普通の高校生活を送るはずの僕がハーレム計画の一環で女子校に通うことになった! 作:南雲悠介
「聖蘭寮」の朝はのんびりとした時間が流れている。住んでいる女の子たちは遅刻しないように早めに起きて朝食の準備中、朝が苦手な子もいるみたいだけど、登校はみんなで一緒にっていう取り決めをしたから起きるのが遅い子にも配慮しながら朝ごはんをテーブルに並べる。
自分達で料理を作るなんて言うのはお嬢様方には縁遠い事かなとも思っていたんだけど、牧野さんを中心に御崎さんに相倉さん、料理ができる子が他の子をまとめていた。玲さんは料理をしないわけではないらしいけど基本的に携帯食で済ませる事が多いみたいで自分で朝ご飯を作ると言うのはあまり経験がないらしい。
僕はテーブルを拭いたり食器を並べたりして料理以外で手伝える場面を見つけて積極的に動いている。
正直牧野さんたちが声をかけてくれなければ、僕も玲さんみたいにプロテインと携帯食で食事を済ませてしまうところだった。
「御崎さん、そこの調味料取ってくれない?」
「これね、わかったわ」
「朝ご飯はしっかりと食べないとですね。こうやって皆で作るのはすごく楽しいですし、料理の勉強にもなります」
「まあ、あたしは好きでやってるんだけどね。さあ、もうすぐできるわよ」
ちらりと僕に視線を送るとすぐに鍋に戻す。ウインナーやベーコンとかの加工肉と野菜がたっぷり入ったスープはグラグラと煮えたっていた。
おたまですくって小皿を使って味を確かめる「よし」って満足した様子で火を止める。
相倉さんは牧野さんとサンドイッチを切り分けて皿に乗せる。
レタスにトマト、卵、ハムがサンドされたふわふわのパンは彼女たちが業者に頼んでおいた食材。共用の大きめの冷蔵庫から飲み物を取り出して洗っておいたコップに注ぐ。
大体みんなは野菜ジュース──僕は自分の部屋から持ってきたプロテインをコップに移してシェイカーの蓋を閉めた。
「ん? 姫城さん、おはよう。何してるの?」
「あ、おはよう小鳥遊君。ちょっと今日の朝ごはんの作り方を相倉さんに教えてもらおうと思ってたの」
姫城さんは制服姿で食堂に入ってくると真っ直ぐにキッチンに向かっていた。相倉さんたちと何やらおしゃべりをしながらスマホで料理の写真を撮る。
「勉強熱心だね。姫城さんは、私も料理を作るために色々と聞いておくことにするよ。御崎さん、ちょっといいかい?」
玲さんは御崎さんを捕まえて朝食に関しての質問をぶつけていた。聖蘭寮で共同生活を送るようになってから女の子たちはなるべく同じ時間を過ごす機会を増やそうと努力を欠かさない。
“小鳥遊班”という小さなグループの集まりがこれから先はもっと広がっていくことを願いながら僕はコップに注いだプロテインを飲み干す。
「「「いただきます」」」
賑やかな朝ご飯を食べるのが僕はまだ慣れない──家にいた時は一人で食事する事が多かった……。家族団欒なんていう言葉とは程遠い生活を送っていたから誰かと一緒にご飯を食べるのは貴重な体験だ。
休日はゆっくりと食事をするのだけど、学園がある日はそうは言っていられない。スマホで時間を確認したら七時十五分になったところ。
寮から学園まで距離があるわけじゃないけど遅刻はしたくない。
それは女の子たちも同じようで食べ終えたら食器を食洗機に入れて歯を磨く為に洗面所に向かう。
遅れないように身支度を済ませて登校の準備──寮のエントランスの前に集まって皆で自動ドアを通って外に出た。
「風が気持ちいいね!」
元気よくそう言う相倉さんの明るさに“小鳥遊班”のメンバーは笑顔になる。牧野さんや玲さんもニコニコしながら今日の学園での過ごし方を話していた、御崎さんはそれをちょっと離れた場所から眺めながらも腕に絡んできた相倉さんにちょっぴり照れた様子を覗かせながら会話に加わる。
「新しい子も入ったことだし、今日のお昼はみんなで食べようか? 僕らのとっておきの場所でね、『小鳥遊班』の親睦を深めよう」
「さんせーい、あの場所、私のお気に入りだし! 小鳥遊君とのランチすっごく楽しみ」
