実は前編。後編は時間の都合上間に合いませんでした。本来ならクリスくんが暴走始めたワイスとブレイクに襲われたりとかあったんですが間に合いませんでしたね
「ねぇねぇワイス、今日が何の日か知ってる?」
「はい?」
「なんと! 今日はクリスマスなんだって! ふふん」
「まぁ、そうだったのですね。どおりで街中がキラキラと華やかなわけですわ。ところでルビーご存知? アトラスのクリスマスツリー、その天辺の星はダスト結晶で作られるのが習わしなんです。その需要供給もあってシュニー・ダスト・カンパニーではこの時期になると特別製のダストが製造されるんですのよ?」
「そうだったんだ!」
「嘘ですけど」
「ワイスの嘘つき、お姉ちゃーん!」
チーム「RWBY」の部屋では、相変わらずリーダーのルビー・ローズがひとりで騒いでいた。ヤン・シャオロンに泣きつき、頭を撫でられている。
「ちょっとワイス、私のかわいい妹をイジメないでくれる?」
「人に何の意味もなくドヤ顔してくるルビーが悪いんです。ちなみに先程の話は数年前まで実は本当の話」
「えっ、そうだったの!?」
「……冗談ですわ」
「ワァイス~!」
姉妹揃ってなんて面白い反応をしてくれるのだろうか。ワイス・シュニーは次はどんな冗談を言ってやろうかと考えていたが、部屋へ戻ってきたブレイク・ベラドンナがこの寒空の下でわざわざ本屋に足を運んでいたことを知っている。大事そうに袋を抱えていたが、それだけではないようだ。まるで爆弾でも運んでいるかのような慎重な足取り。抜き足差し足忍び足、実際それで物音ひとつ立てずに歩いているのだから忍者のようだ。あるいは猫。猫だが。
「あら、おかえりなさい。ブレイク」
「えっ。あ、うん。ただいま……」
「なにやら大事そうに抱えていますが、そちらはなんですか?」
「別に……大したものじゃ」
「では見せてくださいます?」
「えっ」
「大したものではないのでしょう? でしたら見せてくれてもいいと思いますが」
「……えっと」
「ルビー、ヤン。いきますわよ」
「はーい!」
「よーしっ任せてっ」
「えっ。ちょっと、やめて。本当に大したものじゃないから!」
逃げ回ろうとしたブレイクだったが、ツヴァイによって逃走経路を塞がれたことによりあえなく捕まった。ワイスが隠し持っていた袋を開けると、中から書物と、ヴェイルで配っていたビラが出てくる。それが何かとルビーとヤンも覗き込んできた。
クリスマスケーキの販売中、それだけでなくパーティー用のセットとしてチキンもバケツで割引価格。確かに魅力的な広告だが、なぜブレイクがそれを隠し持っていたのか首を傾げている。
「別に、ただのクリスマス向けのチラシじゃない。なんで隠してたの、ブレイク?」
「パーティーがしたいなら私は喜んでやるよ? きっと盛り上がるって。そうだ、今から皆でクリスマスプレゼント買いに行かない!?」
「いいねぇ~! さすが私の妹、賛成!」
「せっかくブレイクが貰ってきたんだし、このケーキセットも一緒に買ってこようよ」
「パーティには賛成ですが、お待ちなさい。ブレイク、どうしてこれを隠してたんですか?」
「……その。これを配っていたのがクリスだったから」
クリス・クライングの名前が出た瞬間、チームRWBYは押し黙った。
ホワイトファングの実力者にして能ある狼。才覚の獣。各地を転々と回りながら査察に回っている情報屋でもあり、顔役でもある。弱冠齢にして組織に多大な貢献をしている一人だが……。
「ビラを? ヴェイルの街中で? クリスが?」
「ビラを。サンタクロースの格好で。クリスが」
「……なんで?」
「なんでも人手が足りなかったから、とかで……」
ファウナスである狼の耳はサンタ帽子で隠し、顔もサンタの付け髭で隠していた。声を掛けられるまでブレイクも気がつかなかったくらいだ。受け取ったはいいものの、驚愕のあまり生返事しかできなかった。本も買ったばかりでどうしようか考えているうちにビーコンに着いてしまった、というのがブレイク・ベラドンナの言い分である。
