怠惰な海兵は昼寝を好む   作:オハギ

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3話 パトロール

 

 

 

 海軍本部の頂点に君臨する者。

 

 そう、センゴク元帥だ。

 俺はある頼みをするべく、この方の部屋へと赴いている。

 

「何の用だ、ロード大佐?」

 

 デスクに座り、手を組んで俺を見る元帥。

 頭にはカモメのオブジェが付いた帽子を被っており、胸には数多くの階級章がある。

 

 そして彼の隣には一匹のヤギ。

 

 何故ヤギ?

 というか、頭重くないのだろうか。

 などと頭に浮かぶけど、今更だ。今は関係ないし、どうでもいい。

 

 俺は元帥の目を見つめ、口を開く。

 

「センゴク元帥、一つお願いがあります」

 

「何だ?」

 

 かなりご高齢だというのに、この風格。

 流石は海軍本部元帥だ。まだまだ現役と言うわけか。

 しかし、俺も負けてはいられない。

 

 珍しく眠気も無く、俺はいつになく真剣だ。

 それだけ価値のある事であり、俺にとっては欠かせないもの。

 

 ━━━━そう。

 

 

「休暇が欲しいです」

 

「戯けが。寝言を言う暇があったら見廻りに行ってこい。今回の当番は貴様だろう」

 

 

 真顔で普通に怒られた。

 

 何故こうも俺の願いは叶えられないのだろうか。

 

 

 

 

 ▽■▽

 

 

 

 

「という事で、見廻りに行くことになったから君達も着いてきて」

 

「「は、はぁ」」

 

 一連の経緯を聞いたコビーとヘルメッポ。

 正直二人は“不思議な人だ”と、呆けるが直ぐに背筋を伸ばして返事をする。

 

「ん、詳しいことはアリスから頼む」

 

「相変わらず投げやりですね。ま、知ってましたけど!」

 

 バトンタッチと言わんばかりに手をヒラヒラさせ、ロードは立ち去る。

 上司としてどうなのか疑いの目を向けるアリスだが、こうなる事は予想済みだ。

 

 彼女はコホンと咳をし、説明する。

 

「まあ、説明する程の事でもないけれどね。その名の通り、周辺の海を10日程かけてパトロールするの。海賊やら悪党やらがいたら即捕縛よ!」

 

「で、でも⋯⋯本当にいいんでしょうか?僕達が一緒に行っても」

 

「ロード大佐の指示だし、気にしなくても大丈夫よ。これも経験!とっても大事!」

 

 不安がるコビーに、アリスは金髪を靡かせて自信満々にサムズアップ。

 加えてヘルメッポも後押しをする。

 

「アリス中尉の言う通りだぜ?折角の機会なんだ、一緒に行かなきゃ勿体ねェぞ━━━それに」

 

 ヘルメッポはコビーに耳打ちをする。

 

「中尉の鬼指導の休憩期間でもあるんだぜ⋯⋯!」

 

「聞こえてるわよ、ヘルメッポ雑用」

 

 距離が近いためアリスに丸聞こえである。

 ヘルメッポは肩をビクッと震わせ、アリスに顔を向けるとそこには黒い笑みが浮かんでいた。

 

「安心しなさい。船の上でも鍛練は出来るわ。むしろ今までより沢山ね?」

 

「ひえぇぇぇっ!?」

 

「へ、ヘルメッポさん⋯⋯」

 

 まるで獣に狩られる子ウサギのようだ。

 コビーは友人の間抜けな姿を見て溜め息をつき、笑みを溢す。

 

 最初の出会いはお世辞にも良いとは呼べないものだったが、今では互いに切磋琢磨するライバルであり、友達だ。

 

 いつかは二人で海兵の高みへ。

 そしてコビーの恩人、モンキー・D・ルフィに追いつき━━━否、越えるのだ。

 コビーは己の夢を再確認し、気持ちを改める。

 

 

「一時間後に出発だから各々準備しなさい!」

 

「「はい!」」

 

 

