普通の高校生活を送るはずの僕がハーレム計画の一環で女子校に通うことになった! 作:南雲悠介
「………………」
「…………」
「……」
白い竿が徐々に明るくなって僕の“意識”を夢の世界から現実へと引き伸ばしてくる──この誰からも干渉を受けない空間は続きのない夢を何度も見せて現実との境目さえも曖昧にさせながらゆっくりと目覚める準備を迎える。
「……もう朝か──」
休日は普段より遅い時間に目を覚ます。学校がない日は朝だけは時間がゆっくり流れる気がする。
カーテンは閉めたままで枕の脇に置いたスマホを手に取る、眩しい光に目を細めながらLIMEのトークを開く。
昨晩父さんから今日の予定を聞いて返信をしておいた、流石に遅い時間返事したからかまだ既読は付いていない。
今日は父さんが「聖蘭寮」を訪ねて来る日──なんだか緊張するけれど、親子の<再会>に胸を弾ませるほどの期待はできないでいた……。
子どもの頃から両親と同じ時間を過ごす、家族団欒なんて言うのものには縁遠い生活を送っていたから親ときちんと向き合って話すって言うのはなかなか難しい……。
そうだな、父さんとの思い出は何もない…………。子どもの頃の記憶って言うものは案外覚えていたりするけれど、僕の小さな時は家で過ごす時間がほとんどだったし、両親が家にいないのは当たり前になっていた。
部屋で一人でできる遊びなんていうものは限られていて、勉強が終わった後は暇な時間をどう言う風に過ごそうか? と考えているばかりだったなあ。
「おはよう」
朝の挨拶をしたけど当然反応は返ってこない。まあ、朝早いからまだみんなは起きてないか……。
エントランスに人影も見えないしフロアには無機質な電子掲示板がパネルにLOCKの文字を表示させている。
セキュリティの問題なのか休日は寮の入り口の自動ロックが解除される時間は普段よりも遅い。
しかも登録している生徒のデータでしか自動ドアのロックは解除されない
学校の日には七時には自動ドアが開く仕組みになっているのだけど、休みの日は九時を過ぎないとダメなんだよね。
現在の時刻は七時三〇分、父さんはお昼前に来て夜には家に帰る予定だ──今は子どもの頃住んでいたマンションとは違う物件を借りているらしくて母さんにも伝えてあるそうだ。
プロジェクトを知ってから父さんは僕が将来暮らす家や場所の提供、環境を整えて準備してくれている。協力に余念がない。
三年間と言う期限の間、僕はきちんとした成果をあげなくちゃいけない……。
寮のラウンジでスマホをいじっていると何やら賑やかな声が聞こえてくる。
「あ! 小鳥遊君おはよう! どうしたの? 今日は早いよね」
声の主はやっぱり相倉さんだ──それに御崎さんと姫城さんも一緒みたいだ。
女の子達は楽しそうな顔をしながらラウンジに入って来ると冷蔵庫にあるアイスクリームを出しておしゃれなテーブルの椅子に座る。
「最近暑いよねーもしかして小鳥遊君もアイス食べる為にきたの?」
「えっ……いや、僕はちょっとね。いつもより早く起きちゃったからここで時間を潰していただけだよ」
「ふーん、そうなんだー。このアイス美味しいからお気に入りだよ」
冷蔵庫からカップアイスを取り出すと僕の反対側にある席でアイスを食べ始める。時々額を抑えながらゆっくりとスプーンで掬う。
「小鳥遊君がお休みの日に早起きなんて珍しいね……」
御崎さんはさりげなく僕の隣の席に座ると美味しそうなバニラアイスをアピールしてくる。
「ちょっとした用があってね」
御崎さんの耳元でそう囁いて彼女が食べようとしているアイスに視線を向ける。
白黄色味とバニラアイスの香りはとてもマッチしていて、わざわざ業者に注目しているくらいだからきっと高級品なんだろう。
