普通の高校生活を送るはずの僕がハーレム計画の一環で女子校に通うことになった!   作:南雲悠介

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91.「リビディショナル」

 部屋の中に差し込む日差しは静寂な空間に終わりを告げてくれた。

 見慣れた天井が変わらずに今日も白い色を覗かせていて、僕はぐるりと周りを見渡してスマホを手に取り起き上がり、PCが立ち上げる前にマグカップに白茶色の粉末と角砂糖を二つ落とし込んだ。

 持ち上げたカップをポットの前に置いてボタンを押すと湯気を立てながら粉が液体に溶けていくのをティースプーンでかき回しながらわずかに広がる香ばしい匂いを堪能した。

 朝の格別な一杯──マグカップの取っ手に指をかけてゆっくりと傾けてると温かい薄茶色のそれはのどかな甘さを口の中に広がらせながら独特な香りを運んでくれる。

 父さんにもらったコーヒーとココアの紙容器は立体的な存在感を示してちょっぴり量が減っているのだけど、外からはそんなことは見えないくらいに綺麗にピンと背筋を伸ばして立ち上がっている。

「ふぅ」と一息付いて既にデスクトップにアイコンが並んだノートPCの前に座ってちびちびとコーヒー啜る。いつもよりも早く目覚めた日はこうしてコーヒーブレイクで眠気を覚ますのがちょうどいい。 朝食は寮の食堂で皆で一緒にことに取り決めたから時間が来るまで待つことにしよう。うん、そうしよう。女の子達はどんな表情を見せてくれるのだろうか? 

 毎朝自作したプロテインを飲みながらすっかり目が覚めた僕は書きかけのレポートには手をつけずに真っ白な天井の壁紙をぼんやりと眺めながら思いに耽るのだった。

 

 

「やあ、おはよう小鳥遊君、今朝は一体何を食べるのかな?」

「おはよう玲さん。これから決めるところだよ。みんなで寮での食事なんてなんだか新鮮な気分だよ」

「そうかい? ああ、そういえば君はずっと男子寮の自分の部屋で食事を取っていたんだっけ、実は私も似たようなものなのだけどね。けれど作業中に食事をすることはしないんだ。食事は食事、仕事は仕事でちゃんと時間を分けているからね、PCでの仕事が多いとどうしても手軽に食べられる物を選んでしまうのが問題なのではあるけれども……」

 玲さんは券売機の前でうーんと唸りながら朝食セットのメニューのボタンを押した。ここの食堂をきちんとした料理人がメニューを作っている、使うのは寮に住んでいる僕らだけなんだけど、そういう部分は神崎さんの指示できちんとした食事が提供できるようにとのことらしい。

 

「そういえば、君は確かプロテインを自作していると聞いたんだけど本当かい?」

 食券を出し終えた玲さんが僕に問いかける。

 

「そうだよ。部屋の冷蔵庫で冷やしているやつもあるけど……。毎朝自分で作ることが多いかなー。ホエイタイプの粉末プロテインをシェイカーでシェイクして作ってるよ。ぬるま湯を使う時もあるけど基本は牛乳で作ってるね、食事前に飲んでるよ」

「ほう、それは興味深いね。もしよかったら私にも作り方を教えてくれるかい? プロテインには前々から興味があったのだけど、自分で作るっていうのはやったことがなかったから」

「良いよ。それじゃあ、今日からでも──」

 

「おはよう。二人とも先に来てたんだー。てっきり私たちが一番かと思っていたよ」

 相倉さんが残りのメンバーを連れて食堂に入ってくる。玲さんは早く起きたから先に来たらしいのだけど偶然にも僕と鉢合わせたってわけさ。

 僕は定食を頼んだから出来上がるまで時間がかかりそうだ。他の子たちは和気藹々とし今朝の朝食のメニューを選んでいる。

 

「ねえねえ、二人はなんの話をしてたの?」

「玲さんに今度プロテインの作り方を教えてあげるっていう話。前から興味があったみたいなんだ」

「へえー、そうなんだ! 小鳥遊君プロテインなんて飲んでるの?」

「うん、ずっと前からね、朝の日課と言いますか、一日三回分飲んでるよ。栄養のある食べ物を取らないといけないのは分かっているけど、それだけだとどうしても足りない部分があるからね」

