Fate//welcome escatlogy wild clown 作:まろ茶量産型
一党独裁により成立する政府は、指導者のカリスマによって、
王権神授に根ざす政府は、その伝統と信仰によって、
武力による戦争は個々人ではなく曖昧な統計的多数決により成立してきた。
強権の介在はあれど、少数の反対はあれど、大多数の人間の総意によって獲得された人類の習性であった。
故に一個人に権力、武力を過集中させる事は厳に憚られるべきであり、その例に類するものは大なり小なり人類史の悲劇として刻まれ続けてきた。
ある貧困国の独裁政権の指導者は、武官文官に声高らかに告げた。
ーーこの無数に繰り返される聖杯戦争の戦場で、最後の一人、生き残る者が居るとする。
だが、その者は神にも王にもなれない。
第2の核兵器になるのだーー
現在、世界には90万人を超える魔術師が存在する。
その緋とも藍ともつかぬ双眸の中にワイルドはいた。
姿見のような巨大な瞳に全身が吸い込まれる錯覚を覚えつつ、今日こそは、と男は唇を動かす。
だが肝心な声帯がまったく震えない。
身体の奥から末端に至るまで、電圧をかけられたように麻痺しているからだ。
金縛りにあった感覚と似ている。
全く動けないのではなく、筋肉の組織が部分的にだけ稼働するからこそのもどかしさがそこにはあった。
女は微笑を浮かべて唇を動かす。
普段の夢と違い意識は比較的明瞭であったワイルドは、眼をしかと見開き唇の動きに注視する。
we...l...co...me...
ようこそ。
『
声が出ない、せめて一言だけでも言わせてほしい。
お前は誰なんだ
女は次第に遠のき、男は両の掌の上で果てていく。
ランサー「マスターッ! 大事ないか! かくなる上は・・・オホゥッ!」
抵抗から解放された筋組織たちは、それまでの命令を一気に遂行し、結果このように意図せぬ事故が起こるのである。
ランサー「占いの次は頭突きとは・・・クッ、頭の痛いのはこちらですぞ・・・」
ランサーは不意であっても全くの無傷で軽口を叩きながら身体に散った埃を払っている。
流石は曲がりなりにも英霊の体を成しているだけはあるが、一方ワイルドはと言うと、
ランサー「マスター、誠に・・・誠に大事ないか」
ワイルド「・・・くっ、つぁっ、案ずるな、よくあることさ・・・」
衰弱した身体を無理に起こし、尋常の発汗ではなく、視線も定まっていなかった。
ランサー「まさか、まさか私めの頑丈さのせいでその様になられて・・・」
ワイルド「違う・・・ハァ、冗談言ってる場合か・・・それより・・・」
ワイルドが息も絶え絶えな言葉を終わらせる前に、物々しく古ぼけた扉を開け黒のスーツの男達が所狭しと立ち込める。
ワイルド「迎えに来やがったぞ」
ランサーは軽装から瞬時に逞しい真紅の戦鎧を纏い、槍を握る。
ランサー「我が主人の御前になんたる不敬か、理由如何によっては現人にあっても容赦せぬぞ」
ワイルド「待て・・・いいか、こいつらに構うな・・・それと、ッ、これから起こることに・・・い、一切の手出しは無用だ」
未だ様子に不調のあるワイルドを他所に、黒服達は騎士の主人を囲む。
ランサー「しかしマスター・・・」
ワイルド「くどいって言ってんだろ・・・」
黒服達の隙間からワイルドの姿が見え隠れする、
目隠しをされ、首に注射器の様なもので薬物を投与されていく。
主人の言葉もあり、この時代の知識も最低限しか無かったランサーだが、眼前の光景を邪悪であることは理解できる。
ランサー「いや・・・流石にこればかりは聞けませぬ! 」
騎士は槍を携え、構える。
狭い室内で槍の埃先は当たるべくもないが、英霊サーヴァントとの筋力ともなれば、あたりは血の池に没するだろう。
ワイルドは衰弱しきった右手の紋章を輝かせ、騎士を制止した。
ワイルド「『令呪を持って』命ずる・・・頼む、言うこと聞いてくれよ」
三画ある紋章の一画が眩く輝いた後に散り、ランサーはその場で先程のワイルドの様に微動だに出来なくなる。
聖杯戦争参加者に付与される、自らの使い魔に対してだけ発動可能な絶対命令権、あるいは使役の手綱である。
これを出されると一部の屈曲な英霊を除き、主人の命には絶対に逆らえない。
かのパーシヴァル卿本人ならいざ知らず、寄せ集めの現代人の流言飛語、誇大妄想の塊であるランサーに、抗う術など初めから無いのである。
苦しみもがきながらランサーはその喉から絞り出す。
ランサー「令呪・・・です、と・・・マ、スター・・・この者共は・・・い、いったい・・・」
ワイルド「ヘッ・・・ただのタクシードライバーだよ・・・あとな、そのカード持ってきてくれよ、替えが効かないんだ・・・」