 こうして、雑用達は初めての見廻りへ旅立った。

 

 

 

 

 ▽■▽

 

 

 

 

「アリス中尉!周囲に異常はありません!」

 

「ええ、分かったわ。では引き続きお願いね」

 

「はっ!」

 

 マリンフォードを出発してから2日。

 海軍のシンボルマークを掲げた、ロード大佐率いる軍艦が偉大なる航路(グランドライン)を巡回中だ。

 

 ただ、主に指揮をとっているのは私である。

 勿論ロード大佐は船室にて睡眠中だ。

 

「ロード大佐⋯⋯真面目に働けば絶対直ぐに昇級するのに」

 

 部下から定期報告を受けた私は、海を眺めながらポツリと呟く。

 それはきっと部下全員も思っていることだ。

 

 実力は中将と比べても遜色無い⋯⋯と思うけど、如何せん本人のやる気が無さすぎる。

 そのせいで、彼を良く知らない者は“親の七光り”等と陰で口にしているのだ。

 

 私はその言葉を初めて耳にした時、憤慨した。

 

 確かに彼は不真面目だ。隙あらば仕事をサボり、昼寝する男だ。

 とてもじゃないが、そんな姿は敬えない。

 

 ━━━しかし、そんな彼の尊敬すべき所もある。

 

 それは戦闘だ。

 海賊を次々と殲滅していく、あの圧倒的な強さ。

 

 思わず見惚れてしまう程に美しくて、でも激しくて、まるで魔法のようだった。

 ⋯⋯この感覚は実際に目にしないと分からないだろう。

 

 はぁ、もう一度見たい。

 あと稽古つけてほしい。

 

 ━━━うん、無理か。無理だよねぇ。

 

 私は天を仰ぎながら虚しく思う。

 強い海賊が現れてくれればもしかしたら⋯⋯っと、流石に不謹慎ね。これは。

 

 失敬失敬。

 

 

 

 

「か、海賊です!二時の方向に海賊船を発見!!」

 

 

 

 

 あ、本当に現れた。

 

 マストの上で見張りをしている部下の知らせに、私は思わず呆然とする。

 しかし、何時までもアホ面を晒すわけにもいかない。

 

 私は二時の方向を見て、目視で確認。

 ドクロを掲げた船。海賊船だ。

 あれは確か、最近名を上げ始めているルーキーの海賊旗だったわね。

 

「にしても、やけにボロボロ⋯⋯」

 

 どこかの海賊と一戦交えたのか、遠目でも分かるほどに損傷が激しい。

 帆は破け、船体には亀裂、切り傷?のようなものが多数。

 

 事情はどうあれ、海賊は見逃せない。

 

「総員、砲撃の準備!相手がどんな状態であれ油断は禁物よ!」

 

『はっ!』

 

「コビーとヘルメッポも一緒に手伝いなさい」

 

「「は、はいっ!!」」

 

 バタバタと準備に取り掛かる。

 そして、互いに砲弾が届く距離まで近づいた。

 

「砲撃開始!」

 

 私の合図と同時に、相手も大砲を放ってきた。

 爆音が鳴り響き、船の周囲に着弾して大きな水柱が何本も立ち上がる。

 

 向こうも大人しく捕まるつもりはないってことね。

 

 流石に海賊もコントロールはあるらしく、砲弾が軍艦に目掛けて飛んでくる。

 

「ふっ!」

 

 それらは私が対処。

 愛刀“夢月(むげつ)”で飛来してくる砲弾を一刀両断━━━は出来ないから、受け流します。

 

 私は跳躍し、“夢月”の刀身に砲弾を滑り込ませるように乗せて、そのまま軌道をずらした。

 これ、少しでも加減を間違えたら私に直撃するから集中力がスゴく必要なのよね。

 

「むぅ、ボロボロなのに中々沈まないわ。しかも球のストックどれだけあるのよ!」

 

 7発目の砲弾の軌道をずらし、私は文句を口にする。

 此方の砲撃がどうにも当たっていないらしい。

 ノーコンという訳ではなく、狙いは正確なのだけど⋯⋯。

 