御崎さんは雰囲気を感じさせないけどれっきとしたお嬢様だ──彼女自身があまり自分の事を話すタイプじゃないのだけどね……。
あとから来たメルは日本のアイスに目を輝かせている──ルークランシェのものよりたくさん種類とフレーバーがあると感動していた。
お姫様様でもメルは特別親しみ深い子でもうみんなとはすっかり仲良くなっていて、いつも自分の部屋で女子会を開いているようだ。
金色の髪とエメラルドの瞳を最初に見た時は日本人ではなく異国の人だというのを見せつけられたし、生まれや育ちが違えば文化的に受け入れにくいことだってあるだろうに金髪のお姫様はきちんと教養を受けて日本にやってきた。
ラウンジで時間を潰していると父さんからメッセージが届いた。
『こっちはもうすぐ着きそうだ。会えるの楽しみにしてるよ』
『了解』
すぐに返信してから父さんを迎える為にエントランスへ──なんだか緊張してきたけど上手く笑顔を作ろうと努力しよう。
『今、ゲストカードをもらったところだ。これから勇人の住む寮に向かう』
『分かった。それじゃあ入口まで出ておくよ』
自動ドアから寮の外に出ると眩しい日差しが照り付けて、風が吹くと木々が揺れる──穏やかな空間は学生寮とは思えない雰囲気で落ち着いた感じを表現していた。
「気持ちのいい風だなあ」
自然と吹いている風には心地良ささえ覚える。おかげで緊張は完全に解けて、リラックスできた。
僕はスマホで時間を気にしながら父さんが来るのを待つ。
「やあ、勇人。今日はありがとうな、会えて嬉しいよ」
「いらっしゃい父さん。暑いから寮の中に入って、話はそれからにしようか」
大人びた落ち着いた男性は僕の言葉に微笑むとしっかりとした足取りで進み始めた──一旦立ち止まって「聖蘭寮」の建物を見上げるとどこか嬉しそうな顔を見せている。
僕は父さんをラウンジまで案内するとお茶の準備をする為冷蔵庫を開ける。共用の冷蔵庫には食品の他に女の子達がそれぞれドリンクを冷やしていて、僕はまだキャップが空いていないペットボトルの蓋をぐいっと回してよく冷えた麦茶をコップに注ぐ。コップの中の氷がカランと音を立てて薄茶色の液体を冷やしていく、香ばしい香りが広がってくるとその場ですぐに飲み干したくなってくるなあ。
普段は僕が飲んでいるやつなんだけど、暑くなるこの時期にはピッタリで水分補給にもちょうどいい。
「それにしても外は暑いなあ。ここに来るまでに汗をかいたよ」
父さんはカバンからハンドタオルを取り出して汗を拭いて制汗スプレーを吹きかけると爽やかな匂いが一瞬漂う──あっという間に元の空気に戻ると父さんは深呼吸して僕の方を向いて笑顔を見せた。
「麦茶用意したから飲んでいいよ。父さんも歩いて汗かいたわけだし、帰るまで涼んで行けばいいよ。寮内はエアコンが効いている部屋ばかりだから」
人をセンサーで感知してエアコンの風を送るシステムが実装されているから寮の全部の部屋が涼しいっていうわけじゃないけどね……。
無駄な電力を消費しないよう設計されているようで、必要最低限に涼しい空間を提供してくれている。
かと言って暑すぎないように、エアコンで体調を崩さないようにはうまい具合に調整する。
穏やかな表情の父親と向き合ってまだ緊張が抜けきれていない僕は自然に会話が続くように頑張った。
父さんが海外にいて家族の為に仕事をしていた事、これからはずっと日本にいられる事、母さんもいれてまた家族三人で過ごしたいと考えていることとか色々な話ができた。
父さんの思い描く未来に僕が協力できる可能性は低い……。
先ずはあの人ときちんと話す機会を作らないといけないな。時間はあっという間にすぎて父さんを見送ってから僕は部屋で今日の話を回顧する。