普通の高校生活を送るはずの僕がハーレム計画の一環で女子校に通うことになった!   作:南雲悠介

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31.「私はあなたに会いに来たの」

 勉強会が終わって僕はベッドの上に寝転んでいた。

 LIMEにはグループのメンバーからメッセージが届いていた。

 相倉さんからの提案でテストが近くなればお互いの都合が合えばまた一緒に勉強しようとの事だった。

 玲さんはスタンプで返事をして、僕も同じように返信する。

 

 女の子とこう言ったやり取りができるようになったのは少しだけ進歩したと思う。

 この広い部屋に彼女達が訪ねて来た。今度は緊張する事のないように接しよう。

 三年間というのは長いようで短い期間──学生生活を一日も無駄にする訳にはいかない。

 もっと僕の方から女の子達と関わっていかなくちゃいけない。

 

 神崎さんと話した時に色々と説明を受けたけれど、プロジェクト自体は今のところは特に大きな進展は見られない。

 それが良い事かと言えば違うんだろうなあ。

 僕が何もしていないと言うのを自分でも分かっている。

 だからこそ僕は周りにもっと関わるを持たないといけない。

 

 プロジェクトの対象である女の子らが他の学園に編入したと言う話はまだ耳にしないから皆それぞれ思うところがあるのだろう。

 だから、僕は彼女達に恋人だと認めて貰えるような振る舞いをしなくちゃいけない。

 

 スマホの充電が終わって僕は寝る為に部屋の明かりを消す。

 

「ん? 今の音は何だろう?」

 外から聞こえて来た音が気になって僕は部屋の窓を開ける。

「いったーい」

 窓の下から声がしたから覗いて見ると知らない女の子が尻持ちをついていた。

 女の子は僕と目が合うと罰の悪そうな顔をして視線を逸らす。

 

「ちょっと待ってて!」

 眠気なんて吹き飛んでしまった僕は慌てて部屋を出て夜に出会った不思議な女の子の元へ。

 

「大丈夫? ケガとかしてない」

 彼女の側に駆け寄った僕はそっと手を差し出す。

「騒がしくしてごめんなさい」

 彼女はその手を取って立ち上がる。

 綺麗な瞳をした子だなあと思った。月明かりが彼女の顔を照らし出す。

 初対面の相手に警戒心を持たせないように僕は礼儀正しく振る舞う。

 これも子どもの頃から教育を受けて来た事で意識しないでも自然とできるようになった。

 

「……夜の遅くに珍しく騒がしかったから驚いたよ」

 僕がそう返すと彼女の顔はみるみるうちに赤く染まる。

「ちょっと気になる事があって、本当にごめんなさい」

「ケガは無いんだよね? 安心した」

「うん」と頷くと落ち着きなく彼女を上下に揺らす。

「女子寮へは戻れそう?」

「うん、それは大丈夫」

 彼女がここで何をしていたのか聞くべきなんだろうけど事情を知ったところで僕に何ができるわけでもないから理由は聞かないでおいた。

 

「あなたが小鳥遊君だよね?」

「えっ……? そうだけど」

 初対面の女の子がいきなり僕の名前を出して来たから驚いた。ああでも、この学園に通う子なら名前くらいは知っててもおかしくないか。

 何て自分の頭の中だけで納得していると女の子は僕の顔をじっと見つめて「ふーん」と言う言葉を漏らす。

 

「ちょっと様子を見るだけだったけれど本人に会えたのはラッキーね」

 小さくガッツポーズをする女の子に僕は状況が飲み込めないままポカーンとしていた。

 

「私はあなたに会いに来たの。【小鳥遊勇人】君」

 真っ直ぐな瞳が僕を捉える。真剣な表情に僕はドキリとする。

 

 

 *

 

 私は母親の決めた結婚相手とのお見合いに嫌気がさしていた。

 子どもの頃から両親みたいな立派な大人になる為に自分を押し殺して習い事に励んでいた。

 お父さんはすごく優しい人で辛くていつも泣いていた私を抱きしめてくれて側にいてくれた。

 家でのお父さんの立場は低くてお母さんや周囲の女性たちからはあまりいい扱いを受けていなかった。

 男性の割合が極端に減っている中、自然受精で生まれた私は大きな期待を背負ってしまう。

 それはまだ小さな女の子には到底耐えられるようなものじゃなかった。

 小学生になる頃にはお母さんが私の将来の結婚相手とのお見合いを勧めてきた。

 

 あの頃の私には結婚の意味はよく分からずお母さんに言われた通りにお見合い相手に会う日々が続いた。

 

「我が家計をあなたの代で絶やすわけにはいかないのです」

 これがお母さんの口癖だった。私は言われた通りに相手に好印象を与える振る舞いをして小学生ながらお見合い相手に気を遣う。

 そんな日常に違和感を覚えたのは中学生になったころ。

 私の家は古くから続く由緒正しい家柄でお屋敷を構え周囲の景観から明かに浮いた雰囲気を漂わせていた。

 

 お母さんの仕事があまり上手くいかず苛立ちをぶつけられる事も多くはなかった。

 その度にお父さんは「ごめんな。お父さんが何もしてあげられないばかりに」と謝るばかり。

 お父さんはたまに私に昔の事を話してくれる事があった。

 お母さんの実家は有名な資産家で手広く商売をして会社の実績を伸ばしていたらしい。

 お母さんとは会社の経営が順調な時に出会った──お父さんの方から何度もアプローチをしてようやく結婚する事ができた。

 だけど、お父さんが継いだ会社の経営が傾いて生活が苦しくなった時にお母さんはお父さんを見捨ててまだ小さかった私を連れてお母さんの実家に帰って来た。

 それからは母と娘二人だけの生活が始まった。

 お母さんは何日も家に帰って来ない事も多くなくて私はいつも一人でご飯を食べていた。

 中学生になる頃には私達親子の関係は完全に冷え切っていた。

 私は親の世話にならない寮付きの高校へ進学を決めて家を出た。

 もちろん私の進学先は母には伝えていない。

 これからは自分の力だけで生きていこうと決心したからもうお母さんの世話になるつもりはない。

 だけど、心残りがあるならお父さんの事、あまりいい思い出は無いけど、お父さんは私と離れてどうしてるんだろう? いつかまた再会したいなぁ。

 必ずお父さんに会いに行こうと思う。

 

 この学園に入学してからは周りとのギャップに少し落ち込み気味だった……。

 有名なお嬢様たちの通う学園で私の居場所はなかった。

 クラスにも馴染めず放課後は真っ直ぐ寮の自分の部屋帰る。

 そんな日々が続いたある日、いつものように廊下を歩いていると人とぶつかる。

 

「いったーい」

 私はその場に尻もちをついてしまう。

「大丈夫?」

 ぶつかって来た相手は私の側に寄ってきて手を差し出して来る。

「本当にごめんなさい……って。ええっ!? 男の子!?」

 目の前の相手が男の子だと分かった私は動揺してぱっと手を離す。

 どうして女子校に男子生徒がいるのか理解できず私の思考回路はフリーズしたまま。

 

 相手の男の子は必死になって弁解する。私達のやり取りは他の生徒達から注目を集めていた。

 あまり目立つのはまずい気がして「あっ! そうだ急いでたんだった! ごめんなさい私もう行くね」と咄嗟に嘘をついてその場を離れた。

 それから真っ直ぐに自分の部屋へ戻ってけど、さっき会った男の子の事が気になっていた。


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