それ以後、ワイルドは黒い袋を被せられ幾重ものベルトで身体中を拘束され、真っ黒な繭の塊の様になって運ばれていった。
騎士が義に熱く、動こうと思えば思うほど、その令呪による緊縛は頑強になり、それは数時間にも及んだ。
ようやく令呪による命令が解ける頃には、ただ一人、呆然と部屋の一隅に取り残されるのみであった。
ワイルドの失われた意識の中で、女の容貌が木霊か、あるいは波の様に映り込んでは消えていく。
ランサーはあらかじめ繋いでいた主人との魔力の繋がりを頼りに、国々を跨いだ。
その間、片時もマスターを案じない瞬間は無かったが、飛行機に忍び込んだ時と、はるか東国、日の本の国に辿り着いた時ばかりは少年の様にはしゃいでいた。
やがて右も左もわからぬままに、東京の片隅の雑居ビル、基礎の鉄骨も剥き出しの廃墟同然の一部屋にてワイルドの姿をようやく確認できたのだ。
ワイルド「よう、意外に早かったな・・・」
あの黒い袋は外されていたが、未だに目隠しと全身の拘束が弛まぬ姿で、ワイルドは囚人のようにカタカタと足の長さが揃わない南京椅子に座らされていた。
ランサー「何というお姿・・・これではまるで・・・」
ワイルド「まるで、死刑囚か・・・まぁ似たようなもんだろうなぁ・・・」
ランサーは頼まずとも、ワイルドの拘束を解いていく。
他ならぬマスターの命令とは言え、自らの脆弱性に改めて自失しながらも、ベルトを一本一本外し、最後に目隠しを解いた。
出無精が祟るワイルドの髭はことごとく剃り落とされ、20代後半の、幾らか年相応に見えたが、充血した目と顔体至る所に刻まれたタトゥーのようなマーキングと痩せた裸体がランサーには酷く痛々しかった。
ランサー「これを隠すために髭を蓄えられたのですか」
ワイルド「そうかもな、でも意外とこれはこれで趣きがあるもんさ。 流石に顔はやめてほしいがね」
ワイルドの顔には口まわりに二つ、右目の下に一つ、手足にそれぞれ一つから二つのマーキングあった。
その模様とも数字とも取れぬ模様とは別に、夥しい英数字で縁取られた円形の文様が背中に印されている。
ランサー「これは・・・」
ワイルド「それが俺の本名、14の14乗、未だに名乗る気になれん」
ランサー「それで
ワイルド「だろ、でも・・・」
でもそれ『割り切れ』って意味なんだけどな、と言おうとしてランサーの心中を察して言葉を溜飲した。
自分の姿を見て、まるで捨てられた子犬を見るように哀れむランサーの顔が見えたからだ。
なに、恥じる事も逆上する事もない、かつて呼び出した使い魔達は皆ランサーの様に憐憫の情を抱くか、己の過去を想起し、憤怒するかのどちらかであったからだ。
ランサー「でも・・・なんです」
ワイルド「いや、お前に頭突きをかました時に『頭の痛いのはこちら』・・・って事は、魔力の
ワイルドの魔力は見えない
別に言わずとも良かったのだが、言葉を濁すにはちょうど良い文句であったために口にしたに過ぎない。
ランサー「マスターとの絆のパワーにより遥々ジャパンまで馳せ参じ、再び相見えること叶いましたぞ! 」
ワイルド「日本か・・・珍しいな・・・」
ランサー「そうですとも! 現界の折、知識だけは与えられておりましたが、こうも面妖な国とは思いませなんだ。 マスターもどうぞ一度ご照覧くださいませ! 」
ランサーは彷徨い歩く間に見かけた浅草だの秋葉原だのと様々な新体験を童心に帰ったように話し倒している。
熱狂するランサーであったが、何かに感ずるところがあったのか急に黙ってワイルドに問いかけた。
ランサー「マスター・・・やはり万全とは仰り難いのでありましょうか」
我に帰り気苦労する騎士に、主人は不敵な笑みを浮かべた。
マスター「そうじゃないさ・・・お前の漫談の才能が凄いんで、感心してたんだよ・・・見ろよ、客が1人湧いて出たぜ」
ランサーは戦装束を身に纏い、振り返って身構えた。
歳幅もいかぬ幼気な少女が音もなく、成人した異性の裸体を凝視していた。
身につけている防寒具などは赤黒く染まり、元あったであろう艶のある品質の良い幼児用のロングコートは、乾燥した血液らしき物を吸って所々ひび割れていた。
少女「ようこそ」
この度は最後までお読み頂きありがとうございます。
設定や世界観についてご質問等ございましたら、その都度ネタバレにならない程度に解説させて頂きます。
わかりにくい箇所や面白くない箇所があれば、指摘して頂けると幸いです。
また、原作のキャラクターは設定や登場人物の話の中に登場する程度にする予定ですので、予めご了承くださいませ。
また読んでくださる方がいらっしゃいましたら続きを投稿させて頂きます。
本日も貴重な時間を頂戴いたしまして、誠にありがとうございました。