「……別にこれ、私が悪いわけじゃないと思うのだけど。なんで取り調べみたいになってるの?」
「私達が疑問に思っているのは、クリスがコレを配っていたまではまだ分かりますわ。でもなぜ隠してたか、という点です。なぜです、ブレイク? あなたまさか、クリスを誘おうと」
「彼の予定も知らないのにそんなことするはずないでしょ」
「それってつまり、クリスが今夜空いてたら誘うつもりだったってこと?」
「どうして貴方はこういう時に限ってそういうことを言うの、ヤン……」
「じゃあ私が聞いてこようか?」
「お待ちなさいルビー。ビラ配りのバイト中なのでしょう、彼は」
「大丈夫だって。ササッと行って帰ってくるから! いってきまーす!」
薔薇の花びらを舞い散らせながら、ルビーは部屋から出ていってしまった。本当に大丈夫だろうか。顔を見合わせるワイス達がブレイクを包囲しながら待つこと一時間足らず。
「ただいまー!」
「早かったですね。それで報告は?」
「クリスさん、今夜空いてるって! やったね!」
「あのね、ルビー。そういう言い方はアンタにはまだ早い。あと何年か待った方がいいからね?」
「……ねぇ、あなたまさかそのまま聞いたんじゃないでしょうね?」
ブレイクの嫌な予感は的中した。
ルビーは何も分かっていない顔で眉を寄せながら首を傾げている。
「えっ? 私なにかマズかった? クリスさんに「今夜空いてますか?」って聞いてきただけなんだけど……」
全員から、メッチャしこたま怒られた。ワイスに至っては手を上げる始末。ヤンは腹を抱えて笑っていたがそれでもちゃんと叱るところは叱っていた。ブレイクは途方に暮れている。ツヴァイは尻尾を振っていた。
「だって皆知りたがってたじゃん! チームのリーダーとして率先して動くべきだって思ったのになんで私が怒られるの? なんで? 私なにも悪いことしてないよね!?」
「ええ。貴方のその行動力と私達への気遣いはとても有り難いものです。ですが」
「聞き方が悪いのよ。もうちょっと言い方があるでしょ……」
「もうこればっかりは笑って許してもらうしかないね。クリスがヴェイルの警察のお世話になってなきゃいいんだけど……」
「あ、でもサンとネプチューンも一緒にバイトしてたよ? あの三人なら怖いものなしだね!」
笑顔でガッツポーズをするルビーの言葉に、再び三人が硬直する。今、なんて……?
「……お待ちなさいルビー? あなた、その二人がいるところで聞いたとか言いませんよね?」
「…………えっ? 二人も一緒にいたけど、なにかマズかった? 私またなんかやっちゃった?」
クリスにルビーが声を掛ける→サン&ネプチューンに聞かれる→成人ファウナスに十五歳のルビーが「今夜空いてる?」と聖夜に尋ねる→チームの危機。
「今すぐ街に行きますわよ!」
「もちろんよ。誤解が広まる前に、なんとしても事態の収拾をつけなくちゃ」
「私のバイク修理中なんだけど!? 走ったほうがいい!?」
「また擦ったんですか貴方は!」
「違うよ! 悪いやつをやっつけたの! お手柄なんだから。バイクの修理費は出なかったけどね!」
「あーもう本当にこの姉妹は揃いも揃って! 何をしているんですかルビー、貴方も来なさい!」
「なんで怒られてるんだろう私……? ツヴァイ、出かけてくるからおとなしくしてるんだよ」
──クリスマス一色のヴェイル。雪が降る中、サンタクロースに扮してビラを配る三人衆。
クリス・クライングはニコニコと笑顔を振りまきながら道行く人々にビラを手渡している。サン・ウーコンはトナカイの格好で看板を掲げていた。ネプチューンもサンタクロースの格好をしているが、付け髭は外している。曰く「顔の良さで客を惹く」と自信満々。その効果の程は中々だ。