「ち、中尉!此方の砲弾が全て斬られています!!」

 

「クソっ!これが懸賞金7400万ベリーの“切り裂きリック”か!?」

 

「と、とにかく撃ち続けろ!」

 

 部下達に動揺が走るのも無理はない。

 

 先日の会議でも話に挙がったルーキー、“切り裂きリック”は剣士であると聞いた。

 リックは着く島々で住民を斬り捨て、暴れ回っているらしく、その残虐性が問題視されている。

 

 また、本部の将校も何人かやられてしまったとか。

 実力あり、残虐性ありの厄介な海賊という事で、懸賞金のアップも考えられている。

 

「そんな大型ルーキーが一体誰にやられたのかしら、っと!」

 

 これで10発目!

 そろそろ限界だから撃つの止めて!

 

 しかし、そんな私の気持ちを嘲笑うかのように砲弾は降ってくる。

 

 

「くっ、ここは船を付けて直接━━━━あっ」

 

 

 考え事をしていたからだろう、きっと。

 

 私は11発目の砲弾をずらそうとして少し、ほんの少しだけ調整をミスってしまった。

 その結果、どうなったのか。

 私は“爆発音”がした後方へ、恐る恐る振り向く。

 

 「あ、これは駄目なやつだ」

 

 燃え盛り、半壊した船室(・・)を眺めながら全身の血の気が引いていくのを感じる。

 

「お、おい⋯⋯あの場所って」

 

「⋯⋯た、確か」

 

「ロード大佐が寝ている船室じゃ⋯⋯?」

 

 部下達の視線も一点に集中する。

 皆酷く絶望的な、地獄に落ちたような表情になっていた。たぶん私も同じ顔だと思う。

 

「う、嘘だ。た、大佐がっ⋯⋯ロード大佐がっ!?」

 

「あ、あわわわ⋯⋯っ!?」

 

 コビーとヘルメッポは狼狽し、腰を抜かしてしまったようだ。

 でも、気にかけてあげる余裕など微塵も無い。

 

 何故なら━━━

 

 

「ねえ」

 

 

 未だに燃えている船室から一つの影が見える。

 ゆらゆらとゆっくり此方に歩み寄るその姿は、白い髪に、焦げたコート。

 

『⋯⋯っ!?』

 

 まるで心臓を握られているかのような感覚に襲われる。

 滝のように汗が流れるが、それを拭うことも出来ない。体が動かないのだ。

 

「これ、誰がやったの?」

 

 炎の中から現れたロード大佐は、底冷えた声で問う。

 普段はやる気の皆無な彼の瞳は、今は鋭く威圧的で私はビクッと体を震わせてしまう。

 

 まずい、非常にまずい!

 大佐がぶちギレてる!?

 殺気がひしひし伝わってくるし、覇王色の覇気ってのも漏れてるしぃぃぃ!

 

「誰がやったのか聞いてるんだけど?」

 

 誰も答えないから更に大佐の威圧が強まる。

 雑用組は既に耐えられず気絶しており、部下達も十数人やられてしまった。

 

 これは口が裂けても『私がやった』とは言えない。

 言った瞬間に殺されかねないわ。

 

 私は震える口を何とか動かし、答える。

 

「あの海賊がやり、ました」

 

「ふぅん。そう」

 

 う、うん。元はと言えば海賊のせいだ。

 私は悪くない。悪くないったら悪くない。

 

 ロード大佐は淡白に返事をすると、“切り裂きリック”の海賊船に視線を移す。

 そして、私達に向けられた殺気やら覇気が解除された。

 

「あ、あの⋯⋯ロード大佐?」

 

「ちょっと行ってくる(殺してくる)

 

 そう言って、ロード大佐は六式の一つ━━━“月歩”で宙を蹴り、海賊船へと飛んでいった。

 私は乱れた呼吸を整え、遠ざかる後ろ姿を見ながらこう思う。

 

 

 海賊たち大丈夫かな、と。

 

 

 

 

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