「お昼まで一緒になんて迷惑じゃない?」
「そんな事ないよ姫城さん。僕が君達とお昼ご飯を食べたいと思っているし、全然迷惑だなんて感じたことはないよ。学園で少しでも同じ空間と時間を共有できる機会があるのなら遠慮するべきじゃないと思うんだ」
「姫城さんももう私達の大切な友達なんだから気を遣わなくてもいいよ?」
「はっはっは、相倉さんのその元気は一体どこから湧いてくるんだい?」
「だって何でも前向きに考えた方が楽しくない? 私は周りの人にももっともっと楽しくなって欲しいんだー」
腕を絡ませながら御崎さんの顔を見ると彼女はゆっくりと頷いた。この二人は仲が良い。御崎さんだけじゃなく、他の女の子とも上手く付き合えている相倉さんの社交性はいつだって僕を驚かせてくれる。
お昼ご飯の予定を相談しながら僕らはそれぞれの教室に向かうのだった。
「あら、おはようございます」
僕の席の近くには小阪さんがいて、周りのお嬢様方と何やら楽しげなおしゃべりの最中──僕は邪魔をしないようにゆっくりと椅子を引いて腰を下ろした。小阪さんはクラスメイトの子と一限目の授業で使う資料に関して話をしているみたいだ。授業中でも教師は課題の提出を指示する場合がある。端末を上手い事操作をして制限時間内に課題を消化するプログラム、パソコンやスマホの使い方は普段自分で学ぶ事が多いのだろうけど学園では使い方を知っている前提でカリキュラムを進めているから詳しい説明を受ける機会はほとんどない。
小阪さんは自分の端末の画面を見せながらクラスメイトの課題をこなすのに協力している。彼女は面倒見が良い、周りの子も彼女の事を頼りにしている感じが見て取れるし、小阪さんも嫌な顔を見せずに親切に応えてるようだ。
うちの寮では玲さんがメルに電子機器の使い方を伝授していたけど、他の子もわからない部分を質問していた。
僕はある程度は使いこなせるから玲さんに聞くようなことはないのだけど、彼女は「小鳥遊君も何かあれば何でも聞きたまえ!」と自信満々に宣言してた。
「それではこの問いに対する回答ですが──過去に遡っているようで実際に言えばそんな事はなく」
学者の学ぶような内容の問いかけが問題として生徒たちに出題された。SF小説を好んで読んでいるような人たちには興味深い授業なんだろうけど、そうじゃないひとには難しくて理解をするのは大変だと思う。
御崎さんは端末を操作してレポートを仕上げていた。今日の課題の一つとして今日の授業内容をそれぞれレポートにまとめて提出するというものがある。僕はブルートゥースのキーボードを取り出して端末に認識させる。
タッチパネルからそのまま入力する方式を殆どの子が使用しているけれども、僕は自前のキーボードで打ち込む方がしっくりくる。
パソコンやタブレットの操作は苦手じゃないし現に部屋でプロジェクトに関する資料を自分で作っているから授業のレポート作成なんて容易い。
静かな教室にキーボードの打音だけが、どこか場違いな雰囲気を醸し出していた──御崎さんは驚いた様子でその姿を見ていたけど椅子を動かして僕の耳元で「良かったらあたしもそのキーボード使っていい?」って囁く。僕は丁度打ち終えたキーから指を離して作成したレポートの文章に目を通しながら御崎さんにハンドサインでOKの合図をした。
課題が終わって時間を確認する──まだ、一五分も経過してなかった。終わった後は自習らしいから僕は何となく次回のテストで出題されそうな箇所をぼんやりと眺めがながらブルトゥースのキーボードを御崎さんに渡した。彼女は自分の端末にキーボードを認識させると。僕よりもちょっと遅いペースでキーを叩き始めた。
玲さんほどではないけど僕も電子機器の扱いは得意だ──彼女は専門的な知識が豊富なだけじゃなく色んな視点から客観的に物事を観察できる、マルチタスクだってお手のものさ。僕と関わるようになってからこれまでとは違った姿を覗かせている。
