普通の高校生活を送るはずの僕がハーレム計画の一環で女子校に通うことになった!   作:南雲悠介

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99.「アナタに伝えたい事があるとするなら」

「お邪魔しますね」

「どうぞ、今クッションを準備するからちょっと待っていてくれる?」

 僕にそう言われるとアイリスさんは一瞬だけ戸惑いの表情を見せたけど、すぐにいつもの顔に戻る──ベッドの脇に置いてあるクッションを出して彼女に座るように合図するとすんなりと座ってくれた。

 こうしてアイリスさんと二人きりで話すなんて言うのは緊張するなあ。彼女のそばにはいつだってメルがいるし、アイリスさんも片時だって離れた事はない。お姫様を護衛するだけだという任務を背負っているのだろうけど、真面目なアイリスさんはその仕事をきちんとこなしている。

 初めて顔を合わせた時の警戒心を僕は忘れているわけじゃない。

 メルは僕と会えるのを楽しみに日本まで来てくれてたのだけど、アイリスさんは違う。あくまでもメルの付き添い、ルークランシェから託されたお姫様を守るという使命感に燃えているのだろう。

 

「それで? 僕に話したい事って何かな?」

 しばらく沈黙の時間が続いたけど、その均衡を破ったのは僕の言葉だった。

 

「そうですね。小鳥遊殿とは一度きちんとお話しするべきだと思っていました。話というのは他でもないメルア様の事ことなんです……」

「メルの事?」

 いつにも増して真剣な表情のアイリスさんに僕は少々圧倒された。彼女のクリムゾンレッドの瞳は真っ直ぐに僕を捉えていた。その視線に目を逸らさずに僕も彼女を見つめる。

 

「私とメルア様が日本に来た理由は小鳥遊殿も知っているかと思います」

 もちろんだ二人が来日したのは例のプロジェクトが関係している──母さんが勝手に話を進めていた事だから僕はそれ以外の事情は知らないんだけどね……。

 

「例のプロジェクトそれを達成するというのがこの学園 に通う生徒たちの義務です。しかしながら、事実は若干違っているのです」

 

 僕はアイリスさんが落ち着いて話せるように冷蔵庫から飲みものを取り出して渡したら「ありがとうございます」とお礼を言って一口だけ口に含んだ。

 

「小鳥遊殿の未来の結婚相手を選ぶ目的がある例のプロジェクトですが、メルア様はまだ話していないことがあるんです。それはルークランシェ王国の中で起こっている争いが関わっています」

 

「ルークランシェ王国は今、跡継ぎ問題に直面しているのです。メルア様には姉妹がたくさんいて、彼女自身の王位継承権はそれほど高いものではありません」

 

 王家の後継者問題──それはおとぎ話だけの事かと思っていたけど、実際に起こっている問題でもあって、アイリスさんはメルの置かれている立場について教えてくれた。

 

「メルア様はルークランシェ王家の後継候補でもありますが、優先順位は高くはないのです、本来ならご姉妹がすんなりと継承を受けて女王になるべきなのですが……正直に言うとメルア様のご姉妹は皆ご自分が王位を継承する事しか考えておらず王宮内で争いを起こしているのです」

「姉妹なのに喧嘩してるんだ……」

 僕には兄弟がいないからそう言うのには疎いけど普通の家庭がするような兄弟喧嘩と呼べるようなものではないんだろうな。

 

「……はい。国民には知られないようにはしていますが、王宮内ではそれぞれの派閥が動きを見せていて小競り合いなんていうことはしょっちゅう起こっているのです」

 

 ルークランシェの実情を話す度にアイリスさんの表情は曇っていく。

 

「そんな状況でもメルア様は周りに気を遣い国民にも目を向けて公務をしっかりとこなしていました。ですが、それが他の姉妹には鬱陶しく感じたのですね。メルア様は王宮で様々な嫌がらせを受けました……」

 

