「すごいですよね、三宅さん」
「え? あ、そ、そうですね……」
その言葉が自分にかけられていると気づいて、スバルは慌てて答えた。
「なつき君、でしたよね? じゃ、早速ですけど、三宅さんの代わりに私がなつき君のコーディネートさせてもらいますね!」
——そういえば、俺もそう言う話になってた!
「あ、あの、俺……その、このままじゃダメっすかね?」
「ダメですよ! だってれむちゃんだって、あんなに可愛いんだし、そもそも私が三宅さんに直接頼まれたんですから!」
もごもご言うスバルをよそに、彼女はスバルの腕をとって店の奥に連れて行こうとした。
「あ、あの……スバルくん」
「な、なんだ?」
そんなスバルにレムが、ちょっと言いづらそうにこう口にした。
「あの、スバルくんがヨウフクを選んでいる時間、レムはちょっとだけお散歩して来てもいいでしょうか?」
「え? あ、だ、大丈夫か? その、一人で」
「レムは大丈夫ですよ、スバルくん。いざとなったら……」
レムの小さな手のひらに、何やら力が宿り始めるのが、スバルにも感じられて、
「あ! あ! まった! まった! それ、まずいから! 絶対に使っちゃダメなやつだから!」
焦って止めさせた。
「わ、わかりました。スバルくんがそこまで言うなら、素手で……」
——いや、その素手もかなり危ないんだけど!
「いや、そんなことにはならないと思うから……」
その会話をちょっとだけ不思議そうに聞いていた翔子が、そうそう、と言った感じで、
「れむちゃん、この二軒隣にカフェがあるから、そこでお茶でも飲んできたらどうかしら? カフェじゃなくても、この辺、いろいろあるし。そんなに長くかかんないと思うけど、そう……三十分くらいかな?」
そう言ってニッコリと笑った。
「じゃあ、ショウコ様のおすすめ通り、ちょっとレムは行ってこようと思います」
レムも嬉しそうにそう言うと、くるりと体を回して、ドアに向かう。
「れ、レム! ちょ、ちょっと待った、待った! 金! お金! 俺ら、手持ちがないよ!」
「あ……そ、そうでした……」
一瞬で、その表情がしゅんとなった。その二人のやりとりを見た翔子は、慌てたように、
「あ、あの……三宅さんからお金、預かってますよ」
そう言ってカウンターから戻ると、封筒をスバルに手渡した。
「忘れてた……そういえば、そうだった」
スバルが封筒から一番金額の大きいお札を一枚取りだす。
「レム、これで何の問題もないはずだ。お釣りは数えなくていいけど、ちゃんともらってな。あ……あと、これも忘れてた……」
さらに胸ポケットから、ベアトリスの魔法のカードを取り出した。
「ま、こっちが使えるなら、こっち使ってくれ。ダメならさっきの紙の方で」
スバルが、ほら、と言って紙幣とカードをピンクのポーチに入れる。レムは満面の笑みで、
「わ、わかりました! なるべくベアトリス様のカードを使いますね!」
そう答えて、嬉しそうに出て行った。
「だ、大丈夫かな……」
「なつき君、心配性ですね。まあ、れむちゃん、可愛いから、どっちかって言うとナンパの方が心配なんじゃ……?」
翔子も、さっきまでの真由美と同じようにニコニコしている。
「さ、れむちゃんに負けないように、なつき君の服、選んじゃいましょうか!」
「は、ハイ……」
彼女が、あーだこーだ言いながら、スバルの服を見繕う。だが、
——レム、大丈夫かな……。
スバルの頭の中は、レムのことでいっぱいだった。
三十分後——。
ちょうどスバルが試着室から出てきたタイミングで、レムもまた戻ってきた。
「れむちゃん、お帰りなさい!」
「はい! ただいま戻りました!」
嬉しそうに言いながら、スバルを見つけると
「わあっ! スバルくん、素敵です! その、かっこいいです! とっても!」
「え、そ、そう?」
執事服と例のジャージ姿しか見たことのないレムにとって、今のスバルは特別に映っているのだろう。
「れむちゃんもそう思います? なつき君、良かったですね!」
「は、はぁ」
素直に嬉しいと言えないところが、何だか恥ずかしい。スバルは顔を少しだけ赤くして、頭を掻いた。
「ところで、レム、どこ行ってたんだ?」
突然の質問に、レムは一瞬固まって、その後すぐにこう答えた。
「あ、あの、ショウコ様のおすすめのお店で、お茶をいただいて……、あとはその辺をぶらぶらしてきました。色々なお店がたくさんあって、その、楽しかったですよ!」
「そっか。危ないこと、なかったか?」
「だ、大丈夫です」
——まあ、本当に危ないのは、レムにちょっかい出した方か……。
「そうそうスバルくん、お金、使いませんでしたよ! あのカードだけで」
「ん? カードだけ? なんか買わなかったの?」
「あ、い、いえ。その、お茶を一杯だけで、あとは、その、散歩を……」
微妙な表情を浮かべるレム。
「あ、そうなの? んーなるほど……」
スバルはちょっとの間、何かを考えて、ところで話は変わるんだけど、と、レムに向かって口を開いた。
「あのさ、レム。ここはひとつ、みんなにお土産を買って行ってあげるべきだ、と思うんだ」
「はい! そうですね!」
さっきまで複雑な表情だったレムの顔が、パッと明るくなった。
「せっかくここでレムと俺の服を見繕ってくれたんだ。ここでお金を使って行くのは筋、ってもんだろ? ですよね? 翔子さん?」
それを聞いていた翔子も、
「あ、それはとっても嬉しいです! ありがとうございます! ちょっと予算オーバーでも、お勉強しちゃいますから、いろいろ選んでくださいね!」
嬉しそうに笑った。
「じゃ、さっそく……」
そう言いながら、二人が店の中を歩き回る。
「エミリアたんには、この、この……これなに?」
「ショールです、スバルくん」
「この色、ぴったりだろ?」
そう言って、薄い紫色のショールを手にする。だが、その値札を目にした途端、スバルは驚いた。
——うえ! こ、こんなに高いのか……。布切れ一枚で? 服って安くないんだな……。
「はい! さすがスバルくんです!」
「へ、へへへ……」
「ベアトリス様には、どうしましょう?」
「ああ、ベア子には、服っていうより、どっかでもう少し違うのを」
「違うもの、ですか?」
「そ。もう思い浮かんでるんだ! それがなんなのかは後でのお楽しみ、だな」
何を思いついているのか、ニヤニヤしているスバルに、レムがおずおずとこう聞いた。
「す、スバルくん、あの」
「なんだ?」
「姉様にも、その、お土産を買ってもいいでしょうか?」
「何言ってんの。そんなの当たり前だろ!」
嬉しそうに微笑むレム。その表情を見て、スバルは心が温かくなった。以前の姉様最優先主義とはちがう、普通の姉妹愛をそこに感じたのだった。
「さ、ラムのお土産も選ぼうぜ! どんなのがいいと思う?」
「そ、それなんですけど……」
そっとスバルの耳元に口を近づけて、恥ずかしそうに提案する。
「ああ! それ! それいいぜ! 大賛成だ、レム!」
「そ、そうですか? そうだと嬉しいです!」
「あ、でも……こんなのはどうだ?」
今度はスバルがレムに囁く。
「それ! 素敵です! とっても素敵です! やっぱりスバルくんは……」
「いや、そ、それ以上は照れるから、やめて!」
真っ赤になったスバルに、やっぱり頬を赤く染めたレムが微笑む。翔子は、そんな二人のやりとりを微笑みながら見つめていた。