「メリークリスマース、ふぉっふぉっふぉ」
「いや、アンタほんと真面目だな……髪も白いからサンタの格好めちゃくちゃ似合ってるぞ?」
「マジにこれで食っていけるんじゃないか? それにしても寒いわ。まぁ、この着ぐるみのおかげでいくらかマシだけどよ」
サンが看板を持ったままその場で宙返りをしてみせると、人々から拍手が送られる。照れくさそうにしながら看板をネプチューンへ預け、宙返りから立て続けに三回繰り返して着地を決めると先程よりも拍手が大きくなった。
「お店のパフォーマンスにしては少し派手な気が……」
「人目につくってのはいいことなんだよ」
「それはわかってる。私が残りを受け持とう。ネプチューンはそのままサンを見張っててくれ」
「あいよー」
クリスが立ち止まっている人々にビラを配りながらお店に案内をしていると、傘を差した小柄な少女が目の前で立ち止まる。傘をずらすと、その下から顔を見せたのはニオポリタンだった。不敵な笑みを浮かべてじっと見上げている。無口ではあるが、表情豊かな少女にビラを渡した。
ローマン・トーチウィックの手下だが、互いに敵対しているわけではない。ローマン自身はファナスを卑下する言葉遣いや態度が目立つのでクリスはあまり好ましく思っていなかったが。
「あのお店の商品。よかったら今夜はローマンと一緒に楽しんでみたら?」
「…………」
傘を閉じて頭を下げたニオポリタンはクリスに言われるままお店へ入り、チキンバケツとクリスマスケーキセットを持って笑顔で出てきた。心なしか足取りも軽そうに見える。すれ違いざまにウインクしてみせたのは、お礼のつもりだろうか。ともあれ、嬉しそうな笑顔を見るのは心が満たされるものだ。
「いやぁ、それにしてもさっきはビビった」
「……あんまり思い出させないでくれるかな?」
「おいおい、それに二つ返事でオーケーサイン出したのはクリスじゃないか」
「ルビーちゃん個人で、とは考えがたいからね。あの子にそんな気は全く無かっただろうし」
いくらなんでもおませさんが過ぎる。ただ予定を聞くだけ聞いて去ってしまったことだけがクリスの不安だった。
「ぜー、ぜー……おい、ちょっと二人で話してないで……ちょっとは手伝ってくれ」
すっかりバテてしまったサンが膝に手をついて息を整えている。ネプチューンとクリスが話している横で延々とパフォーマンスを繰り広げて人々の目を惹きつけていたというのに、肝心のビラ配りの手が止まっていては意味がない。ハイタッチ交代から、クリスが肩をすくめる。
空を見れば、分厚い雲から白雪が降り続けていた。掌に落ちてきた雪を手で包み、センブランスで結晶の花を作るとクリスはそれを宙に放り投げる。
「メリークリスマース」
足で一度だけアスファルトを踏むと、宣伝している店の周囲にだけ結晶の花が咲き乱れる。結晶の花を手にしてクリスは道行く子どもたちにビラと一緒に配っていると、何やら血相を変えてダッシュで接近してくる一団がいた。
チーム「RWBY」が息を切らしながら立ち止まる。肩で息を整えていた。
「ぜぇー、ぜぇー……!」
「クリス。あのね、ちょっと、話が……!」
「……ケーキ、買いに来てくれたならまだあるけれど?」
「それもあるけど、さっきの……ルビーのことで……!」
「……ああ」
それで走ってきたのか。クリスは納得しながらも、とりあえず四人に結晶の花を渡した。ヤンが笑いを堪えている。
「ぷふっ、クリス……ひげ似合わない……!」
「ちょっとヤン」
「いや、だって、髪が白いのも相まって……ただのおじいさんじゃんこれ……!」
「…………っ」
ブレイクが咄嗟に顔を逸らした。笑いを堪えているのが気配で分かる。
「ちょっと二人とも! まったく、ルビーがバカなことを言ったことは忘れてくださいませ」
「なんかごめんなさい……」
「いやいや、気にしていないから。本当に」
「……、……こほん」
「……ふぉっふぉっふぉ、メリークリスマス」