「それをメルのお父さんは知ってるの? お姉さんたちが悪い事をしたのなら王様に言ってもらうのが解決策としては最善だとは思うけど」

「ええ、王は今王宮内で起こっている問題の解決に乗り出しているところなのですが、上手くいっていないと聞きます。そもそも幼い頃からメルア様よりもご姉妹を贔屓してきたというのはあります。お姉様方は公務を行う機会も減ってきてその皺寄せがメルア様に及んでいるのです。それでもメルア様は嫌な顔一つせずご公務をやり遂げてきました」

「後継者争いに巻き込まれて信頼できる人は私以外は全員メルア様の元を去って行きました。それは決してメルア様のせいではありません。お姉様方が無理矢理にメルア様から引き離したのです」

 

 初めてメルと会った時に見せてくれた笑顔──明るくていつも周りを和ませてくれるメルが悩みを抱えているなんて僕は気づかなかった。

 彼女と結婚することになったらこの問題にも真剣に向き合わないといけない。今の僕に何ができるんだろう? 何度考えても良い答えが浮かばない。

 

「メルア様にこれ以上辛い思いはさせたくないです……。日本に来てお友達もできて楽しそうにするメルア様を見て改めてそう感じました。小鳥遊殿と関わるようになってから昔見せていたような純粋な笑顔を覗かせてくれるようになりました」

 

「あのさ、一つ聞いてもいいかな?」

「何でしょうか?」

「アイリスさんがメルを大事にしているのは何かただのお姫様と付き人って感じがしないんだけど何か理由があるの?」

「それは──小鳥遊殿にはお伝えしておかなければいけませんね」

「メルア様と私は──」

 アイリスさんは深呼吸して僕に視線を向ける。伝えるにしても彼女ならに勇気が必要な事なんだろう。僕は急かさずに彼女が次の言葉を発するのを待った。

 

「──私とあの子は姉妹なんです」

「えっ?」

「先ほどもメルア様の姉妹の話をしましたね。私も、そのひとりなんです。王位継承権はあの子よりも上です」

 

 僕は正直の事実を知ってしばらくその場に立ち尽くした。

 

「姉妹? メルとアイリスさんが?」

 アイリスの顔を見るとクリムゾンレッドの瞳が僕を捉えている。

「こうしたらどうですか?」

 両手で僕の顔を包むとグイッと引き寄せてみた──僕はアイリスさんと見つめ合う形になる。お互いの息がかかるくらい近い距離まで近づけられてドキドキする。アイリスさんは本当に綺麗な顔をしてる。

 メルと同じく生まれ持った金髪の髪にはおしゃれなコサージが彼女の美しさを際立てていた。

 

「どうですか? 本当なら殿方にこんな事をするのは憚るのですが、小鳥遊殿はメルア様の大事なひとですし、信頼しているのでこうした行為にも抵抗はありません」

 

 アイリスさんは上目遣いでいつもとは違い緊張した様子で言う。

 

「アイリスさん、とても綺麗です。ごめんなさい、今まではっきりとアイリスさんの事を意識した事がなかったので……。メルと同じで自然な金髪がすごく好きです」

 

 ありのままの感想を伝えるとアイリスさんは顔をちょっぴり赤くして俯く。何だろう、今まで綺麗だなって感じていた人の咄嗟の仕草に僕は胸の高鳴りを覚えた。

 

「日本に来てからのあの子は毎日楽しそうでした。ルークランシェにいた時にはあまり見せなかった顔でした。それを引き出してくれた小鳥遊殿と聖蘭寮のみなさんに感謝しなくちゃいけませんね」

 

「アイリスさんはメルのことを大切に思っているんですね。初めて会った時からずっとそれは感じてました」

「あの子は私とは違うんです。明るくていつだって前向きでだからこそメルの幸せを一番に考えるようにしてきました。もちろんそれはこれからも変わりません」

 