 僕のプロテインの知識を皆聞いてくれる──あまり話すことはしなかったからこうやってささやかな話題を提供できるのは嬉しく思う。

「玲さんはどうする? 僕が飲んでいるタイプが余っているけどそれでも良いかな?」

「おっ、それはありがたいね。実際現物をどう手に入れようか考えていたところだったんだ」

「最近なら公式ホームページから直接買うっていうのが選択肢としては一般的だけど、僕は学園に入学してから最初に理事長に頼んで準備してもらってるんだ。他の消耗品と同じように注文している」

「そういえば小鳥遊君お昼の時いつも何か飲んでたけどあれがプロテインだったんだね」

 御崎さんがするりと僕の隣に座る──彼女は僕の昼食時に飲んでいたモノの正体がずっと気になっていたみたいだ。

「そうだよ。学園に通っているとどうしてもお昼は取り忘れることがあるからね、朝準備して持ってくるんだ。お嬢様方には珍しいものかもしれないね」

 焼き魚定食を食べ終えた僕は玲さんにあげるプロテインを取りに部屋に戻る。相倉さんや御崎さんも興味津々で結局、僕が全員に作り方を教えてあげることになった。

 取り敢えず今回は僕が神崎さんに連絡しておいて、受け取ることになるのだけれど、次からは個別に要請するらしい。その辺の事情も説明済みだ。

 

 LINEでメッセージを送ってから“小鳥遊班”大集合──僕の部屋だと狭いから一度食堂に集合することにした。

 

「さあ、準備はこれだけだね。牧野さん。そこの牛乳を取ってくれるかな?」

「はい。分かりました」

 牛乳を受け取って準備は完了! 

 

「まずこれがプロテインシェーカーで、容器に付いてるスプーンで粉を三杯入れる。量は好みに合わせて調整してくれてオーケーだよ」

 珍しそうに粉が入ったシェーカを覗き込む一同──メルなんて目をキラキラと輝かせていた。僕はその視線を感じつつも次の説明に入る。

 

「そして、水か牛乳をこの目盛まで入れるっと、後は蓋をしっかり閉めて振るこれで感染」

 上下に振って見せると粉が溶けて牛乳と混じっていく、薄いココア色に濁ったらバッチリ。シェイカーで直接飲むのも良いけれどコップに移して取るのだってありだ。

 

「これを三回分作っていくんだ。ね? 簡単でしょ、今回はココア味を使ったけど、他のフレーバーを試したい人はどうぞ。夜は眠る二時間前に飲むのが良いらしい」

 

 健康的な体を維持するっていうのが目的ではあるのだけど、何より清涼飲料水よりは好みでコンビニとかに寄る機会があればバー状のタイプをかうことだってある、決して味も悪くない。

 女の子がこういうモノを食べたりするのはイメージが湧かないなあ。玲さんは「これから試してみるよ」と言うと自分に必要な量を分析し始める。

 彼女は本当に学者みたいだ──「うむ」と唸ると容器側面の栄養成分を確認。何か気になる部分でもあるんだろうか? 

 ちゃんとした食事を摂るのは大切だし、彼女達は美容にも気を遣わないといけないのが大変だ。

 新しい仲間の姫城さんは玲さんとも親しそうに会話をする。僕の周りの女の子は優しい子ばかり──

 

 ──個性的でそれぞれに魅力がある。説明を終えて部屋に戻るとノートPCのスリープモードを解除してブラウザを開いた。検索ボックスにキーワードを入力してEnter。すぐに表示された検索結果の中から自分が必要だと思う情報を抜き取っていく。

 静かな部屋にキーボード叩く打音が響くとちょっぴり安心。

 深夜前になるまでネットで調べ物を続けながら寝る前に作ったプロテインを飲み干してからもうひと頑張り。

 今日中にキリが良いところまで調べておきたい。

 

 外の薄黄色の光がパソコンの画面を照らす──部屋の電気を点けていても自然が魅せる月光は夜の帳が降りた空から降り注ぐ。

 ひと時の静寂に心地よさを感じながらようやく役目を終えたパソコンを閉じベッドに入ると意識をする事なく深い眠りに落ちるのだった。


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