「ふふっ……」
ワイス撃沈。しかも我慢していた分、余計にこみ上げてくる笑いに耐えきれないようだ。
「ふふ、くっ……し、失礼しますわ……っ!」
「……サン。ネプチューン。一応参考までに聞いておきたいんだけれども、そんなに私はこの付けヒゲが似合わないか?」
「似合ってるぜ」
「ああ。最高にな」
二人がサムズアップしているのだから多分似合っているはず。
「それで、さっきのルビーちゃんの話を訂正するためにチームの皆で。わざわざ?」
「いやぁ……なんか、おおごとになっちゃってすいません。私のせいで」
「はは、仲が良くて結構。それで、ケーキセットを買いに来てくれたなら私もお店の人も喜ぶんだけど」
「そのつもりで来たんです。それで、クリスマスパーティを開こうって話になって……クリスさんも良かったらどうですか?」
「もちろん、喜んで。サンとネプチューンも」
「あー、悪い。俺達は別なパーティに誘われてて」
「そうそう。だからそっちはそっちで楽しんでくれよ、悪いなルビー」
「そっか。それは残念だ」
クリスが二人から視線を外すと、その背後で肩を組みながら拳を突き合わせる。
「次からはちゃんとそういう聞き方をするようにね、ルビーちゃん」
「気をつけます……あ。でもパーティ会場どうしよう。ビーコン、は流石にクリスさん入れないし……」
「それなら私の家でやろう」
ヴェイルで拠点にしている隠れ家だが、クリスが“ジュニアのクラブ”からの情報を頼りにしている個人的な借家だ。ホワイトファングとは関係のない自宅、ということならば。
「それじゃクリスさん、また夜にー」
「ああ。それじゃ」
「ヤン姉、ブレイク、ワイス。まだ笑ってるの? ほらほら、ケーキとチキン買って帰ろうよ。プレゼントも一緒に」
店内へと消えるチーム「RWBY」の姿と、ルビーからの一言に、はたとクリスは付け髭を撫でた。そういえば、クリスマスプレゼントというものも用意しないといけないのか。そういった催し物の経験には乏しい。
「そういえば……クリスマスパーティとか、初めてだな」
「そういうことなら」
「俺達も協力するぜ」
「えっ? あっ、うん。ありがとう二人とも」
「「ダチだからな!」」
──そして夜。ルビー達はクリスの自宅へお邪魔することになった。
「ワイス、ケーキは大丈夫?」
「もちろんです」
「ヤン姉。飲み物オッケー?」
「割ってないよ!」
「むしろ勝手に飲まないか心配してたけどね」
「ちょっとブレイク。いや確かに味見しようかなとは考えたりしたけど」
「一本くらいなら良かったんじゃない? あなたの一番重そうだし」
「ブレイクもチキンはちゃんと持ってるよね」
「ええ」
「そして私もクッキーとか準備万端!」
ドアをノックすると、すぐにクリスが顔を出す。
「いらっしゃい。まだちょっとドタバタしてるけど、中にどうぞ。寒かっただろうから温かい飲み物も用意しておいたよ」
「おじゃましまーす。ってあれ、サンとネプチューン? 何してるの?」
「よー、チーム「RWBY」の淑女の皆さん! いや、クリスがこういうパーティやったことがないっていうから部屋の飾りつけを手伝ってたのさ」
「そういうこと。ま、こんなもんだろ。サン、そろそろ俺達も時間だぜ」
「もうそんな時間かよ。んじゃクリス、悪いが俺達はこれで」
「ありがとう二人とも。時間がないのに手伝ってくれて。今度なにかお礼するよ」
「楽しみにしてる。んじゃ、しっかり楽しめよクリス」
リビングでクリスマスの飾り付けをしていた二人が椅子から降りて、クリスの肩を叩いた。それからルビー達の横を通り過ぎてサムズアップと共に寒空の外へ出る。
ホワイトクリスマス。吐き出す吐息も白い。部屋の中からは早速楽しそうに盛り上げているルビー達の声が聞こえていた。
ハイタッチからグータッチを無言で交わした二人はクリスマス一色のヴェイルを歩き始める。