 普段はメルア様と呼んでいるアイリスさんが「メル」と呼び方を変える辺り本当に彼女の姉妹なんだと言うことが実感できる。

 

「私とメルのお母様は同じじ人なんです。それが他の姉妹とは違っている部分、姉妹であってもあの人たちはメルとは血の繋がりがありませんから」

 

 本当に血が繋がりがある姉妹だからこそアイリスさんは常にメルの事を気にかけていた。アイリスさんが近衛騎士団に入団したのもメルを守る為、鍛錬をして自分の腕だけであの子を守りたいと決意した。自分が女王になることよりも大切な妹を守る事が彼女にとっては何よりも優先すべき事なんだろう。

 

 

「アイリスさんはとても真面目なんですね。僕も見習いたいです」

「ずっとこうやって生きてきましたから。真面目だと改めて言われると何だか変な気分です」

「打ち明けてもらって僕もこれからちゃんと将来に向き合おうと思えました。ありがとう」

「お礼を言われる等な事ではありません。私はただ、あの子の為に」

「けど、学園に通っている間はアイリスさんだって同じですよ」

 僕の言葉に彼女は頭に? マークを浮かべている。

 

「アイリスさんだって僕の結婚相手の候補だということです」

「ええ!?」

「別に一人だけを選ぶって言うわけじゃないですし、メルを選んでもアイリスさんを選んでも良いと思います」

 

「あのっ、小鳥遊殿それは本気なのですか?」

 この反応を見る限りアイリスさんは今まで恋愛経験がないんじゃないかな? あわあわと動揺する彼女が年上なのになんだか可愛いなって思えた。

 

「本気ですよ。アイリスさんはこれまでずっとメルの為に頑張ってきたんですよね? でも、自分の幸せも考えて良いんじゃないかな?」

「私がメルを差し置いて幸せになるなんて──」

 やっぱりこの人は頑なだ──これまで自分よりも妹を優先して生きてきた。メルの幸せを誰よりも望んでいた、だけど、アイリスさんが幸せになっちゃいけないなんていう決まりはない。

 

「僕はまだアイリスさんにふさわしい男かどうかはわかりません。だけど、一度しかない機会なら自分の幸せを追いかけてみても良いんじゃないかな?」

「何だか小鳥遊殿と話していると調子が狂います。ですが、何でしょうね、嫌な感じはしません」

「うふふ」と笑ってくれたアイリスさん──これまで見れなかった彼女混じり気のない笑顔。

 

「小鳥遊殿に言われた事、一度あの子にも相談してみます」

「メルなら僕と同じ事言うと思いますよ。ずっとアイリスさんを見てきたわけですから」

「そうですね。今日はお話ができて本当に良かったです、これまで抱えていたモヤモヤとした気持ちが晴れました」

「僕もアイリスさんと話せて嬉しかったです。実は前から仲良くなれたら良いなあとは思っていたんです」

「そうだったんですか。これからはあなたに言われた『私の幸せ』 について真剣に向き合っていきます、それでなんですが、一つ要望があるのですが良いですか?」

「何ですか?」

「今後もこうして二人きりでお話ししてもらえますか?」

「先約が無ければ」

「ありがとうございます。それとなんですが、二人きりの時は小鳥遊殿を名前でお呼びしたんですが」

 ちょっと頬を赤らながら照れているのを隠さずでいるアイリスさんに「名前で呼んでもらえるのは嬉しいです」と答える。

 パッと明るい表情になったアイリスさんを観察するとメルのお姉さんだなあって感じる。

 

 LIMEの使い方がまだまだわからないみたいで僕がやり方を教えてあげてアイリスさんの連絡先を登録できた。

 

「それでは、勇人さん。今日はありがとうございました」

 アイリスさんが部屋から出ると施錠してベッドに座る。

 見惚れるほど綺麗な金髪を思い出しながら午後の自室で流れる時間はまるで停滞したかの如くゆっくりと進んでいくのでした。

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