になるんだぞ。何時まで子供の気分でいるつもりだ?』
父さんが何を言ってるのか分からなかった。
いや、分かりたくなかった。
『⋯⋯嘘、だったのか』
ずっと信じてたのに⋯⋯。
父さんの言うとおりにすれば魔法使いになれるって⋯⋯そう思って今日まで⋯⋯。
『いいか?お前は既に中将である俺と同等の強さだ。何れは海軍を引っ張る存在になると確信しているぞ』
父さんが何か言ってるが、俺の耳には届くことはなかった。
聞く気もないし、興味もない。
もう⋯⋯どうでもいい。
その日、俺の夢と父さんへの信頼は消え失せた。
▽■▽
「⋯⋯!⋯⋯さ!」
「ん⋯⋯」
何やら耳元が騒がしい。
陽気な日差しを浴びながら昼寝してたんだが、何者かが邪魔をしているらしい。
しかも激しく揺らしてくるときたもんだ。
俺は重い瞼を少しあげてその犯人を睨む。
「起きてください!ロード大佐!!」
「⋯⋯アリスうるさい」
太陽の光で輝く長い金髪が見える。
今はそれすらも眩しくて鬱陶しくてやかましい。
「もうすぐ会議が始まりますよ!?」
「⋯⋯そう」
「⋯⋯そう、じゃないです!遅刻したら補佐の私も怒られるんですよっ!!」
キンキンと高い声が耳に響く。
せっかくの美人もこんなに騒いでちゃ意味ないな。そんな事を思いながら俺は体を起こす。
「⋯⋯懐かしい夢見てた」
「はいはい、そんな事より会議ですよ大佐!はい、コート!」
「⋯⋯ん」
アリスが俺に白いコートを羽織らせる。
背には“正義”の2文字があり、これこそが海軍将校としての証だ。
まあ、だから何だって話だけど。
俺は
あの日から、何事にも関心が湧かなくなってしまった。⋯⋯睡眠だけは必須だけど。
父さんのせいだ━━━そう決め付けたい所だけど、俺自身が馬鹿だったせいでもある。
てか、本当に馬鹿でしょ。
何が魔法使いになりたい、だ。
⋯⋯結局、流されるまま海兵になって雑用から始まり、3年後には気付けば海軍本部大佐か。
適当にやっても意外と出世できるもんだ。
「⋯⋯遅れました」
「お、遅れて申し訳ありません!」
「時間厳守だ、早く席に着け。ロード大佐、アリス中尉」
扉を開けると既に他の海兵は揃っていた。
皆が俺達を注目⋯⋯いや、睨んでるけど知らん。
隣で震えているアリスを放っといて、俺は空いてる席に移動する。
「それでは始めるとしよう!」
部屋の1番前で司会進行をするレイド中将━━━もとい父さん。
チラチラこっち見るな気持ち悪い。
▽■▽
まあ、会議が始まって直ぐに寝た訳だけど、アリスが代わりに聞いてたから問題ない。
どうせ大した内容じゃないし。
「⋯⋯で、なんです?ガープ中将」
「会議中に寝ておる小僧に罰を与えに来たんじゃ」
再び昼寝をしようとした矢先にこれだ。
俺は目の前の筋骨隆々なパワフルじいさん━━━ガープ中将を見上げる。
「あなたも寝てたでしょう」
「わしは偉いからいいんじゃよ!」
「⋯⋯無茶苦茶だ」
これが海軍の英雄と言われる男か。
実力は身をもって知ってるけど、だからと言って自由すぎだ。
「という訳で、お前にはコイツらをしごいてもらう!入ってこい!」
「「は、はいっ!!」」
「⋯⋯はあ」
勝手に話が進み、ガープ中将が呼び出したのは二人の少年。
この英雄様に絡まれたら諦めるしかない。
抵抗するだけ無駄なのは経験済みだ。
「で、君たち誰?」
「は、はいっ!雑用のコビーです!」
「お、同じく雑用のヘルメッポです!」
ピンクの髪に眼鏡を掛けた少年がコビー。
金髪のひょろひょろがヘルメッポ。
二人とも雑用か。
ガープ中将が連れてきたってことは見所あるんでしょ、きっと。
「そんじゃ、頼んだぞ〜」
「期間は⋯⋯?」
「わしの気分」
それが一番困るんですけど。
ガープ中将はさっさと居なくなり、残されたのは俺と雑用たち。
ふむ、後は俺の自由ってことか。
なるほど。
「それじゃ二人とも、最初の任務だ」
「「は、はいぃぃぃっ!」」
そんなガチガチに緊張しなくても。
俺ってそんなに怖いかね?
階級差は途方もないくらいあるけどさ。
「昼寝しよう」
「「え?」」
「おやすみ⋯⋯」
「「ええ!?」」
二人が凄い驚いてる気がするけど、眠くてそれどころじゃない。
目蓋が自然と閉じ、意識がだんだんあやふやになる。
そして、俺は眠りについた。
目を覚ましたら二人が隣で寝てた。
度胸はそれなりにあるらしい。
あとアリスにまた怒鳴られた⋯⋯雑用君達と一緒に。
親は子供の夢を壊しちゃいけません!