「さて! それじゃあ早速プレゼント交換しようと思います! これは私達からクリスさんに! はいどうぞ」
「本当に? ありがとう。開けてみても?」
「ワイスが「お金のことなら心配なさらなくても大丈夫ですわ」って言うから奮発してもらいました。今の似てなかった?」
「聞くに堪えませんわね。確かにそう言いましたけど」
声真似をするルビーにワイスからの厳しい批評。それにがっくりと肩を落としている。ブレイクは封を開けるクリスの姿を不安そうに見つめていた。
「ねぇ、ヤン。クリスは気に入ってくれるかしら……」
「大丈夫だって。自信持ちなよ。ブレイクの提案でしょ?」
「そうだけど……」
袋から取り出されたのは、白いフード付きマフラー。相当な値段がするが、それもワイスがカードで一括払いという気前の良さで解決。クリスはしばらくそのフードを見つめて固まっていた。
「クリス、気に入らなかった?」
「いや、そんなことはないんだ。ただ、その……こういう特別な日に、特別なプレゼントを貰ったこととか、恥ずかしいことに私は無くてね。ありがとう。大切にするよ」
「よかったら、つけてみてもらえる? せっかくだから」
「もちろん」
クリスがフード付きマフラーを外し……──? ワイスがなにか違和感に気づく。はて? これはもしや今手渡したのと一緒なのでは……。
「クリス? 貴方、このマフラー……」
「それ? ああ、だいぶ前に貰ったものだったんだ。とある友人から「お前は顔が売れすぎた」ってことで。顔も隠せるし、ファウナスであることも隠せるだけでなく、なにより暖かいし」
「……私としたことが迂闊でしたわ。このブランドモデルは毎年同モデルの新作が出ているということをすっかり失念していました」
「っていうかクリスって友達いたんだ。あっ、イタッ!」
ブレイクがヤンを肘で小突いた。しかし、クリスは早速プレゼントのマフラーを巻いてみる。以前と同じ、慣れた着心地に頬を綻ばせている。
「うん。ありがとう。なんだか新鮮な気分だ。それじゃあこちらからもちゃんとお返しを──と思っていたんだけどね。少し時間がなくて。バイトもあって大したものは用意できなかったんだ」
「別に気にしないわよ。貴方も大変なんだし」
クリスがテーブルに置いたのは、シュニー・ダスト・カンパニー製のダスト結晶。それらをセンブランスの結晶操作で薔薇に作り変えると、四人にそれぞれ差し出した。
「ハンドメイドのダスト造花になってしまうけれど、すまない」
「私赤いの! わぁー、クリスタルローズって感じですっごい気に入りました! あ、それと私の赤ずきんとお揃いの白ずきんですね!」
「え? ああ、言われてみればそれもそうだった……」
「「イェー」」
ルビーとクリスがハイタッチをしている。サイズはそれほど大きくない。共通のファッションとして持ち歩いても邪魔にならない程度だ。
「さて! それじゃあプレゼント交換もしたし! 今夜は飲んで食べてはしゃぐぞー! クリス、コップはどこ?」
「あっ。しまった、あの二人と一緒に買物をして袋のままだったんだ。すぐ持ってくるよ」
「私も手伝うからさ。今日はとことん盛り上がろう、せっかくのホワイトクリスマスなんだから」
「よろしく、チーム「RWBY」」
『メリー・クリスマス!』
「……あ。クリスだけに?」
「ヤン。貴方はそのジョークを言わないと気が触れてしまう奇病か何かなのですか?」
──地下で一人寂しく葉巻を吸う男がいた。
巷を騒がすヴェイルの指名手配犯、ローマンである。
「クリスマス、クリスマスとまぁ、どこもかしこも浮かれて声を揃えてメェリィ~クリスマス~と。こんな寒い中ご苦労さんなことで。なんで雪が降ってる中を寒い思いをして歩き回らなきゃならないのか気を確かめたくなるね」
ぶつくさと文句を言いながら、今後の犯罪計画に思考を張り巡らせていると、何やら大きな箱と大きなバケツを持って足取りの軽い部下が一人。