休み時間になったからふらりと教室を出た──女の子ばかりの空間は夢みたいな場所だと感じる人もいるだろうけど、実際は結構気を遣わないといけないから精神的に滅入る時がある。そんな時は外の風に当たって気持ちをリフレッシュする窓を開放的なエントランスのソファーに腰を下ろして物思いに耽るのも悪くない。次の授業まで十分くらいしか無いけどエレベーターに乗る為に廊下を歩いていると何やら話声が聞こえてくる。
「こんな事に本当に価値があるのかしらね?」
「さぁ? この学園は設備も最先端ですし、何より『男子』がいないところに魅力を感じていましたのにまさかこんな事になるなんて思いもしませんでしたわ……」
僕はスッと角に隠れて会話の内容に耳を傾けた。
「男子との恋愛なんて穢らわしいですわ、それに彼の方は自分の立場というものがわかっているのかしらね? 学園に通うのは名家出身の子ばかり、それがあんな庶民のしかも何の価値もなさそうな男とお付き合いするなんて私達になんのメリットがあるというの」
「理事長も急に変な事をおっしゃいますよね。小鳥遊美鈴さんでしたっけ? 名前くらいは聞いたことはありますが所詮は庶民、私たちを縛るような真似はできませんわ」
どうやら彼女達は僕が学園に通っていることに関しての不満を漏らしているみたいだ。最初の頃と比べると僕に対する侮蔑の視線や軽蔑するような言動は少しは改善されてきたと感じてはいたけど、これが現実なんだろう……。
皆が納得しているわけじゃない、現に僕だって最初のうちは女子校にかようことにストレスを感じていた。だけど、相倉さんや御崎さんたち“小鳥遊班”の女の子達のおかげでストレスフリーな生活が過ごせていた。
プライドの高いお嬢様方と接するのにちょっと背伸びをしなくちゃいけない……。
家柄の格式や両親が有名人であること──そのファクターが彼女たちとってこれまで生まれ育った環境、周囲を取り巻く人間関係そう言った要因が人を判断する大部分。
本来なら彼女らとは済む世界が違う。僕みたいなごく普通の家庭に育った人間が名家のお嬢様と出逢うきっかけなんて早々ないものだ。
それにも関わらず今僕はこの学園に通っている。自分が選んだ進学先ではないけど……。
気分転換の為に教室を出たのに僕はしばらく廊下の角から動く事ができなかった。
結局御崎さんからLIMEが来てようやく鉛みたいな足でのろのろと歩き始めた。
ちなみに今日のお昼はそんな沈んだ気持ちを女の子に気づかれないように“小鳥遊班”のみんなでお気に入りの場所で食べた。
ガールズトークに花を咲かせる彼女達の輪の中に入るのが自然となった。
僕の隣に座っている御崎さんと目があう──真っ直ぐな視線で見つめて来る彼女は優しく僕に微笑む。ふわりとした良い匂いがして僕の周りに女の子達が集まってきた。
どうやら僕の些細な変化に気づいたみたいでみんな「何があったのか?」を尋ねてくる。
「さすがにわかっちゃったかな? ごめん、君たちに変な気を遣わせたくなくてできるだけ態度に出さないようにしてたんだけどね……」
いつも不安に感じている事、彼女達の将来は僕の行動次第これまでずっと溜め込んでいた気持ちを話す。
女の子達はそれぞれがじっと僕の顔を見て真面目に話を聞く。
「小鳥遊君も大変だったんだね……。ごめんね、なかなか気を回せなくて」
「みんなにはストレスを感じないで過ごしてほしいんだ。こうやって同じ時間と空間をシェアして少しでも不安や悩みを抱いたりしないために僕が努力する。自分がやるべきことはしっかりとわかっている」
「私達に気を回してくれるのはありがたいが、小鳥遊君はもっとキミ自信を大事にするべきだと思うな」
ごく自然にそして熱意のある声色で語りかける玲さん。彼女の言葉の女の子達は頷く。
いつも女の子達に気配りしているところ、自分より彼女らを優先にしている事、僕が気がついていないようで実はみんな分かってた。
“小鳥遊班”というグループに居心地良さを感じる。
「これからは自分一人で抱え込まないで何かあればすぐに言う」
この場所が僕のお気に入り。三年間っていう短い期間だけど、一日一日を大切に過ごそう。
校庭吹く風が女の子に髪を揺らす。僕は「ふぅ」と深呼吸して新しい気持ちで彼女達に向き合うのでした。