「あ~? おいおいおい、何の冗談だ。俺は確かに、晩飯を買ってきてくれないかと頼んだ。百歩譲って街がクリスマス一色なのは認めるが、どうしてケーキと、なんだそのチキンの量は!? ファミリーサイズだろうそれ! 二人で食えっていうのか!?」
「…………」
古臭く、埃臭いテーブルに力強く二つを置いて、ニオポリタンは腰に手を当てて得意げな顔をしていた。不敵な笑みを崩さない。それにはローマンも参ったように頭を抱えた。
「いいかぁ、ネオ。俺が、どうしてわざわざお前に買い出しを頼んだと思、なんだこのビラ?」
言葉を遮るように突き出されるビラ。ケーキとチキンセット。クリスマス特別価格、お買い得! 確かに相場と比べれば安い。資金にも限りはある。せっかくの聖夜なのだから一日くらいの贅沢は大目に見ろ、ということか。
「はぁ……もういい。おとなしく甘いものと肉を食べてブクブクと肥え太ろうってわけか。で? なんだネオ、その手は。なんだ? 何が言いたい? あーもういい、言うな。わかってる、クソ」
しかし、ニオポリタンはローマンへ向けて手を向けたままだった。何かをせがむように、まるで自分へのご褒美をねだる子供のようにまっすぐ手を差し伸べている。恥ずかしげもなく不敵な笑みを崩さないまま。頭を抱えて、何度かその手を見ていたローマンがやがてポケットに手を入れて、小箱を手渡した。
それを受け取って首を傾げていたが、すぐに封を開ける。中に入っていたのは、盗品のネックレスだった。
「なんだその顔は? この俺が? ヴェイルを騒がすローマン・トーチウィックが? まさか普通の買い物をしてネックレスなんて用意できると思っているのか? ちょろまかした盗品のプレゼントが不満なら質に入れて金にでもすればいいだろう。何とか言ったらどうだ、ネオ」
「…………♪」
不敵な笑みから、満面の笑みを浮かべてすぐにネックレスを着けてローマンへ舌を出す。どうやら金にする気はないらしい。
「気に入ったならそう言え。それでまさか貰ってばかりなんて都合のいい話があると思わないよな? お前は俺に何を贈ってくれるんだ? っと、おい。いきなり帽子を取るな!」
トップハットに巻いている赤いリボンを外したと思えば、今度は自分のポケットから新しい赤いリボンを取り出して巻きつける。最後は横にリボン結びで留めると、ローマンの頭に目深にかぶせた。椅子に座るなりチキンを食べ始めている。
葉巻を消して、ローマンもせっかく買ってきてもらったチキンを頬張り始める。……まぁ自分のお金なのだが。
「……メリー・クリスマス」
「…………」
「なんだ、犯罪者が祝っちゃいけないのか? 特別な日なんだろう!? たまには煩わしいことも全部忘れてパーッと飲み明かしたりしちゃいけないってのか!? ……二人しかいないが。というかケーキをどう切り分けるつもりだ、素手でかぶりつくつもりじゃないだろうな?」
クリスマスケーキを取り出して、ニオポリタンはいつも持ち歩いてる傘から仕込み刀を抜いて笑ってみせた。
「やめろ! あーもうまったく、座ってろ。いいな! 適当なナイフなり持ってくればいいんだろう、なんでこんな面倒な食い方しなきゃならないんだ……」
帽子を押さえながらローマンはぶつくさと愚痴をこぼすが、ふと指先に何か紙切れが触れる。何かと思えば、クリスマスカードだった。ニオポリタンの筆跡で『メリークリスマス』とだけ小奇麗に書かれている。
こんな紙切れ。はてどうするか。邪魔になるわけでもない──ローマンはそのクリスマスカードをコートの内ポケットに大事にしまいこんだ。
・クリスくんにフード付きマフラーを贈った相手…アダム。とある一件で「クリスタルファング」と呼ばれるようになって以来、なにかと狙われるようになったクリスを見かねて贈ったもの。普段から顔を隠しているのはホワイトファング以外の組織から狙われているため。